* Call To Your Heart *


園子は右手に電話、左手に京極からの手紙を持ち悩んでいた。
京極からの手紙は10回も読み返したものだから、もう一言一句空で言えるようになっていた。
大体京極は電話不精の上に筆無精でも有るので、手紙の文面は1枚で終わっていて暗記する事など造作も無い事なのだから。
「電話、くれると思ったのに。」
京極にしか番号を教えていない園子の2台目の携帯は滅多にその着信音を聞く事はない。
折角蘭と二人でお気に入りのラブソングを苦労して登録したというのに、ちっとも鳴らないのだ。
その携帯を弄びながら園子は京極に電話を掛けようか悩んでいた。
朝から悩んでいるので、授業は頭に入らないし家に帰ってからも何も手に付かない。
「声、聴きたいし・・・」
園子はいざという時の決心がなかなか付かない自分の性格を嫌という程自覚していたが、いつまでも悩んでいても何も解決しない事もまた事実だった。
蘭も「悩んでないで電話しなよ」、と背中を押してくれたんだし。
「よしっ!」
園子はとうとう電話を掛ける決心をすると京極が留学する際に真っ先に覚えた電話番号をプッシュした。
知らぬ間に緊張で冷たくなった指先を硬く握り締め京極が電話に出てくれる事を祈る。
10コール目で受話器が上がる音がする。
「Hello?」
掠れた、低い声。
園子は耳元近くで囁かれたような錯覚に陥ってびくりとその身を震わせた。
普段聴く事の無い余りに男らしい色気の有る声に、園子は心臓が激しく打ち始めたのを感じた。
「Hello?Who are you?」
2度目の問い掛けにはっと現実に立ち返った園子は慌てて返事をする。
「もしもし、園子です。」
「園子さん?」
掠れた声と息を呑む気配。
「こんな時間にどうしたんですか?何かあったんですか?」
京極の心配そうなそれでいてセクシーな声に、園子はようやく向こうの時間がこちらの時間とは違う事に気が付いた。
「真さん?あのもしかして今そっちって夜中ですか?」
「今・・・」
電話の向こうで身を起こす小さな衣擦れの音と何かを持ち上げる音。
「今、朝の4時です。」
園子は京極の普段と違うこの声が寝起きの声である事を悟った。
「ごめんなさいっ!時差の事忘れてて、あの、掛け直すね。」
電話を切ろうとすると、京極の声が聞こえてきた。
「待って下さい。このまま少し、話をしませんか?」
何処と無く不安そうな京極の声は、園子が待ち望んでいたリアルタイムの声で園子の頬がぽーっと赤くなる。
「はい!」
園子は朝叩き起こしてしまった事を悪いと思いつつ、束の間の楽しい会話を楽しんだ。
20分ほど話をして園子から電話を切った。
本当はもっと電話をしていたかったが、京極がもう一度寝直す事を考えると余り長く話す事は出来なかったからだ。
「真さんの寝起きの声かぁ。」
まだ耳の奥に残っている声は園子にとってこの上なく甘く響いていた。
きっと京極のファンの子達は耳にする事の無い秘密の声なのだ。
その事実が嬉しくて、園子は自分が特別である事を実感する。
卵型のお気に入りの時計を見るとまだ10時にもなっていなかったが、園子はいそいそとパジャマに着替えた。
「まだ早いけど良いよね?」
誰に言うとも無く、良い訳がましく呟くと園子はそのまま羽根布団の中に身を沈めた。
今日はこの声が耳に残っている内に寝てしまおう。
きっと幸せな気分になれるはず。
園子は電気を消して、遠い空の下に居る愛しい人に言った。
「おやすみなさい。」

真さんの夢が見れます様に。


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*Call To Your Heart*後書き*  

とうとうアップする事が出来た京極×園子の
遠距離恋愛ものです!!
話自体はかなり昔に書いた物なのですが
タイミングを逃し今頃のアップになりました。
このカップルって遠距離だしどっちも押しが
弱そうだし中々大変そうですね。
京極はビジュアル的に好きなキャラなので
これからの活躍に期待しますvv