ArdentParadise-番外編
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新快仕事編
五体満足な大の大人が平日町をぶらぶらするなど、あまり体裁は良くない。
しかも近い将来可愛い花嫁を貰う予定の男としては、定職は相手の両親を懐柔する為の重大な武器だ。
勿論日々の生活にも困るような苦労を愛しい恋人に掛けさせるなど男のプライドに関わる。
と、言う訳で現在失業中の二人はコーヒーなど飲みながら今後の職業について意見を交わしていた。
「一応考えてはいるんだよな。」
コーヒーを口に運びながら新一は自分の考えを述べる。
「・・・お、この珈琲上手い。」
ちょっと感動したように呟く。
「一応も何も新一には探偵しかねーだろ?」
呆れ顔の快斗がまったくこの人は何を寝惚けてるんだろうね?というポーズを取った。
「悪かったな。馬鹿の一つ覚えで。」
「別に悪かない。俺だってマジシャンやるつもりだし。」
「でもなぁ。探偵っていっても所詮不定期収入だろ?やっぱ蘭を不安がらせるの嫌だからちょっと考えてる事があるんだ。」
「ふーん。株とか?」
「ま、そんなとこ。俺達金だけはあるだろ?それを元手に資産運用を考えてる。おまえ一口乗らないか?」
「そっだな〜。マジシャンは当たるとデカイんだけど、やっぱ別収入源も用意しておいた方が安心かな?」
「マジシャンは当たるまでが結構厳しいと思うぜ?まぁお前の場合、親父さんのツテとか有るから取っ掛かりは順調に行くと思うがね。」
「もう話は付けてある。取り敢えず記念べき黒羽快斗最初のマジックショーは大物歌手のディナーショウの前座からってね♪」
新一は楽しげに笑う快斗の顔を一瞥して、困った様にコーヒーカップを机に置くと背凭れにどさりと身を倒した。
「その話ちょっと待った。」
「何だよ?俺の華々しいスタートになんか文句があるのか?」
内容ほどには棘の無い悪戯っぽい口調で快斗は人差し指で新一を指差す。
お行儀の悪いこの仕草を気に留める様子も無く新一は無言でその指を脇にどけた。
「父さんがさ・・・今度パーティーやんだよ。」
快斗が目をまん丸にして驚く。
この話の振りで大体の事情が分かってしまったのだ。
戸惑って手のひらに顔を埋める。
「うわぁ〜。とんでもない所からお誘いが来ちまったなぁ〜。」
「嫌なら俺から断っとくが。・・・どうする?」
「嫌なんて言う訳ねーじゃん。やらせろよ。」
「サンキュ。父さん喜ぶな。多少我侭言っても大丈夫だから思う存分派手に豪華にやってくれ。」
「な〜んかワクワクしてきたぞ。大仕掛けネタやってもいいか?かなりド派手なんだけどあっと度肝を抜くようなの考えてんだよ。」
「やれよ!インパクトは強ければ強いほど良いぜ。新世紀最初の伝説でも作れよ。」
「良い事言うね。新一も。」
「コンビ長ぇからな。」
幕間新快馬鹿話編
「・・・見事な手形だな。」
「手加減無しで殴られたから。」
苦笑いにも失敗してなんだか情けない快斗の表情を見て新一もどう返して良いのか分からなくなる。
ここで理由を聞いても良いものかどうか?
しばし思案して目線をさ迷わせていると、快斗がにじり寄って来て小さく耳打ちする。
「新一んとこって・・・毎晩やってる?」
囁かれた内容があまりにも単刀直入過ぎて新一は思わず絶句する。
快斗はそんな様子の新一に構わずこそこそと人目を憚るように小さな声で尚も話を続ける。
幸い二人のこの危険な会話に注意を向ける人間は居なかった。
「俺さぁ、なんか我慢効かなくて、毎晩毎晩青子の事ベッドに引き釣り込んじまってさ。それで青子すげぇ怒ってて・・・どうしたら良いと思う?」
「成る程。それで『手形』、ね。」
まじまじと赤くなった頬を眺める。
くっきりと浮かび上がったその手形はその赤さが怒りのバロメータとして機能しているようだ。
「どうしたら良いかなんて俺に聞くまでもないだろ?問題はそれをどうやって実現するかであって、結局のところおまえの忍耐力一つにかかってるんだと思うけど。」
「・・・やっぱり?」
自信などその欠片さえ見られないような表情をして快斗は机の上につっ伏してしまう。
脇を通ったウェイトレスの熱い視線などまったく気がついてないといったように新一はゆったりと珈琲を口に運んだ。
2010/09/09 UP
見ての通り、続編の欠片話です。当時の物語を知る人に読んでいただければ……
End
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