同窓生

成人の日 記念












西暦2022年 1月10日 成人の日 第三新東京市 市営セレモニーホール前広場・・


「変わったのね、ここも」


中学二年の中途で疎開して以来、ヒカリがこの地を訪れる事はなかった。
今日は約六年ぶりの訪問となる。

久しぶりに訪れた懐かしい故郷はすっかり様変わりし、ヒカリが住んでいた頃の面影はほとんど残って
いない。
たった六年だというのに、めざましい復興振りだ。
駅からここに歩いてくるまで感嘆の声しか出なかった。

それは、彼女と共に歩く二人の青年も同様。


「当然じゃないか。
今や世界に冠たるネルフ・・その本部のお膝元だぜ。
面子をかけて復興させるさ」


「疎開したワイらまで成人式に呼んでくれるほどの太っ腹やしな。
金もぎょ〜さんあるんやろ」


「夢がないのね、二人とも」


「現実を知ってると言ってもらいたいな、洞木。
トウジの言うことももっとも。
世の中金だよ」


「そやで、ケンスケはよう分かっとる。
ヒカリが今着とる晴れ着も、この義足もワイがネルフからもろた賠償金で買うたものや。
金をバカにしたらあかん」


「そうだけど・・」


トウジは最終決戦の間際、ミサトのはからいで第二新東京市の大学病院に転院されていた。

全てが終わった後、ネルフから失った足の賠償金として多額の金も支払われている。
代わりに、怪我の経緯やネルフの事は固く口止めされたが。
呈のいい口封じとも言っていいだろう。

条件付きとはいえ多額の金は鈴原家にとって大いに助かり、それは疎開で経済的な問題を抱えていた
洞木家をも助けたのだ。
ヒカリが大学に進学できたのもそのおかげ。
トウジとも家族ぐるみの付き合いでもある。

そんな経緯から、ヒカリはトウジやケンスケに強く反論出来ない。
トウジとの付き合いが金の問題抜きなのは当然としてもだ。


「まっ、お前達にはこれから幸せな未来が待ってるんだ。
そう深刻に考えるなよ、洞木。
それより今日は久しぶりに碇達と会えるんだ。
そっちを楽しみにしようぜ」


「そ、そうね、アスカも綺麗になってるんだろうな」


「惣流か・・
あの性格は別として、間違いなく美人になってるな。
綾波もすごいんじゃないか?」


「おお、綾波か・・・楽しみやな」


「トウジ!!」


「す、済まん、ヒカリ」


あの頃、トウジのレイを見る視線に熱が籠もっていたのをヒカリは知っている。
トウジのパイロット選出とか疎開とかがなければ、彼は思いを伝えていたかもしれない。
一本気な彼のことだ、例えふられると分かっていてもそうしただろう。
レイの心がシンジにしか向いていないというのは、紛れもない事実だったし。

今では郷愁でしかないだろうが、今日レイと会う事もトウジは楽しみにしているに違いない。
それがヒカリには面白くない。


「綾波さんにだって、もう彼くらいいるわよ。
今日は一緒に来るんじゃないの?ひょっとして碇君かもよ。
相田の言う現実とやらをしっかり確認することね」


「そないに怒らんでも・・
今更、浮気なんてせえへんで」


「どうだか。
去年の事、まだ忘れてないわよ」


「ほ、洞木、あれはもう済んだ事じゃ・・」


「誘ったのは相田なのよね?」


「うっ・・・」


昨年の八月、アルバイト先の女の子二人と仲良くなったトウジとケンスケは、彼女達と二泊三日の旅行に
出かけたのだ。当然、ヒカリには内緒で。
企画したのはケンスケ。
泊まりがけの旅行で若い男女二組の間に何もないはずがなく、トウジは初めての浮気に酔いしれた。

彼女達との関係はアルバイトの終了と共に終わったのだが、それがひょんな事からヒカリにばれてしまい
かなりの修羅場が展開されたのである。
双方の親まで巻き込んだ本当の修羅場であった。


「あんな事二度としないよ・・
あっ!碇達だ!


