犬も食わない
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ジュリアスさまったらひどい。
どうせ私は前の女王陛下みたいに立派な女王じゃありませんよ。
どうせあんなにお美しくもないし、威厳もないし、落ち着きもないし…。
……そりゃあ、私は確かに好き勝手なことばかりしてるけど…。
そう、そしていつもジュリアスさまを困らせてばっかり。
私はやっぱり、ジュリアスさまに尊敬されるような女王になんか、きっとなれない。
ジュリアスさまに相応しい妻になんか、きっとなれない。
私なんか…。
なぜ…なぜアンジェリークは私の気持ちを理解してはくれないのだ。
なぜ、私を惑わせるようなことや、心配させるようなことばかりするのだ。
…だが、前の陛下を引き合いに出して批判してしまったことはまずかった。だが、あまりに彼女が好き勝手なことを…。いや…。
ああ、そうだ。わかっているのだ。何もかも、私に喜ばれようと思ってしていることは。
それなのに、私はなぜ『喜んで』やることができないのか。
私のような固くて古い頭の男は、彼女には相応しくないのかもしれない。
私など、アンジェリークの夫になるのは所詮無理だったのであろう。
「痴話喧嘩〜?」
「しっ!大きな声を出すな、オリヴィエ。」
「あっはっは、バカバカしい。犬も食わないってやつだね、まったく飽きないね、あの二人。まあ、確かに様子が変だとは思ってたけどね。で、何であんたが知ってんのさ、オスカー?」
「俺をなめてもらっちゃ困る。恋愛のことなら人一倍場数を踏んでいるんだ、しかもいつもお傍に居させて頂いているお二人のこと、わからんはずもないだろう。」
「はあ、場数ねえ。確かに振った方はともかく振られた方もの場数なら人一倍そうだものねえ。お見それしました。」
「なんだと!オリヴィエ。…まあいい、おまえこそいつも人一倍気が回る割には気がつかなかったのか?お二人のこと。」
「陛下が溜息ばかりついているのは気がついていたし、多分そんなことだろうとは思ってたけどねえ。で、原因は何なの?」
「原因までは知らん。…倦怠期じゃないだろうな。」
「あのねえ、まだ一緒になったばかりじゃないの、あの二人。」
「だが、公認の仲になってからはもうだいぶ経つぜ。」
「ふうん。まあ、いるけどねえ、恋人同士のころは良かったけど、いざ結婚してみたら嫌なことばかり目が行くようになって…ナリタリコン…ってやつ?」
「ナリタリコン?なんだそりゃ。まあ、それはともかく、いろいろあるんだろうな。」
「ま、放っとけば?犬も食わないの、私たちが食うとお腹壊すかもよ?」
「そうかも知れんが、一応気をつけていてくれよ、オリヴィエ。」
「いいけどね。あ、リュミちゃんには言わなくっていいの?」
「ああ、あいつに知れるとそのうちクラヴィスさまにも伝わる恐れがある。そうなるとジュリアスさまがお気の毒だからな。」
「ふふ、案外もう知ってたりして、クラヴィス。」
「……かも知れんがな。まったく、世話の焼けるお二人だ。」
はあ、どうしよう。なんだかうちに帰りたくない。残業しようかな。ずっと執務室にいようかな。ああ、ジュリアスさまに会いたくない〜。
……うそ、すっごく会いたい。会って、キスしたい。抱きしめてもらいたい。
………したい。…すっごくしたい。やだ、あたし変。すごくエッチな気分になってきちゃった。どうしよう…濡れてきちゃった。…はあ、ジュリアスさま。会いたい。
気が重い。アンジェリークはもう帰っているだろうか。このままずるずると居残っているのも情けない。だが帰って顔を合わせるのも…辛いな。
……ああ、どうしたことだ。体が火照ってきた。鼓動が早くなる。…わかっている。顔を合わせたくないなどと、本心ではない。…そうだ、わたしの体はこんなにもそなたを求めている。抱きたい。そなたを抱きたい。抱きしめて、接吻をして、そして…。
壊れるほど抱きしめて、そなたを愛したい。アンジェリーク…。
ああ、どうしよう。私、何してるの。こんなところで、こんなこと…。ああ、熱い。ここ、熱い。ふっ…ああ…んっ…ジュリ…アスさまっ…あ…。
あ、なに?足音?どうしよう、誰か来る!こんなとこ見られたら、私、死んじゃうっ!
「アンジェリーク!」
ジュリアスさま!ああ、どうしよう、ご本人が来ちゃった!
