ここはWindows版『薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク』のパロディページです。
やおいがどういうものかご存じない方、18歳未満の方は、さようなら。

Windows版『薔薇ノ木ニ薔薇ノ花咲ク』は[サイク・ロゼ]様制作の18禁ゲームです。
18歳未満の方と高校在籍中の方は所持、購入、プレイしてはいけません。

GAME、設定資料、小説、雑誌、公式サイトのSSのネタばれがあります。
未プレイの方、先入観を持ちたくない方はご覧にならないでください。

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『鍵』

「返す。受け取れ」
鍵が二つ。
「お前が買ったのだから、今はお前の家だろう」
「間抜けな家主が帰ってくるまで、代わりに住んでいてやっただけだ」
「そうか」
「ふん」
「一つはお前のものだ」
手を出すよう促して、差し出された手のひらに一つのせる。
「仕方がない。もらっておいてやる」
変わらないその態度に顔がほころぶ。




『月夜』

夜に目覚め
となりにあるはずの姿が見えず
手を伸ばし
視線をさまよわせ
あれは夢かと
夢と

窓辺でのんきに月見をするおとこをみつけ
こみ上げてきた怒りはどこへぶつければいいのか

ばし!

「枕を投げるな」
「……ふん」
「こっちへこい。月がきれいだ」

横に添って月をながめるフリをする
月よりお前をみている方がいいだなんて
言ってもこいつにゃわかりゃしないし
言う気もない




『腕・洋間』

机に伏して寝る金子を起こすことも運ぶことも出来ない。
歯痒い。
左腕が。両の腕が揃っていればこいつを運ぶことも出来ように。

しばらく金子の寝顔を見ていたら、気持ちもおさまった。
あの海から帰って来られただけでも感謝せねばならんというのに。
我ながら現金なものだ。
再びこいつの我が儘を聞き、寝顔が見ることが出来た。
これ以上何を望むというのか。


翌朝目覚めて。土田が毛布をかけてくれたのを嬉しく思いつつも、口から出るのは。
「どうせ部屋に来たのなら起こせ!顔に跡がついたじゃないか。背中も痛い」
「すまん。起こすのに忍びなくてな」
こいつはどうして俺を前にして照れるのか。わからん。
「次は起こせ」
つられて顔が赤くなった。
「わかった」




『腕・日本間』

また金子が書斎で眠っている。
本人は起こせと言うたが、こいつは相当寝起きが悪い。
学生の時分も「せまい出て行け」と俺の寝台から俺を追い出したくらいだ。

……仕方がない。

翌朝。
どうしてここに布団が?どう見てもここは俺の書斎に見えるのだが。
隣に土田が寝ている。
わざわざ寝室から運んできたのか。




『声』

「夕食の用意が出来たぞ。金子?どこにいる?」

また、あんな所で眠っている。
本棚に寄りかかって寝るくせをどうにかさせないと。本が落ちてきて怪我でもしやしないか気が気でない。
学生時代に倉庫で本を読んでいたようだから、床に座り込んで読むのがくせになっているのだろうか。



いつの間に時間が経ってしまったのだろう。まぶた越しに入って来る西日がまぶしい。
手に抱えた本も重く、両腕ごとひざのうえに載せたままだが、とにかく眠い。

「光伸……みつのぶ……」

憲実の、自分を呼ぶ声が聞こえる。低い声が心地よく耳に響く。
大きな体で日差しを遮ってくれたのか、まぶしさが失せた。

「光伸……みつのぶ……」

肩にのせられた手が温かい。
起きなくては、そう思うもまぶたが重い。
このまま開かずにいたら、あと何回名前を呼んでもらえるのだろう。




『声の後』

「ん―」
なんとか目をあける。
「『金子』起きたか。飯だ」
今の今まで『光伸』と呼んでいなかったか?
「『金子』立て」
こいつは俺が目を閉じている間しか名を呼ばんのか。
「眠い」
「飯が冷める。起きろ」
「……分かったよ『土田』」




『昼』

跳ね起きて開口一番。
「もうこんなに日が高いじゃないか!どうして起こしてくれなかったんだ!」
「何度も起こしたんだが」
「……う」
寝顔がかわいくて起こせなかったのは黙っていれば分からないだろう。




『前髪』

「髪を切りに行くのを忘れた」
「昨日も忙しかったからな」
「うっとうしい」
「髪を上げたらどうだ。以前は上げていただろう?」
「そうだな」

いつも。事が終わった後。
お前が俺の前髪を梳くのを、俺が知らないとでも思っているのか。




『かゆ』

四十歳代。金子は遅筆。泣き顔の編集は放って。

「上がった!土田!飯だ、飯!」
-コト-
「なんだこれは」
「見ての通り、粥だ」
「それはみれば分かる」
「冷める前に喰え」
「俺は病人じゃない!」
「白湯の方が良かったか?昨日も一昨日も、ほとんど食事に手を付けなかっただろう」
「あれは書くのに集中していてだな。気が付いたら冷めていたんだ」
「俺も粥だ。今日は飯は炊いてない」
「その、悪かった」
小さくつぶやいてあわてて食べ出す金子。

