Kiss,Kiss,Kiss.
かえ様
「青子・・・・」
快斗が青子の肩をがっしり掴む。
春の夕暮れ。
オレンジ色に染まる公園のブランコ。
「青子・・・・」
甘くて優しい快斗の声。
「快斗・・・・」
快斗は青子の肩に置いた手を腰へと滑らせる。
青子はゆっくりと快斗の髪に指を絡ませる。
ぶつかり合う視線。
時は永遠と化す――――――――・・・・・
ジリリリリリリリ・・・・・・
「っきゃあ!」
目覚ましの音で飛び起きる。
な、なんなのよう!いまの夢は!?
心臓が早鐘となり、わけもなく汗が吹き出る。
ときめくような甘い感覚と、後ろめたい感覚。
ど、どうしちゃったのよう!どうしちゃったの・・?青子は・・・。
なんて夢。
「青子・・・・。」
青子って
「欲求不満なのかな・・・・?」
「よっ!オハヨ、青子!」
「え・・・あっ!?・・・オハヨ・・・快斗・・・」
まともに快斗の顔が見れない。
「?」
快斗は不思議そうに青子の顔を覗き込む。
「きゃあ!?」
「うわっ!なんだってんだよ、アホ子!!びっくりするじゃねーかっ!!」
「快斗っ!!青子、先行くねっ!!じゃ〜ねっ!!」
「おい、あお・・・・」
快斗の声も耳に入ってないのか、青子は猛スピードで立ち去った。
「なんなんだよ・・・・アホ子のヤツ・・・・」
残された快斗は呆然とするしかなかった。
快斗のバカ、快斗のバカ、快斗のバカ――――っ!!
びっくりしたのはこっちよ!?
あ〜も〜!!
いきなり顔覗かないでよう!
今朝の夢、思い出しちゃったじゃない!!
恥ずかしいよ・・・青子、快斗とキスしたいのかなあ・・・
でも、ほんっとリアルな夢。
快斗の感触とかがまだ体に残ってる。
思い出すだけで熱い。
どうかなっちゃいそう。
「はあ・・・」
「どうしたのよ、青子。あんた今日変よ?」
「なんでもないよ。恵子。」
「そう〜?なんかぽ〜っとしてるっていうか、熱っぽいっていうか・・・・あんた、体調悪いんじゃない?」
「そんなことないよ・・・・元気だよ。」
「ならいいけど。」
恵子はスルドイ。
女のカンというヤツか。
彼女のスルドイ指摘を受け、内心びくつきながらも青子は平静を装う。
「あたしはてっきり快斗君となにかあったんじゃないかって思ったのに・・・」
「なんにもないよ〜。それに快斗とはただの幼馴染で・・・」
このセリフ、年に何回言っているのだろう。
『ただの幼馴染』。
微妙な関係。
青子は快斗のことを『ただの』幼馴染なんて思ってはいない。
快斗はどうなんだろう?
聞いてみたいけれど、まだ早すぎる。『ただの幼馴染』の関係を失ってしまう事の覚悟が青子には、まだ、なかった。
「あーおーこーちゃーん♪帰ろうぜっ!!」
「えっ・・・・あ、青子、買い物あるから・・・快斗、さき帰ってていいよ!?」
「ん?そうなのか?んじゃあさ、荷物持ちしてやるよ。」
「うんんっ・・・あ、ほんとにいいから・・・いいから、うん。」
「ふ〜ん・・・・じゃあ帰るけどよ・・・なんかオメーヘンだよなー・・・」
「えっ・・あ、そんなことないよっ!じゃ、ねっ」
快斗の顔が見れない。よく見れば快斗って美形なんだもん。
快斗がモテルのは知っている。
でも、それって、『人気者』というかんじでモテているんだろうと思っていた。
いつもにぎやかで、女の子(青子除く)にはやさしくて。ついつい目が追ってしまう、そんなヤツだから。だから人気があるんだろう、と。
でもちがう。
快斗は魅力的だ。
背だって高いし、すらりとした猫のような身のこなし。
ちょっと意地悪そうな瞳に、やわらかい髪。
・・・・・それに、きれいな・・・・唇。
青子、なに考えてるんだろう・・・・!?
