金の波


シーツの上には、見事な金の髪が波打って拡がっている。
「あ、……んん、…っ……はっ…ぁ」
その波に溺れかけたような声を出すのはアンジェリークである。
シーツの上では、女性であるアンジェリークをしのぐばかりの麗人が、その白い肌を常夜灯の明かりの中に惜しげもなく浮かび上がらせている。
アンジェリークは、その体の下で小さく喘いでいた。

「……今夜は…ぁ……はぁ…いつも…よりっ…」
金の波を生み出しているその麗人……ジュリアスは、アンジェリークに覆い被さるように……まあ、実際はその体重のほとんどはベッドに預けているが…横たわり、アンジェリークの言葉などまるで聞こえぬかのように、無言で熱心に彼女の体を愛撫している。
「んん…ふ…っ…ぅん…は、…あ、いい…」
ジュリアスはアンジェリークの胸の膨らみを愛撫しながら、その中心を口に含むと、まるで赤子のように吸い上げた。
「ああ……っ…ジュリ…アス…ぅ…っ」
アンジェリークの体がぴくりと震える。
ジュリアスはお構いなしに愛撫を続け、いつしかその長い指はなだらかな腹部を経由してその下の小さく、熱い膨らみに達する。
「あん……っ…!」
アンジェリークの体が小さく跳ねた。そしてさらにその指がその奥の湿った肉襞に達すると、それはくちゅり、と小さな音を立ててアンジェリークの内部に潜り込んだ。

アンジェリークは悲鳴のような声とともに何度か腰を捩る。
「ジュ…っ……ジュリアスさま……っ…ああっ…」
その指はさらに内部を侵し、一番熱く敏感な部分を探り出すと、その外にあてがわれた親指が彼女の小さな突起を刺激するのとともにゆっくりと蠢く。
アンジェリークはもうほとんど泣き声になった喘ぎとともに体を激しく捩る。押し寄せる官能が彼女を支配し、どんどん高みに引き上げてゆく。
「あ…っ…ぅ…ん、んんーー……っ」
アンジェリークは小さくがくがくと体を震わせて、全身で、絶頂に達したことをジュリアスに知らしめた。

一言も発さずこれらの行為を終わらせたジュリアスは、ぐったりとしたアンジェリークの体を抱き上げるとベッドの上に座り、彼女を子供のように胸に抱えた。
「すまなかったな……辛くはなかったか?」
「ジュリアスさまあ……ひっ……く…」
アンジェリークは子供のような顔でしゃくり上げた。
「……私が恐ろしかったのか?」
アンジェリークは小さく頷くと、ふぇぇ…と、くしゃくしゃになった顔で泣いた。
「すまなかった。だが、聖地では数日に過ぎない不在だったのだろうが、私は一月あまりもそなたなしで過ごさねばならなかったのだ……察してくれ。」

アンジェリークは、すん、と鼻を啜り上げて言う。
「でも、何か声を聞かせて欲しかったんです〜…ジュリアスさまの声、大好きなのに……なんで、なにも声を出してくださらなかったんですか〜」
ジュリアスはその白くて艶やかな胸にアンジェリークを沈め、片手で彼女のそのふわふわとした巻き毛を優しく撫でながら言った。
「なぜかわからぬが……声を出したらそなたが消えてしまいそうな気がしたのだ。夢の中でそなたを抱いているような気がして…な。」
「夢じゃ、ありません…」
「ああ…そうだ。そなたは確かにこの胸の中にいる。」
そう言ってジュリアスは、アンジェリークの肩や、うなじや、耳や、頬に、順にくちづけた。アンジェリークが小さく喘ぐ。

「おまえが…欲しい。」
「……いつでも…私はジュリアスさまのものです……」
「おまえをこのまま私の中に閉じ込めて、誰の目にも触れさせたくない。」
「ジュリアスさま……」
ジュリアスは、その長い指で再びアンジェリークの熱い花びらを押し開く。そして、喘ぎつつ体を捩るアンジェリークをもう片方の手で強く抱くと、唇を強く重ねた。
「よいな……?」
そう言いながら、アンジェリークの答えを待つまでもなく、ジュリアスはその熱く燃える楔をアンジェリークリークの中に打ち込む。
アンジェリークの掠れた叫びのような喘ぎが、重なった唇の隙間からこぼれる。
シーツの上で金の波が大きく押し寄せ、アンジェリークは官能の海の波間に溺れてゆくのだった。



アンジェリークは金の髪の中で目を覚ました。
本当に溺れるのではないかと思うほど、その髪は豊かに彼女を包んでいる。
「ジュリアス?」
だがジュリアスの返事はない。
(まただんまりかしら?)
そう思ってアンジェリークはその髪をたどってジュリアスを見つけ出した。
ジュリアスはアンジェリークの背中に張り付いて静かに寝息を立てている。
彼女がその姿を見ようとして腕の中で寝返りを打っても、目を覚まさなかった。
「疲れているのね。」
いつものことだけど、とアンジェリークは小さくため息をついて、その顔をまじまじと見つめた。美しい碧玉の瞳は隠されているが、その寝顔はまるで天使のようだ。

時計は、まだ朝までにまだたくさんの時間が残っていることを告げている。
アンジェリークは、もう少しこの海に溺れたままいようと思った。
「おやすみなさい、ジュリアス。」

そしてアンジェリークは再び目を閉じた。
金の波の中で。