東京朝日新聞 昭和14年8月17日付けの記事 から
 この記事は「陸軍に積もる”赤誠”」と題されたもので、興味深い一文があります。
 去る13日の事変(昭和14年5月12日に起きたモノンハン事変でしょう)拡大記念日を期し陸軍当局では事変当初から日と共に熾烈の度を加える銃後国民赤誠のあとと国防献品の実績を調査中であったが、16日午後左の通り発表した。
 
一.事変勃発から15日までの総献金額、約四千六百万円
 
二.献品の主なもの、日本刀千五百口、拳銃五千六百挺、自動車二百輌、毛布六十枚、軍馬二百頭、飛行機六機、舟艇三十隻  
 
三.本年6月までに本社取り次ぎの軍用機献納資金を始め国防献金によって整備されたものな兵器、飛行機二百三十八機、戦車及び装甲車百七輌、観測車四十三輌、高射砲二百三門、重機関銃五百八十六挺、探照灯六十六台、聴音機百十九台、無線機百六十四台
 初めて見た時は、誤植だと思いました。 昭和14年の6月には愛国325号までは献納されているので、328機だとほぼぴったりだなと思えたからです。
誤植でないとすると欠番が100機近くあるとは考えにくいので、愛国号全機が国防献金を介していないとも思えます。 ただそれもすんなりとは考えにくいですね。やはり、誤植なのでしょうか。
 
 
九一戦の愛国號
 昭和6年12月に制式機となり(昭和6年 陸普第五五二六号)新鋭戦闘機として愛国3「小布施」号で公表された九一戦ですが、合計450機程が製作され、約一割の45機が愛国号として献納されています。本機は中島と石川島(転換製造)で製造されており、後半には翼支柱間に斜め支えが1本追加され張線がなくなった後期型へ生産が切り替わっています。
 因みに、『国防大写真帖』によれば、「九一戦、九二偵が7万円」となっています。

(1)製造番号、製造年月
 九一戦は垂直尾翼左面(機首方向:左)に製造番号、右面に製造年月が描かれており、写真などから表に示すことが分かっています。試作機等の製造番号が101からなので、愛国3「小布施」号(製造番号114)は通算14号機でしょうか。
製造番号と愛国号番号が一致していないのは、『国防献品記念録』に記載されていている献納手続き順番と愛国号番号が一致していないのと同じで、献納順と製造番号も一致していないので、どういう風に機体が愛国号に割り当てられていたのか興味深いところです。
  (2)愛国の書体

 九一戦の書体には2通りが知られています。写真の左は初期の小さい書体、右は後半の大きな書体です。九一戦は中島飛行機と石川島飛行機で製造されていますので、当初はこの違いかとも思ったこともあるのですが、そうでなく、ある時期以降は双方の製造所で同じ書体を用いているようです。
具体的に言えば、昭和7年の4月中までに命名式が行われた愛国3〜18「第十師管山陰」までが小さい書体で、約2ヶ月程間隔が空いた愛国24「三井鉱山」号から大きい書体になっています。
また、製造年月表記が、中島では漢数字を、石川島がアラビア数字を用いていたように思われます。

献納順愛国号機種製造番号製造年月製作所愛国書体 命名式期日・場所 
中島石川島
  1  3 「小布施」 前期型  114        S7.3.6、代々木
  2  9 「河野」 前期型  126        S7.4.10、代々木
  3  7 「群馬」 前期型  117       S7.3.8、高崎
  4  8 「川喜多」 前期型  121        S7.4.3、津
  5 13 「石川」 前期型  125 昭和七年三月      S7.5.8、金沢
  6 17 「岡山」前期型  128        S7.4.24、姫路
   (継承機)前期型  261 昭和八年二月       
  7 18 「第十師管山陰」 前期型  129 昭和七年三月      S7.4.24、姫路
  8 14 「若越」 前期型  127         S7.4.29、鯖江
  9 24 (本機は記載無し) 前期型  140 昭和七年六月      S7.6.19、所沢
 10 29 「北海道」 前期型  137        S7.6.24、札幌
 11 27 「千葉」前期型  133        S7.5.21、下志津
    (継承機)  169         
 12 38 「京都」 前期型  142       S7.6.26、京都
 13 37 「小布施」 前期型  141       S7.6.19、代々木
 14 39 「信濃」 前期型  147       S7.7.17、長野
 15 41 「愛媛」 前期型  148       S7.7.24、松山
 16 33 「福山」 前期型  145       S7.7.24、広島
 17 34 「浜田」 前期型  149       S7.7.24、広島
 18 47 「大分」 前期型  168       S7.10.14、大分
 19 50 「熊本」 前期型  173 昭和七年九月     S7.10.12、熊本
 20 53 「大和」 前期型  166       S7.10.3、奈良
 21 54 「岐阜」 前期型  165       S7.9.18、岐阜
 22 55 「秋田」 前期型  160       S7.10.12、秋田
 23 51 「新潟」 前期型  161       S7.9.11、新潟
 24 48 「佐賀」 前期型   昭和7年8月     S7.10.13、佐賀
 25 62 「満州」 前期型  180        S7.11.27、新京
 26 63 「満州」 前期型  181        S7.11.27、新京
 27 52 「新潟県」 前期型  162 昭和七年八月     S7.10.20、高田
 28 61 「和歌山」前期型  170        S7.10.16、和歌山 
   (継承機)前期型  601 昭和9年3月      
 29 58 「小倉」前期型  171        S7.11.28、小倉
    (継承機)前期型  153 昭和七年八月      
 30 69 「富国」 前期型  253        S8.3.10、代々木
 31 73 「東京瓦斯」 前期型  254        S8.3.10、代々木
 32 60 「金鵄」 前期型  176        S8.3.10、代々木
 33 77 「三越」 前期型  243       S8.5.14、代々木
 34 78 「日清紡」 前期型         S8.5.14、代々木
 35 74 「山梨」 前期型  255       S8.4.28、山梨
 36 83 「東電」 前期型         S8.5.14、代々木
 37 84 「田村」 前期型         S8.5.7、大阪
 38 87 「佛立」前期型         S8.5.7、大阪
   (継承機)後期型  517       
 39 86 「産業協働第一」 前期型         S8.5.7、大阪
 40 88 「通運」 後期型         S8.7.26、代々木
 41 85 「全国民」 前期型  244       S8.5.14、代々木
 42 90 「第二千葉」 後期型  565       S8.8.2、下志津
   (継承機) 後期型  330 昭和八年八月     
 43 93 「福岡市」 後期型  579 昭和8年11月     S8.12.2、福岡
 44 111 「大学高専」 前期型  541        S9.3.23、代々木
 45 113 「産業協働第二」 後期型  347        S9.4.22、所沢

 ・献納順は『国防献品記念録』による
 ・製作所は『航空事情』(各号)によるが、誤記も幾つか見受けられるので、正確かどうかは不明

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