そんでもってKISS
闇が降りてくるのが遅くなった。
空を見上げてそんな事を思った。
隣を歩く青子は楽しげに新発売のチョコレートについて語っている。
どこそこの苺チョコが美味しいとか、あそこのホワイトチョコは通好みだとか。
甘いモノ好きの青子らしい、チョコレート品評を聞きながら横目で時計を確認した。
もう、青子を帰さなければならない時間。
未だ空がぼんやりと明るかったから、つい時間を失念していた。
帰したくない。
そんな風にいつも思う。
でも、中森警部に嫌われたくないから、肝心な時に『駄目だ』と言われ無い為にも、物分りの良い節度有る恋人の振りをしていたかった。
警部に後ろめたい事実を隠し持っている事も原因の一つに挙げられるだろうけど。
「どうしたの、快斗?変な顔。」
見上げる無邪気な瞳に映る我侭な自分。
なぁ、青子は帰りたくないって思わないのか?
縋るように詰ってしまいたかった。
「・・・もうちょっと、良いか?」
「え?『良いか』って?あ、時間??」
細い手首に絡みつく銀のチェーンの時計に目をやり、青子がぱちぱちと瞬きをする。
困っている時の青子の癖。
もう門限時間ぎりぎりまで来ている事に気が付いてしまって、急にそわそわと落ち着かなくなった。
桜色の唇が何か言う前に、そっと自分のソレで塞いでしまう。
見開かれる瞳。
映っているのは俺ただ一人。
「バ快斗!TPOくらい考えてよ!」
真っ赤に染まった頬を膨らませて俺を叱る青子。
背伸び気味に自分の身体を大きく見せて、精一杯怖い顔をして。
今のキスで俺がどんなにお前の事愛してるか伝わらなかったのか?
少し寂しい思いが胸に溢れ、俺は青子の耳心地の良い羽のような声を飲み込んでしまうように深く口付けた。
逃げようとする身体をその場に縫い止めて、キス。
もっと全身で俺のこと感じろよ。
もうちょっと傍に居たいって思うくらい、俺に執着しろよ。
思う存分唇を貪った後、そっと音もなく離れる。
ふらりとよろめく華奢な身体を右腕一本で支えて、桜色の柔らかそうな耳朶に息を吹きかけるように囁いた。
「あと、5分。」
「・・・5分、だけだよ?それ以上は、ダメ。」
上目遣いで軽く睨む瞳。
甘い吐息がすぐ近くで弾んでいて、俺は嬉しくなる。
なぁなぁ。
俺の可愛い可愛い青子さん?
愛してるよ?
こんなにも大事だよ?
だから良いだろ?
思いの丈を雰囲気たっぷりに囁いて。
青子のガードが緩んだ所で。
そんでもって、キス。
† END †
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