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低リン血症       Hypophosphatemia

病態
 低リン血症は米国では入院患者の2〜3%、ICU入院患者の20〜30%に見られると言われ、決してまれなものでない。
 血清リンの基準値は2.5〜4.5mg/dL である。血清リンが2.5mg/d未満を低リン血症と言う。
 リンは生体内で種々の重要な役割を果たしている。 人間の体のエネルギーとなるのはATP(adenosine triphosphate)だが、ATPを産生するには、リンが必要である。またリンは2,3-diphosphoglycerateをつくるのに必要である。2,3-diphosphoglycerateが減少すると、赤血球は酸素を組織に放出しにくくなる。
 リンはエネルギー産生や組織に酸素を運ぶのに関与するため、リンの不足は種々の症状を起こす。ただ1mg/dL未満の高度の低リン血症はなっても症状を示さないことも少なくない。
 低リン血症はどういう症状を起こすのだろうか。
 筋肉の麻痺が一番一般的な症状である。複視、構音障害、嚥下障害も見られる。 心筋の収縮力が低下し、血圧低下、心拍出量低下が起こる。 心室性不整脈を起こしやすい。呼吸不全が出る。ただし頻呼吸になることもある。 神経を障害し、麻痺、錯乱、けいれんが起こる。昏睡になることもある。 赤血球が毛細管を通過する時に形を自由に変えにくくなるため、赤血球がこわれ、溶血性貧血になる。 黄紋筋融解症という筋肉の破壊も起こる。
 なぜ低リン血症になるのだろうか。
 人間の体のリンは85%は骨にあり、14〜15%が細胞内にある。細胞外液にあるリンは1%未満に過ぎない。血清は細胞外液の一部だから、リンが細胞外液から細胞内に移動するだけで、血清リンは低下し、低リン血症になる。これが低リン血症の病態として一番多い。腎臓からのリン排泄の増大、消化管からのリンの排泄の増大、腸管からのリン吸収の減少、食事としてのリン摂取の減少も原因となる。要するに、リンが細胞内仁移動したか、腎臓、消化管からリンがたくさん排泄されたか、消化管からの吸収が減少したかである。
 インスリンはブトウ糖とともにリンを細胞内に移動させる作用がある。アルコール依存症の患者や低栄養の患者にブドウ糖を与えると、インスリンが出て、ブドウ糖が細胞内に入るとともに、リンも細胞内に入るから低リン血症になることがよく見られる。
 呼吸性アルカローシスになると、phosphofructokinase を活性化する。phosphofructokinase は細胞内の解糖を促進する。解糖はブドウ糖をリン酸化するため、リンが使われるから、リンは細胞外から細胞内に移動する。呼吸性アルカローシスは、敗血症、アルコール離脱症、熱射病、糖尿病性ケトアシドーシス、疼痛、不安などで起こる。人工呼吸器をつけている患者にもよく見られる。
 カテコールアミン(イノバン(dopamine) ドブトレックス(dobutamine)など)、β刺激薬(メプチン(procaterol)など)はリンを細胞内に移動させる。
 白血病や悪性リンパ腫はリンを細胞内に取り込むため血清リンが減少する。
 PTH(parathyroid hormone 副甲状腺ホルモン)は骨からのリンの吸収を促し、腎臓からのリンの排泄を促進する。腎臓からのリンの排泄作用のほうが大きいため、血清リンは減少する。だから副甲状腺機能亢進症では低リン血症になる。くる病はビタミンDの不足により、細胞外液のカルシウムとリンが減少して起こる。 カルシウムは少し低下している程度だが、リンは大きく低下している。リンはPTHにより尿からの排泄が増大するからである。
 利尿剤は近位尿細管からのリンの再吸収を妨げるため、尿からのリンの排泄が増え、低リン血症になる。
 高血糖が継続すると、浸透圧利尿でリンが尿から失われるために低リン血症になる。
 反対に腎臓でのリンの再吸収を促進し、尿からのリンの排泄を減少させるホルモンには、甲状腺ホルモン(thyroid hormone)、成長ホルモン(growth hormone)がある。
 慢性的な下利や腸管からの吸収不良で低リン血症になる。反対にビタミンDはリンの腸管からの吸収を促進しリンを増やすように働く。
 アルミニウムはリンと結合して、リンの吸収を阻害する。この作用があるものには、アルサルミン(sucralfate)や制酸剤のマーロックスがある。
 経口摂取が少ないために低リン血症になることは少ないが、神経性食思不振症やアルコール依存症では低リン血症になることがある。

