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低カリウム血症 Hypokalemia

病態
 血清カリウムが3.5mEq/L以下を低カリウム血症と言う。
 細胞内の電位は細胞外液に対して負の電荷になる。これを静止膜電位(resting membrane potential)と言う。低カリウム血症はこの負の電荷を大きくする。つまり過分極(hyperpolarization)にする。過分極になっていると脱分極(depolarization)するのに通常より大きな刺激が必要になる。これがために筋肉の不全、脱力、疲労、麻痺が起こる。筋肉の不全は呼吸困難、腹満、便秘として現れることもある。軽い意識障害も起こりうる。低カリウム血症だけで深刻な不整脈が起こることは少ない。マグネシウム低下、ジギタリス中毒に低カリウム血症が伴うと、深刻な不整脈が起こる。
 低カリウム血症になるのは細胞外のカリウムが細胞内に移動したか、カリウムの摂取が少ないか、カリウムの排泄が多いかのどれかである。
 次のような場合、細胞外液のカリウムが細胞内に移動する。
  1. インスリンはカリウムを細胞内に移動させる。グルカゴンはカリウムの細胞内への移動を妨げる。
  2. β2受容体の刺激はカリウムを細胞内に移動させる。α受容体の刺激はカリウムの細胞内への移動を妨げる。
  3. アルカローシスはカリウムを細胞内に移動させる。アシドーシスはカリウムの細胞内への移動を妨げる。
  4. 低体温はカリウムを細胞内に移動させる。
 カリウムは果物、豆、肉に多いが、気をつけてこういう食物を十分に摂るようにしなくても、普通の食事をしておればカリウムが不足することはない。だからカリウムの摂取が少ないために低カリウム血症になることはまれである。しかし自分で食事をつくることができない老人が極端に食事が偏ったり、ダイエットや神経性食思不振症により極端に食事が偏ったり、経管栄養を受けている人の栄養が偏ったりして、カリウム摂取が不足し、低カリウム血症になることがある。
 体よりカリウムが失われるのは、腎臓から失われるか、下痢で失われるかのどれかである。
 腎臓からのカリウムの排泄を増大させるものには次のようなものがある。
  1. アルドステロンの増加
    アルドステロンは集合管に働いてK+ を排泄させる。それでアルドステロンが多くなればカリウムが失われることになる。
  2. 集合管のNa+増加
    集合管のNa+ が増加するとNa+とK+ の交換が増大してK+ が失われることになる。サイアザイド系利尿薬、ループス利尿薬(ラシックス(furosemide)など)を使うとNa+の 吸収が妨げられるから集合管へ行くNa+ が増えることになる。それでNa+とK+ の交換が増大してK+ が失われる。
  3. 尿量増加
  4. 血清カリウム増加
  5. 集合管のマイナスイオン(炭酸イオンなど)増加
    代謝性アルカローシスは炭酸イオンが増加しているから、カリウムの排泄が増大する。
  6. 血清マグネシウム低下
    血中のマグネシウムが不足しているとカリウムの吸収が妨げられる。それでカリウムが失われる。
  7. グリチルリチン
    グリチルリチンは甘草に含まれる。漢方薬は甘草を配合しているものが多い。ただしグリチルリチンによる低カリウム血症はまれである。
    ヒドロコルチゾン(hydrocortisone コルチゾル(cortisol)とも言う)は副腎皮質の束状帯(zona fasciculate)から分泌されるホルモンである。ヒドロコルチゾンはコルチゾン(cortisone)のC-11が還元された形になっている。コルチゾンは活性を示さない。ヒドロコルチゾンをコルチゾンに変換する酵素が11-beta-hydroxysteroiddehydrogenaseである。グリチルリチンはこの酵素の働きを妨げる。それで活性のヒドロコルチゾンが多くなる。ヒドロコルチゾンはミネラルコルチコイド受容体を刺激し、ナトリウムの再吸収とカリウムの排泄を促す。それで高血圧と低カリウム血症になる。アルドステロンのような働きをするので偽性アルドステロン症と言う。
    同じ理由でクッシング症候群(Cushing syndrome)に低カリウム血症が伴うことがある。
  8. 遺伝疾患
    遺伝子の異常のために、腎臓に異常が現れカリウムが排出され低カリウム血症となる。
    1. Barter症候群
      ヘンレループの6蛋白に異常が出るために、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、低血圧になる。常染色体劣性遺伝である。