「アンジェリーク…?!どうしたのだ?顔が真っ赤だぞ、熱でもあるのか?」
あ、ああもうだめ、恥ずかしい…死んじゃいたい…。スカートの裾が机の上に乗っちゃって、絶対に変に思われるわ。。
「アンジェ…??どうした?何をしている?」
「あっ、いやっ!来ないでっ、見ないでえっ!」
慌ててスカートを戻そうとしたけど、ダメ。ああ、ジュリアスさまが私の腕をつかんだ…指がぬるぬると光っているのを見ているわ。…もう、ダメ。
「アンジェリーク…。」
「あの…私っ、あ…っ、ジュリアスさまっ?」
ジュリアスさまは私の手首をつかむと、私の濡れた指に…キス…ああ、そんな、恥ずかしいですぅ、ジュリアスさまぁっ…。
「アンジェリーク…っ」
ジュリアスさまがそのまま私の指を吸う。ちゅうちゅうっ、と音を立てて、何度も吸う。ああ、もうダメ、変になりそう。…ううん、もう私、とっくに変になってる。
アンジェリーク。私が幾日も彼女を抱こうとしなかったばかりに、彼女にこんなことをさせてしまった。アンジェリークは何度もいろいろなことをして私を誘っていたのに、私が…本当は求めていたはずなのに…体裁ばかりを気にして抱こうとしなかったせいだ…。
済まない、アンジェリーク。私も今は自分の気持ちに正直に…いや、体に正直に…ああ、言葉などどうでも良い。アンジェリーク。
私は思わず彼女の粘液で濡れた指を吸っていた。自分でもこんなことをするとは思わなかった。アンジェリークは恍惚とした表情で私を見ている。私はアンジェリークの手を離すと、捲れ上がったままの裾の下に手を差し入れた。彼女のその部分はもうぐっしょり濡れている。少し指を入れてみた。熱い。鼓動が聞こえる。激しい鼓動。私のか、彼女のか。
「後ろを向いて。」
私の声だ。何を言っているのか自分でもわからぬ。
「机に両手をついて、後ろを向くのだ。」
アンジェリークは素直に言われたとおりにした。私は自分のものを…いつのまにこんな状態になっていたのかわからぬが…彼女のその場所にいきなり挿し入れた。
「あ、ああっ!」
アンジェリークが叫ぶ。熱い。燃えるようだ。私はそのまま激しく、彼女ごと何度も腰を揺さぶった。
「は、あ、あ、ジュリ…アス、さまぁっ…も、いっちゃ…う」
「まだ…だめだ。私と、いっしょに…いく、のだっ」
自分の口から、信じられぬような言葉が勝手に出て行く。言葉だけではない…自分がまさかこんな行為をするなど、考えたこともない。それはまるで獣のような行為。
後ろから入れたせいか、深く入ったそれは、アンジェリークにも違った刺激を与えているようだ。動けば動くほど、彼女のそこは私に絡み付くように感じられる。
「あ、あ、あっ…奥…に、届く…は、いいの、いい、変に…な…ちゃうっ」
アンジェリークの言葉もいつもと違う。いつもの私なら、私の理性なら、許せなかったかもしれない言葉。私はその言葉にさえ刺激され、さらに激しく突き動かす。
「熱い…熱いの、ジュリアスさまっ…だめっ…もう、もうっ……っ!」
最後は声にならぬ声をあげてアンジェリークが達し、そしてその胎内(なか)で私も…。
ああ。ジュリアスさまが、こんなことなさるなんて信じられない。
でも、嘘じゃない。夢じゃない。ジュリアスさまも私が欲しかったのだ。嬉しい。すごく嬉しい。だからすごく感じた。こんなに感じたことってないくらい。
「愛している、アンジェリーク。」
ジュリアスさまが耳元で呟く。ああ、また感じちゃってる。ダメ、もうどうしようもないくらいエッチになっちゃってる…。
「続きは帰ってからで…よいな。」
私はやっとの思いで頷く。立っているのもやっとな私にちゃんと気づいて、ジュリアスさまは私をお姫さま抱っこした。うふっ。女王なのにお姫さま抱っこ、なんて変なの。
「帰るぞ。」
私はジュリアスさまの胸に頭を預けた。気持ちいい。すうっと、エッチな気持ちが落ち着いて、ジュリアスさまに愛されてる自分がとても幸せだな、と思った。
愛してます、ジュリアスさま。そう、呟いたつもりだったけど、なんだか…
くうっ、と私の腕の中でアンジェリークが寝息を立てた。まったく、抱き上げてから何秒経ったろうか。1分も経っていない。ああ、そうだ。わたしも眠れなかったではないか。そうか…彼女もそうだったのだな。家に着いたら、このまま彼女を抱いて眠ろう。
私は先ほどの激情が嘘のように、とても穏やかな気持ちになっていた。
愛している、アンジェリーク。よい夢を見るがいい。
「で、何なのさ、今日のあの二人。」
「ああ、すまなかった、オリヴィエ。俺が悪かった。」
「だ〜から、言ったんだよね、お腹壊すかもよって。」
「ああ、俺もバカだった。まったく、胸焼けがするぜ。」
「ま、いいじゃないの、あの二人が仲良くなれば、聖地は平和。宇宙も平和。言うことないんじゃない?」
「ああ、そう思うことにする。」
「ん〜?オスカー。あんたほんとに顔青いよ。牛乳にでも中ったんじゃないの?」
「ああ、なんだか知らないが、中ったかもしれん…冗談抜きだぞ…」
「あたったのか、あてられたのか…。」
「冗談抜きだと言ったろう…」
「あらまあ。あんたでも病気になるのかね?」
「………」
「ダメだこりゃ。薬なんてあったかねえ。こら、しっかりしなよ、ファイヤー男。」
おしまい
ふう。今回結構お下劣、かも。爆走…させたつもりなのに、最後の最後で理性戻っちゃった。
それにしても、またオスカー一人がひどい目に…m(_ _)mゴメン。
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