ホットライン -after-





*おまけ*











ぴっと携帯電話の電源をOFFにすると、平次は目の前でくてんっと酔っ払っている少女二人に声を掛けた。

どこか優しげな風貌で。

「ほれほれ、ねーちゃん達。もうお開きにするで?」

「え〜。未だ飲む〜。」

「青子も〜。今日は一日中飲むの〜。」

自暴自棄げに不満を零し、蘭は目の前の日本酒を、青子は目の前のワインの瓶を抱き締めた。

絶対に離さないと言いたげな視線をさらりとかわし、その横で困り顔をしている和葉に声を掛ける。

「もう寝る準備できとんのやろ?」

「お布団は引いてあるんよ。二人ともお風呂はやばいと思うし、あとこのまま寝るだけや。」

「ほななんとか布団に押し込んどき。明日の朝は早いで〜。」

「なして?なんか用事あるん?」

思い当たる節のないスケジュールに和葉は首をかくりと傾げる。

折れそうな白い首筋は柔らかい室内灯に照らされて、滑らかな肌質を想像させた。

平次は面白そうな顔をして、手近な空き缶から片し始めながら世間話のように話始めた。

「今の電話、あいつらだったんや。えろう慌てて電話掛けてきとるから、おかしゅーておかしゅーて。」

「やっぱり。平次そんな顔しとったから。」

「でな。あいつら、これからこっち来るってゆーとんのや。」

自分の予想を確定事項として口にする平次。

もちろん和葉にその違いは分からないし、永遠に知る事もないだろう。

「へ?これからって・・・どないして?」

「車やろ。二人とも免許持っとるし。」

「・・・大丈夫なん?」

「やばいやろなぁ。怒りと焦りに任せてアクセル踏むんとちゃうか?こりゃタイムトライヤルレースになるやろ。どう考えても。」

酒類の空き瓶空き缶と種類豊富なおつまみが乗っていたテーブルの上が瞬く間に綺麗になる。

西の幼馴染コンビの手際の良さは目を見張るものがあり、ぼぅっとアルコールの回った頭で見ていた蘭と青子は魔法でも見ているかのように感じる。

最後に濡れ雑巾でテーブルを拭く和葉を横目に平次がくるりと振り返りにからりと笑った。

夜に実に合わない、笑顔だった。

「嫉妬に狂った王子様が来るで〜。ねーちゃん達も美人さんで迎えてやらな、可哀相やろ。」

「・・・誰が、来るの?」

泣きそうな声。

蘭は俯いてしまって声もない。

「きっと、来ないよ。どうせ、青子の事なんて・・・」

笑い上戸が一転して泣き上戸に変わる。

くしゃりと子供のように顔を崩してみるみるうちに大粒の涙をその瞳に溜めた青子を見て、和葉が慌てた。

「そんな事ないで?きっとエライ形相で駆け込んで来るし。ああ、泣かんといて。」

鮮やかなオレンジ色のミニタオルを取りだし、柔らかな頬を滑り落ちる大粒の涙を拭く和葉。

されるままに、青子がぼろぼろと子供のように泣いている。

俯いたままの蘭には平次が頼もしい口調で慰めている。

「あんな、ねーちゃん。あいつエエカッコしぃやから分かりにくいやろけど、ねーちゃんの事大切にしとるで?今頃早く許してほしゅーて急いでこっちむかっとる頃や、明日の朝一には家の前たっとるで?」

「・・・居ないよ。きっと」

「おるおる。絶対おる。俺の探偵生命賭けてもええで?」

「・・・でも。」

「泣き疲れた腫れぼったい顔で会いとぉないやろ?たっぷり睡眠とって、出迎えてやり。な。」

静かに涙を零した蘭に殊更ゆっくりと含めるように言い聞かせる。

未だ吹っ切れずに迷っている蘭の細い肩をぽんと大きな手の平で叩く。

もう一度背中を押してやるようににっと笑うと、とうとう小さく蘭が頷いた。

「ほれ、そっちのねーちゃんも。」

和葉に説得されて、青子もこくりと頷く。

平次は満足げに大きく肩を慣らし、ドアへと踵を返した。

「俺ももう寝るわ。明日はあいつらと対決せなあかんし。」

「なんや、もう事件起こる気でおるの?縁起悪いわぁ。」

「ちゃうわ。あいつらからかい過ぎたツケ回ってきよるねん。性根入れて出迎えなこっちがコテンパにやられるわ。」

苦笑いは少々心許無い。

和葉も東の二人の実力を知っているだけに、苦笑いを浮かべた。

「ご愁傷さま。」

「んな言葉より、明日力一杯援護したってぇな。」

軽口を叩き、あっさりと平次は出て行った。

明日は朝から賑やかで楽しい事になりそうだ。







† END †

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