    2. Gitelman症候群
      サイアザイド感受性遠位尿細管のNa-Clトランスポーターに異常があるために、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、低血圧になる。常染色体劣性遺伝である。
    3. Liddle症候群
      アルドステロン感受性ナトリウムチャネルに異常があるために、低カリウム血症、代謝性アルカローシス、高血圧になる。常染色体劣性遺伝である。
 大便の中のカリウムは75mEq/Lであるが、大便の量は1日に200mL程度であるために、カリウムの排泄は多くない。しかし下痢になると大便の量が1日に10Lにもなりうるからカリウムが失われることになる。
 胃液のカリウムは10mEq/Lである。だから嘔吐してもカリウムの損失は少なく、低カリウム血症にならないように見える。しかし嘔吐すると体の中の水分がかなり失われる。この体液の減少を補うためにアルドステロンが分泌され、集合管でNa+ の再吸収を促そうとする。Na+ がたくさん再吸収されると、水は浸透圧の高い所へ流れるから水分も増えることになる。アルドステロンがたくさん分泌されるとK+ もたくさん排出されることになり、カリウムが失われる。また嘔吐で胃液が失われると体は酸が失われるから代謝性アルカローシスに傾く。それで集合管で排泄されるH+が減少し、そのかわりにK+ の排泄が増えることになる。
 NGチューブからの胃液の流出も嘔吐と同じ機序でカリウムが失われることになる。
 だから嘔吐やNGチューブからの胃液の流出により低カリウム血症となるのは、実際は腎臓からカリウムが失われているのである。

検査
  1. 血清カリウム
    血清カリウムで低カリウム血症を診断するのであるから、当然の検査である。
  2. 血清マグネシウム
    体内のマグネシウム減少が低カリウム血症の原因になっていることがある。この場合はカリウムを補うだけでは低カリウム血症は改善しない。マグネシウムを補う必要がある。
  3. 尿中カリウム 尿中ナトリウム 尿中塩素 尿浸透圧(随時尿) 血清浸透圧
    カリウムが細胞内に移動して低カリウム血症になっているのでない時、尿中カリウムで次のように考えることができる。
    30mEq/L(117mg/dL)未満ならばカリウム摂取不足か下痢による低カリウム血症を示す。
    30mEq/L(117mg/dL)以上ならば腎臓よりカリウムが失われていることを示す。この時、尿中塩素が25mEq/L(89mg/dL)以上ならば利尿剤かマグネシウム不足により、腎臓からカリウムが失われていることを示し、尿中塩素が15mEq/L(53mg/dL)以下ならば嘔吐かアルカローシスにより腎臓からカリウムが失われていることを示す。
    尿中のカリウム濃度は尿が濃縮されている(尿浸透圧が高い)と上がる。それで尿が濃縮されている時、実際に尿中カリウムが高いかどうかをみるには、これを補正する必要がある。尿の浸透圧が血清浸透圧より高い時、transtublar potassium gradient(TTKG)と言われる指標がある。
    TTKG=(尿中カリウム÷尿浸透圧)×(血清浸透圧÷血清カリウム) で計算する。
    尿中カリウムが20mEq/L〜40mEq/L(97.5mg/dL〜156mg/dL)である時、TTKGが3以下なら腎臓からのカリウム喪失はなく、TTKGが7以上ならアルドステロンによる腎臓からのカリウム喪失とされる。
  4. 尿中カリウム1日量(蓄尿)
    蓄尿のほうがカリウムの量が正確にわかる。尿中カリウム1日量が20mEq(97.5mg)以上なら腎臓よりカリウムが失われている。
  5. CPK
    ひどい低カリウム血症だと黄紋筋融解症が起こることがある。
  6. 血圧
    アルドステロンの増大、Cushing症候群、Liddle症候群で高血圧になる。
    Barter症候群、Gitelman症候群で低血圧になる。
  7. 血液ガス分析
    代謝性アルカローシスをみるためにする。
  8. 心電図
    1mm以上のU波、T波の平低化あるいは陰性T波、QT間隔の延長、不整脈が見られることがある。
治療
 低カリウム血症の原因を考え、その原因を取り除くのが第一の治療である。
 2.5mEq/L〜3.5mEq/Lの時無症状かあっても症状は軽度である。経口薬でカリウムを補う。
