ホームにもどる      病態、検査と治療にもどる

印刷

高カルシウム血症 Hypercalcemia

病態
 高カルシウム血症になると、なぜいけないのだろうか。高カルシウム血症になると、神経は興奮しにくくなる。神経が興奮しにくくなると、脳神経の活動が低下するから混乱や意識障害が起こる。高カルシウム血症がひどくなると昏睡にも陥る。神経の活動が低下するため、胃腸の収縮が低下する。それで食欲不振、悪心、嘔吐、便秘、イレウスが出る。高カルシウム血症になると、カルシウムを尿から排出し血清カルシウムを正常にもどそうとするから高カルシウム尿症になる。高カルシウム尿症だと、尿の浸透圧が上がる。尿の浸透圧が高いのに、尿細管が通常通りナトリウムと水を再吸収すると、尿の浸透圧はさらに上がることになる。それで尿細管からのナトリウムと水の再吸収が控えられ、ナトリムと水が尿からたくさん排出されることになる。これを浸透圧利尿と言う。高カルシウム血症は高カルシウム尿症となり、浸透圧利尿が起こるから、多尿、脱水となる。また尿のカルシウム濃度が上昇すると、カルシウムが析出しやすく腎結石ができる。血清カルシウムが12mg/dL以上になると、症状が現れ、15mg/dL以上になるとひどい症状が出る。
 血清カルシウムはPTH(parathyroid hormone 副甲状腺ホルモン)、ビタミンD、カルシトニン(calcitonin)により、狭い範囲になるように規定されている。基準値は9?10.6mg/dLである。血清カルシウムが4mg/dL以下になれば、人は死亡するし、血清カルシウムが17mg/dL以上になっても人は死亡する。高カルシウム血症になるのは、PTH、ビタミンD、カルシトニンによる血清カルシウムの適正な制御ができていないのである。高カルシウム血症の原因の90%は、副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍である。
 副甲状腺機能亢進症の原因は、副甲状腺の一つに腫瘍ができるか、腫瘍はないが副甲状腺の機能が全体的に亢進するかである。副甲状腺腫瘍は女性と子供がずっと多い。妊娠や授乳が副甲状腺を刺激するからである。副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症は腸管からのカルシウム吸収増大により起こる。これは、PTHが1,25-(OH)2ビタミンD(1,25-dehydroxycholecalciferol)の合成を高めるからである。PTHは腎臓に働いてカルシウムの再吸収も増加させる。PTHは骨吸収(骨のカルシウムが血清に取り込まれる)も促進するが、高カルシウム血症のため、骨芽細胞による骨新生(血清のカルシウムが骨に取り込まれる)もおこるため、骨からカルシウムが取り込まれて高カルシウム血症になることは、たいていは起こらない。 しかし、副甲状腺機能亢進症の程度が非常に上がると、破骨細胞による骨吸収が骨芽細胞による骨新生をしのぐようになり、骨がもろくなることが起こる。骨が線維性組織で置き換わり膿疱性線維性骨炎(osteitis fibrosa)になることもある。副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症は高カルシウムのためフィードバックがかかり、副甲状腺ホルモンの分泌が減少するから、高カルシウムの程度は軽いことが多い。血清カルシウムが14mg/dL以上またはカルシウムイオンが3.5mmol/L以上になるひどい高カルシウム血症の原因は、副甲状腺機能亢進症でなく、悪性腫瘍のことが多い。
 悪性腫瘍は破骨細胞活性因子を放出し破骨細胞を活性化し、骨吸収を増加させる。悪性腫瘍はPTHに似たPTH-related protein(PTHrP)を放出する。PTH-related proteinは骨吸収を増大させ、腎臓でのカルシウムの排泄を減少させる。悪性腫瘍が骨に転移すると、骨を破壊する。悪性腫瘍は1,25-(OH)2ビタミンDの合成を促進する。これらのことのために悪性腫瘍は高カルシウム血症をもたらす。悪性腫瘍疾患の20?30%は高カルシウム血症が発症すると言われる。高カルシウム血症を発症した悪性腫瘍は予後が悪い。1年生存率は10?30%である。1ヶ月以内に50%が死亡し、3ヶ月以内に75%が死亡するという報告もある。
 肉芽腫をつくるサルコイドーシス、結核、ヒストプラズマ症などは、1,25-(OH)2ビタミンDの合成を促進するため、高カルシウム血症になる。
 甲状腺機能亢進症で高カルシウム血症になることがある。骨代謝が亢進するからである。
 動かない状態が長く続くと骨代謝が亢進し高カルシウム血症になることがあるが、まれである。
 リチウムは10%の患者に高カルシウム血症を起こす。副甲状腺の機能が亢進するためである。
 家族性(遺伝性)の副甲状腺機能亢進症がある。multiple endocrine neoplasia (MEN) 1型は、副甲状腺機能亢進症、下垂体腫瘍、膵臓腫瘍、ガストリノーマが見られる。multiple endocrine neoplasia (MEN) 2型は、副甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫、甲状腺髓様癌が見られる。家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症もある。これは良性の常染色体優性遺伝疾患で、低カルシウム尿症、高カルシウム血症、PTH正常を示す。

