短編童話
さむがりペンギン よわむしライオン
さむがりなぺんぎんは、動物園でひなたぼっこしながら、南の島での
バカンスを夢みてました。
よわむしなライオンは、アフリカのサバンナで、びくびくしながら
落ちている木の実を拾って生活していました。
「また、寒い冬が来る。ぱんだのやつは暖房のきいた部屋なのに、ぼく
は寒空のもと氷の上でダンスだペンギン」
「また、ぞうやキリンのやつらがやってくる。あんなでかいやつらに踏
まれたらイチコロだらいおん」
そう言って、さむがりペンギンは、ため息をつきました。
そう言って、よわむしライオンは、隠れる場所を探しました。
「もうこんな寒いところはまっぴらごめんだぺんぎん」
「もうこんなびくびくするのはいやだらいおん」
そんな彼らに、ある日電話がかかってきました。
「ぺんぎんさん、ぺんぎんさん。おめでとうございます。あなたは一万
頭のペンギンの中から、選ばれました」
「らいおんさん、らいおんさん。おめでとうございます。あなたは一万
頭のライオンの中から、選ばれました」
おどろく彼らに電話の声は続きます。
「あなたには、簡単なアンケートに答えるだけで、お好きなところ、
どこへでも行ける旅行券がもらえる権利があります。もちろん、希望さ
れますね」
「あたりまえだよ、はやくちょうだいぺんぎん」
「ぜひ、お願しますらいおん」
「それでは、次の質問に正直にお答下さい。あなたは、いまの生活に
満足している。さあどうですか?」
「満足なんかしてるもんか。いますぐにでも逃げ出したいよ!ぺんぎ
ん」
「とんでもない。もううんざりですよ。胃に穴があきそうですらいお
ん」
「わかりました。それでは次の質問です。あなたはこの旅行券でどこ
に行きたいですか?」
「ぼくは、さしずめアフリカの大草原だな。とくに赤道直下のあっつー
いとこ!ぺんぎん」
「ぼくは、がんじょうな檻の中で悠々自適な生活ができる所に行きたい
ですらいおん」
「よーく解りました。それでは最後の質問です。よーくお考えになっ
てから、お答下さい。よろしいですか?
あなたを、どこでもお好きなところへお連れします。でも、今あなた
のいる所に戻って来ることは出来ません。それでもあなたは別の場所に
行くことを希望しますか?」
「当然だよ。ぼくはこんなところじゃ、夏でもとりはだなんだぺんぎ
ん」
「もちろんです。ぼくはずっと、ここはいやだと思っていましたからら
いおん」
「結構です。それでは、あなたには、『お好きなところへどこへでも
万国トラベル社』から、片道分のフリーパスチケットが送られます。
おめでとうございます。それではよい御旅行をお楽しみ下さい。」
そして、電話はきれました。 さむがりペンギンとよわむしライオンは、
よろこんで旅行の支度を始めました。
「ふふふ。アフリカって、それはそれはだだっぴろくて、それはもうっ
てくらいあっつーいんだろうなあ。はやくいきたいなあぺんぎん」
「くくく。どっか遠くの国には、人間がぼくら動物を檻のなかに守って
くれて、餌まで毎日与えてくれるところがあるらしい。まさに楽園だな
あらいおん」
それからしばらくして届いたチケットで、彼らは早速、それぞれの行き
たいところへ旅出ちました。旅の途中、
さむがりペンギンは、ジャンボジェットのファーストクラスでカンパリ
をおかわりしました。
よわむしライオンは、世界一周豪華客船のデッキでのんびりお昼寝して
ました。
そして、
さむがりペンギンはアフリカのとある国際空港に降りたち、タラップに
あつまる乾いた熱い風に、感激のあまり落涙しました。
それよりおくれて日本に到着したよわむしライオンは、まわりが、自分
より小さい弱そうな人間ばかりで安心しました。
「この熱い風、降りそそぐ太陽光線。これこそがぼくのもとめていた世
界ぺんぎん」
「水と安全はただ。なんて素敵な言葉。こここそがぼくにふさわしい世
界らいおん」
さむがりペンギンは、砂漠のまんなかに自分の家を立てて、毎日広い庭
でこうら焼きを楽しんでいます。
よわむしライオンは、動物園の人気者になって、毎日檻の中でのんびり
お昼寝を楽しんでいます。。
さむがりなペンギンもよわむしなライオンも、今では、毎日充実した
生活をおくっています。
おしまい
ぼくの足音
ぼくの名前は、「みてぃ」。ここだけの話だけど、ぼくの仕事は
「春」を連れてくること。
「冬」が疲れてくる頃からはね、忙しくて大変。 また今年も出番がき
たみたいです。
2月12日 くもり
今日は、冬の間ずっとなまけぎみだったおひさまに、これからがんば
ってもらうために、おひさまの大好物の「みがきにしん」を差入れに行
きました。 これが毎年のぼくの初仕事なんです。でも、お酒を持って
行くのを忘れてしまったせいか、おひさまはちょっと御機嫌ななめでし
た。寒い日が続きそうです。来週もまた御機嫌をとりにいかないといけ
ません。
2月19日 はれ
おひさまの体調がよくなってきたようです。でも、まだ北風くんの元
気がよすぎます。彼にはいつも手をやくんです。おとなしくしてもらう
ために、名古屋名物ういろうを持って、挨拶に行きました。北風くんは
後1回だけ吹いたらやめにすると言ってたけど、あまり信用できないで
す。明日、南風さんを起こしに行く予定です。
2月20日 はれ
南風さんはまだ寝てるようでした。去年にセットした目覚ましをとめ
て、2度寝を決め込んでいるようです。電話しても留守電になっていて
つながりません。今日はメッセージを入れるだけで、起すのはあきらめ
ました。南風さんは寝ざめがわるいんです。へんに起すと暴れます。ち
ょっと怖いです。
3月1日 くもりのちはれ
南風さんが起きてきました。案の定、北風くんと大げんかです。毎年
のことですけど。
でも、たいていは冬の間ずっと仕事で疲れている北風くんが負けてしま
います。これが春一番になって、この後のぼくの仕事がぐっと楽になる
んです。冬眠していた動物たちも目を覚ましたようです。
3月17日 くもり
だいぶあたたかくなってきました。ぼくの最後の仕事は、桜の花を咲
かせることです。眠っている桜の木にそっと教えてあげます。
秘密の言葉があるんです。でもいつの間にか誰かに聞かれてしまったみ
たいで、勝手に咲かせてしまう人がいるんです。季節はずれで咲いてし
まうのはぼくのせいじゃないんです。
これで、すっかり春になりました。
えっ?僕のところはまだだって?
