愛っていうのはね
かえ様
『心で受け取るもの、なーんだ?』
愛っていうのはね
「なぞなぞだよ、快斗。心で受け取るもの、なーんだ!」
「心で受け取るものォ?」
「へへへー。さあて、なんでしょう?」
「俺がそれに答えられると賞品とか、あるわけ?」
「賞品がなかったらやらないわけ?」
「無いより有った方がヤル気になる。」
「うーん・・・考えて無かったよ・・・じゃあ、快斗の好きなもの。」
「好きなもの?」
「そ!あんまり高くないもの・・・なら。」
「ふ〜ん。」
「ね、ね、答えわかる?」
「バッカヤロー。いくら俺が頭良くったってそんなにすぐわかるかよ。」
「じゃあね、ヒント!」
「ん?」
「目では見えないんだけどね、すごくやさしいの。あったかいの。」
「ふんふん。」
「それでね、青子には有って・・・快斗は持ってないかもしれない。」
「は?なんだよ、それ。」
「いいのォ!考えなさいよ。青子、買い物してくるし。」
「"心で受け取るもの"ねえ・・・」
青子が買い物に行き、俺ひとり残ったがらんとした部屋の床に座って、考えていた。
あいつがいれた紅茶を飲むともうそれはすっかり冷えていて美味しくなかった。
「ちぇ、美味くねーや。」
紅茶を流しに捨てて、冷蔵庫の中から冷えたカクテルを取り出す。
『ピーチ・キス』というアルコール4パーセントの子供だましのような酒だ。
ただ、それを飲んだ青子とキスをするとモモの味が口いっぱいに広がるキスができるので、そのキスは悪くないと思っているので、置いている。
ビンのふたを開け、グラスに並々と注ぐと金色の酒は微かな香りを放っていた。
『ピーチ・キス』
(・・・たく、さっさと戻ってこいっつーの!)
ひとりでは何にも出来ない。
キスも出来やしない。
そんな事を考えていると、急に睡魔が俺を襲ってきた。
『お日様のにおいの部屋』と青子が称したようにこの部屋は太陽の光がさんさんと降り注ぐ。夏の残暑も幾分やわらいで風は微かに秋を運んでいる。
(・・・ねみー・・・やく、はやく帰ってこい・・よ・・・)
うとうととしてきて、ここで寝たら風邪を引くだろうとぼやけた頭なりに思いついた俺はすっかり睡魔にその意識を明渡そうとしている体を引きずり、なんとかソファの端を視界に捕らえた。
そのままなだれ込む。
ソファに沈んだ体は跳ね返って一瞬宙に浮く。
その、一瞬。
親父の整髪料の匂いがした・・・そんな気がした。
でも、そんな事を考える前に俺は瞼を閉じていた。
『海の中にいる人、なーんだ。』
『母さん!』
『3匹のカエルの真ん中は大人?子ども?』
『大人に決まってるじゃん!カエルはおたまじゃくしが大人になったヤツだろ?』
『ははは・・・大正解。快斗は頭がいいな。』
ああ・・・これは夢だ。
親父が生きてるとき、よくこうやってなぞなぞしたっけ。なつかしいな。
『じゃあな、快斗。心で受け取るもの、なーんだ?』
『心で受け取るものォ?』
『快斗にはまだ少し早いかもしれないな。・・・ヒントをやろう。
目では見えないんだけどね、すごくやさしい物なんだ。あったかい、素晴らしい物だよ。
私や母さんには有って・・・快斗は持ってないかもしれないな。』
『えー!?なんで?なんで俺は持ってないの!?』
『それはね、快斗。お前はまだ巡り会っていないんだよ。その相手にね。これはね、持ちたくても持てる物じゃないんだ。一生持てない人もいる。
でもお前は大丈夫だ。きっといつか・・・そう遠くない未来に、お前に"それ"を与えてくれる人がやってくるから。
この人だ!と決めたら絶対にその人を手放してはいけないよ?何があっても守るんだぞ。』
『うん!わかったよ、父さん!・・・で?答えは?』
『"心で受け取るもの"、それはね―――――・・・』
「・・・・いと・・・かいと!」
「んっ・・?あ・・・おこ?」
「もー、ダメじゃない。こんな所で寝てたら風引くよ?」
「おまえ、いつ帰ってきたんだ?」
「今さっきよ。・・・ねえ、わかった?」
「ああ・・・わかったよ。でもな、おまえ、このなぞなぞどこで聞いたんだ?」
「えっとお・・・」
「どーせ母さんにでも聞いたんだろ?」
「あ、バレちゃった?素敵ななぞなぞよね。おじ様らしいわ。」
「ふん・・・」
「で、答えは?」
「"心で受ける"と書いて・・・"愛"だろ?」
「正解。」
「で?なんで"青子には有って快斗には無い"んだよ。」
「え・・・だって・・・"愛"って、すっごく重いんだよ?"恋"じゃないんだよ?青子の、快斗への気持ちはね、もう"恋"じゃなくて"愛"なの。それだけ重くなってるんだよ。
・・・快斗の気持ちは、そこまで重くない・・・と、思って・・・」
「バーロー・・・俺の片想い歴何年だと思ってるんだよ!俺のキモチなんてとっくに"愛"なんだぜ?」
「そ・・・うなの?なんかくすぐったいなー・・・」
「青子、賞品は?」
「あ、そういう約束よね。何がいい?」
「何でもいいわけ?」
「あ、あんまり高いのはダメだよ?車とか、バイクとかー・・・」
「じゃ、青子。青子が欲しい。」
「ふぇ?」
「青子が欲しい。それはダメ?」
「ダメ・・・っていうか・・・」
「青子が欲しい。青子、俺と結婚しねえか?」
「かいと・・・」
「賞品、くれるんだろ?賞品は"中森青子とずーっと一緒に生きていく権利"っていうのはどう?」
「バッカイト・・・冗談で言ってるの?」
「バーロー!・・・冗談でこんなこと言えるかよ。俺は今、KIDじゃねえし、新一じゃねえから、気の利いた事言ってやれないけど・・・青子、俺と結婚してください。」
「快斗・・・うん、うん。結婚しようね。・・・そうしよう・・・!」
「・・・なに泣いてるんだよ。泣き虫青子。」
「うるさあい・・・っ・・・泣きたくなんッ・・かなッ・・けど・・・ってに、勝手に出て来るんだもん!」
見えないまあるい物。
あったかくってやさしい物。
ふわふわしていて、でも、確かな物。
その幸せを、大切なあなたと分かち合えたら・・・って思ってたんだ。
作ってみよう。俺たちなりの"愛"の形を。
一生かけて、ふたりだけで。タイムリミットは死が二人を分かつまで。
いや、もしかしたら、死んでも残って受け継がれていくものかもしれないな。
バッハだっけ?いや、シューベルト?・・・わかんないけど、今もディスクに乗って、誰かに聞いてもらえる日を待って、宇宙空間を漂ってる極上の音楽みたいに。
なんかいいよな、そういうの。
「いい加減に泣き止めよ、アホ子!!」
「・・・うるさい、バ快斗ッ!!」
『"心で受け取るもの"、それはね―――――・・・愛っていうんだよ。』
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