チャーリーズ・エンジェル
○月☆日(月の曜日)
今日はナンか、本当につっまらん日や。理由はわかっとる。女王候補…いや、もう立派な女王陛下にならはったアンジェちゃんがとうとう新宇宙に行ってしもたんや。
今までは女王になったちゅうても、しばらく聖地におったんでわからんかった。やっぱり俺は本気であの子が好きやったんやなあ。いっつも日の曜日に公園で、あの子の来るのが楽しみでしゃあなかったんやけど、……あの子も俺に会うのが楽しみなんかと思とったんやけど、それは俺の思い違いやったのかなあ。はあ、つまらんなあ。もう聖地にも居とうないけど、仕事やからしゃあないわ。
ナンでも今日は女王陛下…この宇宙の女王陛下が…この女王はんもごっつう可愛いけどな。…コホン、だからその女王はんが、なんか俺に用があるっちゅうことで呼び出されたんやけど…。はあ、気ィ進まんなあ。
「ウォンさん、ご苦労様。わざわざ呼び出してごめんなさいね。」
「いやー女王陛下はん、もったいないお言葉ですわ。」
謁見の間で女王陛下にお会いすることになっとったんで、俺は行ったわけや。女王陛下は相変わらずニコニコしとる。えっらい気さくな方なんや、この女王はんは。そやけど隣にむっつかしい顔して光の守護聖のジュリアスさまがいてはる。この人は女王はんよりずっと威厳があるっちゅうか、ま、本当はええ人なんやけど、かたっ苦しゅうてしゃあないんや。女王はんだけなら積もる話もあるんやけど、この人が居ったんじゃ、あまり馴れ馴れしい口は利けんなあ。うーん、残念や。
「ええと、ご用と言うのは他でもないの。新宇宙にあなたの会社のいろいろなものを届けてほしいの。」
「ほ、ほんまでっか?」
女王陛下はんはやっぱりニコニコしとる。まるで天使や。と、そこへ、
「女王陛下がこんなところで冗談を言うはずがあるまい。そなたには、まだ生活物資の整わない新宇宙へいろいろ届けてもらうことになる。次元回廊にはむやみなものを通すわけには行かぬから、そなたにはごく信用のおける部下だけを伴って行っていただきたいが、よろしいか?」
ジュリアスさまのお言葉や。あっりがたいなあ。後光さした神様みたいに見えるわ。
「も、もちろんよろしいですがな!このチャーリー・ウォン、全身全霊をかけて仕事さしていただきます!」
俺はもう嬉しゅうて、嬉しゅうて、ジュリアスさまにキスでもしたい気分やった。…もちろんせえへんけどな。とにかく、これで俺はまたアンジェちゃん、やのうて、新宇宙の女王陛下にお会いできるんやな。女王陛下と恋愛はできんのかも知らんけど、まだまだ諦めへん!待っててや、女王…いや!アンジェちゃん!
○月★日(木の曜日)
いやー、いよいよ来たで!新宇宙や。…とは言っても、まだ何にもあれへんけどな。宮殿も殺風景やし、ま、いっちょここはわがウォン財閥のコネでいろいろ納めさせてもらいまひょか。アンジェちゃん大人しいからどんなん欲しいか言わへんやろし、こっちが気を利かせて格調高いインテリアとか探さにゃ。ま、支払いはあっちの女王陛下はんの方が請け負ってくれるしな。……そういや、今日もまたジュリアスさまが傍に居ったな。前はロザリアさまがいっつも居ったんやけど、最近ジュリアスさまが居ることが多いな。……どうしてあの二人……ま、女王と守護聖やからな。俺と比べてみてもしゃあないか。
「そこに誰か…あ、まさか…商人さん?!」
「うわ!ア、アンジェちゃん…やのうて、女王陛下はん!」
考え事しとったら向こうから来てしもうた。びっくりしたわぁ。
「あ…あの、いいんですよ、アンジェで。商人さんならそっちの方が…。」
「どうしたの、アンジェリーク!あれっ、謎の商人さんじゃない、どうしてここに?」
「あれまあ、レイチェルはんもお揃いで。いや、ちょっとあちらの女王陛下の御指名で、こちらに色々なもん、納めに来たんですわ。それでまあ、改めて自己紹介させていただきます。私、実はこういうもんです。」
俺はあんまり堅苦しいのはいやなんやけど、今度は謎の商人ちゅうわけにもいかんやろ思て、名刺を出したんですわ。
「なになに…?…この宇宙にある物ならなんでも御注文に応じます。ウォン商会・チャーリー=ウォン…あれ、ウォン商会って、聞いたことあるなあ。」
