Crazy About You


(…まだ明かりが…?)

ジュリアスは女王補佐官室から光が漏れている事に気づき足を止める。
コンコン
「失礼する。」
「ジュリアス様っ、どうされたのですかこんな時間に。」
女王補佐官アンジェリークは突然現れた光の守護聖に驚いた顔を見せた。
「それはこちらのセリフだ。そなたこそこのような時間まで何をしているのだ?」
「書類の作成をしていたんですが、なかなか思うようにまとまらなくて。きりのよいところまでって思ってたらこんな時間になっちゃいました・・・まだまだディア様のような立派な補佐官にはほど遠いです・・・。」
「そのようなことはない。この半年の間でそなたは私が予想していたよりもはるかに成長したと思う。先日、陛下もそなたのことを頼りにしていると言っておられたし・・・・・・アンジェリーク?」
目の前にいるアンジェリークの瞳から涙が零れ落ちた。
「あれ・・なんで涙が・・・でもなんだかうれしくて・・・ふえっ・・・。」
ずっとはりつめていた糸が切れたかのようにあとからあとから涙があふれる。
ジュリアスはそんな彼女にどうしていいのかわからず困惑した。
「まいったな・・・そなたを泣かせるつもりはなかったのだが・・・。」

(ずっと不安な気持ちを必死にこらえていたのか・・・。)

ジュリアスはこみあげる愛しさに、彼女をそっと抱き寄せた。
その暖かい腕の中でひとしきり泣くとアンジェリークは、はっと我にかえる。
「きゃぁ!すみませんっ。私ってば・・・。」
「・・・いや・・・。」
ジュリアスも少し顔を赤らめ、机の上に目をやった。
「書きかけの書類はこれか・・・?」
「えっ・・はい、そうです。」
「私が目を通してみよう。」
「そんな、ジュリアス様にご迷惑をかけるわけには。」
「何を言っている。補佐官と守護聖はともに助け合い、陛下に尽くさねばならぬ。困ったときはいつでも言うがよい。」
アンジェリークはこぼれんばかりの笑顔をジュリアスに向けた。
「ありがとうございます、ジュリアス様。」



「・・・・。」
ベッドに横になり瞳を閉じて浮かぶのは輝かしい彼女の笑顔。腕の中のやわらかな感触とほのかな甘い香り。
ジュリアスはため息をつくと、ベッドを抜け出しバルコニーに出る。夜風が金の髪を揺らし、美しい横顔をあらわにする。

いつからだろう、このような想いに気づいたのは。最初はただの女王候補にすぎなかったはずなのに、その明るい笑顔とともに私の心に飛び込んできた光の天使。そなたが補佐官としてこの聖地に残ると知ったとき、どれほど喜ばしかったことか。・・・届かぬこの想いを伝えに行きたい・・・・この胸の奥に閉じ込めた言葉を・・・。
・・・しかしそれはできぬ。そなたの瞳の先に映るのは私ではないのだから・・・







軽やかなノックとともに執務室の扉が開く。
「失礼します。」
その訪問者にジュリアスの鼓動は高鳴り、先に訪れていたオスカーがいちはやく彼女に声をかけた。
「これは、補佐官殿。相変わらず輝くばかりの美しさだ。」
「また、オスカー様ってば、すぐそうやってからかうんだから。すみません、ジュリアス様、お話中に失礼します。大至急こちらの書類に目を通していただきたいと陛下にことづかったもので。」
「あ、あぁ、わかった。至急目を通すこととしよう。」
ジュリアスがアンジェリークから書類を受け取ると、ノックの音が響きあでやかな衣装に身を包んだ青年があらわれた。
「失礼〜、アンジェこんなところにいたの?」
「あ、オリヴィエ様。」
「あ、じゃないよ〜、探したんだから。用事を終えたらすぐ私の執務室に来てくれないかな。」
「えっと、用事なら終えましたからこのままお伺いします。」
「そう?じゃぁ行こうか。」
オリヴィエがアンジェリークの腕をつかむと、アンジェリークは振り返りながら、
「すみません、失礼します。ジュリアス様、オスカー様。」
そう言うとぱたんと扉が閉まった。
「オリヴィエの奴、挨拶もなくアンジェリークをさらっていきやがって・・・・・・ジュリアス様?」
オスカーの呼びかけに、はっとしてジュリアスは答えた。
「あ、あぁ。すまないが、この書類に目を通したいので先ほどの話しはあとで。」
「はぁ・・・。では後ほどまた伺わせていただきます。」
オスカーが執務室を出てゆくと、ジュリアスは書類を手にため息をついた。


