千年の戀人
「ああ、ここからの眺めがステキね。ジュリアス。」
「……いったい、何が面白いのだ?アンジェリーク。」
「あら。新年は恋人と初日の出を見る、っていうのが正しい過ごし方でしょう?」
「私たちはすでに恋人などではないではないか。」
「…それって、もしかしたら結婚したらもう妻であって異性ではないって考え方?あ〜、それってセクハラじゃないんですか?」
「せくはら??」
「…なんでもいいですけど、ここまで来たんですもの、ゆっくりしていきましょうよ。」
「……私を脅して連れて来たのであろう。」
「えっ?なんかおっしゃった?」
「いいえ。…陛下の御命令とあらば従います。」
「もうっ…!すぐ怒るんだから。」
ここは主星のとある海の見える高台。
聖地の時はゆっくり流れて行くが、外界は…今はそれでも聖地とあまり変わらないくらいであるが…それに比べて1年が短い。
最近はもう当たり前のように外出し、宮殿内、聖地の中と歩き回っている女王アンジェリークは、どこかで外界の年の瀬のニュースでも見てきたのであろう、夫である光の守護聖ジュリアスに『初日の出を見よう』と、言い出したわけだ。
「外界では今年、新しい世紀を迎えるのよ。それもミレニアム!」
「……最初の女王陛下がこの世に誕生してからもう○千年という事ですね。」
「そうよ。特別の日よ。いくらあなたが長生きしているからって、こういう事は初めてでしょう?ジュリアス。」
「…そうですが。」
「……どうして敬語を使っているの?」
「いや、別にどうというわけではないですが。」
「どうして怒るの……」
「……怒ってなどおりません。」
「そりゃあ、あなたがむやみに外界に出ることを嫌っているのはわかるけど…」
「私がではなく、陛下が、でしょう?御身分をわきまえてくださらねば…」
「………」
「……わかった。泣くな。」
「うふ。ありがとう……ねえ、ジュリアス……?」
いつの間にかアンジェリークはジュリアスの右腕にしがみついていた。
「なんだ?」
「綺麗ね。」
ジュリアスとアンジェリークの目の前には、広々とした夜の海が広がっている。夜の海は闇に沈んでその黒い姿は普通のものには恐ろしく見えるのであろうが、闇のサクリアさえその手に収めている女王にとっては何も恐ろしいことはない。
外界といっても、ここは聖地にほど近く、それゆえ一般の人は立ち入る事のできない場所である。そうでなければ他のカップルがいっぱいであっただろう。
「寒くはないか?」
そういうとジュリアスは着ているマントのボタンを外し、片側をアンジェリークにくるむように掛けた。
「あったかい…」
アンジェリークはジュリアスに寄り添う。外界は真冬で、しかも断崖の上である。寒くないはずはないが、それでもアンジェリークは暖かかった。
…そう思った。
「私は……以前、偶然に出張先の星で年始を迎えた事がある。その星は公転期間が長く、1年もとても長い。年の始めは毎年大きな祭をするそうで、私もその祭に招待された。守護聖という身分は明かさなかったのだが、遠い星からきた客人ということで、たいそう暖かいもてなしを受けたのだ。…そうだな。あの時以来か。」
「私は…外界で暮らしていた頃は、いつも年の始めになるとママがおいしいケーキを焼いてくれたんです。いっぱいフルーツの入った甘いケーキ。」
そう言ったきり、アンジェリークは黙った。ジュリアスも黙っている。ただ、寄り添う二人の心臓の鼓動と息遣い、そして波の音と木々を通りぬける風の音が少しするのみである。
そうして、どれだけの時が経ったのだろう。
水平線の向こうが少しずつ白んでくる。そして、徐々に溢れてくる黄金の光。
「綺麗……」
「そうだな。」
「あなたの光ね。」
「そなたの光だ。」
そして黄金のまばゆい光の中、二人はどちらからともなく、唇を重ねた。
新しい千年に向かって……
A Happy New Year!
おしまい。
久々のバカップルなお話。ただそれだけ。ここの宇宙は何世紀なんでしょうねえ。
○の中にはお好きな数字を。……明けましておめでとう更新でした。