shake your fist
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米俵みたいに肩に担ぎ上げられて喜ぶ女の子なんて、絶対居ない!!!
だから私はありったけの大声で叫んで、全身をしならせて暴れた。
今日ばかりは遠慮も手加減もしなかった。
拳を叩き付け、爪先を打ち付け。
アメフト出来ないくらいに傷付けたって私は知らないんだから!っていうくらいの強い気持ちでの反撃。
でも、声を殺したような呻き声が多少漏れる程度で、蛭魔君は怯まない。
つまり、私の精一杯の攻撃は悪魔の行進を止めるには力不足だという事なのだ。
奥の手で、伸ばし始めたばかりの爪をその鞣革のようにすべらかで強靭な肌に突き立ててやった。
がりっという感触と何かがこそぎ取られ爪と皮膚の間に詰まる感覚。
自分でやっておいてなんだけど、その気持ち悪さに私は全ての動きを止めた。
その隙を狙っていたかのように、悪魔は私に言った。
「重いんだから、暴れんな、糞マネ。落とすぞ?」
頼んでないのに勝手に担いでおいて、それで『落とすぞ』ですって?!
いい加減にして!!!
当然である私の抗議を鼻で哂った蛭魔君は、寝室のドアを片手で開けて私を抱えたままその中に入った。
ああ、ジーザス!
「鈴音ちゃん?あとどのくらい?」
「あと2ページ!!」
「私ももう終わりそう。」
互いの状況を知って、知らず安堵の溜息が零れ落ちる。
静かな室内。
部員は例外なく全てロードワークに出ており、カジノを模した部屋の中にはマネとチアの二人っきりで、二人は黙々と言い付けられた仕事をこなしていた。
依頼主は蛭魔妖一。
番号1を背中に背負う、泥門デビルバッツの地獄の司令塔。
冷血無慈悲自分勝手唯我独尊。
それでも統率力部内ナンバーワンの蛭魔の指示には、部員は何だかんだ言いつつも従っていた。
勿論まもりも鈴音もだ。
「お・・・お、終わったぁ!」
まもりに遅れる事数分、鈴音が伸びと同時にシャーペンと消しゴムを放り出して、弾けるような歓声を上げた。
集中してやれば短時間でもこの量を出来るものだと自画自賛したくなる処理済の書類の山を前に、二人は戦友である証に硬い握手を交わした。
どちらの表情も満足げだ。
蛭魔から書類の山を示された時には眩暈でくらりと体が傾ぎ、二人じゃ絶対無理だと猛然と抗議したのだが、当然悪魔に聞き入れられるものではなかったから。
しっかりやって見返してやろうと、口に出さずとも二人の決意は共通だったようで、この結果がある。
「・・・でも考えてみれば、体良く使われたって事よね。」
まもりの呟きに鈴音は一瞬力無い苦笑を浮かべた。
気付くのが遅過ぎたし、例え途中で気付いたとしても二人は作業を中断する事はなかっただろうと容易に想像出来たからだ。
慣れない仕事で疲れ切って動けなくなった鈴音を労わろうと、まもりはこっそり部室に持ち込んでいるポットと紅茶のティーバッグで手早く休憩の用意をした。
見付かると煩い蛭魔だが、さすがにこの時間では学校に戻って来れないだろう。
まもりと鈴音は安心して暖かい紅茶に口を付けた。
「まも姐?どうしたの?考え込んで?」
鈴音が紅茶を飲み終わろうというのに、まもりは未だ半分以上がカップに残っている。
蒼い瞳が空中に何かを見付けた様に、動きを止め思考に沈んだまもりに鈴音が不思議そうに声を掛けた。
「あ、えっと・・・ちょっと、考え事。ご免ね。」
「ん〜ん。別に気にならないよ。疲れちゃったの?」
お茶受けとして鈴音が鞄から出した塩味のポテトチップスに手を伸ばし、鈴音はぱりぱりとそれを摘む。
まもりは紅茶を喉を小さく鳴らしてこくりと一口飲むと、細く息を吐き出しながらカップを机に置いた。
「・・・口達者な人と戦って、万に一つでも勝利の女神が微笑んでくれる事ってあると思う?」
「・・・はぁ?」
まるで乗り移ったかと思われる程に鈴音の発した言葉は黒木や戸叶の口癖にそっくりだった。
しかも本人はまるで気付いていない。
まもりだけが小さくくすりと笑い、それから首を傾げて唇を尖らせた。
「私頑張って戦ってるつもりなんだけど、最近負けっぱなしだなーって思うの。鈴音ちゃんもそう思わない?頑張るだけじゃ勝てないのかしら?」
「ええっと、ごめん!まも姐!話しが見えない!」
片手を上げた鈴音に、まもりが足りなかった言葉を伝える。
「蛭魔君の事。ええっと、詳しくは言えないんだけど、最近ちょっとぶつかってて、それの話。」
