神戸市議会の権利放棄議決
神戸市議会は、住民訴訟で住民が苦労して勝ち取った(後記大阪高裁21年1月20日全面勝訴判決)市民の財産をドブに捨てる違法行為を犯そうとしている。それは、市民の信託を受けた市長と議員の善管注意義務に反して、不法行為であるだけではなく、市長個人の利益を図る背任的行為であり、そのような手段があると教えた人はその教唆を行ったことになる。断じて許すことはできない。
これについては、判時1955号に詳論したが、我が愛する神戸市で、国法と司法への無謀な挑戦を試みる前例にない驚くべき策動がなされている。
そこで、まず、神戸新聞に発言させて頂き、2月23日、議会で「陳情」する(主権者の発言を「陳情」としてまともに聞かない議会の神経を疑う)。
神戸新聞発言欄
議会は市の権利を放棄できない
三セクへの補助金支給住民訴訟で敗訴した神戸市長は、議会で、返還請求権を放棄してもらおうとしている。その根拠は、議会の議決事項として、『権利を放棄すること』と規定している地方自治法であるが、それは、権利の放棄は市長だけではできず、議会の議決が必要と定めた手続規定にすぎない。善良な管理者の注意義務をもって市民からの委任事務を処理する義務を負う議会も市長も、市民の権利を勝手に放棄することは許されない。したがって、議員はこの違法な放棄議決に賛成してはならないし、市長も放棄事務を執行してはならない。
もともと三セクは神戸市とは別団体であるから、市の職員を有給で派遣することは原則禁止であり、許されるのは神戸市の仕事をしていると条例で認められた場合に限る。人件費分を迂回して補助した神戸市のやり方は、単なる手続ミスではないので、返還請求権の放棄は到底許されないのである。神戸新聞2009年2月19日発言欄投稿
神戸市議会議長 殿
原告訴訟代理人弁護士・中央大学教授
2009年2月23日 阿部泰隆
神戸市公益法人等への職員の派遣等に関する条例の改正案は違法・無効である
神戸市長が議会に提案した神戸市公益法人等への職員の派遣等に関する条例の改正案は一見明白に違法無効である。その要点は、2つある。
一 権利放棄条項は無効
三セクへの不当利得請求権、市長個人への賠償請求権を放棄するとの条項は、住民の提起した裁判で、市が獲得した財産を、市民の利益に反して、市長個人の私的利益のために、及び三セクという神戸市とは別団体の利益のために、市民から信託された財産を善良な管理者として注意して管理すべき職務に反して、ドブに捨てるもので、職務義務違反である。
放棄するとの市長の提案の根拠は、権利の放棄を議会の議決事項とする地方自治法96条であるが、これは、権利の放棄は、重要であるから、執行機関だけで判断してはならず、議会も判断するというダブルチェックの制度にすぎず、善良な管理者の注意義務を免除するものではない。議会の放棄議決は、放棄が有効のための必要条件の一つにすぎず、市民の信託に反しないことであって初めて十分条件を満たすのである。
もっとも、権利の放棄も、やむを得ない場合には許されるが、市長は、違法過失により市に損害を与えたのであるから、払えるだけは払ってもらうべきであり、全額を免除する公益性はない。また、三セクには公益性があるとしても、職員は地方公務員法上、神戸市の職務に専念しなければならないのであり、公益法人派遣法では、市の仕事をしている場合だけ、有給としているのであるから、それ以外は三セクの職員に市から給料を払う公益性はないのである。したがって、市の権利を放棄する公益上の理由はないから、放棄は無効である。
この放棄議決は司法で決まったことを覆そうとするもので、法治国家ではありえない司法への挑戦である。
そして、今回議会が放棄議決をすれば、その議員は、違法な放棄に荷担して、市に損害を与えたので、違法なカルテルで市に損害を与えた企業と同じく、共同不法行為者であり、住民訴訟で、市長に対して、議員に対して、市へ連帯して賠償するように請求せよとの訴訟が可能である。市長個人では払えない数十億円も、議員が連帯すれば払えるであろうから、市としては、むしろ、議会が違法な議決をするほうが損害を回復できるという皮肉な結果になる。さらに、市民の権利の放棄は刑法の背任罪に当たる可能性が高い。前例はまだ見つからないが、私は当たると解釈している。
