◆2005年9月10日大遅刻!◆

2005年の工藤の日です。やって来ました工藤の日!忘れちゃならない工藤の日!
でも知っている人は知っていると思いますが、新蘭オンリーが18日に控えている為に
現在サークル参加をする方は原稿の追い込みの真っ最中ですので。
やりたくても何も出来ないよ〜という方も多いと思います。
うう、残念。
私も今年は何をやろうとかと思ったのですが、最近イラストを書くのが苦痛なんですよね〜。
どうしてだろう?
文章もちょっとマンネリになってきて無いかとびくびくしているので思うように書けないし。
(ちなみに一番怖いのは、書いた後で前に殆ど同じ話を書いている事が分かる事です。
有り得るから本当に怖い・・・)
前回の更新が会話形式のオムニバスだったので普通のお話を一本書ければ良いなぁと思いますが、
これから書くのでどうなるやら。
それではまたのちほど!

----------------------------------------------------------

↑ というような文章を9月9日に書いたんですけど。
9月10日は結局何もせずに終わってしまいました。
まぁようするに文章を書き終わらなかったんですが、ようやく書き終わりました〜。
今更ですが、アップします。







------------------- 夏の風物にご用心! -------------------




「おい、蘭。良いのかよ?」
「何が〜?」
「アレ。」
テレビゲームに夢中になって、新一の方を振り向きもしないで返事をする蘭に、新一は壁に掛かった時計を指差した。
人差し指の先の長針と短針は丁度幾度目かの逢瀬を遂げたばかり。
普段はあの手この手で蘭を引止める新一もさすがにヤバイと感じる時間になっていた。
「『アレ』ってどれ?」
丁度良い場面なのか、蘭はなかなか画面から目を離そうとしない。
「時間だよ時間。良いのかよ。」
「平気。今日お父さん帰らないから。遅い時間でも怒る人が居ないから。」
そんな事一言も聞いてねーぞ?!と内心心穏やかではない新一を他所に、蘭はコレでやり取りは終わりとばかりにコントローラーを持ち直していた。
新一も良く知らない蘭が持ち込んだゲームは、流行の恋愛シミュレーションゲームで、どうやら園子に無理やり押し付けられたものらしい。
ソフトがあってもハードがない蘭は、新一の家に持ってきて始めた訳なのだが・・・
見事園子の策略通り、しっかり嵌ってしまったようである。
折角の休日遊びに来たのに、手持ち無沙汰の新一そっちのけで蘭はこのゲームを既に何時間もやり込んでいた。
3人目の攻略中だそうで、今は画面一杯にターゲットであるキャラクターのドアップが映っている。
やたらキラキラと星らしきモノが飛び散っているのは、新一が見ればうざったいだけなのだが、蘭に言わせるとロマンチックで素敵、となってしまう。
面白くない思いで新一は暫くテレビの画面を蘭の背後から眺めていた。
出来過ぎた音楽はいかにもなエンディングテーマで、テレビのスピーカーからは甘い囁き声が聞こえてくる。
見事攻略に成功し、最後のエピローグにうっとりと見惚れる蘭、を半眼で睨み付ける新一。
終わる瞬間をカウントダウンしながら、新一は蘭が4回目を始める前にゲームを取り上げてやろうと虎視眈々と狙いを定めた。












「は!?帰るのかよ!」
「勿論。」
けろりと蘭は持ってきた鞄にゲームのソフトを仕舞いこみながら頷いた。
「マジかよ」と呟く新一の脇を通り抜けてソファーの背凭れに掛けてあったカーディガンを手に取る。
「今日おっちゃん居ないんだろ?」
「いないけど夜中12時ぴったりに電話が来る事になってるの。家の電話だよ。」
「・・・」
「だから帰らないと。あ、結構時間ぎりぎりかしら?」
今日はまったくツイてないとぼやいて不貞腐れている新一をまったく気にする様子もなく、腕時計で現在時刻を確認して蘭は玄関へと向かった。
慣習のように新一が蘭の後に付いていく。
華奢なストラップがついたサンダルを慣れない手付きで履く蘭の隣で、新一は乱暴にバッシュに足を突っ込み床に爪先を打ち付けて履いた。
「新一、送らなくて平気だから。家でのんびりしてなさいよ。」
「そういう訳にはいかねーだろ。今何時だと思ってんだ。」
「お父さんも新一も心配性なんだから。私には空手があるの知ってるでしょ。」
危機感を感じていない蘭ののほほんとした口調に、新一の不機嫌はひたひたとゲージに溜まっていった。
ここだけは共同戦線を小五郎と不本意ながら張って、蘭に一人歩きの危険さを口を酸っぱくしながら説いているのに、まったく理解する様子を見せないのだ。
確かに、試合以外の場所で彼女が空手を使って犯人を撃退するのを何度も目にしている。
突進してくるだけの知能の低い男も居たが、中にはナイフと隠さない殺意を持って蘭に向かってくる輩も居た。
その全てを撃退して無傷で今の彼女が居る訳だが、それでも危ない橋は渡って欲しくないというのが彼女を大事に思う人間の共通の願いなのに。
それをちっとも分かろうとしないのだから、面白く無い気持ちになるのも当然だった。
「さてと。じゃ、私帰るね。」
「へーへー。ほら、行くぞ。」
蘭が口を開く前に手を取って、多少強引に腕を引いて玄関を潜る。
文句を言いたそうだった蘭も、小さな溜息で言葉を逃がして、黙って幼馴染の後を付いて、暗闇に溶け込む道へ踏み出した。
「今日は月も出てるし、随分明るいね。」
「・・・つまり?『こんなに明るいから家まで送る必要ない』とでも言いたいのか?」
「別に。」
新一の不機嫌に釣られて蘭はすっかり拗ねてしまっている様だった。
いつもならば人目が無い事を幸いとどちらからともなく手を繋いで歩くのに、新一の洋服の袖を蘭の指先が遠慮がちに抓んでいるだけだった。
新一は何故蘭が手を繋いでこないのかと思っていたし、蘭は何故新一が手を繋いでこないのかと思っている。
お互い何処か歯車が狂っている事に気付いていないので、始末が悪かった。
「なぁ、蘭。」
新一は静かに呼び掛けながら策を練っていた。
無駄に怖がらせるだけだと知っているのに、今日ばかりは意地悪な気持ちの方が決定権を握っていて、たまには良いかと考えてしまう。
蘭に自宅まで送って貰う事を納得させる事は実はさして難しい事ではないのだ。
――― 手段を選ばなければ。

