か:勝手な王子様
「それでですね。やっぱり僕としてはこの日のスケジュールを翌日に繰り越したいと思っているんですけど。」
「・・・」
ぼんやりと窓の外を見ている哀に、光彦はちょっと切なくなる。
二人っきりになるのが苦手なのか、よく話の途中に意識此処に在らずという様子になるのだ。
自分という存在のウェイトを思い知って、落ち込む事もしばしばだ。
「灰原さ〜ん?窓の外に面白いものでも有るんですか?」
話を中断して、彼女と同じものを見ようと光彦は窓の外を身を乗り出して観察した。
遠くに歩美と元太の姿が見える。
実に楽しそうに手に持った箒で落ち葉を掻き集めている。
「あの元太君の顔。何しようとしているか一発ですよね。」
「・・・そうね。」
少し笑うと哀の顔に生気が戻ってきた。
元々インドア派の彼女は驚くほど肌が白い。
いっそ病的な程に。
光彦は心配でしょうがないのだが、彼女はあまり外に出たがらない。
その傾向は、江戸川コナンが居た頃からまったく変わっていなかった。
「僕達もあっちに行きましょうか?」
自分は『二人っきり』という状況にドキドキしているが、哀は辛いのかもしれないと思い至って、光彦はそう提案してみた。
一瞬の沈黙の後、「そうね。」という答えが返ってきた。
「あ、哀ちゃん!光彦君!!」
「お〜オメーらおせーぞっ!もう掃除終わっちまうじゃねーか。」
「スミマセン。歩美ちゃん、元太君。今度の連休の予定がなかなか決まらなくて。」
「楽しみだね〜。博士がキャンプ連れて行ってくれるんだよね。」
無邪気な様子の歩美の弾んだ声に、元太の元気一杯の声が重なる。
「川で釣りすんだよな!でっけぇ魚釣れっかな。」
「元太君は前に実績がありますからね!絶対釣れますよ。」
「でもあれは、磯釣りだったじゃない。川釣りはまた違うわよ。」
「え、そうなの?哀ちゃん。」
「ええ。」
4人で居るといつもの調子に戻る。
光彦はこっそりと一人で溜息を吐いた。
その様子に目ざとく気が付いた歩美が首を傾げながらこそりと耳に内緒話を吹き込んだ。
「どうしたの?光彦君。何か哀しい事があったの?」
「う〜ん。哀しいというよりも切ないと言う様な事が・・・」
「らしくないよ!光彦君!」
「そうでしょうか?」
「元気出さなくちゃ!折角楽しい予定立ててるんだから!」
「そうですよね。・・・そうですよね〜。」
これから楽しい事が一杯ある。
哀も次第に笑顔が増えるかもしれない。
煙のように消えてしまったあの大事な仲間の事も、笑って話せるようになるかもしれない。
落ち葉を山のように掻き集めて、博士を呼びに言った元太の後姿を見ながら光彦はきりっとした表情を見せた。
未だ、コナンには届かない自分が居る。
哀のコナンに対する特別な感情が消えていない事も知っている。
焦ってもしょうがないのだ。
「光彦君?」
「歩美ちゃんスミマセン。なんだか僕らしくなかったです。」
「元気出た?」
「出ました。楽しい事を考えます。悩むのなんて何時でも出来ますよね!」
「そうだよっ!」
「それに時間たっぷりありますし。」
うんうんと光彦は頷いた。
自分は未だ小学2年生だ。
暫くはライバルも現れそうに無い。
長期計画で彼女を振り向かせる勝手な算段を立て始めながら、決意も新たに光彦は愛しい彼女を見詰めた。
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