無敵に素敵
外気温37度だなんて馬鹿げている。
こんな暑い日は外に居る事だけでも不快なのに、テレビでは不幸なニュースに事欠かなくて、それがまた不愉快にさせる要因となる。
そんな理由から顰めっ面全開で工藤新一は我が家へと続く道を闊歩していた。
本日2回目の外出から帰宅した新一は、自分の家のリビングのソファーでうたた寝する恋人の姿を見付けて顰めていた顔を綻ばせた。
程良く効いたクーラーに、すやすやとあどけない表情で眠る愛しい恋人。
スーツの上着を放り投げ、シャツのボタンを外しながら新一は起さないように気を遣いながらそっと近付き、そのふっくらとした頬に勝手にただいまのキスをした。
「ん・・・」
零れ落ちた吐息が声にならずに溶けてなくなる。
ゆっくりと上下する胸はキャミソールの薄い布地を押し上げて、その質感を何処か生々しく伝えている。
新一はシャワーを浴びる為に浴室に向かいながら、あのキャミソール1枚では絶対外を歩かないように蘭に言い包めなければと考えていた。
「お帰りなさい。新一。」
寝起きで声が少し掠れている。
蘭は扉正面のソファーにちょこんと両足を揃えて座り、リビングの扉を開けた新一を出迎えた。
頭の上にブラウンのバスタオルを被ってがしがしと水気を取っていた新一は、タオルの隙間から顔を覗かせて、恋人の姿を見た。
ミニスカートから伸びる素足はつるつるで足首はきゅっとくびれている。
いや、足首だけじゃない。
ウェストだって手首だってくびれていて、それでいて男性諸君の大半が出ていて欲しいと願う部分はちゃんと出ているのだから、一体どういう神秘なんだろう?
新一は無意識で蘭との距離をどんどん詰めて行き、とうとうその前にしゃがみ込んだ。
蘭が座っていたのは先ほどうたた寝していた3人用のソファーではなくて、1人掛けのソファーだったので、その隣に座る事が出来なかったからだ。
「ただいま、蘭。」
「ちゃんと頭拭きなさいね。未だ水滴ってる。」
指先が濡れた髪の毛を摘み軽く引っ張る。
新一はその手を取って唇に持っていくと、触れるだけの口付けをした。
「なぁ。『おかえりなさいのキス』は?」
強請るように唇を突き出すと、蘭が笑って変な顔とからかう。
欲しいものが与えられず不機嫌な顔になった新一に、蘭は身を寄せてその頬にキスをした。
当然新一の機嫌は直らない。
「なんで、そっちなんだよ。」
「だって、場所の希望は聞いてないもの。」
柔らかく微笑みながら瞳がからかいの色で染まっている蘭は澄ました口調で新一の訴えを退けた。
分かっているくせに、と新一が呟くと宥めるように頭を2回叩かれる。
まるで母親とその息子だ。
「んじゃここが良い。」
はっきりと自分の唇を指差し、もう一度と無言で蘭に強請ると、蘭は分からないと言うように首を傾げるのみで動こうとしない。
本日は出血大サービスで2度も呼出要請に応えてこの炎天下の中血生臭い事件に関わってちゃぁんと解決して疲れて帰って来て、こんなささやかな願いが叶えられないなんてなんだか理不尽だと、新一は憤る。
無言のおねだりは次第にその様相を変え、終いには無言の脅迫と言っても差し支えないんじゃなかろうかという状態になった。
蘭は子供っぽいその変化にくすくすと笑いを零しながらも、ちっとも動こうとはしない。
「ナンだよ、嫌なのかよ。」
不貞腐れた低い声に応えるのは声を潜めた笑い声だけ。
結局実力行使で伸び上がった新一に少々乱暴に唇を塞がれる羽目となった。
深く繋がろうとする新一の性急な舌が苺色の唇を舐め、閉じられた唇の隙間に潜り込もうとする。
面白がって頑なに新一を拒みながら楽しそうに身を捩る蘭に、新一は駄々を捏ねるように自分より一回り小さい身体を闇雲に引き寄せて肌を弄る。
「あんっ!くすぐったいってば!」
腕をつっかえ棒にして新一の固い胸板を押し退けて唇を離した蘭が可愛らしい抗議の声を上げる。
続けて口にしようとした言葉は直ぐに新一の唇に吸い取られてしまった。
焦れたように軽く唇に食い付かれて、骨ばった手の平が自分の言う事を聞かせようと胸の辺りで不穏な動きをするに至って、漸く蘭は唇をそぉっと開いた。
意地悪したお返しというように、押し入った熱い舌が蘭の舌を絡め取って傍若無人に這い回る。
微笑んだまま好きにさせていた蘭も、次第に気持ちが快楽に緩く溶け出して力無く新一に身体を預けるようになっていた。
「・・・全然『おかえりなさいのキス』っていう可愛らしさが無い。」
くってりと身体を背後の新一に預けて、蘭がぼそりと呟く。
新一は耳の後ろ側の肌にキスを幾つも落としながら、聞こえない振りをした。
ちょっと憎たらしくなって、蘭は容赦なく新一の太ももを抓り、ほんのちょっと溜飲を下げたのだった。
2006/05/04 Happy Birthday!! Shinichi.K
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