騒音の人体への影響と騒音性難聴の予防対策



1、騒音の人体への影響

 騒音は、聴覚のみでなく、人体へ様々な影響を及ぼす。

 1) 疲労の増大
 2) 心理的不快感、イライラ、精神集中の困難、不安感
 3) 吐き気、嘔吐
 4) 胃の分泌液の減少、収縮運動の減少
 5) 心血管系への影響、特に血圧の上昇
 6) 唾液分泌の減少
 7) 自律神経、内分泌系への影響
 8) 睡眠妨害

2、業務起因性の難聴

災害性難聴 爆発など強大な音響、気圧によってあるいは頭部の外傷などによって瞬時に聴力が低下するもの。前者を急性音響性外傷という。
騒音性難聴 騒音に慢性的に暴露されているうちに次第に進行する難聴
騒音性突発性難聴 騒音性難聴が進行するうちに突発的に原因なく起こる難聴、生体側の一過性の抵抗減弱に起因する急性音響性外傷とも考えられる
中毒性難聴 鉛、無機・有機水銀、ヒ素、一酸化炭素等による中毒に伴う難聴、内耳から中枢にかけての部位の障害による。
高気圧作業難聴 潜函病に伴って、あるいはその後遺症としてみられる。

3、騒音の聴力への影響の現れ方

 騒音性難聴の起こり方は、暴露騒音の音圧レベル、周波数、衝撃性および暴露時間によって異なる。いずれの場合も4000Hzを中心とした高音域の聴力損失が最初に現れる。日常会話音域は500~2000Hzであるため、早期の聴力低下は自覚がない。騒音暴露が持続すると4kHzのみならず2000Hz、1000Hzにおける聴力も低下し、日常生活に支障をきたすようになる。

 聴力レベルの低下は個人差が大きいが、血圧の低い人、中耳炎やスプレプトマイシン注射の既往のある人、頭部打撲の既往のある人、慢性の偏頭炎や蓄膿症のある人、アレルギー体質の人等は騒音性難聴をきたしやすいといわれている。

 騒音レベルが大きければ大きいほど、また、連続音より衝撃音の方が騒音性難聴の発生率が高い。騒音性難聴の前駆期には耳鳴りが起こる。一般健康診断で 4000Hz の周波数で「所見あり」と判定された人は必ず詳しい聴力検査を受けることが重要である。

騒音性難聴の現れ方

一過性聴力閾値上昇
TTS
 騒音暴露後短時間に起こる聴力低下で、可逆的なものであり、聴覚の疲労現象とも解される。
永久性聴力閾値上昇
PTS
 一日の作業で起こるTTSが十分回復しないうちにまた騒音暴露を受けることを繰り返すと、コルチ器官の器質的病変を生じており、騒音性難聴はこの状態をいう。
音響外傷  災害性難聴に分類されるもので、きわめて短い時間のうちに強大な音響により聴器が損傷されて起こる永久的聴力損失をいう。

4、聴覚管理

 騒音性難聴を治療することは現在のところ不可能である。進行を予防するために各種のビタミン剤、抹消血管拡張剤等の服用が試みられているが効果は期待できない。大切なことは、騒音の低減、耳栓着用の励行、暴露時間の短縮を講じるとともに、適切な聴覚管理を行うことである。

1) 聴覚管理の目的

a) 騒音作業従事者の個々の聴力の程度、変化、耳なり等の症状および騒音暴露状況を調べ、個人の健康管理を進める資料とする。
b) 集団としての騒音の影響を調べ、騒音管理の資料とする。

2) 聴覚管理対象者

 労働安全衛生規則588条に該当する作業および騒音障害防止のためのガイドライン別表代2に掲げる作業に従事するものを聴覚管理の対象とする。すなわち、等価騒音レベルが85dB以上の職場で働く労働者が対象となる。

3) 聴力検査の時期と種類

a) 雇入時等健康診断

 騒音作業に常時従事する労働者を新たに雇い入れ、または当該業務へ配置する時実施する聴力検査は、将来にわたり聴覚管理の基準として活用されることから重要な意味を持つ。
 このため、聴力検査は250~8000Hzまでの聴力の検査を行う。

b) 定期健康診断

 騒音作業従事労働者の聴力の経時的変化を調べ、個人および集団としての騒音の影響を把握する。ここで得られてデータは聴覚管理の基礎資料とし、また作業環境管理や作業管理に反映させる事が重要である。

