「北斗ーっ!華南ーっ!おやつよー!」
蘭の明るく張りのある声が邸内に響き渡ると、2階から階段を駆け降りてくる二つの足音が聞こえて来た。
先を争って降りてくる二人の息子に蘭はくすくすと笑いを零しながら、焼き立てのレモンパイをさくさくと切り分ける。
今年5歳になる二人の息子は、今腕白盛りで見ていて飽きる事は無い。
ついこの前も「お父さんにかつんだー!」と二人がかりで新一と腕相撲をしていたが、やはり負けてしまい大泣きしたのは記憶に新しい。
「お母さん!ちゃんと手あらってきたよ!」
ほら、と言って手の平を上に向けて見せてくれる二人の息子に蘭はにっこりと微笑み掛けてパイを差し出してやる。
好物のレモンパイに目を輝かせて齧り付く様子を蘭は嬉しそうに見ていた。
新一と結婚して、双子の赤ちゃんが産まれて、蘭は幸せ一杯の日々を送っている。
幸せ過ぎて最近ちょっと恐いくらいだ。
例えば幸せに慣れ過ぎて、貪欲になっている自分を感じる時とか・・・
「お母さん。ボクもういっこたべたいな。」
北斗が上目遣いにお願いしてくると、華南もすかさず「ぼくもー!」と皿を差し出した。
「だーめ!これはお父さんの分です。」
「えぇー。お父さんなんておやすみなのにしごと行っちゃうようなウワキモノなのにー。」
「おやつとっておいてあげるの?」
見事な連携プレイで5歳にしては豊富な語彙で文句を言う双子の息子に、蘭は苦笑して間違いを正してやる。
「北斗。お父さんは『浮気者』じゃないでしょ?それを言うなら、うーん?『仕事人間』の方が正しいかな?」
「『シゴトニンゲン』?それってどういうにんげんなの?」
新一に似て知識欲旺盛な息子に蘭は辞書を片手に四苦八苦の毎日だが、今回は蘭が常日頃思っている事、簡単に息子の疑問に答える。
「お仕事ばっかりしていてあまりお休みを取らない人の事よ。」
「「ふーん。」」
「さ、少しお昼寝しなさい。遊び疲れちゃったでしょ?」
「お母さん。ごほん読んでくれる?」
「ボクうたの方がいいなぁ。」
蘭の右手に北斗が、左手に華南がしがみ付いて左右から話し掛けてくるのに答えつつ、蘭は二人を寝室に引っ張っていった。
二人は大変聞き分けが良いし、とても甘えん坊である。
そう、お母さんに対しては・・・
「はっくしゅん!」
「風邪かい?工藤君?」
「いえ、別に・・」
新一は何でも無いと手を振りながら、背後を振り返った。
誰かに噂されているような?
しかし背後には警視庁の磨かれた廊下が続くだけでそんな不信な人物は居ない。
「今日は済まなかったね。せっかく休みなのに。」
「まぁ、犯人が絶対日曜日は事件を犯さないって言うなら良いんですけどね。」
目を合わせてどちらからともなく苦笑する。
「どうだね。今日これから若い連中と近くの公園で宴会をやるんだが一緒に来ないかね?」
「宴会?この季節にですか?」
「月見酒だよ。まぁ定年する警部の送別会も兼ねてるんだがね。ほら工藤君も知ってる宇田さんだよ。」
新一は10年以上も警視庁に入り浸っている為、古参の刑事はほとんど顔見知りである。
温和な顔付きの敏腕警部を思い浮かべながら、「そうですか、もう定年なんですか。」と呟く。
「君の所の息子を見たいって言ってたし、電話で蘭君たちも呼べば良いよ。」
普段は犯罪捜査に厳しい表情で挑む鬼警部も、子供の話ともなると穏やかな表情を浮かべる。
「大きくなったんだろう?二人とも。」
「はい。5歳ですから。大変ですよ。怪獣が2匹居るようなもんですから。」
自分の子供時代に面差し良く似た二人の息子の顔を思い浮かべて新一は苦笑を浮かべる。
「なんだいその表情は?なんか困った事でもあるのかね?」
新一の苦笑を警部が見咎めてそんな質問をしてくる。
