「先輩の事、好きです!」
教室で騒いでいた所にやってきた後輩の女の子に廊下に呼び出され、喧嘩腰にそう言われた時、まず思った事は
『失敗した!』
だった。
卒業までにはまだ日のある、夏休み前日のこの日にまさかこういう行動を起こす子がいるとは思わず油断していた自分の失態だ。
夏休み前だからこそ、一つの告白の機会であるのに・・・・・・。

自分はいままで、こういう場面を作らないよう、極力女の子と二人キリにならない様気を付けていた。
人目につかない場所への呼び出しの時はもちろん仕方がないので、誰にもみつからない様に行って断りを入れていたが、今回の様な呼び出しの時は手紙や場所移動の誘いを貰う前に意思表示を示して外野に気付かれぬうちに断りを入れていた。
今回も当然そのつもりだった。
それがだ。
廊下に出て顔を見た瞬間に彼女は問題の言葉を口にしてしまった。
「お!夏休み前に告白たぁやるね!」
初めは面食らっていた悪友どもが彼女をはやし立てる。
『うっせぇ!てめぇら!!』
腹立ちまぎれにガンをとばしても悪友どもにはいっこうにききめなし。
それどころかその態度に後輩の少女の方が反応を強く示してしまう。
「工藤先輩!返事を下さい!」
「え、えっとな・・・その・・・・・・」
少女の迫力に押されてしどろもどろになってしまう自分が情けない。
「工藤先輩、もしかして噂通り、蘭先輩と付き合ってらっしゃるんですか?」
「いや・・・そうじゃないが・・・・・」
『そういう関係になりたいと思ってるんだよ』
こっそりと心の中でそう告げる。
これをハッキリ口にのせればいいのだろうが、いかんせんここは学校の廊下だ。
こんな所で口にすればそれこそどうなるかわからない。
「じゃあ、あの噂は本当だったんですね。」
「噂?」
「工藤先輩がいつも蘭先輩と一緒にいるのは、蘭先輩に守ってもらう為だって。
蘭先輩程じゃないですけど、私も空手部所属で、自分でいうのもなんですがかなり強いんです。
だから、蘭先輩と離れても大丈夫。
私が守ってあげます!」
「・・・・・・」
おいおい。ちょっと待て!いつからそんな噂が広まってるんだ!!これが蘭の耳にでも入ったりしたら・・・・・・
「ふ〜ん・・・そう。新一ったら私の事、そんなふうに思ってたの・・・・・・」
そう。こんなふうに言うに違いない・・・って、え?
恐る恐る背後を振り返る。
「ら、蘭・・・・・・。」
腕を組み、怒りの炎を瞳に灯している蘭が肩を震わせて立っている。
「蘭先輩!私、先輩の分も頑張って工藤先輩をお護り致しますのでご安心を!」
『守ってもらう必要なんて俺にはない!お願いだからそれ以上何も言うな!!』
ニッコリと蘭に微笑む彼女に必死に視線を送るが、既に遅かった・・・・・・。
「よかったわね、新一。彼女空手も強いし、可愛いもの。
存分に守ってもらうといいわ!!」
「はい。蘭先輩!私、力の限り工藤先輩の事お護りしますね!!」
怒りのオーラを滲ませて去って行く蘭の背後に、嬉しげな後輩の少女の声が飛ぶ。
『勘弁してくれ・・・・・・』
ガックリと項垂れて心の中で涙する。
「というわけで、蘭先輩からの許可は頂きました。
あとは工藤先輩 の返事だけで・・・・・・」
"す"という言葉にかかる様に、休み時間終了を告げるチャイムが鳴り響き始める。
「あ、戻らなくちゃ。ホームルームが終わったらまた来ますんで、それまでに考えていて下さいね!」
言うが早いか自分の教室へと駆けだしていく少女。
「あ〜あ、た〜いへ〜んだ♪」
「・・・・・・」
面白そうに笑っている悪友の首を無言で締め付け、とりあえず少々のうさをはらす。
さて、蘭の誤解をとくにはどうすればいいのやら・・・・・・。


******************************


『もしもし。毛利でございます。』
「あ、蘭。俺。新一。」
『・・・・・・・』
「あ、ちょっと待て!切るなよ!蘭!!」
名乗った瞬間に受話器の向こうで蘭が動いた気配がした為、慌てて蘭が取ったであろう行動に待ったを掛ける。
『・・・・・・何?』
あっちゃ〜・・・まだ怒ってるよ・・・・・・。
夏休みも半分は過ぎた8月の中旬だというのに、蘭の態度そっけない。
余りにも堅い声に冷や汗が伝う。
「あのな、今日花火大会あるだろ?一緒に行こうぜ?」
『・・・なんで彼女でもないのにアンタといかなきゃいけないわけ?
可愛い彼女がいるでしょうが。』
ああ、やっぱり誤解してやがる・・・・・・。
「彼女はあの日のうちにちゃんと断ったよ。
それよりさ、俺達ももう高校受験で忙しくなるだろう?だから今のウチに楽しい事を やっておこうぜ。な?」
『・・・・・・奢ってくれる?』
「・・・わかったよ。奢ってやる。」
『じゃあ良いよ。』
「それじゃあ・・・6時に迎えに行くよ。」
『それじゃ間に合わないよ?』
「大丈夫。穴場みつけたんだよ。じゃ、迎えに行くから準備しとけよ。じゃな!」
一方的に言って電話を切る。「今日こそは!!」という決意を胸に抱きながら。
その為にここ二週間強、連絡を取るのも控えていたのだ。
この我慢の成果、今日こそあげてみせる!!



