て:テレパシー
超能力なんて、信じとうないが、どうにもこうにも説明のつかんモノっちゅーもんはあるんや。
俺の目の前で毎朝毎晩繰り返されるコレに、もしどーしても名前つけなアカン事になるんやったら、俺は渋々その言葉を使うやろう。
『テレパシー』や。
「平次、あんたそないのんびりしとって大丈夫なん?」
俺に大盛りの丼を手渡しながら、おかんが時計を気にする。
確かにいつもの時間より5分ほど遅れとる。
ま、走りゃ大丈夫やろ。
炊き立ての白米をがつがつ頬張りながら、俺は朝の日課の素振りを終えてたたきから上がってきた親父に目を向けた。
初冬で吐く息も白い朝、体から湯気がたっとるのはちょい不気味や。
「静。」
開いてんのか開いてへんのか、よう分からない顔で親父が呼ぶと、おかんは手に冷えた水入れたグラス持ちよって近付いていく。
なんや、今朝は水かいな。
おかずが入っとる皿を光速で空にしながら横目で確認。
親父は文句一つ言わんでソレを飲み干した。
ふぅん。
今朝はばっちり水の気分やったっちゅー訳やな。
何言ってんだこいつ?と思ったあんた。
・・・俺やってなぁ。
んな細かい所にいちいち拘りとぉないんや。
せやかて、探偵なんて看板ぶら下げとるからには、はっきりさせなあかん事やってあるんやときちんと認識せななぁ。
『はっきりさせなあかん事』言うとんのは、まぁなんや、親父とおかんの間にテレパシーは存在するか、っつー事や。
毎朝うちの親父は素振りの後何か飲む。
それは良いんや。
何を飲むかはその日の気分次第。
あっつ〜い日本茶飲む時もある。
渋くて温いほうじ茶を飲む時もある。
冷たい湧き水だったり朝っぱらから酒飲む時も有るし。
何でも有りやな。この親父は。
自分が飲みたいもんが出てこなかった時には、性悪な事に、静かにふかぁぁぁぁく不機嫌になりおる。
ほんまぞっとするでぇ?
この狐目親父が暗雲背負って立ちはだかると。
飲むもんなんてどうでもええやん、とはとても言えへんわな。
ちなみに俺はこれで3度ほど地獄を見とる。
学校遅刻するっつーてんのに、この親父俺ん事ぼこになるまで扱きよって・・・
お陰でセンセイにはお小言くらうは、和葉はきゃんきゃん言いよるは、背中に火ぃ点いたような勢いやったわ。
もう2度とごめんやで。ほんま、頼むわ。
まぁそんな訳で、俺が親父の思考読みよるんはほぼ不可能なんは実証済みやけど、おかんは何故かこの不可思議な親父の思考を読む事に長じてる。
長じとるゆうよりは、そりゃ魔法か手品か超能力かってなレベルや。
間違えとるとこ見たことないしなぁ。
おかんに遠慮して我慢しとんのかと思うとったけど、それも実験結果によりペケ。
こんの親父、俺が選んでおかんに持って行かせた緑茶見破りよって、朝から寒気がするような嫌味言いよった。
なんで分かんねん?!
・・・テレパシーやのうて、千里眼かいな。
俺はほけぇっと親父とオカンを視界に入れた。
この二人が恋愛しよって俺が生まれたっちゅー事自体、なんや信じられへんな。
やっぱ、通じるもんがあるんやろなぁ。
俺には分からへんが。
それが二人だけに通じるテレパシー?
・・・寒。
「平次。あんたほんま大丈夫なん?」
おかんの声にはっと気が付いた。
アカンっ!もうこんな時間やんけ!!!!
「行って来るわっ!」
浪速の黒い弾道と不本意ながら呼ばれるダッシュで家を飛び出した。
「ふぅん。そない事考えとって、遅刻したん?」
呆れ顔の和葉が俺の周りをうろちょろしとる。
浅黄色のリボンがゆらゆら揺れとって、なんや知らんが心が和むんは、こいつ図に乗りそうやから言ってやらん。
「朝っぱらから理解出来んもん見せられるとなんや消化不良っちゅー感じでキモいわ。」
「酷い言い草やねんね。でもあたし憧れるなぁ。」
「はぁ?!」
「だって言わんでも伝わるやなんて、お互いの事大切にしとる証拠やん。」
「そうかぁ?」
「そうや。」
ほんまかいな。
俺が唸っとると、和葉がジト目で俺を睨んどる。
「平次ってほんまそこら辺ダメダメやなぁ。そこ行くと工藤君の方が上手やね。」
「・・・なんで工藤が出てきよるねん。」
「蘭ちゃんと以心伝心。ええなぁ思て。」
なんや。
めちゃ面白うない。
むかっ腹を納めようと四苦八苦しとる所で、次の授業の始業のチャイムや。
「あ、席着かな。」
消化不良起こしそうや。
なんや、俺の周りはテレパシーに溢れ取るっちゅー訳か?
俺だけ出来んなんて、納得で出来へんわ。
遠い席の和葉をじぃっと穴空ける勢いで見てみる。
・・・きっと、伝わらへんやろなぁ。
あの鈍い女には。
はぁ・・・難儀や。
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