 定期健康診断は6ケ月以内毎に1回定期に行う。

 健康診断項目は次のとおり。(「騒音障害予防のためのガイドライン」平成4年10月1日、基発 546 号)
健 診 項 目 雇入時 定期
 1) 既往歴の調査
 2) 業務歴の調査
 3) 自覚症状および他覚症状の有無の検査
 4) オージオメーターによる250、500、1000、2000、4000、8000 Hz における聴力の検査
 5) オージオメーターによる1000、4000Hzにおける選別聴力検査  
 6) その他医師が必要と認める検査
注) ●印は、○印の項目の健康診断結果から医師が必要と認めた場合に行う検査。

c) 離職時等健康診断

 離職時または騒音作業以外の作業への配置転換時の聴力の程度を把握するために行う。離職時等前の6ケ月以内に定期健康診断を行っていない場合は定期健康診断と同じ項目の検査を行うことが望ましい。

4) 健康診断結果の評価

a) 雇い入れ時等健康診断の結果は、就業時の聴力としてその後の健康管理上の基準とする。

b) 評価および健康管理上の指導は耳科的知識を有する産業医または耳鼻咽喉科専門医が行う。異常がある場合にはそれが作業環境の影響か否か、障害がどの程度か、障害の進行が著明であるかどうか等を判断する。

c) 選別聴力検査で異常のあったものに対しては三分法平均聴力レベルを求めて記載しておく。
三分法平均聴力レベル
    =(500Hz聴力レベル+1000Hz聴力レベル+2000Hz聴力レベル)/3

聴力レベルに基づく管理区分

聴力レベル 区  分  措  置 
高音域 会話音域
30dB未満 30dB未満  健常者 一般的聴覚管理
30dB以上
50dB未満
要観察者
(前駆期の症状が認められる者)
第2管理区分に区分された場所等においても防音保護具に使用の励行、その他必要な措置を講ずる。 
50dB以上  30dB以上
40dB未満
要観察者
(軽度の聴力低下が認められる者)
40dB以上 要管理者
(中等度以上の聴力低下が認められる者)
防音保護具の使用の励行、騒音作業時間の短縮、配置転換、その他必要な措置を講ずる。
注1) 高音域の聴力レベルは、4000Hzの聴力レベルによる。
注2) 会話音域の聴力レベルは、3分法平均聴力レベルによる。

5) 事後措置

健康診断結果に基づく事後処理は表1に示す措置を講じることを基本とする。この際、耳科的既往歴、騒音業務歴、現在の騒音作業の内容、防音保護具の使用状況、自他覚症状を参考にするとともに、聴力の生理的変化、すなわち老人性難聴の影響も考慮する必要がある。

4-6) 健康診断結果の報告

 健康診断の結果報告は「指導勧奨による特殊健康診断結果報告書」を用いて報告を行う。




5、労働衛生教育

労働衛生教育は、騒音作業従事者だけでなく、これが事業所内における騒音障害防止対策に係わるものであることから、管理監督者や騒音発生源の機械設備担当者に対しても実施されることが望ましい。

労働衛生教育の内容

科  目 範  囲 時間
1)騒音の人体に及ぼす影響 1)影響の種類
2)聴力障害
60分
2)適正な作業環境の確保と維 持管理 1)騒音の測定と作業環境の評価
2)騒音発生源対策
3)騒音伝播経路対策
50分
3)防音保護具の使用方法 1)防音保護具の種類及び性能
2)防音保護具の使用方法及び管理
30分
4)改善事例および関係法令 1)改善事例
2)騒音作業に係わる労働衛生関係法令
40分

