この世で一番甘い場所


「陛下?」
「……」
「陛下!」
「……」
「陛下、聞こえてらっしゃいますか?!」
「あのね、ロザリア?」
「…は?」
「ティムカの即位式だけれどね、やっぱり私とジュリアスが行こうと思うのよ…。どうかしら…?」
「……陛下…。」
「え?どうしたの?…あら?ロザリア、何を怒ってらっしゃるの?」
「何を、じゃなくってよ。アンジェリーク!ぜんぜん手のほうがお留守じゃないの。どうしてあんたはそう落ち着きがないの?」
「…あ…、ごめんなさい…ちょっと考え事をしていたものだから…」
「陛下はいつでも考え事なさっていますわ。」
「……ごめんなさい…。」
「ふう。仕方のない方。まあ、いいですわ。それで、何ですって?ティムカの即位式?」
「ありがとう、ロザリア。大好きよ。それでね、他でもない、散々私たちがお世話になった方だし、一番の敬意を表して私とジュリアスが…」
「……陛下。」
「…はい…。」
「また何か企んでらっしゃいますわね。ティムカはダシなのでしょう?」
「そ…そんなことは…」
「ジュリアスはいいとして…あとはコレットですわね。」
「えっ!?で、でもコレットは別でしょう?彼女は彼女で出席すれば…。
いや、それだけはいや。コレットとジュリアスさまだけなんて!」
「……でしたら陛下?」
「はい…。」
「何を企んでいるのか、おっしゃいませね?」
「……わかったわ、ロザリア。…あのね…?」




皇帝レヴィアスとの戦いも終わり、またいつものように平穏な日々が戻ってきた。
だがジュリアスの心はいまだ波立っている。
(アンジェリークを危険な目に合わせて、自分は何もできなかった…)
(なぜ私は抵抗もせず、やすやすと彼らの進攻を許してしまったのか…)
(アンジェリーク…。どれほど不安な思いで助けを待っていたのだろうか…)
(……皇帝は彼女に…)
そこまで考えをめぐらせて、ジュリアスは打ち消すように強く頭を振った。
自分が捕らえられようとした時、やはり多少彼らを傷つけてでも陛下をまずお守りするべきだったと何度後悔したか知れない。
『大丈夫。私って意外としぶといんですよ。あれくらい何ともないです。』
己の不甲斐なさを悔いるジュリアスに、アンジェリークは笑顔でそう言った。
…しかし…時が経つにつれ、ジュリアスの思いはだんだん方向を変えて行く。
(…皇帝は彼女に…)
今すぐ、あの瞬間に時を戻して皇帝の手からアンジェリークをこの手で奪い返したい。
いったい、この気持ちは何なのか。どうすれば、この渇きにも似た焦燥から開放されるのか。ジュリアスにはどうしてもわからなかった。




「ティムカの即位式、ですか。」
「そうよ。今度のことではあの子にも本当にお世話になったし、やっぱりここは敬意を表して女王の私と、首座の守護聖のあなたが二人で行くのが正しいと思うの。ね?」
「…………」
「…ジュリアス?」
「はい。」
「どうなさったの?そう言えばなんだか、顔色が悪いみたい。大丈夫?」
「大丈夫です。ご心配には及びません。」
アンジェリークは、事件後ジュリアスが余り機嫌がよくないのは承知していた。まるで女王候補だったころのように気難しいばかりのジュリアスに戻ったように見える。
(そう…あれからジュリアスさまは私を抱いては下さらない…私の体が心配だとか言ってるけど、もしかしたら別の理由で…まさか…)
アンジェリークはそう思うたび、頭を振ってそれ以上考えないようにした。
彼女も焦っていた。何らかの形でジュリアスを自分につなぎとめておきたかった。
今回のことは、そのための実力行使である。
(でも、もしかしたらジュリアスさまは、私のこと呆れて、嫌いになってしまうかも…)
そんな不安を懸命に打ち消しながら、アンジェリークはジュリアスを見つめた。
気がつくとジュリアスもアンジェリークを見つめていた。美しい眉を少ししかめて、でも、まるで子供が母親に何か打ち明けたい時の顔のようにも見える。しかしジュリアスは次の瞬間その目を伏せてしまった。アンジェリークは仕方なく言葉を続けた。
「何ともないのならいいのですけど…。で、ジュリアスはどう思う?」
「何がですか?」
「…何って…ティムカの即位式のこと…」
「構いません。御意のままに。」
「……そ、そう。じゃあ準備を進めてもらうわね。準備といっても、別にたいしたことじゃないけど…。」
「はい、お任せいたします。」
いかにほんの一時とはいえ、二人で主星を離れることに、必ず何か意見をしてくるだろうと思っていたアンジェリークは、あっけなく承諾したジュリアスに拍子抜けした。
(ジュリアスさま…もしかして、私のわがままに呆れて、もう…)
「陛下。御用はそれでお済みですか?他にございませんようでしたら、執務が残っておりますのでこれで失礼いたします。」
「あ…ええ、もういいわ。ご苦労様。」
「では。」
足早に部屋を出て行くジュリアスを引き止めて問い詰めたい気持ちを、アンジェリークは必死で押しとどめた。
「ジュリアスさま…」
アンジェリークの目から涙がひとしずく零れていった。




