つ:月と太陽
「別に羨ましいとか思ってる訳じゃねーけど。こっちは日陰者で、そっちは日向者なのかなって。」
「そりゃオメー、怪盗が真昼間に姿現してどうする?」
「そーいうんじゃなくて、イメージだよイメージ。」
「イメージ語るなら逆だろ?探偵なんて地味な職業だぜ。新聞のトップを飾るのは、不可能を可能にした大怪盗の記事だろーが。」
「オメーだって、新聞のトップ飾ってるジャン。訳分かんねーポーズで。」
「そのネタ止めろよ。たった一回きりだったろーが。未だにからかわれるこっちの身にもなれって。」
「いや、あれは凡人には出来ないポーズだったね。」
「嫌味かソレは?」
「嫌味。」
「・・・どっちにしろ華やかなのは『怪盗』だろ。」
「華やかってか、まぁ派手だけど。世間一般的には警察に追われる身だぜ、こっちは。永遠に表舞台には立てない。」
「立ちたいのか?」
「改めて言われると・・・困るな。表舞台を望む気持ちはあるけど、それはマジシャンとしてだけなのか、それとも、怪盗としても、なのか。未だ分かんねーんだ。」
「深く考えるのは止めろよ。どーせあとちょっと命だろ?『怪盗キッド』は。」
「嫌な言い方するよな。オメー。わざとだろ。」
「さっきの仕返し。」
「へいへい。俺が悪かったよ。」
「素直で返って気持ち悪ぃ。」
「・・・」
「それで?オメーが裏家業から足洗う最後の舞台で俺は何を手伝えば良いんだ?」
「オメーにさせられる事なんてねーよ。折角まっさらな身体でお天道様の下を堂々と歩ける身分なんだぜ。汚れ役なんて買うなよ。」
「は?何言ってんの、オメー。俺は『不正』な事なんてやる気は元からねーよ。」
「じゃ何を手伝うんだよ。」
「例えば。オメーのウィークポイントの死守とか?」
「・・・そう来たか。」
「実際不安だろ?」
「嗅ぎ付けられてるかもしれねーし、そうじゃねーかもしんねー。」
「そんな迷った気弱な目してるとやられるぞ。」
「分かってる。」
「俺に任せとけって。」
「そうしてもらえると、正直助かる。」
「オメーには借りがあるからな。これでチャラに出来るとすっきりする。こっちも好都合だ。」
「あれね。結局大した事してねーんだよなー。」
「充分だ。あいつの傍にオメーが居たって事こそが、俺の安心の源だったんだから。」
「結局互いで同じ事する訳か。」
「そーいう事。オメーの太陽は守ってやるよ。」
「『太陽』・・・太陽ね、なるほど。オメーにとってのあの子が『太陽』って事か。」
「どーせ離れられねーんだ。そうとも言う。」
「俺を輝かせるのは君だけって?」
「・・・どっちかってーと、生かすも殺すもあいつ次第って感じの方がしっくり来る。」
「俺も、なー。アイツが中心に居てくるくる回ってる気がする。」
「『月』ってガラじゃねーだろ。」
「悪かったな。」
「・・・もう、行くのか?」
「ああ、タイムリミットだ。」
「彼女に伝言は?」
「もう伝えた。」
「・・・こっちの事は任せろ。心配するな。」
「おう。」
「それで・・・無事に帰って来い。」
「・・・ああ。」
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