6、作業環境測定結果の評価
測定は6ケ月以内毎に1回、作業が定常的に行われている時間帯に行うこと。

第1管理区分
当該場所における作業環境の継続的維持に努めること。

第2管理区分
a) 当該場所を標識で明示する等の措置を講じること
b) 施設、設備、作業工程または作業方法の点検を行い、その結果に基づき、施設または設備の設置、または整備、作業工程または作業方法の改善、その他の作業環境を改善するための必要な措置を講じ、当該場所の管理区分が第?管理区分となるよう努めること。
c) 騒音作業に従事する労働者に対し、必要に応じ、防音保護具を使用させること。

第3管理区分
a) 当該場所を標識で明示する等の措置を講じること
b) 施設、設備、作業工程または作業方法の点検を行い、その結果に基づき、施設または設備の設置、または整備、作業工程または作業方法の改善、その他の作業環境を改善するための必要な措置を講じ、当該場所の管理区分が第?管理区分または第?管理区分となるようにすること。
 なお、作業環境改善の措置を講じたときは、その効果を確認するために作業環境測定を行い、その結果を評価すること。
c) 騒音作業に従事する労働者に対し防音保護具を使用させるとともに、防音保護具の使用について、作業中の労働者の見やすい場所に掲示すること。

作業環境管理区分

        A測定
 B測定
85dB(A)未満 85dB(A)以上
90dB(A)未満
90dB(A)以上
85dB(A)未満 第1管理区分 第2管理区分 第3管理区分
85dB(A)以上
90dB(A)未満
第2管理区分 第2管理区分 第3管理区分
90dB(A)以上 第3管理区分 第3管理区分 第3管理区分

7、騒音対策

そう音性難聴の程度は騒音レベルと暴露時間の積の総エネルギーによる。従って、騒音対策は、騒音レベルを左右する音源対策と暴露時間を左右する作業方法の改善が基本となる。耳栓などの対策は最終的なものである。

騒音対策

分類 方  法 具 体 例
1) 騒音源対策
1) 発生源の低騒音化
2) 発生源の除去
3) 遮音
4) 消音
5) 防振
6) 制振能動制御
7) 運転方法の改善
1) 低騒音機械の採用
2) 給油、不釣り合いの調整、部品交換
3) 防音カバー、ラギング
4) 消音器、吸音ダクト
5) 防振ゴムの取り付け
6) 消音器、ダクト、遮音壁
7) 自動化、配置の変更
2) 伝播経路対策
1) 距離減衰
2) 遮音効果
3) 吸音
4) 指向性
5) 能動制御
1) 配置の変更
2) 遮蔽物、防音塀、防音室
3) 建屋内部の吸音処理
4) 音源の向きを変える
5) 消音器、ダクト、遮音壁
3) 受音者対策
1) 遮音
2) 作業方法の改善
3) 耳の保護
4) 能動制御
1) 防音監視室、囲い
2) 作業スケジュールの調整、遠隔操作
3) 耳栓、耳覆い
4) 消音ヘッドホン

8、 騒音性難聴の認定基準

(1) 著しい騒音に暴露される業務に長期間引き続き従事した後に発生したものであること。
        85dB以上、5年以上、ただし個人差あり

(2) 次の(1)および(2)のいずれにも該当する難聴であること。

1) 鼓膜または中耳に著変がないこと。
2) 純音聴力検査の結果が次の通りであること。
 a) オージオグラムにおいて気導値および骨導値が障害され、気導値と骨導値が明らかな差がないこと。すなわち、感音難聴の特徴を示すこと。
 b) オージオグラムにおいて聴力障害が低音域より3000Hz以上の高音域において大であること。

(3) 内耳炎等による難聴でないと判断されるものであること。
内耳炎、メニエール病、薬物中毒、爆(発)音、頭・頚部外傷等による内耳障害、遺伝性・家族性難聴、老人性難聴、機能性難聴、その他騒音性難聴以外の感音性難聴

9、防音保護具の規格

種類 分類 記号 備  考
耳栓 1種 EP-1 低音〜高音域を遮音
2種 EP-2 主として高音を遮音
耳覆い EM

10、参考文献

 本ページは次の文献から引用、作成しました。
1) 「作業環境における騒音の管理」 労働省労働衛生課編、中災防 1993
2) 「騒音障害防止のためのガイドライン」 平成4年10月1日 基発546号