「ティムカの即位式、ですか。」
「陛下が言い出しっぺでしょ?ど〜せ。」
「ああ、そんなところだろうな。」
「あ〜。陛下もいろいろ、考えてるみたいですね〜。」
年中組とルヴァの四人の守護聖たちが、リュミエールの淹れたハーブティーを飲みながら、いつものごとく噂話に興じている。
「ふうん。でも察するところティムカはダシ、だろうね〜。」
「そんな…。いくら陛下でも、ティムカのお祝いをする気持ちに偽りはないと思いますけれど…。」
「そりゃそうだろうが、二人だけ、というところにかなり作為を感じるぜ。」
「ふふふ、陛下も焦っているようですね〜。」
「黙って聞いていれば、散々なおっしゃりようですわね、みなさま。」
突然、そういいながらロザリアが現れた。
「あっ、ロザリア、いやあ、私たちはですね〜別にその〜」
「ルヴァさま。あなたまで陛下のこと、そういうふうに思ってらっしゃるんですね。」
悲しそうな目で、ロザリアはルヴァを見つめた。
「いや、私は、その〜」
ルヴァは冷や汗をかいている。補佐官に特別な好意を抱くこの地の守護聖に、助け舟を出すつもりでオスカーたちが言った。
「ロ、ロザリア。俺たちは別に、陛下のこと…。」
「ええ、それは確かに陛下は少し落ち着きがなさ過ぎますけれど…」
「リュミちゃん、あんたはさっきから言うことキツ過ぎ。」
ロザリアは、ため息をつきながら言う。
「…まあ、無理もないですわ。陛下はそれがいいところでもあるんですものね。」
「そうそう、そうですよ、ロザリア。わかってもらえましたか〜?」
「それはともかく!今日はみなさまに聞いていただきたいことがあって来たのですわ。」
「はい〜?」
ロザリアは彼らに女王の計画を話し始めた。
それは実に他愛のないものではあったが、それだけにアンジェリークの必死な気持ちが伝わってきて、ルヴァたちは彼女の健気さにちょっとしんみりとした。
「まったく…罪な方だぜ、ジュリアスさまは。」
「あ〜、そうですねえ。でもここは陛下のために絶対成功させてあげたいですね〜。」
「ちょっと、ルヴァ。あんたはいいけど、それってアンジェリークをまだ諦め切れないお子様たちには酷なんじゃな〜い?」
「……クラヴィスさまは…どうお思いになるのでしょうか…。」
「もうっ!アンジェリークは一人しかいないんだからいまさら仕方ないでしょう?
男の方がそうくどくどおっしゃらないでくださいませね!」
「はいはい、補佐官殿。……ってことで、まずは衣装の準備ね。これは私に任せて。とびっきりのを準備させてもらうから。そうと決まったらあのぜんぜん謎じゃない謎の商人ちゃんと連絡とらなくっちゃね。」
「おい、オリヴィエ。何でもいいが、おまえの趣味だけは押し付けるなよ。陛下やジュリアスさまがが極楽鳥になるのだけは勘弁してもらいたいぜ。」
「うるさいんだよ、オスカー。あんたは宴会場の準備でもしておいで!」
「わたくしは、楽士の手配をいたしましょう。」
「あ〜、いよいよですねえ。いつかは、と思ってましたけどねえ。ふふふ、ジュリアスもいよいよ年貢の納め時ですね〜。」
「ルヴァさま。」
「はい、何でしょう。ロザリア。」
「いろいろと、参考にしてくださいませね。」
「はい?な、何の参考でしょうか?」
「あー、まったく!どうしてこう朴念仁ばっかりモテちゃうんだろうね。ここにこ〜んないい男がいるって言うのにさ!陛下も補佐官殿も、男見る目、ないね!」
何のかんのといいながら、補佐官と4人の守護聖は各々の任務遂行のために順々にその場を離れて行った。




