1.VX-3購入
先日、スタンダードの144/430MHz FM DUALハンディー機VX-3を購入した。
発売は2007年6月だから一年ちょっと経った製品。標準価格は34800円。しかしハムショップだと実売価格は25000円前後となる。
アマチュア無線を始めてもう20年くらい経つが、実はハンディー機を所有するのは初。
FT690Mk2やFT817というポータブル機で固定、移動運用を一応賄えた上に、頻繁に連絡を取り合うローカル局もいなかったので特に必要性は感じなかったのであるが、普段の外出時にアマチュア無線で連絡出来る手段を持ち合わせていたほうが何かと便利かなという理由で今回ハンディー機購入に踏み切った。
もっとも携帯電話がこれほど普及するとアマチュア無線ハンディー機の出番は皆無といってよいのだが、いわば「心の保険」みたいなものか。
なにより広帯域受信機能力も携え、ラジオ放送も聴けるというのが嬉しい。
購入するにあたり、FMデュアルハンディー機の候補をいくつか選んでみた。VX-3のスタンスに近い機種としてはアイコムのIC-P7がある。
またVXシリーズの上級機種は防水性や50MHzFM/AMモードにも出られるので魅力的ではあったが価格、大きさを考えると難があった。
意識なく持ち歩けてオプションで乾電池も使え、最新モデルの条件を考えると自ずとこのVX-3に落ち着ち付くのである。
2.VX-3雑感
ハンディー機の食玩?
さて、実際購入してまず感じた事は「猛烈に小さい」ということ。
なんだかハンディー機のプラモデルや食玩を連想させて吃驚である。幅4.7センチ、高さ8.1センチ、奥行き2.3センチは圧倒的にコンパクト。
ただ重量はそれなりにあるので安っぽさはない。これならウエストポーチに忍ばせても差程負担になることはなかろう。一昔前の携帯と同じくらいの感覚。
さてこのVX-3はアマチュア無線機であるからメインは144MHzと430MHzFMの送受信ではあるが、まだ申請が終っていないので今回のレポートでは省略。多彩な広帯域受信機としての能力はどんなものかを探ってみた。
スペックとして独立したFMラジオ/AMラジオ放送受信機と1.8〜76、108〜999.9MHzワイドバンド受信機機能がある。
便利なのは最初から鉄道無線、特小無線、消防などの業務無線周波数がスペシャルとしてプリセットされていることだ。
不精で知識に乏しい自分のようなユーザーからすると実際すごい便利だ。ログぺリアンテナに接続してスキャンさせたら多数のチャンネルが受信出来た。
業務無線に関してはそれほど興味はないのだが、航空ショーでの航空無線ワッチには役立ってくれそうだ。
ただメモリー含め操作方法が複雑でマニュアルを見てもよく解らない。もっともこの辺りの機能は使うのが面倒なので最初からスルーするしかない。
ラジオ受信機としての性能
気になるのはFM/AMラジオ放送受信機能である。
FM、AMDXerの端くれとしてはこの部分が最も関心がある。VX-3は専用のステレオ出力対応イヤホーン端子が付いていて市販のステレオヘッドフォンでFMステレオ放送が楽しめる。アンテナもメインのアンテナ端子とイヤホーンアンテナ選択切り替え機能がある。
またAMも専用のバーアンテナが採用されて感度アップされているという。
もしVX-3が屋外でのAM/FMDXに活用出来ればこれほど便利なものはない。というか、自分にとってはそれがメインな使用方法だったりする。
もっともV・UHF広帯域無線機におけるAM/FM受信機能はハンディー、据え置き型共に「おまけ」みたいな存在で期待は禁物。専用のAM/FMラジオと比較すると多信号特性は圧倒的に劣るケースは多い。
実際、これまで自分が使用してきた広帯域受信機やFT817でのFM放送受信能力はお世辞にもよいとは言えない。バンド内が混変調、相互変調の「オバケ」だらけでローカル局すらマトモに受信出来ないのが多い。
このVX-3もユーザーのレビューなんかを拝見すると通勤ラジオのレベルにも達せず、感度はゲルマニウムラジオ並とか実用性が薄いという感想が多数見受けられた。ただそのレビューで語られている内容は抽象的で簡素なものが多い。おそらく大多数のユーザーがアマチュア無線メインに購入し最初からAM/FM受信機能を見限っていたのが原因かもしれない。
そこで実際このVX-3のAM/FM受信機能はどの程度なのかを出来るだけ具体的に検証してみることにした。
AM/FM受信機能を備えたハンディー機をVX-3以外所有していないのでハンディー機同士との比較対象は出来ないが、より水準が高いと思われる汎用の携帯ラジオと比較する事により、このVX-3のAM/FM受信機能を客観的に検証する事が出来よう。
FM放送、AM放送各々に分けてレポートしてみる。
