気付かないのは、罪
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この女は気付いていないのだ。
「ねぇ、蛭魔君。」
振り返ると頬に柔らかく掛かる赤茶色髪の毛。
陽に透けると、それはなお赤く。
目の奥に焼き付く。
「雨、凄いよ。」
居残りでデータを纏める。
二人掛かりで正味三時間。
糞チビと糞ザルが手伝うと言って暫く纏わり付いて来ていたが、はっきり言って邪魔以外の何物でもないので、マシンガンで脅して追い出した。
糞マネは「危ないモノを部室に持ち込まないで」だとか「セナとモン太君を苛めないで」とか騒いでいたが、手だけはしっかり動かしていたので、右から左へと聞き流した。
作業さえしてんなら多少の雑音には目を瞑ろうという俺の広い心の表れだ。
女は耳に髪の毛の一房を掛ける。
細い指先。
男のモノとは違う。
白い。
雪色の肌。
「あっ!今雷鳴った?!」
一瞬の閃光と共に遠い所でなる轟音に、糞マネは身体をしならせた。
翳る表情。
怯える仕種は暗闇に映える。
「ひ、蛭魔君・・・?」
喉が恐怖に狭まったのか、か細い声が俺の耳を打つ。
無言で続きを促してやると、姉崎まもりは俺を縋る様に見詰めたまま言った。
「あの、手を・・・繋いでも、良い?」
「あぁ?何て言った?」
「手を・・・あの、怖いんですけど。」
「ふざけんな。」
引き攣ったように動きが硬い。
見開かれた青い瞳。
許可を得る前に、既に俺へと伸ばされた腕。
そして指先。
この女は気付かない。
鈍感、という言葉では足りないと思った。
笑える。
・・・こいつにも自分にも。
「ヤダっ!近い!」
地響き。
凄まじい、音。
雷とは『神鳴り』とも言う。
何処かで誰かが俺達を見ていて、そして嗤っているのか?
鈍感で愚かな女と、その女に手を出しあぐねている臆病な男を。
「蛭魔、君っ!」
しゃくりを挙げる様に、跳ねた俺を呼ぶ声。
いっそ泣いたら面白いのに。
醒めた頭はそんな事を思い付く。
動かない俺に焦れた女は、貧弱なラインバッカーのように俺に体当たりしてきた。
ある程度予測していた俺の両腕に危なげなく受け止められて、柔らかな身体を持つ女は縋り付くものを見付けて安心したのか小さく震えた。
手の平が女の背中に吸い付く。
鼻先には、赤茶色の髪の毛。
密かに香る、何か。
抱き締める事はしなかった。
女は気付かない。
やがて雷が行けば、何事も無かったかのように離れるだろう。
この時間もこの感情も、何処かに逝くのだろう。
「・・・あぁ、茶番だ。」
呟きは神鳴りに掻き消された。
2006/03/01 UP
end …or?
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