「待てよ、青子!!」
快斗が青子の腕を掴む。
青子の二の腕を彼はいともたやすく掴んでしまう。
おおきな、男の人の、手。
快斗は男の人なんだ。
そう思うとなんか、とっても恥ずかしくて。
「・・・やっ・・・快斗・・はなし・・」
「おめえ、めちゃめちゃカラダ、熱いじゃん!?」
快斗はいつか、青子が快斗にしたように額を青子の額にくっつける。
青子が快斗にしたときには気付かなかったけど、快斗の顔が目の前で。
快斗の吐息が青子にかかって。
快斗と目があって。
快斗の体温が熱くて。
とても、熱くて。
頭が真っ白になった。
「・・・・っつ!快斗、離れてよっ!!」
「おわっ!?」
青子はあるだけの力を振り絞って快斗を突き放す。
無防備だった快斗のカラダはそのまま床に倒れる。
「青子!?」
「・・・ごめ・・・ゴメンッ・・・!!」
もう、めちゃくちゃで。
快斗となんて、何回もああして額をくっつけてきたけど、もう、いままでのことなんて関係なくて。
快斗の気配とか、視線だとか、体温だとか、そんなもので、青子は真っ白になってしまって。
快斗が初めてみる男の人のようで。
快斗はただ、呆然と青子を見つめていた。
その場をすぐに立ち去ろうとしたけど、力が入らなくて。
「・・・あおっ!!」
目の前の世界がゆがんだ。
「・・・・38度ジャスト・・・か。」
朦朧とした頭に快斗の声が優しく響いてくる。
ひんやりとした手の感触が気持ちよい。
「・・・・・んっ・・・かい・・・と?」
「お、気が付いたか?」
青子はベットの中だった。
「38度ジャスト!だから今日おめえヘンだったんだな?ったく、ガキじゃねえんだから、体調管理くらいしろよ!?」
「青子、熱あるの・・・・?」
「あるのっ!!でさ、今夜、警部いるのか?」
「ううん・・・お父さんは出張で明後日まで帰ってこないの・・・」
「まいったなー・・・母さんもいないのに・・・しかたねえ、俺が泊まっててやるよ。」
「ええっ!?快斗が!!」
「しかたねーだろ?おまえ一人にできないし。」
「で・・・・でも・・・!!」
「なに言ってんだよ、イマサラ。・・・・いいからおとなしく寝てろっ!!」
「・・・・・・」
「なんだよ・・・」
「・・・・迷惑かけてごめんね・・・・」
「なに言ってんだよ。いいから寝てろよ?」
優しい快斗の笑顔。
快斗はなんだかんだいったって青子にやさしいから。
時々勘違いしそうになる。
その笑顔は青子のものではない。
快斗の腕は青子に差し伸べるためのものじゃない。
いつかはっきりさせなくちゃ、って思う。
けれど、いまの青子にそんな勇気はないから。
ずるいけど、もうすこしこのままでいていいよね?
ね?快斗・・・・・・・・
「青子、おかゆ・・・・っと、寝てんのか・・・」
すやすやと寝息を立てている彼女を起こさないようにそっと額に触れる。
いくらか熱は下がったらしい。
「幸せそうな顔しちゃってよ。」
俺が今日、どんなキモチだったかわかるか?
熱でおかしかったとはいえ、青子に拒絶されたんだぜ?
そりゃあショックだった。
ショックだったのと同時に、俺はやっぱり青子が好きなんだと自覚した。
溢れんばかりの青子の笑顔。
時々勘違いしそうになる。
青子の笑顔は俺のものじゃない。
その笑顔は決して俺に向けられているわけではない。
『神が見捨てし仔の幻影――――――Kid the phantom thief』
神様にも見捨てられたくらい汚れた俺にその笑顔はふさわしくない。
ま、いつかはっきりさせなきゃなんねーんだけど。
いまは、まだこのままでいいよな?
な?青子・・・・・・・・
PIPIPIPI・・・・PIPIPIPI・・・・PIPIPIPI・・・・
「んっ・・・?」
目覚ましの音に俺は飛び起きた。
どうやらあのまま眠っていたらしい。
「青子・・・・・!?」
青子が寝ていたベッドはすでに冷たくなっていて、青子が起きていると告げている。
急いで下におりてみると、青子がいつもと同じようにエプロン姿でキッチンに立っていた。
自然と笑顔がこみ上げてくる。
「もういいのか?青子。」
「おはよう快斗!!昨日はありがとね。もう全然平気だよ、快斗のおかげだね。」
「そっか。よかった・・・」
「快斗、朝ご飯もうちょっとでできるよ?さっさと顔洗ってきてよ!!」
「おう!」
「さっさとしろよ!置いてくぞ!!」
「待ってよ〜快斗!!」
「ったく、トロイな青子は!」
「快斗の意地悪・・・・っつ、きゃあっ!!」
アスファルトの裂け目に足を取られ、青子のカラダはがくんと前に倒れる。
「・・・・ふー・・・ギリギリセーフ・・・・」
快斗は片手で青子を抱きとめた。
ドキッ!
青子の心臓がまた跳ね上がる。
でもそれは心地のよいもので。
「ったく、ボケ―っとしてんじゃねーよ!!」
「ボケ―っとなんてしてないもん!」
「おめえは目が離せねえなっ!」
「青子、一人で大丈夫だったら!」
「大丈夫じゃねーじゃんか!!」
「子ども扱いしないでよ!!」
憎まれ口は気に障るけど、これが青子の好きな人。
「やべっ!もうこんな時間!?青子、走るぞっ!!」
「え〜!!ちょ、ちょっと待ってよー!!」
・・・・それにしても、昨日の夢はなんだったの?
〜K・K少年の回想〜
「こんばんわー♪中森さ〜ん♪・・・・・って、寝てるよなー」
KIDの格好をした快斗は青子を起こさないように静かに青子の部屋へと侵入する。
夜中の2時。
もちろん青子が起きているわけではなく(起きていたらそれはそれで困るのだが)青子は深い眠りの中。
寝ているとわかっていても緊張した仕事が終わるたびに見たくなるのは青子の顔で。
KIDの仕事をして青子の部屋に行く、というのがすでに日課となっている。
「幸せそう顔してるよなー・・・ホント。」
天使の寝顔とはこのこと。
安らかな寝顔に惹きつけられて無意識のうちに顔が近づく。
「青子・・・青子」
いつか、彼女に好きな男でも出来たら俺の元から離れていくかもしれない。
「青子・・・」
俺が好きな青子の笑顔を独占するヤツが現れるかもしれない。
いいようのない不安。
それでも。
今の自分に告白する勇気なんてないから。
情けないけど、もう少しこのままで。
「あおこ・・・・・・」
願いが叶えられるとしたら、望みはたった一つ。
いつでも青子と在る事。
天使の唇に長いキスをして立ち去る怪盗に月は優しく微笑んでいる。
・・・しかし、このキスが原因で青子が激しく悩む事を恋する彼は知る由もないのである。
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