検査
  1. 血清カルシウム
    高カルシウム血症を見たいのだから当然の検査である。
  2. アルブミン
    通常の血液検査で測定するカルシウムはアルブミンと結合したカルシウム、陰イオンと結合したカルシウム、カルシウムイオンの3つを合わせたカルシウムの値が出てくる。この中でカルシウムとしての活性を持つのはカルシウムイオンだけである。アルブミンが減少すると、アルブミンと結合したカルシウムが減少するため、カルシウムイオンは減少していないのに、血清カルシウムは減少する。それでアルブミンの値で血清カルシウムを補正する。
    測定カルシウム値+(4-アルブミン)
    または
    測定カルシウム値+0.8×(4.4-アルブミン)
    で補正カルシウム値を計算する。
  3. カルシウムイオン(イオン化カルシウムとも言う)
    カルシウムの状態をみるには、カルシウムイオンを測定するのが一番正確である。カルシウムイオンの測定は通常は血液ガスの測定とともになされる。
  4. 尿中カリウム1日量(蓄尿)
    蓄尿のほうがカリウムの量が正確にわかる。尿中カリウム1日量が20mEq以上なら腎臓よりカリウムが失われている。
  5. ALP(alkaline phosphatase)
    骨芽細胞が活性化する副甲状腺機能亢進症や骨転移は、ALPが放出されるためALPが上昇する。
  6. 血清リン
    PTHはリンの腎臓からの排出を増やすために、血清リンは下がる。しかし副甲状腺機能亢進症の程度がひどくなり大量の骨吸収になり、血清のリンの増加が排泄されるリンより多くなると血清リンは上昇する。また甲状腺中毒症の時は血清リンは上がる。
  7. 血清塩素
    副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症時、塩素はたいてい102以上である。他の原因による時は102未満である。
  8. 血清カリウム、マグネシウム、ナトリウム
    ラシックスによる治療で低下することがある。
  9. PTHインタクト
    PTHは84個のアミノ酸からなるが、蛋白分解酵素により簡単に切断され、N末端、中間部、C末端に分解される。これをフラグメントと言う。フラグメントに分解されていない完全分子型をPTHインタクトと言う。活性のあるのは、N末端フラグメントだけだが、N末端フラグメントは半減期が2?5分のため測定するのが困難である。それでPTHインタクトを測定する。副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症ならば、当然PTHインタクトは上昇しているはずである。
  10. 1,25-(OH)2ビタミン
    副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍、肉芽腫をつくる病気(サルコイドーシス、結核、ヒストプラズマ症など)は1,25-(OH)2ビタミンの合成を促進する。
  11. BUN(blood urea nitrogen) クレアチニン
    腎不全を見る。
  12. PTHrP(Parathyroidi hormone-related protein)
    固形癌で増加する。
  13. free T3 free T4 TST(thyroid-stimulating hormone)
    甲状腺ホルモン(free T3 free T4)と甲状腺刺激ホルモン(TSH)の検査である。甲状腺機能亢進症で高カルシウム血症になることがある。
  14. 尿cAMP(cyclic adenosine monophosphate)(蓄尿)
    cAMP上昇は副甲状腺機能亢進症を示唆する。
  15. 心電図
    QT間隔が短縮する。
  16. X線検査
    X線写真では骨のカルシウムの低下、パンチで穴をあけたような病変(punched out lesion)が見られる。
  17. 頭部CT MRI
    悪性腫瘍やmultiple endocrine neoplasiaによる下垂体腫瘍がないか見る。
  18. 胸腹部CT
    悪性腫瘍がないか見る。
  19. 頸部エコー
    副甲状腺腫瘍、甲状腺腫瘍の有無を見る。

