優しい闇 PART.2
二度目の夜が更けていく中、月明かりだけの仄暗い部屋の中に二人は立っていた。
ジュリアスはアンジェリークの肩を抱くと、ほんのわずかに震える手を背中から腰に伸ばしていった。そして自らの唇でアンジェリークの唇を塞ぐと、ためらいつつもその舌で押し開いていった。ゆっくりと、そしてだんだんと貪るように、ジュリアスの接吻は続く。アンジェリークは体が芯から痺れてゆくのを感じた。やがてひざから力が抜けてがくりと体が崩れる。ジュリアスは驚いて抱きとめ、そうっとベッドにアンジェリークを横たえた。アンジェリークの顔は涙に濡れている。
「怖いか…?」
ジュリアスの声は驚くほど優しい。
「だいじょうぶ…です…。」
「…いやだと思ったら言ってくれ…。よいな?はじめるぞ…?」
「はい、ジュリアスさま。」
ジュリアスは慣れない手つきでたどたどしくアンジェリークの体を辿り始めた。
やがてジュリアスの指はアンジェリークの金色の繁みに隠された花を探し当てた。彼女の躯がびくっと震える。
「あぁっ…」
堪らず声を漏らすアンジェリークに、あれ以来無言だったジュリアスは
「こらえずともよい…。声を出してもかまわぬぞ。」
と言った。消え入るような声でアンジェリークは「はい」と応える。
ジュリアスはそこを、指でゆっくりと後ろの方までなぞって行く。彼女の花びらはすっかり甘い蜜で濡れている。やがてその花びらを分けてジュリアスの指がゆっくり挿入ってゆく。内は熱く、たっぷりと潤っている。…が、
「いたっ…」
まだなにものをも受付けたことのないアンジェリークのそこは、それでも堅く締まってジュリアスの指を押し返そうとする。
「痛いのか…っ?」
「あ…だ、だいじょうぶです…がまんできます…そのまま…。」
「…わ…わかった。そうだな…もう少し力を抜けばよいのではないか…?」
「はい。そうします。」
いつの間にかきゅっと締めていた内股から、アンジェリークは少し力を抜いてみた。
「…それに…もう少し、足を広げてみてはどうか?」
「……はい……」
ジュリアスが思わずそこを見やると、アンジェリークの白い太股が月明かりにうっすらと浮かび上がっている。ジュリアスは慌てて目をそらした。
「……入れるぞ…。」
「えっ、もう…?」
「……???…!!…そうではないっ、指だ。」
「……す、すみません……。」
「……別に謝ることでもない。」
何を間の抜けた会話をしているのだ、と思いながらジュリアスは再びアンジェリークを愛撫し始めた。はやる気持ちがないでもなかったが、時間をかけてゆっくりと慣らしていこうと思っていた。
「…どうだ、これは痛いか…?」
指が一本根元のほうまで入るようになると、ジュリアスはゆっくりとその指を動かしながらそう尋ねた。
「……大丈……夫…です。なんだか…少し…気持ちが……いいみたいな…」
「そうか」
そう答えたジュリアスの声がとても嬉しそうだったので、アンジェリークは思わずくすっと声を出して笑った。
「どうした?何がおかしいのだ?」
「…ジュリアスさま、大好き。」
アンジェリークは心からそう思って言った。
「な……何をいきなり…。続けるぞ…。」
「はい。」
ジュリアスは改めて指を二本にして差し入れた。今度はあまり抵抗もなくアンジェリークの中に収まった。でもまだ中は狭くてきつい。こんなところに自分のものが入るのだろうか、とジュリアスは考えた。とても入りそうもない。
「……どうなさったんですか?」
ジュリアスの指の動きが止まったので、アンジェリークは訝しげにそう言った。
「……いや、なんでもない。」
それだけ言って、また指を動かす。
そうしているうちにジュリアスの折り曲げられた指が偶然に花びらの前の小さな突起に触れた。と、その時、
「はぁ…っんん…」
アンジェリークがとろけるような声を漏らした。
「…ここが…よいのか?」
ジュリアスは、もう一度その花芯とも言える部分を指でなぞり、押し上げる。
「あっ…あぁ……はぁっ…い…いい…で…す…ぅ」
アンジェリークの躯が小刻みに痙攣するように震える。ジュリアスの与えた刺激によって少しずつ膨らんできたそこに、さらに色々な指の動きが加わる。
「んあっ……ああ…あはぁ、ふっ…ふうぅん…はぁ、ああ、あー、…あっあっ…」