新一は親しい警部にこっそり告白する事にした。
こんな事滅多な人に言えるもんじゃ無い。
「最近、息子達に目の敵にされてるんですよ。」
「目の敵?なんで。」
「最初は腕相撲の相手やらサッカーの相手やらする時に、一度も勝たせないからかと思ってたんですけど。」
「ふんふん。」
「どうも、蘭を挟んでのライバルとして認識されてるみたいなんですよ。」
「はぁー?」
人のまばらな警視庁の廊下に、目暮警部の素っ頓狂な声が響く。
「この前蘭の居ない所でズバっと宣言されまして、もう大変なんです。」
新一は警部にチラッと流し目を送って囁く。
「ライバルも何も蘭は俺のモノなんですけどね。」
夕日が差し込むリビングで本を読んでいた欄は、軽やかな電話の呼び出し音に気付いて顔を上げる。
「はい。工藤でございます。」
『蘭?俺。』
「新一?事件は終わったの?」
蘭は電話越しの新一の声に心臓がトクンと脈打つのを感じる。
たまに聞く電話越しの声は押さえ気味の低い声で、蘭の恋心をくすぐるのだ。
その話を園子にこっそりした時『万年恋人夫婦』と散々からかわれたが。
『片付いた。今日は悪かったな。せっかくドライブ連れてく予定だったのにすっぽかしちまって。北斗と華南拗ねてなかったか?』
「大丈夫。二人とも元気に遊んでたわよ。午前中は市内の温泉プールに遊びに行ってご機嫌だったから。」
『温泉プール?』
新一は受話器を持ち替えて溜め息を吐く。
蘭の水着姿見たかったなー。
滅多に無いチャンスを逃してがっかりしていると、蘭の声が受話器から聞こえてくる。
「もう帰って来る?」
現実に連れ戻された新一は慌てて返事をする。
『いや、今日知り合いの警部の送別会があってそれに飛び入り参加するつもり。それで蘭達もこっちに来ないか。』
「え?でも部外者だし、迷惑じゃないの?」
『まあ知ってる人間は捜査一課の一部しか居ないけど、その定年する警部が俺の知り合いで子供見たがってるんだ。』
「そう?じゃあお邪魔しようかな。久し振りに目暮警部とか佐藤刑事にも会いたいし。」
『らーん。”佐藤刑事”じゃ無くて”高木警部補”だよ。」
新一が笑いながら訂正してくる。
「あ、そうだった。高木刑事と結婚して、昇進もしたんだっけ。」
『今日は旦那の方も来るらしいぜ。』
「うん。じゃあ支度してすぐ行くね!」
『ああ。待ってっから。』
電話を切ると、いそいそとこの前新一に内緒で買ったワンピースに着替える。
本当は今日ドライブに着ていくつもりだった洋服だが、思わぬ出番となって蘭は喜びを隠しきれない。
『綺麗』ってちょっとは思ってくれるかな?
片思いをする女子高生のような気持ちで、お化粧をする。
蘭は暫く会っていない親しい人と会うのが楽しみで、鼻歌を歌いながら二人の息子の支度を手伝う為2階に上がっていった。
茜色に染まる雲がゆったりと流れていき次第に夜の帳が下りる頃、大きな木の下で宴会はスタートした。
「・・・凄いですね・・・」
「何ですか、こりゃ・・・」
部外者の新一と、数年前移動した高木旦那は目の前で繰り広げられる宴会に呆気に取られていた。
集まりも集まったりの大人数が羽目を外して騒ぐ様は、どこぞの大学の運動系部活の優勝祝賀打ち上げを思い起こさせる凄まじいものだった。
思わず腰が引ける新一と高木旦那に目暮警部と高木奥さんがお酌をする。
「工藤君、まぁ飲み給え!」
「はぁ、どうも。」
「ちょっとあなた、全然飲んでないじゃない。」
「いやぁ圧倒されちゃって・・・」
二人のコップにビールがなみなみと注がれると、何処からかコールが掛かる。
あっという間に大合唱になってもう飲まない訳にはいかない二人は、お互いの顔を見合わせると計ったように同時に一気飲みした。(良い子はマネしちゃ駄目だよ!)
