■ 幼馴染み ■





桜咲くこの季節新しく帝丹高校の門を潜る新入生。



「またあんたと同じ学校?嫌んなっちゃう。」

「それはこっちの台詞だよ。ばーぁか。」

「腐れ縁もここまで来ると鬱陶しいばっかりね。」

「だったらこの学校受けんなよ。」

「しょうがないでしょ?ここの学校剣道強いんだもの。あんたこそ他の学校受けりゃ良かったのよ。」

「この学校にゃ尊敬してる先生が居るんだよ。」



口を開けば喧嘩ばかり。

幼馴染の男女は素直になれない心を持て余し、一緒に門を潜った。









「ねえねえ!3年生にすっごく格好良い先輩居るんだよ!!」

「ふーん。希理子そういうの好きだよね・・・」

「・・・一加って反応悪い〜っっ!!やっぱり旦那が居ると違うわねぇ。」

「ちっ、ちょっと!誰が旦那よ?!」

「そりゃバスケ部期待の新人、大輔君に決まってるじゃない。」

「あんなのただの幼馴染よ!!」

「またまた〜?」

「違うってば!!」









「おい?もう見に行ったか??」

「何を?」

「おまえ遅れてんなぁ〜。3年の超絶美人!!一見の価値有りだぜ!」

「暇だなぁ。進も・・・」

「そうは言うけどね?大輔。おまえくらいだぜ、まだ見に行ってないのって。」

「別にお近付きなりてーとも思わねーし。」

「はぁ。彼女持ちは付き合い悪ぃよな、ほんと。」

「待て!誰が『彼女持ち』だって?」

「おまえ。」

「ふざけんな!」

「一加ちゃん人気有るんだぜ?でもみ〜んなお前に遠慮して諦めてんのにまだそういう事言うか?」

「あいつはただの腐れ縁!!」

「一緒の高校に入ってんのに?一緒に登校してんのに?嘘言うなよ。」

「だからそれはちっちぇえ頃からの習慣で特に意味は無いってんだよ!!」









友人達は誤解して、ますます意固地に『幼馴染宣言』。

いつも目で追ってるくせに。

一番大事な人のくせに。









「一加ぁ。聞いてよ。」

「何?」

「あのね。この前言ってたすっごく格好良い3年の先輩、彼女居るんだって。ああ、がっかり。」

「そりゃ女子に人気有るんなら彼女の一人や二人いてもおかしくないわね。」

「あんなに格好良いのにぃ。アタックする前から玉砕なんてひどいぃぃ。」

「諦めれば?大人しく。」

「やだぁ。だって成績だってトップクラスでサッカーは超高校生級で眉目秀麗だよ??滅多に居ないよ!!」

「でも彼女居るんでしょ?」

「・・・別れてくれないかな?」

「・・・無茶言ってるよ。この子は。」









「大輔。すげぇショックな事が判明した。」

「なんだよ。薮から棒に?」

「3年の美人さん、既に人のモノだった。」

「それがショックなのか?お前。」

「だってよ〜。見てるだけで幸せになれる程の良い女なんてそうそう居ないぞ?」

「見てるだけで幸せになれるんだろ?だったら見るだけで我慢しとけよ。」

「あっさり言うなぁ。大輔も。でもよ〜。あの桜色の唇もほっそい腰もさらさらの髪の毛も黒曜石みたいな瞳もふっくらな胸もぜ〜んぶ人のものだなんてもったいねぇと思わない?」

「思わねーよ。」

「最近流行りの略奪愛とかやっても良いと思うか?恋人の居る年上の女かぁ・・憧れるよなぁ・・・」

「お前血を見るぞ?」









遠くの人気の先輩の事なんかより近くの気になるあいつ。

心はいつもあいつの事で一杯で余裕なんてちっともない。

高校生になって好きな人とか出来ちゃったかな?



不安で時々眠れない・・・









美人って事だけじゃ心は動かない。

目に映るのは最近綺麗になりだしたあいつだけ。

なんだよ?なんでそんなに綺麗になっちまうんだよ?

噂の先輩のように野郎に騒がれちまうだろ?



それは困るんだよ・・・









「最近頑張ってるみたいじゃない。バスケ。今度レギュラーだってね?」

「朝から晩までみっちり練習してんだから当然だろ?」

「ふーん。大輔も結構見れるようになったじゃない。・・・この前A組の女の子フッたんだって?」

「げっ・・・なんでそんな事知ってんだよ。」

「・・・幼馴染としては気になるじゃない?あんたがモテてるなんて気味悪いけど。」

「うっせぇなぁ!!女なんて興味ねーよ!未だ!」

「ふーん・・・じゃあ3年のあの先輩も?」

「誰だよ?それ。」

「ほら。美人で噂のあの先輩。この前見掛けたけど凄く綺麗だったよ。」

「別に・・・興味ねーよ。見た事ねーし。」

「ふーん。」









嬉しくてどうにかなっちゃいそうだった。

あいつ、あの先輩でさえ興味無いって。

未だ幼馴染で居られそう。

未だ一番あいつの近くに居られそう。









「数学の課題やってきたか?」

「勿論。・・・ってあんたまさか・・・?」

「忘れた。だから見せろ。」

「うわぁ敖慢な態度。お願いする立場ならもう少しそれらしい態度取りなさいよ!」

「見せて下さい。一加様。」

「それでよろしい。はい、どうぞ。」

「さんきゅ。・・・・で、だなぁ・・・」

「何よ。」

「この礼と言っちゃあなんなんだが。トロピカルランドのただ券がここに有る。」

「え?誘ってくれるの?」

「まあな。・・・で、どうする?」

「しょ、しょうがないわね。大輔ってのがネックだけど誘われたげるわ!」

「何だよ。感じ悪ぃなぁ・・お前も3年の何だかって言う先輩みたいなのが好みとか言ねーだろーな?」

「その先輩未だ見た事無いんだけど・・・?そんなに格好良いの?」

「お前見に行かなかったのか?」

「興味無かったから・・・」

「そっか。」









あいつらしいっちゃあいつらしくて思わず笑ってしまった。

男の俺が見ても格好良い先輩なのに『興味無い』とか言ってるし。

トロピカルランドに誘う事に成功した。

後は俺が告白するだけ。

上手くいくかな?