アンジェリークの声がどんどん高揚していくのがわかる。ジュリアスの指は容赦なくその部分を弄ってゆく。
「あ、もう…は、あ、なんか、なんか…くる…あ、あっ、あ、ひ、ふあぁっ……!」
アンジェリークの躯は跳ねるように大きく震えた。それからぐったりと横たわり、肩で大きな息をする。ジュリアスはその体と金の髪を優しく撫でた。
「ジュリアスさま…」
ジュリアスは応える代わりに、アンジェリークの涙と汗に濡れた、紅く染まった頬にくちづけた。アンジェリークも手を伸ばし、ジュリアスの首に腕を回してしがみつく。
「大好き……」
ジュリアスはなにか考えているのか、何も言わずにアンジェリークの髪を撫でる。
「今度は……ジュリアスさまのよいように…してください。」
アンジェリークの言葉に、ジュリアスは少し驚いたようだった。が、やがてかぶりを振って答えた。
「いや……やめておこう。おまえが辛いだけだ。おまえが苦しいのに私がよいことなど、有り得ない。」
「そんなこと、ありません。それに、あ…私…あの……ジュリアスさまと…ひとつになりたいんですっ。」
「アンジェリーク……。そうか…。…本当に、よいのだな?」
「はい、ジュリアスさまの、よいように……。」
「…わかった。ゆくぞ。」
そう言ってジュリアスは腕で体を支えてアンジェリークの上に覆いかぶさった。そして、頬に、首筋に、唇に、胸のふくらみにとくちづけながら、自分のものをアンジェリークの金色の繁みの当たりのなだらかな丸みに、そっと擦り付けるようにして刺激を与えた。
「そろそろ、ゆくが…よいな?」
こくりと頷くアンジェリークに思わず微笑みながら、ジュリアスは自分の分身をアンジェリークの花びらの狭間へと運ぶ。アンジェリークもそれに手を添えて自分の中へと導く。
「ん……っ」
ゆっくりとジュリアスはアンジェリークの中に押し入っていく。
「はっ……あっ、痛ぁっ!」
「アンジェリーク…っ……や、止める…か?」
ジュリアスも生まれて初めての感覚に戸惑っていた。書物や映像で得た情報や知識など、実体験に比べるべくもない。こんなに苦しくて、そして…こんなに甘美な…。
「あ、だめ、やめないでくださいっ、ジュリアスさまと…ひとつに…はぁ、痛……っ、ああ、…ジュリアスさまあ…」
ジュリアスはアンジェリークの足を担ぎ上げるように抱えて腰を持ち上げ、さらに深く押し入った。アンジェリークがかすれた叫びを上げる。だがジュリアスはもう自分の欲求を止めることができないまでになっていた。ジュリアスの動きにアンジェリークの悲鳴のような声が呼応する。そして……。
全てが終わり、激しい絶頂感も疲労感もやがて去った。ジュリアスは我に帰ったように厳しい蒼白な顔をしてなにかを考え込んでいる。やっと体を起こしたアンジェリークが見ると、ジュリアスはベッドの上のただ一点をじっと見つめていた。
シーツに残された小さな、紅い染み…。アンジェリークの失った純潔のしるしだ。
「ジュリアスさま……?」
「……私は、とんでもないことを、したのではないか……?」
「…ジュリアスさま…」
「五歳よりただひたすら……女王陛下にお仕えして来たこの身を以って自ら、女王陛下の純潔を汚してしまった。…あまつさえ……」
ジュリアスは本気だ。本当に全身全霊で畏れおののいている。ここまで守ってきたなにかがジュリアスの中で崩壊したのかもしれない。アンジェリークは堪らずジュリアスをその胸に抱きしめた。ジュリアスは震えている。先程まで熱かったはずの体もすっかり冷え切っていた。
「ジュリアスさま…だいじょうぶ…大丈夫です……。私は、女王になったとき、本当の女王のサクリアと共に、自分のものではない色々な記憶が流れ込んでくるのがわかったんです。…そう、いままでの女王の、記録に残せない色々な想い…切なくて、苦しくて、そして幸せな、そんな、想い…。」
ジュリアスはなにも答えない。アンジェリークの胸の中にいて、顔も見えない。
「女王が恋をしてもいいって言うことも、なんとなくわかっていました。ただ確信が持てなかっただけ…それがあの昔の日記で、確信に変わっただけ…。だから、うまく言えないけど、ジュリアスさまはなにも怖がらなくてもいいんです。私を、信じてください。」