「いよっ!名探偵!良い飲みっぷり!」
「高木ーっ!お前が居なくなっちまって悲しいぞー!」
既に出来上がってしまっている警視庁の猛者達は止まる所を知らなかった。
今や警視庁に無くてはならない存在となった新一の側には入れ替わり立ち代わり酒を注ぎに皆がやってくる。
飲み過ぎない様にセーブしながら、ふと疑問に思って近くに居た白鳥警部に尋ねる。
「捜査一課と二課だけじゃ無いですよね?参加してるのって。」
「ええ。交通課とか生活安全部とか来てますよ。」
新一は納得した。
どおりで先程から俺の周りに見知らぬ女性がうようよと居る訳だ。
「工藤探偵!私貴方の事もう10年もファンなんです!」
「とてもお子さんがいらっしゃるとは思えませんわ!」
「あ、握手して下さい!!」
所詮警察の人間も人の子。
新一の周りには、チャンスとばかりお酒も手伝って積極性の増した女性が群がっていた。
傍目から見ると異様な盛り上がりである。
「工藤君。相変わらずもてとるなぁ。」
目暮警部は完全に人事で面白がっている。
程好く酒が回った高木旦那がその横で「そりゃそこら辺の俳優より格好良いですもんねー。」と相槌を打つ。
新一は上手く立ち回っているようだが、如何せん数が数。
目暮警部の方に必死に助けてくれと救援信号を送っているのに、当の警部はちっとも気付いてくれない。
そうこうしている内に女性同士の間に火花が散るようになって来た。
ま、まずい・・・
しかし周りの刑事からは煽るような野次が飛んでくる。
「お前等ー。工藤探偵は警察の大事な協力者なんだから丁重に御持て成ししろよー。」
ちょっと待て!煽るな!馬鹿!
新一の胸中など知る良しも無い、出来上がった地方公務員(女性限定)は過剰なサービスを新一に対して供給し出した。
そしてそれを眺める6つの目。
言わずもがな、蘭と北斗・華南の双子である。
「お父さん。もてもてだね。」
「しらない女の人いっぱいだね。」
「あんなお父さんにはお母さんもったいないよね。」
「ふさわしくないよね。」
「じゃあボクたちがお母さんもらっちゃおう。」
「そうだよ。ぼくたちのほうがお母さんのこといっぱい好きだもんね。」
二人の息子の会話をどこか遠くで聞きながら蘭はつきつき痛む胸をぎゅっと押さえる。
新一、凄くモテてる・・・
可愛い女の人とか綺麗な女の人とかに囲まれてる。
容姿端麗頭脳明晰、モテない方がおかしいけどこうして目の前でまざまざと見せ付けられるとやっぱり辛い。
嫉妬深いのかな?私って・・・
蘭が二人の息子の手を引いたまま立ち尽くしていると背中を軽く叩かれる。
驚いて振り返ると懐かしい顔を見る事が出来、曇っていた蘭の顔が霧でも晴れるかの様ににこやかになった。
「佐藤刑事!あ、じゃ無くて高木警部補!御無沙汰してます。」
「蘭ちゃんいらっしゃい。僕達もこんにちは!」
高木奥さんはわざわざしゃがんで北斗と華南に目線を合わせるとにこっと挨拶する。
「「こんにちは!」」
見事にハモル返事に、高木奥さんは目を輝かせて両腕で二人を胸に抱き込んだ。
「かわいいー!もう凄く可愛い!」
息子達がじたばたするのがおかしくて、ついそのままほっといてしまう蘭。
ようやく高木奥さんが二人を解放すると頬を少し赤くした二人は、蘭の背後に逃げ込んでしまった。
「あれ?逃げられちゃった。」
残念そうに呟く高木奥さんに、蘭は母親らしい優しい笑顔を浮かべた。
「照れてるだけです。ね?」
二人はひょこっと顔を出し、こくりと頷き、その様がまた可愛くって高木奥さんが歓声を上げる。
「蘭君、久し振りだね。」
「目暮警部!こんばんは。今日は押しかけてしまって済みません。」
「いやいや、こちらが無理矢理呼んだようなもんだよ。しかし、大きくなったなー。」
目暮警部は蘭の足元でちょろちょろしている二人の息子の姿に感嘆の声を上げる。
高木旦那もあっという間に大きくなっている双子にびっくりしていた。
「いやぁこんなに大きくなってるとは。」
「この年頃って成長早いんですよ。」
蘭と高木旦那がにこやかに会話をするすぐ横で、目暮警部と高木奥さんがこそこそと内緒話をしている。
「蘭ちゃん凄く綺麗になりましたねー。」
「母親になってから益々女に磨きがかかっとるなぁ。」
「あの旦那さんにこの奥さんって感じで似合いの夫婦ですよね。はー、羨ましい。」
