困った王子様

蒼月夕様






なんとなく、・・・なんとなくね、気づいてる。

いつも隣にいる、意地悪で優しい幼馴染が、きっととても重いものを抱えていること。

証拠なんてない。

でも・・・青子は確信してるの。

快斗はきっと、青子が気づいてるなんて思ってないんだろうなぁー。

そう思うと、なんっか頭にくるのよね。

わからないわけないじゃない?

だから、もうしばらく、知らんぷりしていようと思うんだ。







今日もお父さんは家にいない。

青子は、誰も止める人がいないのをいいことに、近所の公園でブランコに乗っている。

公園の中にも外の道にも、もう人影はなくて、しんとしたその場所には、ときおりどこかの家から笑い声が聞こえてくる。

公園に立つ丸い時計が、夜11時を過ぎたことを示していた。

と、ふわっと周囲の空気が変わって、目の前に白い影が降り立った。

トン、と軽い音が地面に響く。

「・・・こんな時間におひとりで、どうしたのですか?お嬢さん。」

優しい声。

いつもの声よりも、心持ち低い・・・?

青子は、キィ、キィと軽い音を立てながら、ブランコをこぎつづける。

「なんとなく、お散歩してただけだよ。」

答えると、キッドが困った顔をしたのがわかった。

顔は、逆光で見えていないんだけれど。

「女の子がひとりで、危ないですよ?」

そう言って、キッドはブランコを囲んでいる低い鉄パイプで出きた柵に腰掛けた。

気取った仕草も、似合ってるね。

大っ嫌いと思っていた頃が信じられないほど、今はその姿にも惹かれてる。

「大丈夫なんだよ。キッドさん。」

いたずらっぽく返してみると、キッドは口をつぐんだ。

―――大丈夫じゃねーよ、バーロー・・・。

そんな声が聞こえてきそうだよ。

ねぇ、快斗。

快斗は、青子のキッドに対する態度が、以前とはまるで違っていることに気づかない?

気づいてくれたら、伝わるのにな。

私からなんて、言ってあげないから。

ふと、キッドが立ち上がった。

青子は、ブランコを漕ぐのをやめて、静止したそれに腰掛けたままでキッドを見上げる。

「・・・困ったお嬢さんですね。」

「・・・。」

「・・・でも、どうやらお迎えが来たようですよ。」

「お迎え?」

微笑みたい気持ちを抑えて、青子はキッドを見つめる。

と、ちらりと公園の入り口に視線を向けた、キッドのモノクル越しの瞳が、外灯を受けて一瞬だけ細められたのが見えた。

「これで、私も安心して帰れます。でも、真夜中の外出は程ほどにしてくださいね、お嬢さん♪」

「・・・うん、わかった。」

素直に答えると、ほんの少し驚いたように動きを止めて、次の瞬間煙と共にキッドは消えていた。



もうすぐ・・・もうすぐ、聞こえてくるはず。

公園の入り口に、人影が現れて。

そうしたら、次はきっと、いつも通りの幼馴染の声。

「・・・青子ぉ〜・・・?」

―――ほらね、すぐだった。

青子のお迎えは、あなたでしょう、泥棒さん。

駆け寄ってくる影。

「オメー、なにしてんだよ、こんなとこで。」

「・・・お散歩の途中。快斗は?」

「おれはオメーの家にいったらいなかったから、びっくりして探してたんだよ。」

「心配してくれたの?」

尋ねると、ほのかに赤らむ顔。

大好きだよ、快斗。

「こんな時間にいなかったら、そりゃ心配するだろ。ほら、帰るぞ。」

いつまでもブランコに座ったままで立ち上がらない青子に、快斗は手を差し出す。

「うん!」

笑ってその手に自分の手を重ねれば、呆れたようなため息と共に、力強く引っ張られた。

「あんまり夜中に出歩くなよ。」

「はぁい。」

同じ事を言うんだね、どの姿でも。

いつだって、その存在は暖かい。

ずっと気づいてあげられなくて、ごめんね。

まだまだ快斗は青子の知らない苦しみを持っていると思うけど、どんなものもいつだって青子は快斗と一緒に持ってあげたいと思ってるんだよ。

だから、早く打ち明けてよ。

「快斗、家に寄っていかない?お父さん、まだ帰ってこないから退屈なの。」

「いいけど・・・。」

「やったぁ。じゃあ、あったかいカフォオレ入れてあげるね!」

「・・・ああ。」

明るいその表情が、大切な人を裏切る罪悪感に翳るのは、もう見たくないの。

快斗、お父さんのこと、大好きでしょう?

ひとりで苦しまないで。

青子は、いつだって、どんな快斗だって、絶対隣にいるから。

だからね?

だから・・・





―――早く白状しちゃいなさい!!・・・ね、快斗?









〜fin〜







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