にゃんにゃんにゃん!
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詳しくは、知らないんだけど。
新一のお母さん、つまり有希子さんなんだけど、が、猫を預かったみたい。
未だ子猫で、数時間毎にケアが必要な位の小ささ。
兄弟猫なのに、一匹は真っ白で一匹はキジトラっていう似てない二匹。
私がそれを不思議がってたら、新一が言い難そうに教えてくれた。
母猫は間違いなく一匹だけど、父猫は複数匹居る事があるんですって。
私もさすがに意味が分からない程子供じゃないけど。
新一の微妙に照れを隠し切れなかった顔が面白くて、じっと観察しちゃった。
まぁ、そんな訳で二匹の子猫の外見はあんまり似ていないけれど、仕草や行動はとても似てる。
お腹空いたとにーにー鳴き、眠い眠いと二匹真ん丸になって並んで眠る。
おっかなびっくりの手付きで、新一はお世話をしている。
私はただの野次馬。
漸くミルクを飲み終えた二匹は、ヨチヨチとタオルの上を歩く。
今にも転がりそうだなぁって、眺めてる。
指先で額の辺りを擽ったら擦り寄ってくる子猫。
可愛いなぁ。
「可愛いなぁ」
直ぐ近くで声がしたから振り向くと、私の後ろから新一が籠を覗き込んでいた。
体温がうっすらと伝わる位の近さ。
新一と一緒になって子猫を眺めながら、私も同意した。
「可愛いよね。 未だピョコピョコ動いてる」
「蘭は面白い擬音を使うなぁ」
「え、そうかな。でもこの動き、ピョコピョコって感じしない?」
何か美味しいモノと勘違いしてるのか、雪白ニャンコが私の指をチロチロ舐める。
子猫の舌はザラザラしていて、人間の舌よりも刺激がある。
嫌じゃないから舐めさせるままにしておいた。
「ミルクでもつけてんのか?」
可笑しそうに、新一が私の指をひょいと掴んで確かめるように引っくり返す。
当然指の腹には何も付いてない。
私はまた子猫に指を戻して、ふふっと笑った。
「味は無いけど、何となく口寂しくて舐めてるんじゃない?」
赤ちゃんのおしゃぶりみたいに。
ね、と新一を見上げると、困ったように視線が逸らされた。
変なの。
子猫は何処を撫でられても嬉しいみたいで、二匹一緒になって私の指に突入してくる。
一応指は五本有るんだけど、私は器用じゃないから二匹同時には構いきれない。
「新一!どっちか担当して」
「どっち引き受けりゃ良いんだよ」
私の背後から手を伸ばしても、十分届く。
また背が伸びたのかな?
174センチだった頃が懐かしい、なんて感じてしまう。
私なんか身長も体重も全然変わらないのに。
……あ、体重は増えても嬉しくないんだった。
「蘭。どっち?」
新一の声に、キジトラと雪白が同時に此方を見上げた。
大きな瞳がうるうるっとして、可愛くて堪らない。
「選べないよ」
率直な意見を口にすると、新一が爆笑した。
身体を揺すって笑うモノだから、私にトストス身体が当たる。
意外に新一の身体がしっかりしてるなーって感じる。
空手をやってるから、普通の女の子より筋肉も付くけど、女性特有の柔らかさが失われる事は無いんだよね。
新一なんてサッカー位しか運動してないと思うのに、四肢はしっかりとしなやかな筋肉に覆われてて、堅いんだよね。
性別差かもしれないけど、一生懸命やってる私が負けてる気がして、何だか切ないなー。
何か悔しい。
偶然を装って、身体を思い切りぶつけて、よろけさせた。
私だってこれだけの力が有るんだから!
勢い余って私までよろけて、新一に抱き止められたのは誤算だったけど。
真ん丸に瞳を見開いた新一の吃驚顔にちょっと溜飲を下げた。
「あー……蘭、あのな」
「何?」
「……あー、良いや」
可愛いから許すとか何とか、呟きが聞こえた気がする。
子猫の事かな?
新一の腕が手前の子猫を拐った。
キジトラの子猫は急に宙に浮いた事に驚いて、ミャアミャア鳴いてる。
胸に抱くと、暖かいからか、大人しくなった。
器用な長い指が小さな顎の下を擽り始めると、蕩けた顔でゴロゴロ喉を鳴らし始めた。
まさに電光石火。
「凄い……新一」
「そりゃ預かって数日も経てばなー」
得意がるでもなく淡々と新一が口にする。
私も真似して、雪白ニャンコの顎の下を撫でようとするんだけど、小さな子猫は指を掻い潜って、テチテチと指先を舐めるのだ。
うーん、手強い。
この子は、撫でられるよりも舐める方が好きなのかしら?
「新一……この子撫でさせてくれない」
「じゃ、俺みたいに身体を固定しちまえば?」
成る程、そうかもしれないと、おっかなびっくり柔らかくてグンニャリした子猫を抱き上げた。
新一みたいに胸にくっ付けたいけど、胸の凹凸が邪魔する。
妥協案で、子猫の顔を胸の谷間にフィットさせるようにして、正面から抱き付かせてみた。
爪が立ってちょっと痛かったけど、直ぐにバランスが取れたのか爪は引っ込んだ。
「ねっ!可愛いよね!」
正面から見下ろす子猫の顔が絶品で、新一にどうだと言わんばかりに同意を求めた。
新一には出来ない抱き方だもの。
自慢しちゃうに決まってる。
狙い通り、新一は羨ましそうに私を見てた。
「オメーなぁ……」
「ほらほら!気持ち良さそうにしてるでしょ!」
「気持ち良かろうよ」
拗ねた口調に、内心喝采を上げた。
体温がぬくいのか、子猫がうとうとしてる。
私の呼吸に合わせて、胸が上下するのが、揺りかごみたいになってるのかも。
「気持ち良いからおねむみたい」
新一が抱いた子猫は眠る気配は無い。
勝ち負けじゃないけど、一歩先を行った気分。
じっと私の胸の子猫を眺めて、新一が長い溜め息を吐き出した。
湿った吐息は私の頬を擽って、こそばゆい。
「狡い手だよなー。可愛いやら、羨ましいやらで、頭沸きそう……」
「ふふっ」
軽く噴き出したら、新一がわざとらしくそっぽを向いて、また溜め息を吐いた。
何時の間にか、雪白ニャンコは本格的に眠りに落ちて、ピスピスと愛らしい寝息を立てていた。
2011/02/22 UP
ぎりぎり間に合ったにゃんにゃんにゃんこの日の御話です〜。羨ましいのはにゃんこの方だったりする新一の話。
End
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