こ:恋せよ乙女





今日は蘭ちゃんが家に来てるの。

蘭ちゃんは高校生名探偵の工藤新一君の恋人なんだよ?

これってスクープでしょ?

内緒だからね?

雑誌社とかにネタとして垂れ込みしたら、青子のモップが炸裂するからね?











ん〜と。

それでね。

蘭ちゃんが家に来た理由ってのがね・・・







「ありがとう!青子ちゃん!」

蘭ちゃんが嬉しそうに青子からダンボールを受け取った。

大きさの割には結構軽い。

宅急便の荷札に書かれているお届け先住所は青子の住所になっているけど、これは蘭ちゃんが頼んだ荷物。

そう、蘭ちゃんは通販した荷物を青子の家に受け取りに来たんだ。

取り敢えず蘭ちゃんにリビングの椅子を勧めて、青子は蘭ちゃんに紅茶を入れに台所に行った。

背中に蘭ちゃんの声が投げられる。

「ねぇねぇ青子ちゃん。荷物開けても良いかな?」

「うん。勿論だよ!蘭ちゃん何買ったの?」

話の流れ的に聞いても良いかなって思って青子が尋ねると、蘭ちゃんから微妙な沈黙が返って来た。

あれ?

どうしたのかな?

「・・・う〜ん。見て?その方が早い。」

蘭ちゃんが恥ずかしそうに言った。

そんな声が聞こえると俄然興味が沸いちゃう。

青子だってそんなに鈍くないから、蘭ちゃんのその通販が工藤君絡みだって事が察せる。

だって蘭ちゃんは本当に見ていて眩しいくらい、工藤君に全身で恋をしているのが分かるんだもん。

表情とか可愛いし、仕草とかぎゅってしたくなるくらい可愛いし。

そっか。

女の子って恋をするとこういう風に変わるんだっていう見本を見せられた気持ちだった。

素直に感動出来ちゃった。

それを本人に言うと、照れまくって少々加減を忘れた手が飛んで来るけど。

青子は紅茶と買ってあったじゃがりこをお盆の上に載せて、蘭ちゃんが待つリビングへと戻る。

蘭ちゃんが丁度箱の中から品物を取り出す所だった。

かさかさとビニール袋を開ける音。

ちらちら横目で見ながら蘭ちゃんの前にティーカップを置いた。

お砂糖をスプーン2杯分入れながら、蘭ちゃんが広げたソレを確認して。

青子は思わずティースプーンを机の上に落とした。







「ら・・・蘭ちゃん・・・ソレって。」

「えへへ。」

頬をちょっと赤く染めて、(それがまた可憐で可愛い!)、照れる蘭ちゃん。

蘭ちゃんが手に持っていたソレは洋服だった。

ソレもうんっと短いミニスカート!!

それを誰も座っていない椅子の上に掛けると、箱の中から続いて別の洋服を取り出す。

今度は胸が見えちゃいそうなほど襟ぐりが切れ込んでいるニットのセーター。

唖然とした青子がぽかーんと口を開けて見ていると、蘭ちゃんは更に更に!!!

上品な色の刺繍がばばんっと付いた白の下着の上下を取り出した。

青子が見た事がないものまで一緒に付いている・・・

ええっと、あれは確か・・・

「ららららら・・・・」

歌ってる訳じゃないんだってば!

驚くと言葉って変にならない?

頭が上手く回ってないって言うか、時間がゆっくり流れてるっていうか・・・

「青子ちゃん。今日見た事は二人だけの秘密にしてね?」

「秘密って言うか・・・蘭ちゃん。どういう心境の変化?だってソレ、蘭ちゃんの趣味じゃないよね?」

百歩譲って下着は蘭ちゃんの趣味だとしても、黒と白の千鳥格子のミニスカートと、銀色にきらきら輝くニットのセーターはあんまり蘭ちゃんの趣味じゃないと思う。

青子の疑問に蘭ちゃんはあっさりと答えてくれた。

「うん。私が普段買うような服じゃないよね。これってね。合コンに行く女の子の平均的な格好らしいの。」

「え?合コン?!」





有り得ないっ!

蘭ちゃんが合コンだなんて絶対有り得ないっ!

あの工藤君がそんな事許す筈ないもん!!!





「出・・・出るの?」

「うん!」

そ、そんな力強く嬉しそうに言わなくても・・・

蘭ちゃんに何が起こったのか。

青子はきっと凄く聞きたそうな顔をしていたのだろう。

蘭ちゃんが内緒話をするように青子の隣にやってきて、耳元の近くで喋りだした。

吐息がちょっとくすぐったいけど、聞きたいから青子は当然我慢した。

「新一がね。出るんだって。合コン。」

「ええっっ!!!」





有り得ないっ!

それこそ絶対絶対有り得ないっ!