「……だが…それでも…そなたの、中に…」
「…?…あっ……そ、それなら大丈夫です。女王は……に、妊娠しません。」
アンジェリークはさきほどの感覚を思い出したように顔を赤くして、言った。
「女性である以上、見も知らぬ男に襲われたりすることだって有り得ますでしょう?…いえ、ちゃんとしたパートナーだって、やっぱり子どもができたら多分後々ややっこしいことになりますよね?だから…女王である以上、子どもができないことになってるんです。これは、おそらく女王しか知らないでしょうけど…確かです。」
「……そう…だったのか…。」
アンジェリークはやっと顔を上げたジュリアスを、心からいとおしく見つめる。
ジュリアスはようやく安心したらしく、わずかに笑みをこぼした。
「ジュリアスさま。愛してます。」
「私は…もっと愛している、アンジェリーク。」
「じゃあ私はもっともっと…愛してる。」
「……いや、きっと私のほうがもっと愛しているぞ。」
「えー、私のほうが愛してますったら!」
ジュリアスはそれ以上言わずに、アンジェリークを強く抱きしめた。
暖かい、確かに自分と同じ人間である、アンジェリーク。愛しいひと。
(私の天使…アンジェリーク。)
月の光と、優しい闇と、波の音だけが彼らを包んでいる。
最後の夜は、ただ抱き合って眠った。
「あー、お帰りなさい、ジュリアス。」
「ん?ああ、ルヴァか。留守中は済まなかったな。」
「いやー、留守と言ってもたった一晩ですからね。いつもと変わらないですよ。」
「そうか。そうだな。……ところでルヴァ。」
「はい?」
「これは土産だ。皆に分けてくれぬか?」
と、手渡されたものは、いかにも観光地のみやげ物、と言う風情の菓子箱だった。
「ああ、おいしそうですねー。部屋に戻ってお茶にでもしましょうかねえ。ご馳走様、ジュリアス。」
いそいそと去って行くルヴァを見送りながらジュリアスはほうっ、とため息をついた。
「たった一晩…、か。」
たった一晩で、今まで護ってきたもの全てが変わってしまったような気がする。そう思いつつジュリアスは、筋肉痛気味の腰をとんとんと叩きながら執務室に向かった。
賭けは誰が勝ったのか知らない。
そもそも賭けが成立したのかもわからない。
でもこの旅行から帰ってきたアンジェリークがなんとなく変わった、と言うのはみんな気付いていた。オスカーなどは、
「お嬢ちゃんからレディに昇格だな。そうさせたのが俺でなくて残念だがな。」
などと、ジュリアスに聞かれたら大目玉を食らいそうな事を言っていたらしい。
ジュリアスはといえば、表向きはまるで変わらなかった。それでも時々ぼーっとしていることがある、ともオスカーは言った。
「まあ、あの方のことだから、公私を混同するようなことはなさらないがな。最も敬愛する女王陛下よりも大切な人が女王陛下なんだからな。結構大変だぜ。」
などと言ってはリュミエールにたしなめられている。
「あれもやっぱり人の子か…」
クラヴィスはのどの奥でクックッと笑う。
「クラヴィス様もお人の悪い…。それにしてもゼフェルなどはクラヴィス様が水晶玉で全部ご覧になっていたと言い張って聞きません。私はそんなことはできないと申しておきましたが…。」
「当たり前だ。これは覗き穴でも監視カメラとやらでもない。それにそんなことは公園の噴水だって映すまい。ただ時々垣間見えるだけだ。ククッ…。」
…と、また笑った。
「時々…?!ご、ご覧になったのですか…?」
リュミエールは思わず身を乗り出して言った。そんなリュミエールの様子がおかしいらしく、クラヴィスは声も出さずに顔を覆って笑っている。
「クラヴィス様…っ。」
クラヴィスの見たものもまた、他の誰にもわからない。ただ、後でリュミエールにこう話していたことだけは確かである。
「まあ、あれもようやく闇を必要とするようになったと言うことだ。」
二人を包む、優しい闇を…。
後書き
ううむ。今回もねちっこいです。でもまあ、一部守護聖も出せたし、楽しかったです。
初めてのエッチ。ジュリ様らしかったかしら。女王云々の設定はもちろんフィクション。
オチは二人を出したかったんだけど、結局このようになってしまいました。
クラヴィスも煽っていたのかしら。くふふ。