「商人…そう言えばチャーリーさんって、社長さんだったんですね。この間陛下にお聞きしましたわ。」
「…ま、そんなとこですわ。でも隠してたこと、怒らんといてや。あっちの女王陛下の直々のお達しだったんやから。」
「やだ、怒ったりなんかしませんってば。でも懐かしいなあ。よく公園に買い物に行ったっけなあ。商人さんのあいさつ聞かないと日の曜日が来た気がしなかったっけ…。」
「そうだよね。でもアンジェリークったら、ジュリアスさまにプレゼントするものばっかり買ってさ…。」
「やだ、レイチェルってば!そんなこと商人さんの前で…っ」
「え?…アンジェはん、ジュリアスさまのことを…?」
「あはは、そうなんだってさ。ま、見事に玉砕しちゃったらしいけどね。」
「ん、もう!レイチェルっ、やめてってば!」
俺はなんか、目の前が真っ白になったわ。そうか。そうだったんか。アンジェちゃんはジュリアスさまが…。
○月◇日(土の曜日)
はああ。やる気出ぇへんなあ。アンジェちゃんのためにいい家具とか選んであげんとあかんのになあ。はあ。アンジェちゃんが俺に気があるっちゅうのはほんまに俺の勝手な思いこみやったんやなあ。さすがにコタえたわ。
…待てよ?アンジェちゃんが誰を好きでも俺がアンジェちゃんに惚れとるっちゅうことは変わらんのやし、アンジェちゃんの喜ぶ顔が見たいん言うのもホントの気持ちや。
…そうや。最初からそのつもりやったんちゃうか?チャーリー。
……ああ、もうっ!こんなとこで悶々しとるんは俺のキャラクターちゃう!
よっしゃ!もういっぺんアンジェちゃんとこ行って仕事して来よ!こないだはあのショックで全然商売でけへんかったもんな。
さて、次元回廊を使うには、まず女王陛下はんとこ行かなくちゃならないんや。そんなわけで俺はまた宮殿にお邪魔させてもろた。
今日女王陛下の隣に居ったんはロザリアはんやった。正直言ってほっとしたわ。今の俺にはジュリアス様に会う心の準備が……。
「次元回廊を使われるのか。」
うわああぁ!出たっ!いきなりッちゅうのは卑怯や!心の準備があ〜。
「何を驚いているのだ?」
「……い、いや別に何でもありませんです…。」
…そう言ったけども俺は無性にジュリアスさまに問いただしたくってたまらん気がして来たんや。アンジェちゃんを振ったちゅうこの人に、まさかあの娘の気持ちを踏みにじってたりはせんやろなって…。
「あのー、ジュリアスさま?」
「なんだ。」
そう言ったジュリアスさまの姿は実に堂々としとってて、なんだか俺の方が悪いことしたみたいな気になったけど、俺はひるまずに訊いたんや。
「ジュ…ジュリアスさまはアン…やのうて、新宇宙の方の女王陛下に告白されたっちゅうのはほんまですか?」
「告白…??…なんの告白だ?」
「すすす…すっ、好きやっちゅう告白です!」
「……あ、ああ…それならだいぶ前にされたことがあるな。が…、何故そなたが私にそのようなことを訊くのだ?」
「何ででもええんです。で、何て答えたんですか?」
ジュリアスさまは最初は変なもんでも見るみたいに俺の方を見とったけど、そのうち何か気付いたみたいに苦笑いして答えてくれはった。
「私には心に決めた人がいる、と答えたのだ。」
「ほっ、…ほんまに居るんですか?」
「私はそういうときに方便は使わぬ」
あ、ジュリアスさま、ちょっと赤うなったような…?
「…で、あの、彼女はなんと…?」
「さあな…。そこまで私が言うべきではないだろう。これから行くのなら直接訊いてみたらどうだ?」
「めめめ、滅相もない…!」
「想っているだけでは心は伝わらぬぞ。」
「は…?!な、なんのことですかいな、俺には全く…」
「そなたを見ていれば、誰にでもわかってしまうと思うが…?」
「…………え?」
「それ以上は自分の胸に訊くがよかろう。後はそなた次第だ、と言っているのだ。」
ジュリアスさまはそれだけおっしゃると肩で風切って行ってしもた。
俺は自分の胸に手ぇ当ててよ〜く考えてみた。…わかった。こういうことやな。
「当たって砕けろ!」
そうや、アンジェちゃんみたいなおとなしい子がジュリアスさまに当たって砕けたっちゅうのに、俺がこんなとこで悶々しとってどうなるんや、あ、これさっきも言うたような…ま、ええわ、行くで、Go!Go!チャーリーや!