そうだ。アンジェリークの瞳の先にいるのはオリヴィエだ。私ではない。わかっているはずなのに・・・アンジェリークのつかまれた腕をふりほどいて、行くなと・・言ってしまいそうな自分。何をやっているのだ、私は・・・。いつまでもこのような想いにとらわれているわけにはいかぬ。

ジュリアスは気を取り直して書類に目を向けた。



「オリヴィエさま〜、まだですか?」
アンジェリークはオリヴィエの執務室に通され、ソファに座り待ちわびる。
「は〜い、お待たせ。この間いっしょに旅行に出かけたときに頼んだもの、ようやく届いたんだ。アンジェも早く見たいだろうと思って。」
「あ、この間のって、もしかして?」
「そうよ〜。あんたってば店のショーウインドゥにはりついて、離れないんだもの。よっぽど気に入ったのね。」
「えへ・・・まぁ。」
アンジェリークはオリヴィエからブルーのドレスを手渡され、うれしそうに自分の身体にあててみる。
「ふ〜ん、ちょっと大人っぽいデザインかなと思ったけど、意外と似合うじゃない。それにしても・・・いーかげん教えてくれてもいいんじゃない?だ〜れのためにそんなに綺麗になりたいのかな?」
「えっ、そっ・・それは。」
「ふっ、まぁ、さっしはついてるけどね。」

(おそらくその相手もアンジェのこと・・・。でもくやしいから教えてあげない。みんなの・・・いや私の大好きなアンジェを独り占めするんだから、少しくらい回り道させてもいいよね。きっと今ごろ、はらわたぐらぐら煮えたぎらせてたりしてっ、ふふふっ。)

オリヴィエは悪戯っぽく微笑んだ。







「あ〜あ、また遅くなっちゃった。」
アンジェリークは書類を片付け、私室に戻ろうと執務室を出た。

(あれ・・・明かりが。)

「失礼します。」
明かりの漏れる執務室の扉を開けると、その部屋の主は驚いた顔をして彼女の名を呼んだ。
「アンジェリーク・・・。」
「こんばんは、ジュリアス様。」
「そなたこのような時間に何をしている?」
「それはこちらのセリフですわ・・・・ふふふっ・・・・前にもこんなことありましたね。今回は立場が逆ですけど。」
「ふっ、そういえばそうだな・・・。」
ジュリアスの瞳がやわらかく微笑む。
「お手伝いしましょうか?」
「いや・・・とくに急を要しているわけではないのだ。」
「え・・・じゃぁ何故?」
不思議そうな顔をして自分を見上げるアンジェリークに、ジュリアスは言葉に詰まる。

(・・・自分のせいなどと、そなたはきっと思いもよらないのであろうな・・・。)

ジュリアスは瞳を伏せて言った。
「そなたと同じだ。きりのよいところまでと思っていたらこのような時間になってしまった。・・・アンジェリーク、よければ少し茶でもつきあわぬか?」
「あ・・はい、もちろんです、ジュリアス様。じゃぁ、支度しますね。」
「いや、私が支度しよう。そなたはこちらで待っているがよい。」
「え?ジュリアス様が?」
「ふっ、こうみえてもリュミエールにひけはとらないのだぞ。」
「ふふっ、ジュリアス様ってば。ではおとなしくここでお待ちしています。」



(あれ・・・雨・・・。)