「何言っとるんだね。君の所も十分似合いの夫婦だよ。」
「やだ、目暮警部ったら!」
背中をバシンっと叩かれて目暮警部は目を白黒させ、慌てて高木奥さんが背中を擦る。
「こんな処で立ち話もなんですから、向こうで何か食べながら積もる話をしましょうよ。」
高木旦那の提案に夕食がまだだった二人のやんちゃ坊主は一も二もなく飛び付いた。
「早く早く!」と両手を引っ張られる高木旦那に、続く3人。
シートに座るなり目の前に大量のごちそうが並んだ。
「ねえ、これ食べて良いの?」
「ボクこれ食べたいー!」
歓声を上げて目の前の料理に飛び付く子供たちに、周りで酒を飲んでいた敏腕刑事達は興味をそそられ次第に集まって来ていた。
「目暮警部、このお子さんは誰のお子さんですか?」
酔っ払った陽気な声に目暮警部は周りにも聞こえるように大きな声で返事をする。
「工藤君のお子さんだよ。双子で、こっちが北斗君、こっちが華南君だ。」
警部が一人ずつ手で示しながら紹介する。
「それからこちらが工藤君の奥さんで、蘭さん。」
紹介されて蘭がお辞儀をすると、刑事達の間から歓声が上がった。
周りに居る年若い刑事はほとんど知らない人間だったので、蘭は突然の歓声にびっくりしてしまう。
「うわぁこんなに綺麗な奥さん居たんですか!」
「初めまして。いつも工藤探偵にはお世話になってます。」
口々に話し掛けられ、時たま自己紹介されて蘭は対応に大忙しだったが、息子達の一言に敏感に反応してしまう。
「「お父さんまたおんなの人とあそんでる!」」
その台詞に反応したのは蘭だけではない。
その場に居た刑事全員がばっと振り向く様はコントのようで端から見たらさぞ笑える光景だったろうが、残念ながら誰も見ていなかった。
皆の視線の先では女性警官からようやく逃れた新一が、今度は同じように宴会をしていたどこかの会社のOLに掴まっている光景が繰り広げられていた。
遠すぎて声は聞こえないが、どうやら酔っ払った若いOLに腕を掴まれ逃げられずに質問攻めにあっているらしい。
必要以上にベタベタするOLに辟易した様子が伺えるものの、大半の男性刑事は羨ましいと思っていた。
蘭は自分がやきもちを焼いている事をはっきりと自覚して、必死に自分をコントロールしていた。
もう私の馬鹿!
こんなにやきもち焼きじゃ新一に嫌われちゃうよ。
押さえようと思っても押さえ切れないもやもやした気持ちに涙さえ出そうになる。
今出ていって「この人は私の旦那さんです!」と大声で言えたらどんなにすっきりするだろう。
そんな事恥ずかしくってみっともなくってとても出来ないけど・・・
「「お父さんのばかーーっっっ!!!」」
突如響き渡る幼い子供の二重奏。
皆が呆気に取られていると、何時の間にか新一の近くに来ていた双子は小憎たらしく舌を出した。
「お父さんなんてそのおんなの人となかよくしてればいいよ!」
「そうだよ!ぼくたちがお母さんをもらっちゃうから!」
「もうお母さんのいちばんはお父さんじゃなくてボクたちだからね!」
「お母さんはぼくたちとけっこんするんだから!」
早口で捲し立てると後ろも見ずに蘭の所に駆け戻り、しっかりと両脇から蘭に抱き付く。
誰もが双子の見事なヒット&ランの攻撃に声を出す事を忘れている中、母親たる蘭だけは弾んだ声で笑い出していた。
「まったく貴方達ってたいした子だわ!」
目の端に涙を浮かべて笑う蘭の笑顔は晴れやかで、先程までのもやもやした気持ちは吹っ飛んでしまっていた。
蘭の笑い声に誘われて皆が笑い出し、最後は眠っている鳥さえ飛び起きる大爆笑へと変わっていった。
疲れたような顔で新一がようやく解放されてこちらにやってくる。
「もうちょっとマシな助け方は無かったのか?お前等。」
双子のライバルは揃って新一にあっかんべーをした。
「傑作ですねー。名探偵工藤新一も息子に掛かったら形無しじゃないですか。」
「蘭君は昔からモテていたから、工藤君も大変だったろうが、今度のライバルが一番強力だろーなー。」
「でも私だったら、『旦那と子供どっちか選んで』っていわれたら子供取っちゃうかもー。」
「ええーっ!そりゃ無いでしょーっっっ!」
蘭を知って居る数少ない刑事達が口々に先程のハプニングを肴にしながら酒を飲んでいる。
子供達は何事も無かったかのようにデザートを頬張っていた。