 経口カリウム製剤はスローケー(potassium chloride) アスパラK(potassium L-aspartate)などがある。スローケーは1錠に8mEqのカリウムを含んでおり、常用量は1回2錠で1日2回投与だから、1日4錠、カリウムで32mEqである。アスパラKは1錠に1.8mEqのカリウムを含んでおり、常用量は1回1〜3錠で、1日3回投与だから、1日3〜9錠、カリウムで5.4〜16.2mEqである。量が製剤により倍以上違うのは、厚生省に申請した治験をこの量で施行したことだけが理由のようである。米国ではpotassium chlorideは1回20〜40mEqを1日2回あるいは4回投与する。
 血清カリウムが2.5mEq/L以下の時、経口からのカリウム製剤の摂取ができない時、塩化カリウム製剤を点滴投与する。塩化カリウム製剤をワンショットで注射すると、1000mEq/Lから2000mEq/Lの濃度のカリウムが心臓に行くことになり心停止が起こる。塩化カリウム製剤は必ず希釈して使う。
 塩化カリウム製剤にはKCl注などがある。KCl注は10mEq/10mLと20mEq/20mLの2つがある。電解質輸液に混注して40mEq/L以下の濃度にして用いる。だからKCl注10〜20mL(10〜20mEq)を生食500mLに混注すればよい。投与速度は20mEq/時間以下にする。KCl 20mEqを生食500mLに混注したのであれば、1時間以上かけて点滴すればよい。1日投与量は100mEqを越えないようにする。ICU bookは20mEqを100mLの生食に混注するように言っている。これでもゆっくり投与すれば問題はないが、心不全や腹水の場合のようにNaを制限する必要がなければ、500mLの生食に混注したほうが無難である。急速に投与する恐れが少ないからである。
 カリウムの体内の量をX軸、血清カリウムをY軸にして、グラフを描くと指数関数のようなグラフとなる。体内のカリウムが過剰になると血清カリウムは急に増大し、体内のカリウムが不足すると血清カリウムはゆっくりと減少する。血清カリウムが基準値より1mEq上昇するには100〜200mEqの体内のカリウムが過剰になるだけでよいが、血清カリウムが基準値より1mEq減少するには200〜400mEqの体内のカリウムの減少が必要である。低カリウム血症からカリウムを正常域まで上げるにはたくさんのカリウムを必要とするのである。低カリウム血症の補正には時間がかかる。

参考文献
  1. Paul L Marino. The ICU Book. Second Edition. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS, p.647-652.
  2. eMedicine. Hyponatremia. Last Updated: March 20, 2007 https://www.emedicine.com/med/topic1124.htm
  3. eMedicine. Hypokalemia. Last Updated: August 23, 2007 https://www.emedicine.com/emerg/topic273.htm
  4. WIKIPEDIA. Hypokalemia. https://en.wikipedia.org/wiki/Hypokalemia (2007/10/22アクセス)
  5. Tekla GJ Van Rossum, Frank H De Jong, Wim CJ Hop, Frans Boomsma, Solko W Schalm. 'Pseudo-aldosteronism' induced by intravenous glycyrrhizin treatment of chronic hepatitis C patients. Journal of Gastroenterology and Hepatology. Volume 16 Issue 7 Page 789-795, July 2001
    https://www.blackwell-synergy.com/doi/abs/10.1046/j.1440-1746.2001.02382.x?cookieSet=1&journalCode=jgh
  6. 小倉台クリニック. 低カリウム(K)血症. https://www.oguradaiclinic.jp/page848.html (2007/10/25アクセス)
2007年10月28日作成
2009年2月15日更新
2009年5月2日更新
2011年9月13日更新
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