アンジェリークは外から聞こえる雨音に気づき、窓辺に行き外を見た。
雨は激しく地面にふりそそいでいる。
すると雲の合間が光り大きな音が打ちつけた。
「きゃぁ!」
ジュリアスはその悲鳴に慌てて駆け寄った。
両手で耳を覆い、その場に座り込んで震えるアンジェリークを目にしジュリアスはやさしく声をかける。
「大丈夫か?」
アンジェリークが差し出された手につかまり立ち上がろうとした瞬間、再び空が光り大きな音とともに明かりが消えた。
「いやっ・・・。」
突然の暗闇にアンジェリークの恐怖心はさらに増大し、震えながらジュリアスの胸にしがみついた。
「・・・アンジェリーク・・・。」
胸の中で、自分を頼って震える少女。ジュリアスの心にこらえようのない愛しさがこみあげる。
「大丈夫だ。いつでも私は・・・そなたを守るから・・・そんなに怯えるな・・・。」
「ジュリアス様・・・。」
潤んだ碧の瞳がジュリアスを見上げ、心細げに自分の名を呼ぶ。
ずっと胸の奥に閉ざしていた炎がいっきにジュリアスの想いをかきたてた。
「・・・どうして・・・オリヴィエなのだ・・・?」
つぶやくように低くかすれた声がアンジェリークの耳に届いたとたん、アンジェリークは強く抱きしめられた。
「・・・もう、こらえることなどできぬっ。・・・・アンジェリーク、私はそなたが好きだ。好きで・・・気の狂いそうなほどにっ・・・そなただけが・・・。」
そう言うとアンジェリークのあごに手をかけ自分を仰がせると、ジュリアスは息もとまるほどくちづけた。
アンジェリークは突然の出来事に、その瞳から涙がこぼれ頬をつたう。
「・・・嘘・・・。」
「嘘でこのようなこと申すはずなかろう・・・。」
ジュリアスは寂しげに微笑み、アンジェリークの頬に触れた。
「すまなかった。・・・そなたの心にいるのはオリヴィエだと知っていたのに・・・このような形でそなたを傷つけてしまった・・・。」
「・・・違う・・・。」
「アンジェリーク?」
「違います、何か誤解なさってる。私が・・・私がずっと・・・ずっと憧れていたのはジュリアス様なのに。」
「・・・今、なんと言った?・・・そなたが想っているのはオリヴィエではないのか?」
「・・なんでそこでオリヴィエ様のお名前が出てくるんですか?確かにオリヴィエ様は素敵な方ですし、仲良くさせていただいていますけど・・・。」
「二人で旅行にまで出かけていたではないか?」
「それはっ・・・エステツアーだっていうから御一緒させていただいただけで・・・少しでも・・・綺麗になってジュリアス様に釣り合う女性になりたくて・・・私・・・。」
アンジェリークが照れて瞳を伏せると、ジュリアスはそっと彼女を抱きしめた。
「そなたの気持ちが聞きたい・・・答えてくれぬか・・・アンジェリーク・・。」
耳元でやさしく問いかけられ、アンジェリークの鼓動が高鳴る。
「・・・好きです。ジュリアス様が・・・好」
言葉を言い終えないまま、再び唇が重ねあわされる。


届く事はないと思っていた
狂おしいほどの想いを抱え その笑顔を見守っていた
けれど この腕の中に舞い降りた愛しき少女
もう離しはしないから
溢れる想いを・・・今




fin

なんだかタイトルから飛ばしてますジュリアスさま、最近じゃどこのジュリリモサイトでも切れまくり、飛ばしまくりで青春謳歌してますけど、いいのかしら…ってことで、こちらも暴走してますね(笑)。こちらのアンジェも補佐官です。オリヴィエが絡んでくるのが新鮮ですわ。ああ、でも報われるからいいものの、報われなかったジュリさまはいったいどこに行けばいいのって感じで、ちょっと怖いです。だからクレージーなのか。(核爆)
朔夜さん、本当にありがとう。私も頑張ってジュリリモ書きますわ!(…でも最近なんだかジュリさま、アンジェに振りまわされて、やっぱりリモジュリのような気がするんですよ…)