「まいど!ウォンで〜す!アンジェちゃーん、元気してた?」
「あ…チャーリーさん…こ、こんにちは。え、あ、あの、えと、今日は…じゃなくって、この間は…ごめんなさいね。」
俺はこの間しくじった分、今日は思いきり元気よう挨拶したつもりやった。せやのにアンジェちゃん、どないしたんやろ、なんか元気ないわ。
「ど、どしたん?なんか元気ないんちゃう?」
「いえ、なんでもないですけど…あ、あの、ほんとにこの間はごめんなさい。レイチェルがヘンなこといったでしょ。あの…あれ、忘れてくださいね。」
「あれ…って、ジュリアスさまが…っちゅう、あれ?」
「…………」
「……って、あ、あかん!」
なに言うとるんや俺!忘れてくれっちゅう傍からムシ返してしもた!
「すんまへん!えらいすんまへん!ジュリアスさまのこと…あ、じゃのうて、あ、あれ??…あ、そやからジュリ…ちゃうっちゅうねん!…あの、あれれ?アンジェちゃん?」
見るとアンジェちゃんは俯いて肩を震わせとる。あかん!泣かせてしもたんやろか?
「ご…、ごめんなさい。チャーリーさん、お、おかしいんですものっ…」
……笑うとるんか。なんや、笑ろとるだけやったんか。…なーんや。でもおかしかったんか?…俺、一生懸命やったんけどな…。
「……ごめんなさい、笑ったりして。チャーリーさんのお顔があまりくるくる変わるものだから…本当にごめんなさい。あの、お気を悪く…されましたよね、すみません…。」
そ、そんな謝られたら、かえって俺……。
「あのな、アンジェちゃん。」
「な、なんでしょうか、チャーリーさん。」
「あのな、忘れてくれ言われたけどな、やっぱり俺、訊きたいんや。アンジェちゃん、ジュリアスさまのこと、まだ好きなんか…?」
「………はい。好きです。」
「……そうやったんか。すまんかったな。言いにくい事言わせてしもて。堪忍な。」
「……でも、今はチャーリーさんのほうがもっと好きです。」
「そうやったんか、今はチャーリーさんが…って、チャーリーさんって誰のことや?」
「…あ、あの、商人さんのこと…ですけど……?」
「商人さんって、どこの商人さん?」
「こ、ここにいる…。」
「俺なんか?!」
アンジェちゃんは頬を真っ赤にして、こくんと頷いた。
ほんまなんか?…信じられへん。そや、レイチェルはんでもその木の陰から『どっきりカメラ』っちゅうプラカード持って出てくるんやないやろか。俺は思わず周りを見廻してもうた。誰も居らんようやけど…。
「あの。チャーリーさん?」
そやかて、出来過ぎやないか。陛下に俺だけがこの宇宙にに来るように言われて、俺はアンジェちゃんに片思いのはずやったのに、アンジェちゃんから告白されるなんて…はっ!アンジェちゃんじゃのうて女王陛下やないか!女王陛下に告白されてどうすんねん!
「あのあのあの、アンジェちゃん、女王陛下やないですか、お、お戯れを…。」
「お戯れなんかじゃありません!わ、わ、私っ…ほ、本当に…。」
「そ、そやかて…女王陛下…。」
「しょーにんさん。アンジェリークは本気だよ。ちゃんと信じてやってよね。」
うわ!出た、レイチェルはんや。…でもなにも持ってへん…けど…。
「まあ、信じられなくても無理ないかもしれないけどさ、しょーにんさんがここに呼ばれたのは偶然じゃないんだって事なの!」
「は…?」
「陛下はワタシたちがこっちに来るときにね、女王でも補佐官でも好きな人が出来たらお付き合いしてもいい、っておっしゃったの。そしてその人に次元回廊を使わせてくださるともおっしゃったのよ。アンジェは…。」
「待って、レイチェル!あの、それからあとは…わ、私が自分で…っ。」
「アンジェ…。うん、そうだね。自分で言いなよ。」
俺はまだ信じられへんかった。でもアンジェちゃんは呆然としとる俺に言ったんや。
「あ、あのっ、私は…チャーリーさんに来て欲しいって…だって、私…。」
「……お、俺もアンジェちゃんが好きや!ほんまに好きや!一番好きや!!」
俺はそれ以上アンジェちゃんに言わせとうなくって、大声でそう言ったんや。
…ま、それでも出来過ぎな話やって思うたわ。でもええんや、俺は自分の気持ちを、ホントの気持ちを言うたまでの事や。俺は普通の人間やから彼女と共に生きられなくなる日も来るかもしれない。それでもええ、俺は生きてる限りこの子を離さん!