電話を切ったときの意気込みはどこに行ってしまったのだろうか・・・・・・。
「・・・・・・」
「何よ。何か変?」
「い、いや。じゃあ、行くか。」
迎えに行った蘭の姿が、予想と外れて浴衣姿だった為、思わず見とれてしまい、思考が一瞬ふっとんだ。
だが、そんな事を言える筈もなく・・・・・・。
誤魔化す様にそそくさと歩き始める。

カラン、コロン、カラ・・・・・・

下駄の楽しげな音が自分の半歩後ろから響いてくる。
チラリと流した視線の先に、髪をUPにした蘭の姿がある。
『やられたなぁ・・・・・・』
何故か先手をとられた様な気がする。
「ねえ、新一。もうそろそろ始まっちゃうよ、花火大会。」
「あ?ああ。もうすぐでつくよ。間に合うから心配すんなって!」
ニヤリと笑って振り返ると、訝しげな顔をしている蘭と視線が合う。
へへっ。着いてからのお楽しみさ!


*****************************


「へ〜・・・こんな場所あったんだ。」
町を見下ろす事のできる、俺のとっておきの場所に案内すると、蘭が瞳を輝かせながら感心した様に呟いた。
「そうだろう?ここは俺だけのとっておきの場所なんだ。俺達だけの内緒だぞ?」
「うん!・・・・・・でも、どうして私に教えてくれたの?」
「へ?そりゃあ・・・・・・」
気付いてくれないかという淡い欲望は、90%の「やっぱり無理だった」という思いに押し流されていく。
「あのな、蘭。お前、俺と同じ高校行く気ないか?」
「え?いきなり何よ?」
「俺、別にお前の事、ボディーガードだなんて思ってないぜ。」
「新一?」
不思議そうに首を傾げる蘭。
でも、今言わないとまたいつこういう機会があるか分からない。
だから・・・・・・
「俺だって男だ。自分の身くらい自分で守れるさ。
わざわざお前に護ってもらう必要なんてない。
けど、俺はお前の側にいたいんだ・・・・・・。」
「新一・・・・・・・」
「俺は・・・蘭、俺はお前の事・・・・・・・!」
好きなんだ!・・・・・・と息を大きく吸ったその瞬間!!

ド〜ン!パパン、パン

「あ!新一!見てみて!始まったよ!花火!!」
「・・・・・・」
くぅっ!どうせ人生こんなもんさ・・・・・・!(泣)
言えずじまいな勇気がシワシワとしぼんでいく。ああ・・・・・・。
「で、新一。なんだったの?」
「・・・・・・お前の側にいると退屈しない!って言いたかったんだよ!」
「何それ?!」
「そのまんまの意味だよ!それより、ほら。もう一発デカイのくるぞ!」
「え?あ、本当だ!・・・・・・わ〜!綺麗!」
炸裂する花火に見とれてはしゃぐ蘭の横顔を、そっと溜息をはきつつみやる。
今日はまあ、この笑顔をみれただけで良しとするか。しかし、この想いをうち明ける事ができる日はくるのだろうか・・・・・・。
「いい加減気付けよな、この鈍感娘」
「?何か言った?」
「いいや、何も。」
花火の音に合わせて漏らした小さな呟きに首を傾げた蘭に、ニッと笑い返して誤魔化す。
「それよりよ、お前何も買ってないけどいいのか?」
「ん?もちろん帰りに一杯買ってもらうわよ。覚悟しといてね!
オ・サ・イ・フ・さん!」
「・・・・・・はいはい。調子に乗って腹壊すなよ?」
「失礼ね!そこまで子供じゃないも〜ん!」
「そっか?」
「そうです!」
プイっと拗ねて横を向く仕草が可愛く思えるのは惚れている弱みなのだろうか?

どうしようもない自分に内心苦笑しつつ、再び上がった花火に視線を向ける。
今はただ、自然に側にいられるこの時を楽しんでいよう。
中学生活最後の夏を、楽しい色で思い出に残せる様に。



夏独特のなま暖かい風が、そっと二人を包んで流れ去っていった・・・・・・・・。

 

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新一が妙に可愛くて「きゃぁvv」と叫びながら読ませて頂きました。
なんだか幼馴染みな故に振り回されている新一が中学生だなぁと感じました。
これが高校生になったら開き直っちゃったりするんでしょうか?
気になります・・・
本当に、春日様小説有難うございましたvv    (榊)