君に完敗!
青子が来てるってのに、風呂に入れと煩く言われて、俺は結局青子をリビングに置いたまま、風呂場に追いやられた。
どうやら母さんは俺に内緒の話が青子にあるらしい。
素直にそういや言いのにと思ったが、下手な芝居に乗せられてやっても良いかなと、俺は機嫌良く風呂に向かう。
青子は最近物騒な事件が多い事から、中森警部が夜勤で居ない日にはうちに泊まりに来るようになった。
ラッキーと思えてしまう程度に、俺は青子に興味があって・・・
ってな言い訳は止めだ。
下心バリバリで青子を見てる俺には天国であり地獄の夜だったりする。
また風呂上りでほんわぁと柔らかそうな青子、見る羽目になるんだよな〜。
浴槽に体を沈めながら、ぼぅっと想いを馳せてみる。
前回は不意打ちで風呂上りの色っぽい姿を見せられたもんだから、かなりヤバかった。
反則技使いやがって・・・青子の奴。
変に思われなかっただろうな?
俺は思い返して蒼くなったり赤くなったり。
「母さん〜。出たぜ。」
冬でも風呂上りは熱かったりするので、俺は大抵暫くの間パジャマはちゃんと着ない。
下だけ引っ掛けるように穿いて、上は腕に持ったまま台所に直行した。
頭の上に被せたタオルで時折滴り落ちる水滴を乱暴に拭う。
冷蔵庫からアクエリアスを引っこ抜いてごくごくと喉に流し込んで水分補給をした。
「快斗ぉ〜?」
ひょいっと暖簾を潜って青子が台所に顔を突っ込んで来た。
俺は振り向いて「お〜」と手を挙げる。
青子はきょとんっと俺を見ていたが、突然絹裂くような悲鳴を上げた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「何だぁ?!」
「いやぁぁ!!!!信じられないっっ!ばかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
青子がその場にしゃがみ込み、耳まで熟れたトマトみたいに真っ赤な顔をして悲鳴を上げる。
俺は事態が理解出来ずと呆然とそんな青子を見ていた。
「なぁに?快斗。青子ちゃん苛めて。」
母さんが青子の上から暖簾を掻き分けて俺を叱りつける。
俺だって何が何やら、分かっていないので、そんな母さんを困った様に見詰め返した。
「別に俺何もしてないぜ。」
冷たくなった水滴が肩口にぽとりと落ち、俺はぶるりと背筋を震わせた。
台所は意外に冷えるので余り長くは居たくない。
母さんが青子の肩を抱いて立ち上がらせるのを確認して、俺も冷蔵庫にアクエリアスを戻し、二人に近付いた。
潤んだ子犬みたいに大きな瞳が俺の姿を再び捉える。
くしゃっと歪む泣き顔。
「やだぁぁぁぁ!!!!!!!」
「さっきから何だよ?!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」
思わず伸ばした腕に青子がさらに悲鳴を上げて母さんの後ろに逃げ込む。
おいっ!幾らなんでもそんな事されたら俺だって気になんだよっっ!!!!
「いい加減にしろよっ!オメー。俺の何が不満なんだよっっ!」
「馬鹿ぁぁぁぁぁ!!!!そんな格好しないでよっっっ!!!!!!」
「格好ぉぉ?」
自分を見下ろす。
別に普通のパジャマに淡いブルーのタオル。
俺の何処がおかしい格好をしてるってんだよ。
母さんも青子の言葉に釣られる様に俺の格好を見て、それからにやりと食えない笑顔になった。
「あらあら。快斗ったら。」
「んだよっ!母さんまで!俺のどこが悲鳴上げなきゃならんほどの格好だってんだよっっ!」
「やぁぁぁぁっっっっ!来ないでっっっ!!!!!!!」
一歩足を前に出しただけで、青子の完全拒絶の悲鳴が上がった。
かちんっと来る。
「オメーいい加減にしろよなっっ!んな夜道で露出狂に会ったみたいな悲鳴上げやがってっっ!」
「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「こんのアホ子っっっ!」
「近付かないでっっっ!来ないでっっっ!腕伸ばさないでっっっ!!!!」
俺の唇が邪悪に跳ね上がる。
ココまで何で言われにゃならんのだ。
この天下の怪盗キッド様が。
俺は青子の逃げを打つ華奢な体を母さんの背後から引きずり出して、そのままリビングにずるずると連れ出す。
明かりが煌煌と落ちる下で、真っ赤な顔で瞳をぎゅっと瞑って俯く青子に堂々と対峙した。
「言って見ろよっ!俺のどこが変な格好だってんだよっっっ!」
「ふぇ・・・」
「おいっ!泣いてんじゃねーよっっ!んな事でっっ!」
「だって・・・快斗服着てないんだもんっっっ!!!!!!!!!」
「風呂入ったからじゃん。んなの。」
「青子が居るのに〜〜〜〜!!!!」
「はぁ?青子がなんだってんだよ。別に今更。」
「バカァァァァァァ!!!!!!」
いやいやと顔を振る青子の右手をぱしんっと掴むと青子ががくんっと腰を崩した。
「おいおいおいっっ・・・」
ずるりと力を失って青子がぺたんと床にお尻を付く。
「あっち行っちゃってよっっ!!!バ快斗っっ!!!!」
「てめっっ!ココは俺んちだってのっっ!んだよっっ!まったく訳分かんね〜。」
少なからず青子の態度に傷ついた俺は母さんが含み笑いで差し出したパジャマをようやく羽織、青子から離れてソファーにどかっと座り込んだ。
青子は俺から逃げる様に風呂場に掛け込んだ。
ちっくしょ〜〜〜。
俺が何したってんだよ・・・・
何も出来ねーのに。
母さんが俺の真正面に座りにこにこと笑いを飽きる事無く零している。
俺の顔を見て笑ってるから、さっきの事に関係あるんだろう。
ちっくしょ〜〜〜。
「快斗馬鹿ね〜。鈍感。」
「んだよ?!」
「自分の体、鏡で見た事ないの?」
「・・・あるに決まってんじゃん。」
「じゃあ女の子の目にどんな風に映るのか、考えた事ある?」
「は?」
「母親の贔屓目抜いても、貴方お風呂上りにそんな見事な上半身見せ付けるみたいに半裸でうろうろするなんで、ある意味最大の精神攻撃じゃない。」
「・・・あの。訳分かんねーんだけど。」
「無意識ってのが極悪よね。本当困った男。」
楽しげに笑う母さんと、未だに困惑している俺。
「昨晩お風呂上りの青子ちゃん見てドキドキしてたでしょ?それと同じ事よ。可哀相に青子ちゃん。耐性付いてないのに、あ〜んな快斗見せられちゃって。」
「へ?!」
「当分近付いてもらえないわよ。貴方。残念ね。」
「・・・何?それってつまり・・・」
「青子ちゃん悩殺しちゃったって事ね。でもご愁傷様。行き成り高度テクニック使っちゃって、青子ちゃん受け留めきれなかったみたい。」
「はいぃぃ??」
「今日どころか、2・3日は口聞いてもらえないわね。快斗。遠くから観賞するだけで我慢なさい。」
意地悪げに足を組み、母さんが俺を追い払う様にしっしっと手を振った。
そんなのありかよ?!
別に俺なんも考えてねーのに。
がぁぁぁぁん。
俺の心を代弁するかのように力を失った濡れたタオルがべちゃっと床の上に落ちた。
† END †
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