3.VX-3/FM放送受信能力を検証
アンテナ次第でDXも可能
比較対象として、いつも屋外でDX受信に使っているソニーの通勤型ラジオSRF-M100と比べてみた。
大きさはVX-3と比べて二周り位大きい。VX-3が如何に小さいかを改めて思い知る。
このSRF-M100はFM/AMとも受信能力が高く評判もよい。ただ自分の所有しているSRF-M100は購入から16年。付属のロッドアンテナでの受信が不能になってしまいイヤホーンコードがアンテナの役割を果すのみの状態。よって若干FMの受信能力は落ちてはいるがそれでも他のコンパクトラジオと比べればFBだ。
さて、このVX-3は先に述べたようにステレオイヤホーンでステレオ聴取出来るのが魅力。音質もよい。
とはいえSRF-M100と比べるとステレオセパレーションや音圧は若干劣る。もっともアマチュア無線のハンディー機である事を考えれば十分すぎる程の音質。
選択度もFMワイドな割にはしっかりしていて、従来のFMラジオ並み。全く問題はない。
アンテナもイヤホーンをアンテナ替わりに利用するモードとアンテナ端子を利用するモードを選ぶ事が出来るので各種アンテナで比較実験する事が可能だ。
混変調、相互変調が殆どでないFBな多信号特性
用意したのは、付属の純正ヘリカルアンテナ。FT817に付属していた50/144/430MHz用ヘリカルアンテナ。そしてFT690Mk2付属の50MHz用ローディングホイップアンテナ(純正以外はアンテナ変換コネクターCN-3を使用)。
また屋根に上がっているログペリアンテナにも接続してみた。
感心したのはいずれのアンテナ使用時にも致命的な「消化不良」を起こさないということ。
もともと感度を低めに設定してあるから大きい高利得のアンテナを接続しても混変調や相互変調を起こさないのだろう。流石にログペリアンテナ接続時にはいくらか相互変調を起こしていたがそれほど酷いものではなかった。
これはFMDXには重要である。
首都圏のようなFM局が林立する環境では強い局同士が干渉してもともと感度を高めに設定したラジオやチューナーに外部アンテナを接続するとバンド内が強力局の「オバケ」だらけになって遠距離受信など不可能になってしまう。
こういった受信機は「お手上げ」である。応用が効かない。
この点ではVX-3は合格点だ。確かに付属のヘリカルアンテナでは能力不足で十分に機能していないが、より大きなアンテナを取り付ける事で十分屋外でのFMDXに活用出来る。
SRF-M100とのFM放送受信比較
さて、実際SRF-M100とのFM放送受信比較を屋内、屋外に分けて実施してみた。
イヤホーンアンテナだけで比較すればSRF-M100と同等か幾分優っている。純正ヘリカルアンテナだと若干役不足か。
そして6m用ローディングポイップANT使用時は予想以上の成果を上げた。
首都圏県域FMはもとより、比較的微弱な近郊のコミュニティーFMまでクリアに受信出来るのは嬉しい。少なくとも通勤ラジオ以下の小ささでここまで受信出来るVX-3のFM放送受信能力は大したものである。
ただこの長いアンテナ(延ばすと1mを超える)をVX-3に接続するとあまりにもVX-3が小さいのでバランスが悪い。本体を持ってアンテナを振り回すとアンテナのほうが重いので接続部を破損する恐れがある。
だから出来るだけアンテナの根元部分を持ってコネクター部に負担が掛らないように心掛けよう。
イヤホーンアンテナでも十分に近郊FMを受信出来るから電車内でも実用レベルだ。JR中央線高円寺-阿佐ヶ谷間でFM世田谷をS2位で受信。ホームだとS4位で勿論ステレオで聴取出来る。
いずれにしろVX-3はFM受信能力に関して様々に応用可能な優れたリグであることは間違いなかろう。
屋外でのFM局DXには申し分ない性能を有している。
今後はSRF-M100に替わって活躍してくれるだろう。
4.VX-3/AM放送受信能力を検証
AMイヤホーン受信時における謎のノイズ
VX-3はFM放送同様、独立した専用のAM受信機を内蔵し、アンテナも専用のバ−アンテナが内蔵され高感度受信が可能な設計となっている。またアンテナ端子を任意に切り替え選択するモードも有している。
さて実はこのAM受信がVX-3にとっていろいろ問題がありそうだ。
一般にこういったハンディー機を屋外で聴く時には大抵イヤホーンを利用する。最初自分もこのVX-3のAM受信時にはイヤホーンを利用して早速地元のNHK第一594KHzにチューニングしてみた。
ところがである。
「ザ−」という酷いノイズだけで音声がまったく聞こえない。他のローカル局も同じ。しかしイヤホーンを外してスピーカーで聴く分にはなんとか受信出来ている。これは妙な現象だ。
犯人は電池とバーアンテナの位置関係?
