前髪









ぼんやりと。

ただ、ぼんやりと。

次次と白い肌を隠す衣服を身に着ける男の仕種を見ていた。

アメフトマンとはかくも白い肌を持つモノなのだろう?

否、持てるモノなのだろうか?

一日中グラウンドに居てあの運動量。

それなのに、何故、白い肌を保ち続けているんだろうか?

ああ・・・

多分、あのどこまでもくすみの無い金髪に白い肌が似合うからなのだ。

そう心の何処かが勝手に納得してこの疑問に終止符を打ってしまう。

理性がおかしいと叫ぶのもお構いなしに、蛭魔妖一に関する事に第一優先権を持つ感情が、その『心の何処か』なのだ。



「あぁ?何だよ。糞マネ。」

「・・・こんな所でもその呼び方?」



怒り、というより呆れ。

振り向いて胡乱げに目を細めたアメフトバカは、私を見下ろして私の抗議を受け流した。

この悪魔にはどんな罵倒も効きはしない。



「てめぇの拘り所はソコかよ。」



ハッ、と短く笑って悪魔は最後にコートを床から引っ張り寄せる。

白いファーの付いた黒皮のコートは随分と細いシルエットで、この男に大層似合っていた事を思い出した。

黒いジーンズ、黒いカシミアのセーター。

そして黒いコート。

何の気紛れか白をワンポイントだけ身に纏った蛭魔妖一は、擦れ違う妙齢の女を振り向かせる程度には魅力的だった。

・・・その時湧いた感情がご丁寧に蘇る。

気分なんか良い筈が無い。



「・・・随分と愉快な顔だな、糞マネ。」

「煩いです。」



汗で額に大半が落ちてしまった前髪を煩げにかき上げる指先。

骨ばって節が目立って、でも長く細く、何処か優美で。

QBは皆、あんな指を持つのだろうか。

自然と吸い寄せられる視線が、髪の根元から頭の形に添って撫で付けるその動作をつぶさに見詰める。



悔しいけど。

凄く悔しいけど・・・



私は彼のそういった癖が好きだった。



「今度は間抜け面。」



切れ長の瞳と、裂けたという表現でも構わないような口角の上がった唇が作り出す笑い顔。

蛭魔君は楽しげに私を観察している。



「俺に見惚れたか。」

「自惚れないで。」

「はっ!」



短く笑った。

私を見ながら、知ってるんだぞと見せ付けるように笑った。

だから私は俯くしかなかった。

失敗したんだ。

否定するのが早過ぎた。

焦りが表情に僅かでも出たのか、頬の紅みをこの薄暗闇の中でも見破られたのか。

どちらにせよ、このしたたかで抜け目の無い悪魔に私が彼に見惚れていた事がバレてしまったのは事実で今更どうする事も出来ない。



「あれあれどうしましたか、姉崎サン?ご気分でも悪いのですか?」



覗き込まれまいと逃げる私の退路を絶つ様に、泥門の悪魔と怖れられる男は上半身を伸ばして私の上に覆い被さろうと動く。

毛布を抱き込んだだけの心細い格好の私にはベッドの上から飛び降りて逃げる度胸も無く、ただ無意味に壁際に身を寄せるだけしか出来ない。

熱が篭る。

頭に、指先に、そして心の中に。

ヤラれっぱなしだ。

勝てやしない。

それが悔しい。



「姉崎サァン?」



糞マネ、などと呼ばれるのにも不本意ながら慣れた今、こうやってわざわざ苗字を呼ぶ所がわざとらしい。

ケケケっと品が良くない笑い声は私を追い詰め、私は顔を伏せて目をぎゅっと瞑った。

冷たい指先が、耳朶に触れる。

ビクンっと激しく反応する私の体。

悪魔が笑う気配が空気を震わせる。



「雪が降ってやがる。」



楽しげな声が、あまり嬉しくない状況を伝える。

どうりで寒いと思った。

自分で作り出した真っ暗な闇の中で私はそう考える。

でも何故今それを私に告げるの?



「外は寒いし風邪でも引いたら大変だ。」



しらじらしい声がそんな事を言う。

冷たい指先は私からシーツを剥ぎ取ろうと強い力を込め始める。

そして、私は、彼が言わんとしている事に気が付いて、大声を出した。



「嫌!ダメ!帰って!絶対帰って!」

「泊まり決定!Ya−Ha−!」



前からあんなに言い含めて納得させたのに、蛭魔君は勝手に自分都合だけでそれを覆した。



約束不履行!

卑怯者!

私の罵倒は悪魔には届かない。



シーツは床へと投げ捨てられ、剥き出しの肌にまた一つ、悪魔の刻印が残される。

明日は朝早くから大切な講義があって遅刻する訳にはいかないのに・・・!!



アメリカ帰りの悪魔は私の都合をまったく考慮せず、私の体を思うままに飽きる事を知らないように何度も抱くのだ。











2006/03/01 UP


end

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