バツの悪いケンスケであるが、丁度良いところにシンジとアスカが車で姿を現した。
とりあえずアスカが先に降りて、シンジは車を駐車場に走らせる。

そして車から降り立ったアスカに、その場に集まっていた人間全ての視線が集中した。
男女の別なく。
トウジ、ケンスケ、ヒカリの三人も同じようにアスカから目を離せない。
それほど、彼女は美しい。

紅を基調とした上品な晴れ着と、アップに纏められた見事な金髪。
薄く化粧したその顔は、美という概念そのものに相応しい。


「何みんな固まってんのよ、久しぶりに会ったんだから挨拶くらいしなさいよ!」


「あ、あ、あ、あ、明けましておめでとう、アスカ」


「はあ?ヒカリもボケかますようになったのね、ジャージバカの影響かしら?」


「も、もうジャージなんぞ、普段に着とらんわい!」


「あっそ、少しは成長したんだ。
相田はどうなの?まだオタクやってんの?」


「カ、カ、カメラはオタクじゃない!」


「相変わらずって事ね。
ま、どうでもいいけど・・・久しぶりね、みんな」


そっと微笑むアスカは尚美しい。
三人は惚けたように、彼女を見つめるだけだった。

そこへ車を置いてきたシンジが・・
彼は羽織袴姿。
そして当然のように、アスカの隣に立つ。
アスカはその彼の腕に自分の手を沿える。


「久しぶりだね、みんな・・
って、どうしたの?何か固まってるみたいだけど」


「おかしいのよね、さっきからこんな感じなのよ。
アタシも調子狂っちゃって」


「ははははは!アスカが綺麗過ぎてびっくりしてるんじゃないか?」


「バ、バカね、照れるじゃない」


「だって、それ以外理由がないよ」


まさにシンジは核心をついたわけだが、普通はそう思っても口には出さないものだ。
臆面もなくそれを口に出せるシンジの神経は凄い。

トウジとケンスケもシンジの変わりぶりに驚愕している。
とてもではないが、シンジはこんな事を口に出来る男ではなかったはずだ。
アスカかレイ、どちらかと付き合っているはずと予想はしていたのだが・・

付き合う女を間違えたのかもしれない

本人達には絶対言えない考えが、トウジとケンスケの頭をよぎった。


一方ヒカリは、シンジの外見の変化に目を奪われている。

気の弱いおどおどした少年が、自信に満ちあふれた逞しい青年に変わればそれは驚くだろう。
しかもへたな俳優など吹き飛びそうなほど、彼は美しい。


(ちょっと早まったかしら、将来性もトウジより期待出来そうだし。
今から乗り換えようかな・・・無理ね)


一瞬よこしまな考えの浮かんだヒカリも、シンジの隣に立つアスカを見てすぐに諦める。
どこをどうしても、彼女と張り合うのは不可能だ。


「すっかり仲良くなっちゃって・・
いつから付き合ってるの?碇君と」


「やっと普通に戻ったみたいね。
付き合いはもう長いわよ、中三に進級した頃からだから」


「へ〜、そんなに早かったんだ。
じゃ、以来ずっと?一度も別れとかなかったの?」


あはははは!あるわけないじゃない。
アタシ達をそこらのバカップルと一緒にしないで。
ヒカリこそどうなのよ、あのジャージと付き合ってるんでしょ?」


「付き合ってるけど、私達は普通よ」


六年のブランクを感じさせないヒカリとアスカの会話は、トウジやケンスケらも刺激したようで
シンジに根ほり葉ほり質問を浴びせかける。

が、かなり下品。
あまり大きな声では話せない内容ばかり。


「惣流との初めてはいつや?ん?」


「中三で付き合い始めたんならかなり早かったんじゃないか?
ずっと一緒に暮らしてたんだろ?」


「付き合ってすぐだよ。
なんかミサトさんもいづらそうだったな、ははははははは」


「す、すぐかい・・我慢ゆうもんを知らんのかセンセは」


「誘ったのはアスカの方だよ。
すぐに僕の方が積極的になったんだけどね」


「くそ〜〜〜、あの惣流と・・
となると、もう飽きたんじゃないか?惣流の体」


「そんなわけないだろ?一生かけても飽きないよ」


「「一生かい!!」」


シンジのべた惚れぶりは、二人にとって苦痛であったようだ。
興味本位からくだらない事を聞いた自分達の不幸を恨む。
だが幸せそのものの笑顔を振りまくアスカとシンジを見ると、どこか心が和む気がする。