最初考えたのはイヤホーンの不具合か相性、あるいは本体の初期不良かである。だが手持ちのイヤホーンを変えても情況は同じ。初期不良だとしてもFMその他はイヤホーンで聴いてもなんらノイズが出ないので故障と判断するのはおかしい。試しに別の同機種で試すと情況は同じだったのでこのイヤホーン使用時のAMノイズはVX-3固有の症状らしい。
乾電池ケースを付けたほうがノイズは酷い。VX-3のAMバーアンテナは電池ボックスのすぐ裏にある。もしかすると乾電池がシールドになってしまい薄い板状のリチウム電池より受信を妨げるのか?
外部電源だとノイズが出ない??
ところでハムショップの展示品で外部電源のみ(電池が入っていない)のVX-3ではイヤホーン時でもノイズが出ていなかったような記憶がある。となるとますます電池の存在が曲者だ。
あるいは外部電源の場合電源コードがアースとなってノイズを軽減させているか、受信能力が改善されたのかも。
しかしその割にはスピーカーで聴いた場合はノイズなど出ていないから変である。
イヤホーンコードがVX-3自体から発するノイズを拾ってしまうのか、どこからかノイズが周り込んでいるのか、イヤホーンの場合のみ増幅されるノイズ源があるのか、いずれにしろAMをイヤホーン装着して聴取するとローカル局すらノイズに埋もれ全く実用にならない場合がある。
原因は今の所は不明なのだが、これは凄く気になる。非常に精神衛生上よくない現象だ。
「おまけ」程度のAM受信機能だとしてもイヤホーンで地元のNHKすら聴こえないなど我慢ならない。
イヤホーンでAMを聴いた大抵のユーザーはこうして「こりゃだめだ」と諦めているのだろうか。
改善方法発見!
そこである方法でこのイヤホーン聴取時ノイズを回避出来る手段を見つけた。
アナログ選局仕様のカードラジオ等をVX-3の背面(AMバーアンテナのあるところ)に密着させて同調を取ると綺麗に聴取出来るようになるのだ。
おそらくカードラジオのバリコンが一種のアンテナカップラーとして働いているのではなかろうか?受信レベルも上がってノイズを抑圧してしまうと思われる。シグナルインジケーターもグンと上がる。
これでローカル局は普通に聴けるようになった。(但しオプションの乾電池ケースを取り付けた場合は後ろが出っ張ってしまうので難しくなる)。
使用するカードラジオは電源不要である。内部のバリコンが物理的に生きていればジャンク品でも100均で売ってるアナログラジオでも大丈夫だ。自分は20年前の古いソニーのカードラジオを利用してみた。
これだと大きさもVX-3とほぼ同じで気にならない。輪ゴムで仮留めする姿はあまり見栄えがよくないがこれでAM環境も良くなったので我慢する。
オプションではない大きめのソフトケースを利用すれば上手く納まるかもしれない。
もっとも『AM放送だけカードラジオで受信すればいいじゃないか?こんなのナンセンス』とも思えるが、VX-3にはラジオを聴きつつアマチュアバンドや鉄道無線が入感した時だけ自動的に切り替わる機能がついているので是が非とも活かしておきたい。
この超コンパクトなVX-3の最大の利点はラジオも兼ねている部分であるから自ずとユーザーもその部分を期待している訳で、AMがダメだから聴かない、と簡単に割切る訳にもいかない。
意地でもラジオをまともに受信してもらわねば困るのである。
SRF-M100との中波放送受信比較
表3にSRF-M100との中波放送受信比較を示す。
ラジオ専用のSRF-M100の受信結果にVX-3は及ばないものの、夜間になれば全国の主要AM局は受信可能なレベル。名古屋、大阪や北海道、九州の民放も楽しめる。
工夫すればなんとか最低限の受信性能は発揮出来そうだ。
確かに一般の通勤ラジオと比べればVX-3のAM受信能力はかなり悪い。内部ノイズもあって音質も良くない。在京局がDX局に思える程である。
ただFM同様、感度が低く抑えられているということは工夫次第で改善される可能性があるということ。
在京局の混変調や相互変調でバンド内が埋もれているラジオよりは救いがある。
だがやはりこのAMの致命的な「欠陥」はいくら「おまけ」的存在と言えどもお粗末過ぎる。
この手のリグはなんだかんだ言えどポータブルラジオ兼用と考えるユーザーが多いのでイヤホーンで聴くAMラジオが地元のNHKすら不快な雑音に紛れて殆ど聴こえないのは論外だ。
とにかくこの「AMイヤホーンノイズ」は改善してほしいととメーカーにはお願いしたい。
精神衛生上よろしくないハンディー機
結局マトモなラジオ受信改善を目指すと非常にみっともない外観になってしまった。
自分はラジオにこだわるほうなので他のバンドの受信性能や機能はさておき、最もシンプルなAM/FMがちゃんと聴こえないリグはどうしても納得がいかない。
よってこのVX-3は精神衛生上よろしくない買い物であった。
FM受信性能が良いだけに非常に残念なリグである。
超コンパクト故に「おまけ」のラジオ性能すら期待されてしまう「気の毒」なハンディー機。VX-3からすれば正に「荷が重い」要求であろう。
2008年9月記