「『ぶつかってる』?デビルバッツの事?」
「違います。」
「それってまも姐のその首のあざと関係有る?」
無意識にまもりは自分の首筋に手をやって頬を薔薇色に染めた。
注意してみなければ分からない程薄っすらとした鬱血の跡は、Tシャツに隠れるぎりぎりの際に咲いている。
鈴音に気付かれているとは露程もまもりは思っていなかっただけに、この発言は彼女にかなりのダメージを与えた。
うろたえて言葉を失ったまもりとは対照的に、鈴音は饒舌だった。
「やっぱりそうなんだ!Yaー!絶対妖一兄とまも姐はお似合いだと思ってたんだよね。でも思ったよりくっ付くのに時間掛かったんだよね。」
「あのっ!ちょっ!鈴音ちゃん!」
「まも姐照れなくたって良いのに〜!」
にこにこと愉しげな鈴音はまもりの目的もなく振り回された両手も意に介さない。
身をテーブルに乗り出して、まもりの顔をずぃっと深く覗き込んだ。
「それで?まも姐は妖一兄相手に何を頑張っちゃってる訳?」
アンテナがぴんと立ってまもりの方を向いている。
鈴音の視線はきっとまもりの些細な行動を一つも取り零す事無く、隠したい所まで暴くだろう。
ぎくりとまもりは身を強張らせた。
「もっとオープンにして良いと思うの!皆知ってるし!」
「え?!知ってるって・・・何を?!」
「だから、妖一兄とまも姐の事。2週間くらい前からお付き合いしてるでしょ?」
「う・・・」
まもりは嘘が吐けない。
だから、沈黙が最大の防御とばかりに口を噤んだ。
「まも姐、妖一兄のおうち行ってるでしょ?」
「・・・」
「ご飯作ってるでしょ?」
「・・・」
「それに、この前、とうとう外泊しちゃったでしょ?」
「何で!何で知ってるの!!!!」
あっけなくまもりの防護壁は崩れ落ちた。
自滅、とも言う。
「セナがバラしました。本人、意味分かってなかったみたいで、ブロちゃんに突っ込まれて初めて気が付いてた!その慌てようが本当におっかしくて、皆で大爆笑だったんだから!」
「嘘ぉ!!」
「だから、皆知ってるよ。ほらほら、まも姐も開放的に妖一兄といちゃいちゃしちゃって下さい!」
まもりの顔は火を吹くんじゃないかというくらい、真っ赤に染まった。
林檎よりも苺よりもなお紅く、そして味わったならばそのどちらもよりも甘いんじゃなかろうかというくらい『女』の表情をしている。
鈴音は出会った頃のまもりを思い出して、その微笑ましい変化に相好を崩した。
セナがまもりという優しくて暖かくて、そして少しばかり窮屈な殻に守られていたのと同じように、まもりもまたセナという穏やかで安心感がありそして少しばかり窮屈な弟を気に掛けていたのだ。
二人が歪んでしまった関係を壊して、新しい関係を気付いて、こうして笑っていられる事が、鈴音は他人事じゃ無いように嬉しかった。
鈴音の知らない所でまもりは泣いたかもしれない。
でも、今のまもりが無理をしていない事は肌で感じ取って、嘘じゃないと思うから。
鈴音は安心してまもりと蛭魔の事を焚き付け、からかい、そして素直に喜べるのだ。
「あ、そういえば。すっかり忘れ掛けてたけど、まも姐の考え事って何だったの?」
大きな猫目をぱちぱちと瞬かせて、鈴音は首を傾げた。
ちらりと視線を走らせた壁掛け時計の長針は未だロードワーク終了時刻に届いていない。
時間はある。
「妖一兄とぶつかって、云々っていうのは?」
「・・・あー、うん。えっと。」
酷く言い辛そうにまもりは視線を泳がせた。
右へ、左へ。
心無しか潤んだ瞳と薔薇色の頬と耳、そして首筋の三点セットは、何と罪深いんだろうと鈴音は感じる。
きっとここに男に分類される人間が居たならば、目を奪われたに違いない。
観察されているとは露程も思っていないまもりは、暫く小さな呟くような声で「その」だの「あの」だの意味もないような言葉を吐き出している。
普段のしっかり者のイメージは今は逃げ出してしまっているようだ。
「気になる〜!まも姐!セナと違ってあたしは口が堅いから!教えて!」
「・・・男の人って・・・皆、ああなの?」
覚悟を決めたのか、まもりの発した声は、ちゃんと聞き取れる音量に戻っていた。
「妖一兄の事?『ああ』ってのはどんな感じ?」
「・・・蛭魔君じゃないみたい。」
「はーい!想像付きません!妖一兄じゃないみたいな妖一兄って!」
右手を真っ直ぐに上を挙げ、発言した鈴音は小学生くらいの活発な生徒のようだ。
