結構忍耐力には自信がある方だったりする。 物事を理論的に考えるのは得意だし、状況判断能力にも優れてると自負してる。 伊達にIQ400なんて看板立ててる訳じゃない。 しかし、俺は今、目先の利益に負けそうになってる・・・ 「ん・・・」 『すやすや』っていう擬音がぴったりの様子で青子は人の気も知らないで昼寝をしていた。 俺のベッドで。 無防備に。 しかも。 襟ぐりが大きく開いたカットソーにミニスカートで。 買い物から帰って来たら母親に「青子ちゃん来てるわよ♪」と声を掛けられた。 きっと暇な時間が出来たから遊びに来たんだろう。 俺は今までの青子の行動からそう考えて自室のドアを開けた。 するとまぁこう言う状態だった訳だ。 こいつの頭の中には『警戒心』って言う言葉が存在しないのかね? 幼馴染とは言え、俺、『男』なんだぜ? まるで「さぁ食べてvv」と言わんばかりに居眠りこくか?!普通!! しかも俺の立ち位置の角度からはばっちりブラの紐が覗けてたりして、普段隠されているものが見えてるって事実が俺の理性に揺さぶりを掛けてる。 やばい。 やばいぞ・・・ 俺、今何考えてる? 足に根が生えたようにこの場から動けない。 視線は青子に釘付けで、喉がからからに干上がる感触がリアルに感じられる。 「・・・ん・・ぅ」 小さく青子が寝返りを打った。 はらりと柔らかなラインを描く頬に黒髪が零れ落ちる。 桜色の唇からは規則正しい寝息が吐き出されている。 随分と深い眠りに捕らわれているらしい俺のお姫様は、御伽噺の定石どおりにその唇に王子様のキスを待ち望んでいるような錯覚を俺に覚えさせた。 そんな筈ねーだろ?と理性が俺を必死にこの場に留まらせる。 じゃないと童話の狼みたいに目の前のご馳走にすぐさま食い付いてしまいそうだ。 しっかりしろ!黒羽快斗!! そんな事してみろ?!一発で嫌われるぞ!! 無理やり愛らしい唇から視線を引き剥がすと、その先には寝返りを打った拍子に捲くれ上がったスカートとその下から覗く白い太股が俺を待ち受けていた。 2重トラップかよ・・・ 第一の罠を何とか掻い潜ってほっとしたところに第二の罠に嵌った俺は、場違いにも何処かの戦場の手馴れた罠の仕掛人を想像してしまった。 俺の性質を知り尽くしてる・・・ んな訳無いんだけど。 太股は張りがあってきめが細やかで悪魔のように俺に誘い掛ける。 『触って』って・・・ ふらりと右足を一歩踏み出してしまえば後はなし崩しにベッドの端まで近寄っていってしまう。 気配を消してそっと青子の傍らに跪く。 近くで見れば見るほど青子は可愛くて無防備で、俺の自制心は風前の灯火だった。 考えてもみてくれよ? 目の前に好きな女が居るんだぜ? しかも見えそうで見えない隠された素肌が、手を伸ばせば手に入っちまうんだぜ? ・・・耐えられるか?この攻撃に? 責められんのか?誘惑に負けた男を・・・? もうどうなっても良い。 焼き切れてしまった理性の手綱を振り払って俺は青子の頬に手を伸ばした・・・ 「快斗ぉ?」 ぱちりと目を唐突に開いて青子がにこっと笑った。 「!!!!!!!!!!!!!!」 その瞬間俺がどんなに驚いたのか。 どんなに肝を冷やしたか。 ――― 想像できるだろ? 「悪い事は出来ねーな、やっぱり。」 「アホか?おめぇは・・・」 電話の向こうで呆れかえった声の名探偵が盛大な溜息を吐くのが聞こえた。 「・・・新一?お前ね。同じような体験が無いとは言わせね―ぞ。」 低く脅しを掛けると電話口で絶句する気配。 図星だな。 無邪気で無防備で魅力的な幼馴染を持っているのは俺だけじゃない。 あいつだって相当振りまわされてるに違いない。 「・・・快斗。言いたい事はそれだけか?」 明らかに電話を切りたがっている奴に、俺は当初の目的の「この俺の気持ち分かってくれるよな?」という愚痴を奴に垂れ流すと言う事も達成された事だしまぁ良いかという気になった。 「おう、じゃ、またな。」 「・・・もう二度とかけてくんなっ!」 がちゃんっ!っと耳に痛い乱暴な音と共に名探偵と大怪盗を繋ぐホットラインは切られた。 時間は午前2時15分。 今夜は眠れそうに無い・・・ 俺は盛大に溜息を吐いた。 |