いよいよ明日が即位式、という日になった。
アンジェリークとジュリアスは、立場上あまり聖地を離れるわけにも行かず、当日に星の小径で行くことになっている。
「ジュリアスさま。明日の即位式の件で、陛下が最後の打ち合わせをしたいとおっしゃってますが。」
「ああ、オスカー、承知した。すぐに参ります、とお伝えしてくれ。」
「わかりました。」
「その前に少々尋ねるが、オスカー。」
「はい、何でしょうか。」
「ここのところ宮殿内で何か工事をしているようだが、そなたは知っているか?」
「……工事…ですか?いえ、私は何も。」
「…そうか。ならよい。呼び止めて悪かったな。」
「いいえ。ですが宮殿内のことなら陛下ならご存知でしょう?お聞きしてみたらいかがですか?」
「陛下は何も言ってはくださらないのだ…。」
「は?何かおっしゃいましたか?」
「いや、よい。もうそなたは下がれ。」
「はい、失礼いたしました。」
ジュリアスの部屋を辞したオスカーはちょっととぼけ過ぎたかな、と思う。だが、あとから起きることを考えたら、これくらい焦らしてもいいよな、と一人納得するのであった。




「陛下。ジュリアスです。お呼びとのことでしたので参りました。」
アンジェリークは元気がない。このところジュリアスにはあまり笑顔を見せない。他の守護聖と笑っているところは見たような気がするのに…やはり彼女は…。
「あ……ジュリアス。ご苦労様。あのね、あの…」
「はい?」
「あの、明日の即位式で着て行く衣装ができたの。一度合わせていただけるかしら。」
「衣装…ですか?」
「ええ、一応お祝いの席だから、盛装しなくちゃと思って…。」
「ですが、私たちには公務で着用しているこの服が正装です。これで何ら問題はないはずですが、なぜまたそのようなものを…。」
「……お願い。」
「………わかりました。」
アンジェリークはなんだか目を潤ませているようだ。あの事件以来二人の仲はギクシャクしている。ジュリアスはそれが自分の至らなさ故のことと思っていたので、アンジェリークが自分を悲しい目で見ているような気がしていたたまれなかった。
ジュリアスはとにかく彼女の言うとおりにしようと思って、控え室に下がって用意された衣装に袖を通した。
「これは…?」
用意されたその衣装は、豪華な絹で織られたローブで、光を織り込んだような美しい白と金の交織りになっている。上から羽織る布も、金銀のまばゆい織物で、一見重そうだが手にしてみると羽根のように軽い。しかしこの衣装の豪華さはなんだ。まるでこれでは婚礼の衣装ではないか。
「…いったい何を考えているのだ。」
「んふふ〜。何って、そういうことを考えているんだよ〜ん。」
ジュリアスの後ろにいつのまにかオリヴィエが立っている。
「オリヴィエ。そなたがこんなものを考えたのか?」
「ま〜ね、あ〜だめだめ、そんな着方しちゃあ。羽織るだけじゃなく、ちゃんと着て頂戴よ。陛下は女性だし、ちょっと時間がかかると思うけど、待ってあげてね。」
「何のことだ。いったいそなたたちは何を企んでいるのだ。」
「失礼いたします、ジュリアスさま。」
物陰から現れたリュミエールがいきなりジュリアスを羽交い締めにした。
「なっ!」
「OK、しっかり押さえててね、リュミちゃん。ジュリアス、悪いけど玉のお肌を少〜し拝ませてね。」
ジュリアスは何かいろいろ叫んだりして抵抗はしていたようだが、結局オリヴィエとリュミエールの手によって着替えが完了した。
「ふう。でけた。あ〜、ちょっと顔色が悪いねえ。ファンデーションはたいとくか。ほいほいっと!あとは髪の毛を梳かせば、お・し・ま・い!」
「ああ、本当に素敵になりましたね、ジュリアスさま。これなら陛下もお喜びになりますね、オリヴィエ。」
「そ〜ね〜。あ、ジュリアス。こんな過激なこと考えたのは陛下じゃないからね。陛下を責めたりしないでよ、お願いだから。」
「わからない…」
「あん?」
「私には陛下のお心がわからない。私がお嫌ならそうおっしゃってくださればよい…。」
「『お嫌』で、こんなことすると思うの。まったく、朴念仁は困ったねえ。」
「準備は済みましたね。さあ、こちらにいらしてください、ジュリアスさま。」
リュミエールはやっとジュリアスをその馬鹿力から解放した。
ジュリアスはもう逆らおうともせず、彼らに従った。




