GOODY GOODY 3 最強の天使






快斗は久し振りに敏腕マネージャーからもぎ取った3連休を朝から満喫していた。







7時。

隣に眠る可愛い奥さんにおはようのキスをして、未だにそういったスキンシップに恥らう姿を見せられて、煽られて、思わずベッドに両手首を押し付けたところで、強烈な膝蹴りをくらって撃沈。

その間に奥さんにはまんまと逃げられ、ちょっと背中に哀愁を背負う。







7時半。

ほとぼりは冷めた頃かと階下に行くと、キッチンから楽しげな声が聞こえて来る。

快斗は頭だけ伸ばしキッチンを覗き込んだ。

「朝飯未だ?」

「もうちょっとだよ?」

青子がフライパンを引っ繰り返しながら、振り返って笑う。

足元ではお皿を持って待ち構える小さな愛娘。

「夕梨は手伝いか?偉いな。」

「うん!パパ!もうちょっと待っててね♪」

弾むような声に頷いて、リビングに移動しなんとなく新聞紙を斜め読みする。

所要時間2分。

今日も世の中は平和だ。







8時半

朝食も食べ終わり、皆で一斉に家の中の掃除を開始する。

快斗は普段やらない窓拭きを夕梨と一緒に半ば遊びながらやった。

青子は掃除機を掛け、風呂掃除にトイレ掃除、洗濯なんかを手際良くやっている。

夕梨に手招きをされてこそりと耳打ちされた内容に、快斗は吃驚してそして笑ってオッケーを出した。







9時半

脱水が終わった洗濯物を家族3人で庭に干す。

大物のシーツがわんさかと風に翻る様子は圧巻だ。

快斗は籠に手を突っ込んで取ったものが、偶然にも青子の新しい下着だったので、ついまじまじと見てしまい、それに気が付いた青子に殴られた。

「何見てるのよっ!バ快斗っっ!」

「良いだろが。別に。」

「良くないわよっっ!!!!」

「ったく。なんで恥ずかしがるんだか。そんなアイダガラでもないのにさ〜♪」

「!!」

夕梨の方を気にして、青子は頬を薔薇色に染めた。

キツク睨み付けても全然堪えていない快斗に悔しそうにそっぽを向く。

快斗はにやにやと笑うのみ。

夕梨はそんな両親を見て不思議そうに首を傾げた。







11時。

のんびりくつろぎタイム。

青子はソファーに座って本を読んでいる。

どうやら工藤優作の新刊らしい。

そういや工藤の名前が書かれた小包が来ていたっけと思い出した。

「パパ!見ててね?」

目の前の夕梨が今教えたばかりのマジックを快斗相手に披露しようとしている。

快斗は暖かな目でソレを見守った。

指先とカードを4枚使った簡単なマジック。

小さな手で一生懸命夕梨はマジックをやって見せた。

「どう?どう?」

「おっ。上手く出来たな。」

「やったぁっっ!」

「夕梨は何か気が付いた事あるか?」

幼い顔が目を閉じて考える。

再び開い時にしゅんっと頭が項垂れていた。

「もしかして、パパの位置からだと左手のカードの端っこ・・・見えてる?」

「残念ながら、見えてたな。」

「そっかぁ・・・出すタイミングはもうちょっと後なんだね。」

「そうそう。それさえ出来れば完璧さ♪」

「頑張る!」

微笑ましい光景に、青子は本に落としていた目線を上げて、ふぅっと息を吐いた。

最近快斗の仕事に興味を覚え出した夕梨は、自分でマジックを練習したりしている。

快斗のそれとは比べるべくもないが、幼い頃の快斗と重なって見えて、血は争えないなぁと青子は嬉しく思っていた。







12時

青子がそろそろ昼食の準備をしなければと、読んでいた本に栞を挟み、ソファーから立ち上がった。

快斗と夕梨は二人揃って仲良く遊んでいる。

父親である快斗も一緒になって遊んでいると思われる程度に、彼は未だ子供っぽい所を持っていた。

くすりと青子が笑いを零す。

何やら中世の騎士ごっこらしい。

快斗が馬になってその背に夕梨が乗っている。

「あ、ママ!これから夕梨はドラゴンを退治しに行ってくるね。」

「気をつけてね。快斗もちゃんと夕梨を守ってやってね。」

「了解。」

「パパ。お馬さんはヒヒンッって鳴かないと駄目なんだよ?」

「ヒヒンッ!」