あの頃、こんな笑顔は少なかった。
特に疎開前などは酷いもので・・アスカ、シンジ、レイ、みんなが何か悩みを抱えているようであった。

あの後何があったのか聞きたい気もするが、聞いてはいけないような気がする。
聞くと後悔するような・・


「そういえば、綾波はどうしてる?
今日は来ないのか?」


「元気よ、今日もちゃんと来るわ。
恋人同伴でね。
ショック?相田」


「お、俺は別に・・
俺よりトウジの方がショックだろ」


「アホぬかせ!くだらん事言うな!
またヒカリが機嫌悪うするやないかい!」


「トウジって綾波が好きだったんだ・・知らなかったよ」


「センセ、頼むから勘弁してや」


そのものずばりを言われてしまい、トウジは泣きたくなってきた。
確かにレイへほのかな思いを寄せていたのは事実だが、それはすでに思い出。
今付き合っているヒカリとの関係を考えれば、あまり口にして欲しくない話題なのだ。
レイと会うのが楽しみ云々というのは、つい口が滑っただけの事。

シンジに悪気はないらしいが。


「やっほーーー!!ひっさしぶりじゃないみんな!!」


そこへ突然の大声。
アスカとシンジ以外は驚いて顔を声の方向へ向ける。

と、そこには白を基調とした晴れ着を着たレイと、アスカより薄めの紅を基調とした晴れ着を着た
霧島 マナが仲良く手を繋いで、こちらに歩いてくる。
しかもマナは元気良く手を振りながら。
レイは楚々としたものだ。


「き、霧島か?何であいつがいるんだ?
あいつ、生きてたのか?」


「ああ、ケンスケ達は知らなかったんだっけ。
戦自とはうまく切れたみたいでさ、第三に越して来たんだ。
高校の入学式の時に再会したんだけど、お互い驚いたよ」


「そ、それはまあええとして・・
綾波の恋人いうのんは、まさか」


「ええ、マナよ。
レイもあんな女のどこが気に入ったんだが知らないけど、好きだって言うんだからいいじゃない」


「流石に、す、す、進んでるのね・・第三新東京市は」


アスカのあっけらかんとした物言いに、ヒカリは第三新東京市の性意識の高さを見る思いだった。
同性愛に寛容になってきた昨今ではあるが未だに偏見は根強く、同性愛者の権利獲得運動もさかんに
行われている。

かくいう自分も、完全に偏見がないと言い切れる自信はない。


「そうでもないわよ。
高校時代なんか結構嫌がらせ受けてたもん、あの子達」


「そう・・ああ見えて、苦労してるのね」


「でも、レイは幸せそうよ」


アスカとシンジが付き合いだした経緯と、レイがマナと付き合いだした経緯はどこかでリンクする部分
があるのかもしれない。

マナ、レイの二人は、シンジという男に関わった女達である。
いつかその詳しい事情を知りたいとヒカリは思う。
複雑な感情のもつれがあるに違いないのだ。


「やあ諸君!よく来てくれた」


「こんにちは」


元気が有り余るマナと控えめな挨拶をするレイ。
性が同じでもお似合いと言える。


「あの爆発で生きとったなんて、運のいいやっちゃな」


「あんた誰だっけ?」


「す、鈴原 トウジや!忘れたんかい!
さっきの挨拶はなんじゃ!みんな言うとったやないかい!」


「ごめん、忘れちゃった。
いくらも一緒にいなかったもん、仕方ないわよ
でもヒカリちゃんは覚えてるわよ・・久しぶりね」


「久しぶり、霧島さん」


「男女差別や」


正直、マナはトウジやケンスケの事を忘れていた。

と言っても彼女が薄情な性格をしているわけではない。
彼女の言うとおり、マナがトウジ達と共有した時間は少ない。
しかも接点自体少なかった。
忘れるのも無理はないだろう。