ジュリアスがオリヴィエたちに連れて行かれたのは宴の間であった。豪華に飾られたテーブルには料理人が腕を振るったであろう素晴らしい料理が湯気を立てていた。
テーブルの一番上座には椅子が二つ並んでいる。そしてその前に置かれているのは…!
「ま、まさか…あれは…。」
真っ白な生クリームだけで飾られた大きな三段重ねのケーキ。誰の目にも明らかな、いくらジュリアスでもそう思う、正真正銘のウェディングケーキ。
「お待たせしました、陛下のご準備が整いましたわ。」
呆然とするジュリアスの耳に、ロザリアの声が響く。ジュリアスは思わず振り向いた。
「アンジェリーク…」
思わずその名を口にするジュリアス。そこに立っている少女が着ているのは、ジュリアスの着ているものとよく調和のとれた、天使の羽根のような無垢な白いドレス。それに程よく配置された金の飾りが、シャンデリアの光にきらめいている。
「ジュリアスさま。」
「アンジェリーク…そなた…。」
「ごめんなさい、ジュリアスさま!私、ジュリアスさまを失いたくない。だけど、ジュリアスさまはあの戦い以来、なんだか私のこと避けてらっしゃるような気がして…。だから、女王の職権濫用して、ジュリアスさまと結婚式を挙げてしまおうって…。あ、でも…もしこんなことお嫌だったら言ってください。私、ジュリアスさまのこと、あ…諦め…」
最後のほうはもう、声にならない。小さなブーケを握り締めた手袋の手が、ぶるぶる震えている。少し露わになっている小さな肩も鳴りそうなほど震えている。
「陛下…。お顔をお上げください。」
ジュリアスはどんな顔をしているのか。そこにいる守護聖たちは、一斉にジュリアスに注目した。この期に及んで、この計画が失敗に終わればいいと思っているものはいなかった。みんな、アンジェリークの幸せを願っているのだから。
「ジュリアスさま…。」
涙で潤んだ目をして顔を上げた、アンジェリークの瞳に飛び込んできたものは、この上なく優しいジュリアスの微笑だった。




「まったく…そなたには驚かされどおしだ…。」
華燭の典が無事に済んで、二人は宮殿の一部を改築した新居に案内された。ジュリアスは自分の知らぬ間に何もかも事が運んでいたことに、呆れつつ、苦笑いで言った。
「ごめんなさい…。」
アンジェリークは消え入りそうな声で言う。
「構わぬ。いつかはけじめをつけねばならなかったのだ。ただ前例を知らぬ事、つい古いしきたりにこだわってしまう私には何をすればいいのかわからなかったのだ。こうなって、かえって私はほっとしているような気がする。」
「ジュリアスさま…。」
「だが…私はひとつだけ、そなたに聞いておきたいことがある。こんなことを思う私の心は醜い。そう思うたび、そなたの顔を見るのがつらくなって行ったのだ。だが聞いておかなければ済まぬ。…教えてくれ。あの男は…皇帝は、そなたの体に何もしなかったのだろうな?」
「ジュリアスさま……?」
「何があってもそなたが悪いのではない。それはわかっている。だが、もしかしてあの男が、そなたの体に、その肌に触れたのかも知れぬ、と思うたび、私の心は煮えたぎるほどだ。どうか、そなたの口から真実を聞かせて欲しい…頼む…。」
「ジュリアスさま…。そうだったのですね。大丈夫。ロザリアもずっとそばにいてくれたし、皇帝は私に指一本触れていません。」
アンジェリークはジュリアスの震える肩を抱いた。
「アンジェリーク…済まぬ。こんな…」
しかしジュリアスが言い終えぬうちに、アンジェリークはジュリアスを抱いていた手を離し、搾り出すように、こう言った。
「私も同じです。あのことのあった間、ジュリアスさまはあの子と…コレットたちと旅をなさってました。でもその間にジュリアスさまがもしかしてあの子と……そんなことを考えてしまって、もう、たまらなかったんです。…ひどいでしょう?私だって、こんなに醜いことを考えているんですよ。…宇宙の女王なのに。だから…あっ!」
アンジェリークの言葉はジュリアスの力まかせの抱擁によって中断した。
「痛い…ジュリアスさま…痛いです…」
「構わぬ。」
そう言ってジュリアスはアンジェリークをすぐ傍にあった長いすに押し倒した。
「ドレスが…皺になります…。」
「構わぬ…」
「でも…」
「皺になるのが嫌なら、脱げばよい…」
「ジュリアスさま…」
「もう我慢ができぬ…」
ジュリアスは、やっとこの手に取り戻したアンジェリークの肌のぬくもりを、己の指で、肌で、口で、何度も何度も確かめて行った。