いや、そんな弱気な事言ってられない。

他の男に奪われちまう前に・・・









週末は良い天気。

意気揚々と出かけた二人。

嬉しいくせに、素直になれなくて。









「何で俺達が運ばなきゃならねーんだよ。」

「あの先生っていっつも適当に当番決めるんだもの。」

「重いなぁ、これ。一体何が入ってんだよ?」

「多分本だと思うよ。こっちのもそうだし。」

「それ、重くないか?持ってやろうか?」

「平気よ。これくらい。」









何も変わらない月曜日。

いつもの二人。

結局踏み出せなくて。



臆病な二人は未だ幼馴染のまま。









渡り廊下に差し掛かると、人気の無い裏庭に誰かの人影が見えて、思わず口を噤む二人。



誰か・・居る・・・?









「久し振り。元気だった?」

「嫌味言うなよ。事件事件で体ぼろぼろなんだぜ?」

「じゃあ、お疲れ様vv」

「ん。」

「ね?今日夕ご飯作りに行っても良い?」

「大歓迎。」

「何が食べたい?」

「今旬って言ったら何だ?」

「うーん。春野菜かな。キャベツとか安くて美味しいよ。」

「じゃ、ロールキャベツが食いたい。」

「作って待ってるね。何時頃帰って来れるの?」

「休んでた一週間分の補習を受けてからだから・・・そうだな。7時くらいかな。」

「早く帰って来てね?」

「了解。」

「・・・ちょとぉ?」

「良いだろ?俺我慢できねーよ。」

「・・・ばか。」









ゆっくりと重なる二つの影。









二人は慌ててその場を逃げ出す。



熟れ切ったトマトのように真っ赤な顔を隠しもせず・・・









「大輔。呼び出し。」

「おう。誰?」

「噂の先輩。・・・お前何やったんだ?」

「は?」



戸口にはあの時裏庭で見た先輩が立っていた。









「バスケ部一年生ながらレギュラー獲得だって?凄いな。」

「あ・・・そんな事無いです。それで、先輩、俺に何の用ですか?」

「昼休み。裏庭に居た?」

「・・・」

「やっぱり。」



未だ何も言ってないのになんで分かるんだろう?

俺の困惑した顔を見てその先輩は苦笑いをした。



「そんな茹でタコみたいな顔されたら疑いようがねーじゃん。」

「あっ・・・」

「黙ってて貰えると助かるんだけど?」

「はっ、はい。」

「彼女にも口止めしてくれるか?」

「はい。・・・あの、あいつ彼女じゃないですけど。」



俺の言葉ににやぁとしか形容出来ない笑顔を返された。

近寄り難かった雰囲気が一瞬にして崩れる。



「時間の問題だろ?」

「そ・・・それはっっ・・・!!」

「な〜んかどっかの誰かさんを見てるようで変な気分だよ。」



くくっと笑いを零す先輩が何故か俺の肩をがしっと掴み耳に内緒話を吹き込む。



「早いとこ好きだって言っちまえよ。後悔する前にな。」

「先輩!?」



焦って大声を出す俺に苦笑いを向け先輩はなお俺に言う。



「経験者は語る、ってな。幼馴染なんていつまでも意地張ってると、トンビに油揚げなんて事になるかもしれねーぞ。」

「えぇ??もしかして先輩の彼女って・・・・!!」

「幼馴染だよ。じゃな。頑張れよ!」



後ろ手に別れを告げられて俺はその場に取り残された。

『経験者は語る』ってつまり、そういう事なのか?

びっくりして俺はその場からなかなか動けなかった。









「一加。ちょっと・・・」

「何?」

「昼休みの事。」

こそっと呟くと一加はぶわっと真っ赤になった。

俺もつられて赤くなる。

「さっき先輩が来てさ。口止めされた。」

「うそぉ・・・私たちが見てたのばれちゃったの?」

泣きそうになってあいつが呆然と呟く。

「別に怒ってなかったよ。・・・何か激励されちまった。」

「何を?」



赤い顔のまま俺を見上げて不思議そうに首をかしげるあいつはすげぇ可愛くて。

さっき変に煽られちまったりしたから・・・



つい、俺は勢いで告白してしまっていた。





「俺さ。お前の事・・・」









「あら進君。どうしたの?浮かない顔して。」

「希理子ちゃん知ってた?あの二人とうとう恋人同士になったって。」

「知ってるわよ。なんか大輔君から告白したって聞いたけど。」

「あ〜あ。置いてかれた気分。」

「しょうがないじゃない?あの二人誰が見てもお似合いじゃない?」

「時間の問題だなとは思ってたけどね。」

「幼馴染かぁ・・・羨ましいなぁ。」









噂の新入生は幼馴染同士。

2・3年生はみんな何処かで感じていた。



あの二人に似てるって・・・



結局初夏の頃には恋人同士。

あの二人よりも早かったけど。

結果は予想違わずくっついた。

彼から告白したって所も一緒。





そうしてジンクスは作られる。









帝丹高校に入った幼馴染同士は末永く幸せな恋人になれるんだって・・・









■ END ■



  

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