腹もふくれたところで土田の顔色を窺う。
「駄目だ」
「二合!」
「駄目だ」
「一合!な!いや、その半分でもいい。だから」
「半分だけだぞ」

「待たせたな。つまみはこれでいいのか」
「……」
「こんなところで寝るな」
寝顔を肴に一人晩酌。




『不機嫌』

作家金子と嫁土田。40過ぎ。

「買い物に行ってくる」
「ああ」
「何か食べたいものはあるか?」
「いや、特にない。お前にまかせる」

戸が閉まり足音が遠ざかるのを待つ。
気付かれぬようこっそり土田の後を追う。
あの高さだ。目印は必要ない。
行き先も分かっているから、はぐれようもない。
すぐにみつけた。

……なんだあれは。

買い物かごを抱えた女に囲まれている。
相変わらず年上の女にもてるヤツだ。

……。



買い物を済ませて、家に帰ろうとしたら。
道の真ん中に小さく人だかり。

……なんだあれは。

若い娘に囲まれてサインをねだられている。
よく見知った顔。

……。



「ここで何をしている?」
「それは俺のセリフだ」
「家で原稿を書いていたんじゃなかったのか」
「気分転換に外へ出てみたんだ」
「……先に帰るぞ」
「え、おい、ちょっと待て土田」
「ファンの相手をしたらどうだ」
「だって、お前家に帰るんだろう?」
「……」
「お前、なにを怒っているんだ?」

ずかずか歩き出す土田を慌てて追う金子。




『2/14』

陽の差す部屋で碁を打ち合う。
「次はお前の番だな……。のどが渇いた。お茶をいれてくる」
「お前が?」
「俺だって、お茶ぐらいいれられるぞ」
「では俺の分も頼む」

簡単に盆と急須、湯飲みの位置を金子に教えたものの。
戻ってこない。やはり置き場所がわからないのだろう。
様子を見に行った方がいいだろうか。
しかし、自分でやると言っている以上、下手に見に行くと機嫌を損ねるだけかもしれない。
待つ間にじっくりと次の手を考える。

「土田、口を開けろ」
「いきなり後ろから人の目をふさいで何を言う」
「いいから開けろ」
ころんと何か小さなものが口に入った。
「なんだ?」
「いいから食べろ」
口に広がる甘い味。
「チョコレートか?」
「大福の味でもするのか?」

いつの間に買ってきたのだろう。
甘いものは好きではなかったはずだが。
ふと先日出先で見かけた光景を思い出した。
「ああ、あれか。若い娘がなんやら」
「手を洗ってくる」
「おい、お茶が冷めるぞ」

まだしばらく次の手を考える時間がありそうだ。

S50年頃。六十代。




『起き抜け』

「金子、起きろ」
「……ん」
しゃがんで顔をのぞき込む。
「起きろ」
掛け布団を剥ぐ。
「起きんか」
少し眩しげに顔をゆがめたが、やはり起きない。
「まだ眠いのか」
「ん」
髪を上げ、額に接吻しても起きない。
「起きんのか」
唇に触れても起きない。昨夜は充分寝たはずだが。
「朝食が昼食になるぞ」
首筋をなぞっても起きない。腕を持ち上げ前をはだけても起きない。
「いい加減、起きたらどうだ」
「ん」
返事はするものの、起きない。
一つしるしを残す。まだ起きない。
二つ、三つ。いつになったら起きるのか。
五つ数えたら続きを数えるのが面倒になった。
「ん」
頭を抱え込んできた。
「起きたか」
「……」
こちらの動きを止めるわけでもない。まだ寝ぼけているのか。
「かまわんのだな?」
片足を持ち上げる。
「ん?」
ようやく眼が開いた。
「起きたか?」
「お前、何をしている!」
「見ての通りだが」
「朝っぱらから何を」
「時間は充分にやったぞ」
胸元に視線を向ける。
追った光伸が目を見開いた。
「お、おっ、お前」
「起きないお前が悪い」
「馬鹿者っ」

蹴りが飛んできた。




『煙』

白い天井と積まれた吸い殻を見て、顔をしかめる。
「吸い過ぎじゃないのか」
「そうか?」
「少し減らしたらどうだ」
「無理だ。出来ん」
「徐々に減らせばいいだろう」
「出来ぬものは出来ん」
「では、一本減らすごとに代わりに一回お前に接吻しよう」
「は?」
光伸がくわえた煙草を落としかけた。
「あ……いや、その」
我ながら馬鹿なことを言った。
「土田」
「なんだ」
「お前と接吻したまま原稿を書くのは無理だ」
「……」
「紙もペン先も見えん」
光伸は笑みを浮かべている。
「だが、お前がそこまで言うなら、今吸っているこれは消そう」
「もう吸い終わりだろう」
「一本は一本だ」
灰皿に押しつけて煙草の火をもみ消した。
「だから、な?」
光伸は笑いながら己の口元を指さした。




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