Blue in Eyes









嫌な奴との通話を予めリミットとして決めていた3分で無事叩き切り、聞かせる相手の居ない舌打ちをする。

最悪な気分が胃の辺りにどしりと圧し掛かる。

ムカつく。



無造作に脇に置いていた鞄から、一つの携帯電話を掘り出す。

手首のスナップだけで開くと、懐かしいマスコットキャラの待ち受け画像が現れた。

赤い、口が裂けて小生意気そうな、蝙蝠。

まるで特大のハリケーンみたいだったひと夏の事を思い出して、俺の口元が緩んだ。

あぁ・・・誰にも見せられねーな。

パスワードロックを、口には一生出すつもりもない唾棄すべき砂を吐きそうな『言葉』で解除する。

画像フォルダを開き、一枚の画像を画面に呼び出した。

栗色の明るい髪。

水色の瞳、は瞼の奥に隠されていて確認は出来ない。

無謀に覗いた鎖骨、なだらかに胸の膨らみに続く白い肌は、良い所で当然の如く目を刺すようなオレンジ色のTシャツに阻まれている。



今携帯の液晶画面に映っているのは、姉崎まもりの寝顔だった。

多分、本人は撮られた事を知らないだろう。

俺はそんなヘマをする間抜けじゃないからな。

口煩さは母親のようで、俺に向ける顔と言えば呆れ、怒り、驚き、そんな顔ばかりだった。

自慢じゃねーが、掛け値無い笑顔なんざこの時代には向けられた事など一度としてなかっただろう。

糞マネは俺を天敵として認識し、心を許すなどもっての外だと思っていた事は間違い無い。

まぁそれなりに実力を認められていたのも間違い無いだろうが、人間性はまったく認められてなかった。



・・・ハッ、昔の話だ。

この寝顔は、ラスベガスで撮ったものだ。

夜じゃない。

真昼間、堂々と撮ってやった。

糞マネは疲れていたんだろう。

この危険な土地で寝こける無防備さは、アホだ馬鹿だと罵っても治るもんじゃなかった。

運良く見知った顔が周りに居なかったのも、きっと俺の悪運の強さだろう。

別になんとも思ってない糞マネの面白くもおかしくもない寝顔を撮ろうと思ったのは、気紛れに過ぎなかった。

脅迫手帳の1ページにする価値も無い、変哲の無い写真。

糞ザルや糞長男、他にも取るに足らない糞野郎共に売り付ければ、そこそこの金にはなるかもしれない。

そんな、写真。

まったく、それが何だって今でも俺の携帯に入っているのか。

携帯を左右に揺らしながら、その画像から目は一時も離さず、そんな事を考える。

俗に言う「ぼんやりしている」状態だ。



あいつの目は、今も『青い』のだろうか。



3ヶ月前に確認した時には青かったと一人ごちて、俺は画像を慣れた手付きで閉じ、ロックを掛け、電源をオフにして携帯を閉じて鞄に突っ込んだ。

勢い良く立ち上がると、その弾みで胃に圧し掛かっていた最悪な気分が転がり落ちて床で拉げた。

尖った靴先でソレを踏み潰しながら、パスポートと財布を手にして尻ポケットに捻じ込む。

あの女の瞳が未だ青いか、この目で確認しに行ってやろう。

ま、俺のスケジュールじゃトンボ帰りになるだろうが、構いやしねぇ。

その為だけにアメリカから日本に飛んで来たと知ったら、あの女はどんな表情を俺に見せるんだろう。

考えるだけで愉快だ。

あの時代、あの女が俺に見せる表情と言ったら『呆れ』『怒り』『驚き』がトップ3だった。

今なら、あの女は俺にどんな顔を見せる?



さぁ、確認しに行こう。

派手なマシンガンのファンファーレと共に。









end
2007/02/05 UP


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