「揃ってるわね!」


そして最後に現れたのは葛城 ミサト。
現在、子持ちにしてネルフ副司令の要職にある女性。
夫の加持は保安部の副部長。

冬月は歳を理由に引退した。
仕事にあまり情熱を燃やさない司令のゲンドウの世話を、ミサトに押しつけたとの噂もある。


「葛城さん!お久しぶりです!」


「・・・・ええと、誰だったっけ?
ごめん、思い出せない」


「うううう、相田 ケンスケであります。
お忘れとは悲しいであります」


「ああ、相田君ね。
あのミリタリーオタク!」


「思い出していただき、こ、光栄であります」


思い出してくれたのは嬉しいが、どこか素直に喜べないケンスケであった。

そしてある疑問に気付く。
自分達の周りがおかしい・・人が寄ってこないのだ。
アスカやレイなどとびきりの美女が揃っているのに不可解。
出席者と関係者で、ここはかなりの人混みだというのに・・

明らかに程度が低いと分かる連中までもが、ここを避けているようだ。


「何か、俺達避けられてないか?」


「当然ね。
アタシとシンジに用もなく近づく連中なんか、ここ第三新東京市にはいないもの」


「あれだけやれば誰も近づかなくなるわよ。
もみ消すのにどれだけ私が苦労したか・・」


「し、失礼ねミサト。
アタシ達は降りかかる火の粉を振り払っただけよ。
何も悪いことはしてないわ」


「それは分かるけど、累計三桁を超える怪我人出したのはやりすぎと言われても仕方ないわ。
第三新東京市の医者は儲かっただろうけど」


「僕はアスカを守っただけです」


「シンジ君・・・その理由で、あなたが大半の怪我人を創出したのよ」


三人のやり取りで、大方の事情を理解したケンスケである。
何かとんでもない事をシンジがやらかしたらしい。
それもアスカ絡みで。

ネルフの高官であるミサトがもみ消しに苦労したほどの事件というと、想像も付かない。
ケンスケはこの件について考えるのをやめた。

と、そこへ二人の子供が・・


「おかあさ〜〜〜ん」


「あらユウキ、一人でトイレ行ってきたのね?
偉いわ」


「アタシもいっしょだもん!」


「ごめんなさい、ミライちゃん。
一緒に行ってくれて、ありがと」


ミサトの子供がトイレから戻ったらしい。
ミサトもすっかり母親してるようだ。

ちなみに、この子達にはちゃんとネルフの私服ガードがついている。
子供達は気付いてないだけ。


「葛城さんのお子さんですね?可愛い。
・・でも妹さん、アスカに似てません?」


「何言ってんのよ、ヒカリ。
その子はアタシとシンジの子供よ」


え?・・・・・だってこの子、どう見ても四、五歳になるわよ。
歳から考えても・・
霧島さん、綾波さん、嘘でしょ?」


この二人ならあり得るが、子供の歳から考えてとても信じられないヒカリはマナとレイに同意を
求めるが、二人は首を横にふるだけ。
トウジ、ケンスケは呆れたように口を開いたまま固まってしまった。


「ミライ産んだのが十六の時、高校二年だったわ。
あの時も大騒ぎだったわね。
学校は退学だとか言ってくるしさ」


「今じゃいい思い出だよ。
はい、ミライこっちおいで」


「パパ〜〜〜!」


シンジに嬉しそうに抱きつく女の子。
演技などではない。
それに女の子の容姿を見れば、ミサトや加持の血を引く子供ではないと一目で分かる。

間違いなく、アスカとシンジの子供だ。


「こ、子供まで作っとったんかい・・」


「好き勝手やりやがって・・」


「・・・・・」





地軸は元に戻り、寒風が身に染みるも晴天に恵まれた今日この日・・
六年の歳月の流れを噛みしめる、かつての級友達であった。


 


管理人のコメント
 成人の日に再び出会ったチルドレン達。
 彼らも二十歳。
 いろいろあったのでしょう。
 トウジの浮気は許せませんが(笑)、レイとマナが付き合い、アスカとシンジの子供までいる世界。
 でらさんのテイストで料理すると、また一味違う作品になりました。
 でらさん、ありがとうございました♪
 
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