ん:阿吽
ぽかぽか。
日向は温められて、暖房要らずの温かさ。
そこで警戒心皆無でお腹丸出しで寝ているのは、真っ白な猫。
にゃぁと小さく鳴いて、びろ〜んと背伸び。
左を向いていた体をころりと半回転させて右を向いて鼻をむにゃりとさせて再びすぴすぴ。
ここはまるで楽園。
「哀君。どこにおるんじゃ?」
白髭の大きな男の人がぽてぽてとリビングを横切る。
丸い体はこの人の印象そのもの。
柔和な顔付きにお似合いのおなかの出っ張り具合。
「博士。呼んだかしら?」
階段口に小さな影が現れる。
薄茶の髪が白衣に映えている。
でも小さな体には不似合いの、大人びた表情。
「あ〜。すまんのぉ。研究の途中に呼び付けたりして。」
「別に。丁度お茶を飲もうと思っていたの。」
白い猫は再びごろんっと体を半回転させて、二人のやり取りを眺める。
猫は知っている。
この小さな研究者が、他人が思っている以上に家主を大切に思っている事を。
だから今の台詞がきっと必要以上にこの白髭の家主に気を遣わせぬ為の心遣いだという事を考える。
この平和な猫の趣味はマンウォッチングなのだ。
「・・・あら?」
リビングの窓辺でまるで干されているみたいに伸びている猫に気が付いて、彼女はスリッパの音をさせながら近付いてくる。
子供の体温を灯す小さな手の平が、柔らかな腹を撫でた。
「また来たの。お前。」
にゃぁ。
返事をすると、声を出さずに笑ったようだ。
猫は思う。
もっと声を上げて笑えばよいのに。
その方が楽しいのに、と。
「猫缶ね。棚に仕舞ったの。」
小さな研究者は大きな研究者が何故自分を呼び付けたのか悟ったようだ。
猫の為に最近常備されている猫缶は、昨日まではリビングの片隅に置かれた大きな麻布のボックスの中に入っていたのだ。
「おお、すまんのぉ。」
二人は台所へと入っていく。
白い猫はもう一度伸びをすると、身軽に起き上がってにゃあにゃあと甘えた声を出しながらその後に続いた。
美味しいご飯が貰える事を疑っていないのだから。
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