もう少しだけ待っていてくださいね。もうすぐ聞こえてくるはずです。
ぼくの足音が。
桃羽衣鶴地蔵猿取太郎合戦じいさん物語
むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでい
ました。あるとき、おじいさんは、それはそれは大切に育てている飼犬
のぽちと散歩に出掛けました。途中、ならの木の根元でぽちは、ねこじ
ゃねこじゃを踊り出しました。
「ぽちや、ぽちや。どうしたのだね?」
ぽちのここほれとのご命令に、おじいさんはわんわんと吠えながら、
山へ芝かりに、おばあさんはきびだんごをもって竜宮場へ行きました。
しかたがないので、ぽちが川で洗濯をしていると、家来のさるときじ
が近づいてきて言いました。
「おばあさん、おばあさん。お腰につけたきびだんごと私のはごろもを
返して下さい。」
さるは、そんなカニの頼みを無視して、シブガキばかりを食べて悶絶
しました。
そして、鬼ヶ島についたぽちは、乙姫さまにいじめられていたカメを
助けて、ツルにご褒美をもらいました。
「私がはた折りをしている間、このたまて箱を絶対に空けてはいけませ
んよ。」
ぽちはその約束を破り、光る竹を割ると中から大きな桃がどんぶらこ、
どんぶらこと流れてきました。
「ばあさんや、こんな大きな桃は見たことがない。わしらで育てること
にしよう」
その桃はすくすくと大きくなり、やがて十八才になりました。
「実は私、次の十五夜の晩に月に帰らなくてはならないのです」
家に帰ったおじいさんが、その話をすると、おばあさんはとても喜ん
で
「それはよいことをしました。これでお地蔵様達も年を越せるでしょ
う」
ぽちは、末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。
くるみのもりの物語
伝説の森がありました。
きこりは今日もそこで働いています。
その森には、百年に一度不思議な出来事が起ると言い伝えられていまし
た。
長い間暮し、森がもう庭のようになっているきこりは、そんな言い伝え
は忘れていました。
今日も、木こりは木を切り倒し、切株に腰をかけて一休みしていまし
た。
そして、ゆっくりと青から赤にかわってゆく空の色に気が付きました。
森の木々も真赤に染まり、そして溶けるように消えてなくなりました。
木こりがあっけにとられている内に、周りには何もなくなってしまいま
した。
木こりは動くこともできず声もだせずに、立ちつくしていると、遠くに
家が見えました。
その方向へとのびる道も、自分の足もとから続いています。
木こりは歩き出しました。歩いてきた道は、歩くそばから消えてなくな
りました。
たどりついたその家は大きくそびえたっていました。
道はその家の玄関までのびていて、他に道はないようです。
木こりはその家の扉を開け中に入っていきました。
中ではどこからか、オルゴールの音が聞えています。おいしそうな御馳
走のにおいもただよっています。
なにもなくなってしまったこの家の外とはまるで違い、家の中はいろい
ろな物であふれていました。
ひろい吹きぬけの広間には大きなプールがあって、鯨がゆっくりと泳い
でいます。
その奥には草原が広がり、しまうまの群が遠くに見えました。
木こりは広間をぬけて、広い通路を歩いてゆきました。その両側には、
大きな部屋が並び、
ある部屋では、雪が降り、またある部屋では、順番に欠けている月が3
0個並んで光っていました。
それから、次の部屋では海が広がり、そのまた次の部屋では、巨大な
ルーレットがひとりでに回っています。
そして、通路の一番奥、行きどまりの部屋の中には、森が静かに眠って
いました。
見覚えのある森です。木こりにとっては、庭のような森です。
木こりはその森の中の、自分の家に帰ることができました。
ただ、木こりはその不思議な出来事を、思い出すことはできませんでし
た。
おしまい