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高リン血症  Hyperphosphatemia

病態
 成人の血清リンの基準値は2.5〜4.5mg/dLである。成人では血清リンが5mg/dLより大きいのを高リン血症 と言い、子供では血清リンが7mg/dLより大きいのを高リン血症 と言う。血清リンは1歳未満では50%高く、子供でも30%高い。子供は成人より成長ホルモンの影響を受け、成長ホルモンは尿からのリンの排泄を減少させるからである。
 高リン血症 はなぜいけないのだろうか。
 高リン血症 は低カルシウム血症を起こす。リンはカルシウムに結合しカルシウムを析出するためである。高リン血症の症状はほとんど低カルシウム血症による症状である。カルシウムが減少すると神経は興奮しやすくなるが、筋肉の収縮は減少する。筋肉の収縮が低下するのは、神経筋接合部のアセチルコリンの放出を低カルシウム血症が妨げるためである。末梢神経が興奮すると、自ら信号を発し筋肉を収縮させる。これをテタニーと言う。 神経の興奮が筋肉の収縮低下に勝るために、筋肉が収縮するのである。感覚神経も興奮されやすくなるため、しびれ感、チクチク感を感じる。喉頭の平滑筋も収縮させるために嚥下障害、気管けいれんによる息切れが起こり、喘鳴が聞こえる。気道を閉塞して死亡することもある。中枢神経が興奮すると、けいれんが起こる。低カルシウム血症は心筋の収縮を減少させるために、心拍出量減少、慢性心不全が起こる。
 高リン血症 では、リンはカルシウムに結合しカルシウムを析出するため、臓器や結合組織などに石灰化を起こす。血管壁が石灰化し、動脈硬化が起こり、血圧が上がる。
 透析をしている人では、高リン血症 は大動脈弁狭窄症、僧帽弁狭窄症や他の心疾患のリスクファクターとなる。
 なぜ高リン血症 になるのだろうか。腎臓からのリンの排出障害が起こったか、細胞内のリンが細胞外に流出したかが主な原因である。リンの摂取過剰もある。腎臓からのリンの排出障害が起こるのは、腎不全の場合である。高リン血症 は腎不全で一番よく見られる。急性腎不全、慢性腎不全ではたいていいくらかの高リン血症 がある。 GFR(glomerular filtration rate)が30 mL/min 以下になればリンの摂取を制限すべきである。ただし慢性腎不全でもGFRが25 mL/min 以下にならないと高リン血症は目立たない。細胞内のリンが細胞外に流出するのは、黄紋筋融解症や腫瘍崩壊症候群のように細胞が壊死してリンが細胞外に出てくる場合である。
 ビタミンDはリンの腸管からの吸収を促進する。 またビタミンDは腎臓のリンの再吸収を促進し尿からのリンの排泄を減少させるが、この作用は弱い。活性型のビタミンD  1,25-dehydroxycholecalciferolは25-hydorxycholecalciferolから1-alpha hydroxylaseの助けをかりて腎臓で変換される。高リン血症 は1-alpha hydroxylase を阻害する。それで活性型ビタミンDは減少する。活性型ビタミンDが減少すると、腸管からのリンの吸収が減少し、腎臓からのリンの排泄は増大する。だから高リン血症 でリンが高いと、ビタミンDが低下し、腸管からのリンの吸収を減少させ、腎臓からのリンの排泄を増大させ、高リン血症 を是正しようとする。
 PTHは骨からのリンの再吸収を促し、腎臓からのリンの排泄を増大させる。腎臓からの排泄作用が骨からのリンの再吸作用を上回るため血清リンは減少する。 高リン血症 はPTHの分泌が促される。つまり高リン血症 だと、PTHが分泌され、高リン血症 を是正しようとする。
 腎不全があると、ビタミンDの減少による腎臓からの排出の増大、PTHによる腎臓からのリンの排泄の増大が十分でないのに、PTHが分泌され骨吸収が増大するため、血清に供給されるリンの量は増える。これが腎不全患者に高リン血症 が多い理由である。

検査
  1. 血清リン
     高リン血症 を知りたいのだから、当然の検査である。溶血で高リン血症になっていることがあり、疑わしい時は再検する。
  2. 血清カルシウム
     高リン血症 は低カルシウム血症を起こす。
  3. カルシウムイオン(イオン化カルシウムとも言う)
     カルシウムイオン 1.0mmol/L未満は低カルシウム血症である。
     カルシウムイオンの低値こそが真の低カルシウム血症である。カルシウムイオンの測定は通常は血液ガスの測定とともになされる。
  4. 血清リン
     低リン血症はマグネシウムの腎排泄を増大させ、マグネシウム不足症を起こす。
  5. アルブミン
     アルブミンは補正カルシウム値を出すのに必要である。
  6. LDLコレステロール   総コレステロール   中性脂肪
     脂質異常症で真の高リン血症でないが、偽性に血清リンが上昇することがある。
  7. Chvostek 徴候
     Chvostek 徴候とは、耳珠の2cm前をたたくと、同側の口角の収縮、顔面筋の収縮が起こるのを言う。低カルシウム血症は神経が興奮しやすくなるために起こる。ただし正常な人でも25%は陽性になる。
  8. Trousseau 徴候
     収縮期血圧より20mmHg上で3〜5分間カフで圧迫する。これが神経を刺激し、手首と手根指節関節の屈曲、指節間関節の伸展、親指の内転が見られるのを言う。低カルシウム血症は神経が刺激されやすくなるために起こる。ただし低カルシウム血症があっても、30%には見られない。
  9. 心電図
    QT延長が見られることがある。

治療
 リンの摂取は0.6-0.9g/日にする。牛乳、肉、魚、卵、ピーナッツはリンが多いから避ける。
 症状の多くは低カルシウム血症より生じるため低カルシウム血症の治療をまずする。低カルシウム血症の治療は「低カルシウム血症」を参照のこと。
 腎不全がない時は、輸液をし利尿を促すと症状は改善する。
 ダイアモックス(acetazolamide)は近位尿細管に働き、ナトリウムとともにリンを排泄する。250mg〜375mgを1日1回午前に経口もしくは静注で投与する。リンの再吸収は70%が近位尿細管でなされるため、ヘンレ上行脚に働くループス利尿薬や、遠位尿細管に働くサイアザイド利尿薬は効かない。
 透析患者ではまず十分な透析とリンの摂取制限をする。改善しない時はリン吸着剤を投与する。リン吸着剤には、フォスブロック(sevelamer hydrochloride)、カルタン(precipitated calcium carbonate)がある。 フォスブロックはリン、胆汁酸と結合し、便からリンを排泄する。食直前に1回1〜2gで1日3回投与する。カルタン は食物由来リン酸イオンと結合し、難溶性のリン酸カルシウムとなり、腸管からのリンの吸収を抑制する。食直後に1回1gで1日3回投与する。

参考文献
  1. eMedicine. Hyperphosphatemia. Last Updated: June 7, 2010 http://emedicine.medscape.com/article/767010-print (2010/8/10アクセス)
  2. Paul L Marino. The ICU Book. Third Edition. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS, p.652-653.
  3. Fred E. Ferri. PRACTICAL GUIDE TO THE CARE OF THE MEDICAL PATIENT. Seventh Edition. Mosby, p.713-715.
  4. 山口 徹,北原光夫,福井次矢. 今日の治療指針 2009.医学書院, p.470.
  5. 北原光夫,上野文昭,越前宏俊. 治療薬マニュアル 2009.医学書院, p.1997.
2010年8月18日作成

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