あの蘭ちゃん一筋の工藤君がナンパのメッカ(快斗が教えてくれた。ついでに絶対行くなってきつくお説教された。何よ〜。言ってみただけなのに)に一人で行くなんて天と地が引っくり返っても有り得ないっ!





「何でもね。大きな貸しのある友達にね。どうしてもって頼まれたみたいなの。本人乗り気じゃないのがすっごく伝わってきて、笑っちゃった。」

蘭ちゃんはにこにこしてる。

工藤君が合コンに行く事自体は別に気にならないみたい。

焼餅とか妬かないのかな。

蘭ちゃんって・・・あんまりそういう負の感情を他人に悟らせないからなぁ。。

「私もね。新一が行くなら、ちょっと行ってみたいなぁって思ってね。しつこく聞いたらね。新一は勘違いして、私が拗ねてヤキモチやいてるんだって思ったみたい。割と口軽く色々教えてくれたの。銀座のルビー・リングっていうお店で明日の7時くらいからスタートなんだって。」

「うん。それで?」

「そこまで聞いてから『連れてって』ってお願いしたら、凄い剣幕で駄目だって言うの。嫌なんだって。私が行くの。」

そりゃそうだろうなぁって青子は思う。

だって蘭ちゃんを合コンなんかに連れて行ったら工藤君大変だもん。絶対。

狼さんから愛しい羊ちゃんを必死に守って、他の事なんて出来っこないもん。

工藤君に合コン参加を頼み込んだっていうお友達だって、何かして欲しい事があったから頼んだ訳だし、他の事が何も出来ない状況は困るよね〜。

青子が勝手に納得してると、蘭ちゃんが悪戯をする前のわくわくした子供のように目を輝かせて、私に軽くぶつかってきた。

二人でしばらくゆらゆら揺れる。

「・・・だからね。勝手に行く事にしたの。」

「えぇ!!」

「別口でこっそり行ってね。驚かせるんだ。」

「・・・」

驚かせるって・・・

大丈夫かなぁ?蘭ちゃん。

「だって、やっぱりちょっと心配なんだもん。新一普通でもモテルし。」

「そうだね。格好良いもんね。」

「合コンってそういう傾向が強いじゃない?大丈夫かなあって。」

「うんうん。」

「・・・実を言うとね。新一がどれくらいモテルのか一回ちゃんと知りたかったの。」

「ん?」

「彼女である事に満足して、油断しないように。ちゃんと努力しようって思えるように。」





偉いなぁ・・・蘭ちゃんは。

今だって凄いちゃんとしてるのに。

工藤君ちの家事全部やって。

気持ちよく現場に送り出してあげて。

疲れてる工藤君を労わってあげて。

それでも未だ努力しようって思っちゃうんだ。

女に磨きを掛けるつもりなんだ。

凄いよぉ。





「これはその為の衣装なんだ。」

「だから家に送れなかったの?」

「だってお父さん最近煩いんだもん。」

お餅みたいにぷぅっと膨れた蘭ちゃんの頬に、青子はそりゃそうだよねなんておじさんにちょっと同情してしまった。

可愛い娘が他の男の子に取られちゃうんだもん。

ショックだよね〜。

大人気なくても邪魔したくなっちゃうよね〜。

蘭ちゃんが工藤君の為にこんなセクシーな洋服買ったなんて知ったら、怒鳴り込んじゃいそうだもんな。

「通販雑誌見ながら友達に色々聞いたの。こういう格好が合コンでは普通なんだって。でも。」

蘭ちゃんは手を伸ばしてスカートを手に取って目の前に広げて見せた。

「この短い丈!お腹冷えちゃうよね〜。」

「蘭ちゃん蘭ちゃん。問題はそこじゃなくて。ええっと・・・見えちゃわない?」

青子だったら怖くて履けない。

蘭ちゃんもちょっと眉根を寄せてそうなんだよねぇと呟いた。

「見えるって言ってもせいぜい太股の上の方くらいなんだって。だからガーターベルトにしておきなさいって言われたの。」

さっきの青子には見覚えのない物体はやっぱりガーターベルトだった。

あれを蘭ちゃんがして、レースのストッキングで、スカートからちらりと見えたりしたら。

青子だって悩殺されちゃうよ。そんなの。

さっきから出てくるお友達って一体誰だろ?

なんとなく蘭ちゃんで遊んでるんじゃなかなぁ。その人。

蘭ちゃん素直だからほいほい意見聞いちゃってるし。

普通スカートが短いからガーターベルトなんて言わないよね。

「これ着て新一驚かせるんだ〜。ふふ。青子ちゃんも上手くいくように祈っててね。」

「う・・・」





返事に困る。

青子はそれよりも、こんなの不意打ちで見せられた工藤君が暴走しないように祈るべきかもしれないと真剣に考えていた。

蘭ちゃんが凄く楽しそうだ。





恋する乙女は無敵だなぁ・・・





ぼんやりとそんな事を考えた一日だった。








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