「オメー、知ってるか?」
「薮から棒に何よ。」
「1丁目の村田家の噂。」
「『噂』って・・・新一あんまりゴシップに興味ないって言ってたじゃない。どういう風の吹き回し?」
「『ゴシップ』には興味ねーけど、真実から端を発する噂は聞き捨てならねーだろ。情報収集は探偵の基本中の基本だぜ。」
「ふぅん。それで噂って何?」
前ばかり見てお互い顔も見ないで会話を続けていたので、蘭は新一の顔がにやりと笑みを刻んだのに気付かなかった。
「出るらしいぜ。」
「・・・何、が?」
たっぷりとした沈黙を置いて、蘭が弱弱しい声で問い返した。
彼女の青白い顔が、既に思い当たる答がある事を示している。
新一は肩を竦めて不似合いな軽やかな口調でその話題を蘭の前に放り投げた。
「幽霊が。」
「・・・」
「何でも村田家には潰されちまった井戸があったらしくてさ。そこで昔酔っ払った男が落ちて亡くなったらしいんだよな。別に今まで何も出てなかったのに、リフォームで庭の一角を掘り返したら、その井戸にぶち当たっちまったらしくて。それで出るんだと。」
「ふ・・・ふぅ、ん?」
ぎこちない相槌に新一は気付かない振りで話を続ける。
「夜中に人魂がふわりふわりと浮くらしいぜ。ま、害は今の所無いみたいだから安心だよな。」
「何が安心なのよ!」
早口で捲くし立て、蘭は抓むだけだった新一の洋服の袖をぎゅっと握り締めた。
既に瞳が涙目になっている。
「安心だろ?目の前に出て来ても、呪われる訳じゃなし。無視して通り過ぎりゃ良いんだから。その点、3丁目の児童公園の所の暴れ馬は手に負えねー。」
「何それ!私知らない!じ、児童公園って・・・あのブランコがある・・・」
「そ、オメーも学校からの帰り脇の道通るだろ?あの児童公園にゃ、最近馬の亡霊が出るんだよ。」
「ぼ・・・亡、霊。」
蘭の握った洋服の端から彼女の震えが伝わってきて、あともうちょっと、と新一は内心でカウントダウンを始める。
勿論話は止めない。
「こっちは性質が悪くてな。将来を約束されたような血統のサラブレッドだったらしいんだけど、餌をやる担当者がうっかり腐った人参を与えちまってころりと食中毒で死んじまったらしいぜ。レースに出れないのが未練で成仏出来ないらしくて、未だにここら辺の行動を猛スピードで走ってるらしい。」
「嘘・・・」
「出会い頭にぶつかった人間は魂が跳ね飛ばされてあの世行きだって噂だぜ。身体には傷一つ残らないから警察もお手上げってな。」
蘭の手は新一が法螺を吹いている間にしっかりと新一の腕に絡まり、かくかくと震え力が上手く入らない膝を持て余している。
新一は半ば抱き抱えるようにして前進していた。
「目を向けてみると意外にご近所でも心霊現象ってあるもんだよな〜、蘭。」
「い、今まで、知らなかった・・・」
「それで?オメー一人で帰れる訳?」
「無理!絶対無理!ヤダ新一、まさかここで私を置き去りにするんじゃないでしょうね?」
混乱してか有り得ない事を口走りながら、蘭は渾身の力で新一の身体にしがみ付いた。
まるで子供が父親から離されまいとしているかのようで、ちょっとやり過ぎたカナと新一は苦笑した。
「する訳ねーだろ。ま、オメーもこれからは文句言わず大人しく俺に送られるんだな。分かったか?」
「分かった!絶対、絶対ちゃんと送ってね?約束だからね、新一!」
「了解。」
言質を取って駆け引きに勝利した新一は蘭の知らない所でほくそ笑んだ。
自分の力を過信して心配ばかりさせる幼馴染へちょっとしたお灸を据えたつもりで、悪びれた様子も無く新一は後数分に迫った蘭の家までの距離を確実に縮めるのであった。






END




BACK