対するまもりは教壇に立つ女教師か。
頬に掛かったセミロングのさらさらと清涼な音を立てそうな髪の毛を無意識に耳脇に指先で掛けた。
随分と色っぽい仕種だった。
「・・・予想出来ない、行動とか。行き成りで何考えてるか分からない言葉だとか。」
「具体的にどうぞ!」
今度はレポーターがマイクを差し出す仕種で、右手の握った拳をまもりの口元に突き出す。
まるで将来を予想させるようなそのポーズにまもりは変な強張りが止めたのか口元に微かに笑みを吐いた。
滑るようにまもりの唇から言葉が零れ落ち始めた。
「頭を輪切りしたらアメフトっていう文字が出て来るんじゃなかと思うくらいアメフトの事しか考えてなくて、興味のある事は全部アメフトに直結してると思ってたんだけどね。ちゃんと、って言ったら変だけど、女の子に興味あるんだな〜って思って。凄く意外だったから。」
「そりゃそうだよ〜。まも姐。妖一兄だって普通の男の人だよ?」
くすくすと鈴音は笑う。
今更なまもりの発言がおかしかった。
同時にまもりらしいとも思う。
純情で初心なまもりは、蛭魔についていくのが大変だろうと、セナが朝帰りをバラした後にムサシが言っていたのを思い出す。
本当にその通りだと、その場に居合わせた全員の見解は一致している。
「人に見られるの嫌そうだもんね、妖一兄。だから二人っきりの方が恋人っぽくなぁい?」
「・・・突然、抱き締められるのは困るの。」
かぁっと天上知らずに紅潮する頬を、まもりは両手で包み込んだ。
「見える所にキスマーク付けられるのも、まも姐困るでしょ?それにまも姐が嫌だって言うのに朝帰りさせる所とかも。」
「困るわ。凄く。」
「妖一兄、そこら辺絶対遠慮しそうにないもんな〜。ヤリたい時に俺はヤルって感じするもん。嫌がるまも姐も可愛いとかきっと思ってるよ!」
「鈴音ちゃん・・・力説されても困ります。」
そう言ったまもりの言葉は力がなかったから、当たっているんだろうなぁと鈴音は内心思う。
意地悪な気持ちでからかおうとは思いもしないが、この一つ年上の綺麗で親しい友人の反応を見たいという抗えない誘惑に背を押される。
「妖一兄って頭良いから絶対逃げ道作らないよね。まも姐が言葉を尽くして断っても絶対承諾させそうだもん。妖一兄が『泊まってけ』って言ったらそれは決定事項だよね。」
「・・・鈴音ちゃん、見て来たみたいね。」
「それくらい想像出来るよ。それにテクニックありそうだから、なし崩しに事が始まったらまも姐絶対逃げられそうにないし!」
「『テクニック』って何の事?!『事が始まる』って・・・!!」
絶句して唇をぱくぱくさせるまもりは酸欠寸前の真っ赤でひらひらと尾びれを揺らす金魚の様だった。
机に肘を突いた鈴音は子悪魔的な表情で笑う。
「だってほら。地獄の司令塔だよ?悪魔的閃きを持つQBだよ?思い当たる節あるでしょー?」
まもりの脳裏に一番新しいその時の記憶が蘇る。
手作りの夕食を食べ終わって、食器を洗浄機の中にセットしている最中に、背中に貼り付いた蛭魔の指は迷う事無く腹から腰を撫で回し。
驚くまもりの上げ掛けた悲鳴を吸い取り、普段とまったく変わらない様子でまもりのエプロンのリボンを解く手際の良さ。
「帰るから!」の一点張りだったまもりの気持ちを、とろとろとした心地良さでぐずぐずに解かし、ついにシンクに押し倒した悪魔。
すんなり勝敗が付くと思われたが、肌に触れたひやりとした感覚にまもりが一気に正気付き、堰を切ったように怒涛の反撃を開始したまもりに手を焼いた蛭魔の取った行動。
身体を焼く熱に、まもりは眩暈を感じ強く目を瞑った。
「まも姐。真っ赤だよ?」
くすりと笑った鈴音の言葉にも、まもりは暫く瞳を開ける事など出来なかった。
「蛭魔君のバカ!部活の皆が知ってるってどういう事よ!バカ!」
「あー?自分より頭の足りない奴に言われてもなー。」
「バカバカバカ!全部蛭魔君の所為なんだから!バカ!」
「頭大丈夫デスカー?日本語喋レマスカー?」
「もう知らない!私帰る!」
「帰れると思ってんのか、糞マネ?」
「え?ちょ、何コレ?!この前と全く同じじゃない!降ろして!降ろしてよー!」
「落とされたくなかったら暴れんな、糞マネ。」
「帰るー!!!絶対帰るんだから!」
「YaHa−!」
2006/07/05 UP
end
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