そう思うて、俺は思わずアンジェリークをこの胸に抱きしめたんや。
栗色の髪の俺の天使を。
「そやけどあれやな、あっちの女王陛下もええ人が居るんやろな、やっぱり。」
「ふふ。そうですね。きっとそうだと思います。」
「……そういや、ジュリアスさまも心に決めた人が居るっちゅうとったな。」
「ええ、そうおっしゃってましたね。」
俺はそこでハタと気付いたんや。女王陛下の隣に立ってらしたジュリアスさまのことを。もしかして、もしかしたらあの二人…。
…ま、ええわ。他人のことは。俺は今宇宙一の幸せモンやからな。
○月♪日(月の曜日)
「あ、わかっちゃったのね。うふ。」
金色の髪の女王陛下はそう言うて嬉しそうに笑うた。
「………陛下……。」
今日も隣に居ったジュリアスさまは、端正な眉を顰めてそう言うて溜息つかはったけど、陛下はあまり気にされてへんようやった。
「彼女を大事にしてあげてね。彼女が女王であなたが普通の人間だって事は問題だと思っているかもしれないけど、きっとたいした事じゃないわ。大丈夫。なんとかなるから。」
「陛下。あまり確信のないことははおっしゃいませんよう…。」
「ジュリアス。じゃあ、あなたは私の感じたことが嘘だって言うのね。」
「そうは申しませんが、なんとかなるだなどと、いいかげんなおっしゃりようは…。」
「まあ、ジュリアス。私がいいかげんだとおっしゃるの?」
「…失礼しました。言葉が過ぎました。」
「あのー。こんなとこで夫婦喧嘩はあきまへんで……?」
「だ、誰が夫婦喧嘩と……」
「あら、ごめんなさいウォンさん。お恥かしいわ。うふ。でね、あなたもお仕事がお忙しいでしょうし、彼女も女王のお仕事があるから、通うのは当分の間、週に一度くらいにしておいてね。でもこれが結構楽しいのよ。週末の…」
「陛下っ!!」
ジュリアスさまが真っ赤を通り越して青くなりかけとったところでロザリアさまの登場や。
「陛下、大概になさいませ。…ウォンさん。そう言うことですので、これからも新宇宙への納品の方、よろしくお願いしますわね。」
「あ、はい。承知致しました、ロザリアさま。新宇宙といわず、こっちの聖地の方もまた御用命頼んますわ。では私、今日はこの辺で…。」
俺は慌てて帰らせてもろたわ。…ジュリアスさまも難儀やなあ。あの女王さまは結構、なんちゅうか、庶民ならではのしたたかさがあるっちゅうか…、たしか庶民出身言うとったもんな。あ、俺のアンジェちゃんもそうやったな。
…俺のアンジェ…うわっ!ほんまにそう言うてもええんかいな。へへへ。
○月◎日(土の曜日)
「アンジェちゃーん!来ましたで〜。」
「あ、チャーリーさん、こんにちは。」
「あ…あのな、今晩、ヒマかいな。」
「……暇といえば、今特にやることないんで、いつも暇なんですけど…ふふっ。」
「そ、そやったら今晩…」
「あ、そうだ。聖地から楽しそうなムービーディスクがたくさん届いたんですよ。三人で一緒に見ませんか?」
……がく。
「あ、ああ、ええんやない…?」
「うふ、よかったあ。なんかホラーもあったみたいだから、男の人がいると心強いんだけどなあって思ってたんですよ。」
「あは、あはは、そりゃあ楽しみやわ。」
俺の頭の中にはさっきお会いしたジュリアスさまの言葉がリピートで響いとった。
『焦ってはならぬぞ。』
ほんまやな、ジュリアスさま。
お互い立場は違えど、女王陛下と付きおうとるモン同士、がんばりまひょな。
なにせ、恋人は天使なんやから。
おしまい。
そう言うわけで、ねこまたさんの御注文は「チャーリーと女王コレットの甘々」でした。
結果は…チャーリーとジュリアスさまの男の友情…。すみません。無謀でした。
…あ、タイトルですが、御存知の方は結構人生経験が…
あ、なんかでも新聞でそのタイトルを見たような気が…リバイバル?