ノリの良い父親に、夕梨はご機嫌の様子で身体を揺らしている。

青子がそのまま二人の脇を通り、キッチンへと向かおうとした時、不意に夕梨が青子のスカートを引っ張って止めた。

「なぁに?夕梨。」

「ママも一緒にドラゴン退治に行こっ!ほら、パパの背中に乗って?」

そういって小さな手で自分の後ろを指差す。

青子は困って頭を振った。

「お馬さんはそんなに人を乗せられないのよ?潰れちゃうわ。」

「あ、青子しっつれいだな〜。俺はそんなヤワじゃないぞ。」

「お馬さん大丈夫だって言ってるよ?ほらほら!ママも乗っかって!!」

「・・・」

ふと気が付いた、快斗が自分を見詰める瞳がなにやら妖しい光りを放っていて、青子はゆっくりと一歩下がった。

そう言えば・・・

最近やたら自分の上に青子を乗せたがって、恥ずかしくて死にそうになってる青子を意地悪く追い詰めるんだっけと、連鎖的に今は思い出してはいけない事まで思い出してしまった。

かぁっと身体の芯が熱くなってしまって逃げる様に背を向けると、追い討ちをかけるように二人の声がする。

「ママっ!なんでぇ?一緒に行こうよ〜。」

「そうだぞ〜。青子。俺も青子を乗っけたいな〜♪青子軽いから平気だって!!!」

「!!」

夕梨からは見えない位置で、快斗が意味ありげに舌で唇をぺろりと舐め上げた。

セクシャルな仕草に青子がびくんっと反応する。

にやりと快斗が笑った。

「あ・・青子は昼食の準備するからっ!」

真っ赤な顔でソレだけ言うと、青子はキッチンへと逃げ込んだ。

後ろで快斗の楽しそうな声。

「青子は夕梨の後で乗せてやるからな〜。」

「じゃあ後でね〜。」

無邪気な子供の言葉に、青子はますます赤面するのだった。







3時。

お昼寝タイム。

快斗は折角休日で仕事の事なんざ宇宙の果てに投げ捨てていたのに、マネージャーからの電話に捕まってしまって不機嫌に口をへの字に曲げていた。

青子は夕梨を寝かしつけるつもりで結局一緒に寝てしまっている。

二人を起こさない様に自然と小声で通話をする快斗。

「そんなオファー断っちまえよ。・・・は?そりゃ、相手は高級ホテルだろうけど。礼儀も弁えない馬鹿と仕事したくねーよ。・・・・良いって別に。俺の悪評?そんなの言わせたい奴には言わせとけば?・・・はいはい。上手くやってくれよ。俺は休暇中なの!愛しの家族と楽しくやってんの!・・・へーへー。了解。もう電話してくんなよ?全部3日後にな!じゃな!」

無理やり話を打ち切ると、快斗はふぅっと溜息をついて髪の毛をばりばりと掻き毟った。

有名になるのも考え物だと、うんざりとした気分になる。

折角の休日が台無しになる前に、自分の機嫌を竹を割った様に真っ直ぐに直さなければ。

手っ取り早く・・・と快斗は二人が眠る傍に膝立ちで移動する。

娘は父親に似ると言うが・・・

顔の造作は青子にそっくりの愛娘ににへら〜っと笑み崩れる

健康的な薔薇色の頬。

柔らかそうにふっくらつるるんっとしてるその肌を眺めているだけで幸せな気分になる。

娘を挟んで親子3人川の字に寝転がると、快斗も瞳を閉じた。







夜10時。

「・・・いい加減、寝る気になりませんか?夕梨ちゃん。」

快斗のちょっと情けない声に、元気一杯の声が返事をする。

「未だ眠くな〜い♪パパ、ねえねえ。一緒に映画見よ?」

「夕梨。子供は寝る時間だよ?」

「だって一杯お昼寝したモン。だから大丈夫。」

そう、結局あの後3時間も昼寝をしてしまった黒羽親子は、目覚めも爽やかに夜の時間を満喫する羽目になってしまった。

普段ならとっくに布団の中の夕梨も快斗の周りをぴょんぴょんと飛び跳ねている。

青子は折角だからと、昼間読んでいた本の続きを静かに読んでいる。

快斗の相手はしてくれなさそうだ。

快斗の予定では子供を寝かし付けた後、ゆっくりと夫婦の時間を楽しむはずだったのに・・・

とほほ、と快斗は頭を抱えた。









End


2013/07/03 再UP

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