検査
  1. 血清リン
    低リン血症を知りたいのだから当然の検査である。「無機リン」という項目になっていることが多い。基準値は2.5〜4.5mg/dL であり、1mg/dL未満を高度な低リン血症とする。
  2. 尿中リン
    「尿中無機リン」という項目になっている。蓄尿して尿中リンが100mg/日未満ならリンの細胞内への移動か、腸管よりの吸収不良、摂食不良、消化管よりの流出を考える。100mg/日以上ならば尿からのリンの流出を考える。
  3. 血清マグネシウム
    低リン血症はマグネシウムの腎排泄を増大させ、マグネシウム不足症を起こす。
  4. 血清カルシウム
    副甲状腺機能亢進症による低リン血症ではカルシウムは増大する。
  5. PTHインタクト
    PTHは84個のアミノ酸からなるが、蛋白分解酵素により簡単に切断され、N末端、中間部、C末端に分解される。これをフラグメントと言う。フラグメントに分解されていない完全分子型をPTHインタクトと言う。活性のあるのは、N末端フラグメントだけだが、N末端フラグメントは半減期が2〜5分のため測定するのが困難である。それでPTHインタクトを測定する。副甲状腺機能亢進症による低マグネシウム血症でないかをみる。
  6. 血算
    貧血の有無をみる。
  7. CPK(creatine phosphokinase)
    筋肉が破壊されるからCPKが上昇する。
  8. 血液ガス
    呼吸性アルカローシスをみる。
治療
 まず低リン血症の原因を考え、それを取り除く。
 次に食事でのリンの摂取量を増やす。通常のリンの1日摂取量は1gである。牛乳1Lには約1gのリンが入っている。
 次に経口のリン製剤を投与することになるが、日本では承認されている経口のリン製剤がなく、簡単に投与することができない。投与する時は各施設でつくらなければならない。リン酸二ナトリウム(Na2HPO4)とリン酸一ナトリウム(NaH2PO4)を混合したり、リン酸二カリウム( K2HPO4)とリン酸二水素カリウム(KH2PO4)を混合したりしてつくっている。
 注射剤にはリン酸二カリウム(dipotassium phosphate K2HPO4)がある。これは20mLにK2HPO4 が1.74g入っている。原子量はK 39、 H 1、 P 31、 O 16 だからK2HPO4 の分子量は2×39+1+31+4×16=174 となり174gである。1.74g は1.74g÷174=0.01 で0.01molになる。20mL に0.01mol入っているから1Lには0.01×50=0.5 で0.5mol入っている。だから1mLには0.5mmol入っている。HPO42- イオンは2価だから1モルは2当量になる。0.5×2=1 で1mLに1mEq(milliequivalent ミリ当量)入っている。1mEq/mL だから20mL に20mEq入っている。1管投与すると20mEqのHPO42- が入るのである。
 リンは細胞内に多くあるため、どの程度投与すれば、細胞内の必要量を満たすのかを予測することは難しい。それで投与量は文献により異なる。eMedicine は成人には、6時間毎に血清リンをチェックしながら、6時間毎に16mEq 投与すると記述している。リン酸二カリウムはカリウム製剤でもあるため、必ず希釈して用いて、高カリウム血症とならないように血清カリウムにも十分に気をつける。
 静脈注射をする時は高リン血症にならないようにする。リンはカルシウムと結合するから低カルシウム血症となり、リン酸カルシウムが組織に沈着したりテタニーが起こることがある。

参考文献
  1. Paul L Marino. The ICU Book. Second Edition. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS, p.681-686.
  2. eMedicine. Hypophophatemia. http://emedicine.medscape.com/article/767955-print (2010/7/28アクセス)
  3. Arthur C. Guyton, John E. Hall. Textbook of Medical Physiology eleventh edition. ELSEVIER & SAUNDERS, p.978-992.
  4. Fred E. Ferri. THE CARE OF THE MEDICAL PATIENT. Fifith Edition. Mosby, p.614-616.
  5. 三菱化学メディエンス株式会社. 副甲状腺ホルモンintact(PTH-intact). http://data.medience.co.jp/compendium/main.asp?field=03&m_class=03&s_class=0002(2010/8/1アクセス)
  6. 日本病院薬剤師会. 病院薬局製剤 第5版. 薬事日報社
2010年8月4日作成
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