「で、結局そっちの星に新婚旅行に行ったようなもんだよな、どう思う?王さま。」
「王さまって言わないでくださいよ、ゼフェルさま。」
「けどよ、おまえ、ダシに使われたんだぜ。腹立たねえ?」
「いえ、別に。あのお二人はちゃんと僕の…いえ、私のこと、心からお祝いしてくださいましたもの。まさかお二人が揃って来てくださるなんて思ってもみませんでしたから、本当に嬉しかったんですよ。」
「へっ、どうだか。」
「ふふ、そんなこと言って、ゼフェルさまもお二人のこと、幸せになるようにって思ってらっしゃるんでしょう。」
「だっ…誰が!いつ別れたって、俺の知ったこっちゃねえや。」
「ふふふ…」
自分の即位式が終わったティムカはお祝い返しと二人の結婚祝を聖地に送り、それをたまたま受け取ったゼフェルはティムカに電話をかけたのだった。
「まあ、何だな。やっとあの浮かれた二人が落ち着いたって事は、聖地のためにはよかったかも知れねぇけどな。」
「私はお二人がそんな仲だったなんて存じてなかったんで驚きました。でも、お似合いですよね。私もお妃さま、欲しくなっちゃったなあ。」
「へへ、まだ早えよ。」
「そうですね、ゼフェルさまの後にします。」
「ばかかおめえ、それじゃ結婚できねえぞ。俺のほうが老けるの遅いんだからな。」
「そうですね、じゃあ、また考えておきます。」
「お、おう。俺も適当なのがいたら紹介してやっからさ。」
「はい。期待してます。では、おやすみなさい。」
「おう。じゃ、またな。」
ゼフェルはちょっと焦りつつ電話を切った。
(ちぇっ。アンジェよりかわいい奴、ぜって〜見つけてやっからな!)
ゼフェルは心の中で、そう叫んでいた。



「ジュリアスさま?」
「何だ。」
ジュリアスはアンジェリークの髪に顔を埋めたまま答えた。やっと取り戻したアンジェリークをジュリアスはなかなか離そうとしなかった。外ではいつものとおりだが、新居に帰って来ると時間さえあれば彼はアンジェリークに触れている。髪を撫でたり、体に触れたり、抱きしめたりと方法はさまざまではあるが。
「ふふ。幸せです、私。」
「そうか。よかった。」
「この幸せがずっと続くといいですね。」
「そうだな。」
「きっと続きますよね。」
「ああ。」
「それから…あっ!」
「黙って…」
ジュリアスは興奮のためか雄弁になっているアンジェリークの口を、己の唇で塞いだ。
(いつまでも、続かせてみせる。きっと…)
目の眩むような口付けをアンジェリークに与えながら、ジュリアスは強く、そう思う。
(私の天使…もう、絶対離さぬ。)
(ジュリアスさま…っ)
ジュリアスの腕の中で、天使が、甘く溶けて行った。




おしまい





ううむ…。ゲロ甘で、激しくて、ジュリさま暴走…を目指したんですが、なんだかまだまだだなあ。
でも何はともあれ、お誕生日中にアップできそうでほっとしています。
まだまだ暴走が足りないとお思いの方、どうすりゃいいのか、いいアイディアを教えてください。
はあ。でもやっとロザリアまともに出せた。しかもあのカップリングもちょっと出せた。
こっちのほうも、結構嬉しかったりして。ではまた、ハッパかけてくださいね〜。