治療
 治療は症状が出た時か、血清カルシウムが14mg/dL以上の時にする。
  1. 生理食塩水輸液
    高カルシウム血症はたいてい高カルシウム尿症を伴う。これで浸透圧利尿となるために脱水となる。脱水になると尿が出るのが減るために、尿からのカルシウム排出が減りさらに高カルシウム血症が進む。それで輸液して脱水を改善しカルシウムの排出を促すのが最初の治療となる。ただし腎不全の患者で透析ができない時はすべきでない。心不全の患者も慎重にすべきである。高カルシウム血症の時は塩の制限のような脱水を招くことは避ける。 輸液するのは生理食塩水がよい。生理食塩水は他の輸液より細胞外液を増やすので、希釈効果で血清カルシウムを下げる。また尿量が増えるから、尿からのカルシウム排泄を促す。生理食塩水の投与量は高カルシウム血症と脱水の程度による。
  2. ラシックス(furosemide)
    尿が100〜200mL/時で出るようにラシックスを2〜6時間毎に20〜80mg 静注する。尿からのカルシウム排泄を促すのである。大量の生理食塩水投与により、体液量が増えすぎるのを防ぐ役割もある。ただしラシックスの投与で脱水になっては逆効果である。失われたナトリウムと水分は生理食塩水で補わなければならない。血清カリウム、マグネシウム、ナトリウムが低下することがあるので、適宜検査する。
    生理食塩水とラシックスの投与は高カルシウム血症をすぐに補正できるが、骨吸収を防ぐことはできない。
    同じ利尿薬でもサイアザイド利尿薬は使わない。骨や腎臓のPTHへの感受性を高めるから骨吸収を増大させ、腎臓でのカルシウムの再吸収を増大させるからである。
  3. 頸部エコー
    副甲状腺腫瘍、甲状腺腫瘍の有無を見る。
  4. エルシトニン(elcatonin)
    カルシトニン製剤である。カルシトニンは人間の血清カルシウムを制御するホルモンのひとつで、骨吸収を妨げる。高リン血症もある時に特に有効である。リンの排泄を促すからである。効果は数時間で現れ、12?24時間でピークに達する。しかし効果は弱く、持続時間も短い。1回40エルカトニン単位を1日2回筋注する。
  5. アレディア(pamidronate)
    ビスホスホネート(bisphophonate)製剤である。ビスホスホネートは破骨細胞が骨組織に結合するのを妨げ、破骨細胞の活動を1ヶ月間妨げる。30?45mgを4時間以上かけて、点滴投与する。次に投与するのは、1週間後にする。欧米では60?90mgを24時間で点滴投与しているのが多い。骨吸収の増大により高カルシウム血症になっているのが適応となる。作用は強力で、75%は2?5日で血清カルシウムが基準値内になる。ただ効果発現に時間がかかり、急速にカルシウムを下げることはできない。
    副甲状腺機能昇進症による高カルシウム血症で程度が軽い時は、(副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症はたいてい程度は軽い)骨吸収により高カルシウム血症になっているのではないから、効果はない。しかし副甲状腺機能昇進症による高カルシウム血症でもカルシウムが14mg/dL以上の高カルシウム血症になると骨吸収が原因となるからアレディアが使われる。
  6. サクシゾン(hydrocortisone)
    腸管よりのカルシウム吸収を低下させることと、リンパ腫腫瘍の増大を妨げることにより血清カルシウムを下げる。多発性骨髄腫、悪性リンパ腫 、乳癌、肉芽腫をつくる病気(サルコイドーシス、結核、ヒストプラズマ症など)、ビタミンD中毒による高カルシウム血症に有効である。毎日200?300mgを3日間静注で投与する。
  7. 透析
    ひどい高カルシウム血症と腎盂不全がある時は、緊急透析が必要である。
  8. 手術
    副甲状腺腫瘍や悪性腫瘍がある時は手術が考慮される。
  9. 放射線療法、化学療法
    悪性腫瘍がある時に考慮される。

参考文献
  1. Paul L Marino. The ICU Book. Second Edition. LIPPINCOTT WILLIAMS & WILKINS, p.679-681.
  2. Arthur C. Guyton, John E. Hall. Textbook of Medical Physiology eleventh edition. ELSEVIER & SAUNDERS, p.978-995.
  3. eMedicine. Hypercalcemia https://emedicine.medscape.com/article/766373-print (2009/4/10アクセス)
  4. Fred F. Ferri. Practical Guide to THE CARE OF THE MEDICAL PATIENT. Fifth Edition. Mosby, p.264-270.
  5. Anthony S. Fauci, Eugene Braunwald, Kurt J. Isselbacher, et al. Harrison's PRINCEPLES of INTERNAL MEDICINE. 14 Edition. McGraw-Hill, p.959-965.
  6. 三菱化学メディエンス株式会社. 内分泌検査 副甲状腺. https://data.medience.co.jp/compendium/main.asp?field=03&m_class=03&s_class=0002(2009/3/20アクセス)
2009年4月21日作成
ホームにもどる