この議案への賛成は重大事件であるから、記名式にして、賛成する議員の名前を残すべきである。さもないと全員に賠償請求することになる。
しかも、その提案者は、責任を負っている市長である。司法で違法・過失ありとされて、賠償義務を課された市長が、議会にその責任を免除してくれと自ら平気で言うのにはあきれるしかない。他の人が、市長は、市に貢献したから、何十億も払わせて気の毒と言って、破産しない程度で勘弁しようと言うなら分かる。しかし、市民への責任をないがしろにして、過失を犯して、賠償責任を負っている市長が、自分の債務を全部勘弁してくれと言うのであるから、こんな図々しいことがありますか。
私は、市長にも、払える分を払ってもらえば、残りは免責して良いという意見を持っていたが、このように司法と法治国家に挑戦して責任を逃れようと悪あがきする市長の姿を見れば、悪質な確信犯であり、情状酌量の余地なしと、全部払ってもらうべきだとの意見に変えようかと思っている。
二 改正条例では、有給派遣を正当化できない
派遣法6条1、2項は、職員派遣は無給を原則とし、市の業務を行うなら有給派遣も許されるとしている。改正条文4条2項、8条2項は、「派遣先団体における業務の従事を本市における勤務、・・・とみな」している。これは、有給派遣を適法にしようというものであろうが、明らかに無効である。職員の従事する業務が市の業務になるかどうかは事実問題であり、条例でみなすとすることはできない。市のために働いていない人を市のために働いていると見なして、給料を市から出すことはできないのである。この条例改正案は、派遣法6条2項に違反して無効である。
これもまた、法6条2項を潜脱しようとする規定である。外郭団体訴訟大阪高裁判決(平成21年1月20日)で、職員を無給で派遣する代わりに人件費を補助金として支給することを、給料付派遣を原則禁止する法律の脱法行為と指摘されたにもかかわらず、では、神戸市の業務をしていない外郭団体に有給で職員を派遣して、その仕事を神戸市の業務とみなそうというのであるから、これまた脱法行為である。
市は、本当に損したのかという疑問があると聞くが、市と外郭団体は別団体であるから、市民の税金で外郭団体の職員を雇えば、それは市の損害である。外郭団体が市と同じ仕事をしているのであれば、市の組織にすべきなのである。
三 議会のなすべきことは
議会のなすべきは、違法行為オンパレードの市長を支えるのではなく、まったく逆で、市長の違法行為を早期に是正させること、市長不信任決議をして、法令に則って、市民を尊重する市長を市民に選出してもらうことである。
最後に、議会での審議の仕方も不適当である。今回、市長とその部下は議員の方々にたくさんご説明しているはずであるが、私と原告住民への説明の依頼はない。この事件は、市長が、公金を違法に支出して、市に損害を与えたので賠償を命ぜられたのに免責してくれというのであるから、いわば泥棒側である。泥棒が勘弁してくれと言うときに、なぜ被害者である住民、特に住民の被害を防止した代理人と原告住民の意見をなぜ真っ先に聞いてくれないのか。
議会の姿勢自体、市民の代表としてはふさわしくない、不公平なものである。しかも、この意見陳述自体、「陳情」という時代錯誤である。
私は、42年も住み、我が愛する神戸市がこの惨状であることに情けなくなる。
賛成する議員には、司法への挑戦、国法への挑戦、自ら市へ膨大な債務を負担するという危険という、異常な行為をしているとの自覚を持ってもらう必要がある。
議会ではこれが無視され、大阪高裁平成21年11月27日判決でようやく認められた。神戸市議会はおよそ法治国家的ではない上、とうてい民主的で住民の意向を聞く姿勢があるとは思えない。若ければ姿勢にも打って出るところだったかもしれないが。
