うさみみ





二人向き合って困り顔。

快斗は困った振りをしているだけなので微妙に瞳が笑いを隠し切れなくて、其れを青子に見透かされ平手を食らった。



「悪かったってば。」

「ふーんだっ!」



元々丸い頬を更に膨らませてそっぽを向く青子に、快斗は両手を合わせて拝み込む。

そりゃ本人は真面目に悩んでいるのに其れを目の前で喜ばれては怒りもするだろう。



・・・そう。快斗はこの事態を喜んでいるのだった。

この『非常事態』を。











「なによ!快斗なんて本気で青子の事心配してくれてないんでしょう?!」

「そんな事ねーよっ!・・・ただ、」

「やっぱりーーーっっ!!何が『ただ』よ!青子のこの耳を面白がってるんでしょ!」



そう言って青子が赤い顔に涙を浮かべて掴んだのは、長〜く突き出た真っ白い耳。

ふわふわでぽわぽわでぴくんと可愛く動く、うさぎの耳。

違和感無く青子の少し茶色かかった猫っ毛から飛び出している。



触わったら柔らかそーだよなぁ・・・



無意識で伸び掛けた指先を誤魔化すように強く握り締めて、快斗ははははっと誤魔化し笑いを浮かべた。

顎に手をやって少し白馬を真似て真剣に悩むポーズを取る。



「そんなポーズだけしても騙されないから!バ快斗!」

「・・・」



ちらっと横目で怒る青子を確認して、こめかみをぱりぱりと掻いた。

どうにも快斗が心配するというよりこの事態を喜んでいる事は青子に筒抜けらしく、今更業とらしく誤魔化す事がまた青子の逆鱗に触れているようだ。



ここは一つ開き直っちまった方が良いかな?



あっさりとそう考えて、快斗は青子に向き直る。

涙が今にも零れ落ちそうな黒曜石のように耀く愛らしい瞳。

湖面が光を反射するようにきらきらと陽光を跳ね返して、うっとりと吸い込まれるように唇を近づけた。





べちんっ!!!





快斗の唇を両手で押し返して青子が叫ぶ。



「何考えてるのよ!!!馬鹿馬鹿!」

「んな事言ってもよ〜。どうせこれ、また紅子の仕業に決まってんだぜ?」

「そんな事分かんないじゃないっ!変な病気だったらどうするのよ?!」

「ないない。そんな病気。どうせこの前みたいに数時間経ったらはい元通りってな感じでお仕舞だろう?騒ぐだけ無駄だぜ。」

「他人事だと思って〜〜〜〜っっ!!」

地団太を踏みそうな勢いで青子がかっかかっかと怒るが、真っ白な耳がぷるぷる震える様が妙に愛らしく青子を演出するお陰で、すっかり快斗は骨抜き状態になってしまった。



抱きてぇなぁ・・・



まるでお気に入りの小動物を反射的に抱き上げて頬擦りするような衝動が突き上げる。



触りてぇなぁ・・・

もこもこで気持ち良さそう・・・



「か・・・かか・・・快斗?」



快斗のまるで舌舐め擦りせんばかりのモノ欲しそうな視線に、青子が脅えて声がひっくり返る。

耳もみょ〜んと垂れ下がり一目で青子が脅えている事が知れた。



「あ・・・あははは。」



慌てて誤魔化し笑いを浮かべて羊の毛皮を被り直すがもう遅い。

本性たるオオカミの素顔をばっちり見られて、青子はすっかり警戒モードだった。



失敗した!



心の内でちっと舌打ちをする。

クラスメートとわいわい騒げる程度には十分快斗もスケベな人間で、やっぱり目の前の可愛い可愛い幼馴染がその対象になるのは自然の理なのだ。

どうせ直ぐに元に戻ってしまうのだから、今だけ少しばかり強引に触わっちまっても良いよな?

自己完結した考えに快斗がにっと笑みを浮かべる。

青子がうさぎさんの本能で快斗の邪まな気配を読み取り、大きくびくんっと体を震わせた。

逃げ出される前に腰を掴んで力いっぱい引き寄せる。

胸の中に簡単に捕らわれる華奢な体を体全体で感じて、目の前に来た白い耳に唇を寄せる。



「やだぁ!!」



じたばたともがく青子の抵抗なんて物ともせずに、気になっていた事を確かめる為右手を青子の背筋に滑らせた。



「スケベっ!馬鹿!エッチ!」



思い付く限りに罵詈雑言を並べる青子だが、もともと青子のボキャブラリーに下品な言葉も卑猥な言葉も存在しない。

結局男心を微妙に擽る可愛らしい悪口にでれでれと快斗が笑み崩れる。

伸ばした指先をすっと背骨に沿って伝い降ろす。

身を震わしてむずがる青子に愛しさが溢れ出し、ついでにむくむくと育ってきた不埒な気持ちに後押しされて、とうとう快斗の指先は尾てい骨まで到達する。

ある筈の無い膨らみが其処には有って、快斗はにやぁっと本当にだらしの無い、言ってしまえばスケベな笑顔を浮かべた。



「やっぱしっぽも有るんだ♪」

「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿〜〜〜〜っっ!!!!」



恥ずかしさに耐え切れず快斗の胸に顔を埋めて青子が叫んだ。

耳まで真っ赤に染まっている。

可愛くて可愛くてもうどうしようもない。

つい快斗は勢いでぽろりと赤裸々な欲望を溢してしまった。





「なぁ?見ても良い?」





一瞬目を見開いて信じられないものを見るように脅えながら快斗を凝視する青子の様子に、快斗は自分が大きな失言をした事に漸く気がついた。

青子から超特大のビンタを頂戴した快斗は、その後青子に1週間口をきいて貰えなかった。







† END †

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