将来の大物度は計り知れない。
「ところで噂の御両人は?」
白鳥警部が辺りを見回すと、高木旦那が意味深な目線で木が密集している辺りを指差す。
「『お茶買いに行く』と二人で向こうに消えました。」
「「「成る程。」」」
見事に目暮警部・高木奥さん・白鳥警部の声がハモった。
「蘭。誤解してないよな?」
「してませーん。」
くすくすと笑いを零しながら、新一の顔を上目遣いに見詰める蘭。
「まったくアイツら本当に口が達者だよなー。」
いささかげんなりした声で新一が唸ると、蘭が「新一の子供の頃そっくり。」と混ぜっ返す。
新一は蘭の楽しそうな顔を見て頭をくしゃくしゃと手でかき混ぜて溜め息。
「俺もそう思うよ。」
地面の枯れ葉がかさかさと音を鳴らすと蘭は浮かれた気分がゆっくりと沈んでいくのを感じた。
鬱蒼と葉が茂る木の太い幹に体を預けて、蘭がちょっと俯く。
「なんだ?」
敏感に気配を察知した新一が心配そうに蘭の顔を覗き込もうとするが、やんわりと蘭の手で押し退けられてしまう。
暫く逡巡していた蘭が、とうとう重い口を開く。
「誤解、してないけど・・・ちょっとやきもち焼いちゃった・・・」
小さな声の告白は新一を喜ばせるには充分で、新一はそれはもう嬉しそうな顔で蘭を抱き締める。
きゅうと強く抱き締められて小さく蘭が吐息を漏らす。
あーちくしょー!何でこいつこんなに可愛いんだろう?
「・・ばーか。そんなもん焼かなくていーんだよ。」
耳元で優しく囁かれて、蘭は最後の胸の痞えが取れてすっきりする。
広い胸に抱き締められてほっとして、それから切ない気分になる。
新一は周りをそっと見回す。
木が密集している所為で宴会をしている人間にはこの場所は見えない。
「・・・蘭・・」
そっと呼び掛ければ蘭は目を潤ませて上を向く。
しっかりと抱き締めたまま、そっとキスをすれば甘い香りがして、簡単に理性が吹っ飛ぶ。
もう一度、深く口付けようと新一が目を閉じて蘭を引き寄せたその時。
「「お父さんのばかーーっっっ!!!」」
「お母さんはぼくたちのものになったんだからもうキスしちゃダメーっ!」
「だきつくのもダメー!!」
遠くから大声で叫んでいる二人の息子に、新一はがっくりと項垂れた。
いつから見てやがったんだっ、こいつらは!
蘭は顔を真っ赤にして俯く。
あのガキ共はっ!良い所で邪魔しやがって!!
絶対!!蘭は譲ってなんてやらねーからな!!
大人げなく内心毒づく工藤新一。
今後も絶対勝負事に関しては手加減なんてしてやらねーと固く心に誓った新一に、蘭が「どうしよう。」と呟く。
新一が怒りに燃えるのを一時中断して蘭を見ると、蘭は困った様な赤い顔で言った。
「どんな顔して皆の前に出て行けば良いの?」
「げっ・・・・」
名探偵にもそれは難題だった。
† FIN †
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2,000Hitsゲッターのみなみさんのお題は以下の通りでしたvv ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 【設定】 蘭と新一が結婚して、2人の子供(できれば男の子)がいるお話 【内容】 あいかわらず新一は、結婚して子供がいるにもかかわらずモテモテ 蘭はそんな新一を見て不安になる でも、最後はラヴラヴ・ハッピーエンド オチはラストシーンのラヴラヴの最中に子供に邪魔される ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ 条件はクリア出来てますでしょうか? 今回の話は内容が指定されていた為新鮮な気持ちで書く事が出来ました。 書く上で一番悩んだのは子供です。 男の子で名前は”コナン”と最初は思ったんですが、オチを考え付いた時点で 「あの新一に対抗するには子供一人じゃ無理だよねー。」と思いまして急遽双子にしました。 そうすると”コナン”って名前が使えなくなってしまい、結局私が好きな名前をつける事になりました。 最近の私はHPに夢中で当然コナンの小説も貪り読んでいる訳で 良い作品に会うと、凹んだり、影響受けたり、やる気が出たりと大変です(>_<) 次回作も頑張ります。 最後に。みなみさん、2,000Hitsありがとうございましたvv |