遠距離FM局受信用チューナーとしてKENWOODO KT1100Dという製品を1990年に購入して以来、ずっと12年間使用してきた。
当時としては高性能チューナーの一つだったが流石に性能不足を感じ、そろそろ新しいチューナーを導入しようと考え機種選定をすることとなった。
かつて25年程前、オーディオ全盛期、FM放送位が音楽ソースであった時代、各メーカーとも常時5種位のバラエティーに富む製品を発売していたが今や昔話。エアチェックなる言葉も死語となりつつある今、これだけFM多局化になったのと反比例してチューナーの機種は減るばかりのようだ。
とにかく秋葉原に出てFMチューナーのカタログを集めることから始めた。またインターネットでメーカーのHPにアクセスして商品情報も集めてみた。
秋葉原大手電器店もオーディオフロアはかなりパソコンフロアに押されぎみで何とか維持されているという感じ。ただ、CD、MD、DVDプレーヤなど新ジャンルの単品オーディオコンポアイテムが次々と発表されているため、衰退というイメージはない。その中でチューナーはほんの添え物程度という感じで寂しさは隠せない。結局チューナーを試聴出来るコーナーがあったのは石丸本店のオーディオフロアだけであった。
さて、カタログの方だが、曾てはアンプとチューナー専用カタログというものがどこのメーカーにもあった。しかし今はその他コンポーネントに含まれる形で紹介されており、細かなスペックも表示されない場合が多い。
まあともかくも各メーカー別に現在のチューナー事情をチェックしてみたい。なお、ここに上げたチューナーは単品コンポとして売られている製品のみで、セット売りされているミニコンポ等のチューナーは含まれていない。
KENWOOD
型番 |
標準価格 |
特徴 |
KTF3010 | ¥30000 | AMステレオ/アンテナ2系統/RFアッテネーター/IFバンド2段切り替え/メモリー40局 |
かつてチューナーならケンウッドと言われる程信頼性の高い製品を次々産み出してきたが、最新カタログ(2002年8月現在)を見るとなんとたったの1機種がエントリーされているだけ。
KTF3010は一応FMDXとして必要と思われるIFバンド切り替えやアンテナ2系統入力が出来る点など要所は抑えてはいる。ただ実際触ってみるとチューニングノブが堅く回し難い。おそらくちょっと触っただけで周波数がずれてしまうのを防ぐためであろうがそれにしても堅すぎる。更には機能もシンプル過ぎて面白みに欠ける。
かつてケンウッドはトリオの時代、アナログチューナーでL-02Tという30万円もする化け物チューナーを作っていた。その後も1980年代中盤にはD-3300Tという14万円もするシンセサイザーFM専用チューナーがあった。ちょうどFM横浜が開局する1985年頃、受信性能と音質を両立させるための「4D SYSTEM」を謳い文句とするシリーズがケンウッドから発表された。私が使っているKT1100Dはそのハイスペックシリーズの下位製品(それでも7万円近くする)で唯一1990年頃まで生産しつづけられた。事実性能は良く、東京23区内の強電界域でもまったくRF相互変調を起さない優れもののチューナーである。
いずれにしろ1990年代前半頃までケンウッドは常に4種類のラインアップを維持してきたのであるが、いつしかエントリー数が減り、ついに1機種とは寂しい限りである。
Technics
型番 |
標準価格 |
特徴 |
GT-550 | ¥32800 | AMステレオ/IFバンド2段切り替え/信号強度表示 |
テクニクスも2002年8月現在のカタログには1機種しかエントリーされていない。
だがほんの2年前のカタログには10万円もする受注生産品ST-G900というチューナーがあり、それなりに頑張っていたのだ。ノーマルとスーパーナローのツインRF&IF回路を搭載。電波情況の変化に即するシステムを搭載していた。FMDXにはこのような近接妨害局を排除する機能が必須なのだが、そういった高度な機能を搭載するチューナーがどんどん消えていく。
困ったものである。
さてGT-500は一応DX最低限の機能は付いているようだ。信号強度表示は受信情況を計る上での目安になるのであるに越したことはない。本体の色はブラックしかないようだが、今時黒とは珍しい。当然ロータリーチューニング方式。かつてデジタルシンセサイザー方式のチューナーといえば一部の高級機種を除き、ほとんど0.1MHzステップのプッシュ式でチューニングに手間取ったが最近はかなりの機種がノブを回転させてチューニングするアナログ感覚の方式に移行している。無論ファインチューニングが付いている機種を除き0.1MHzステップに変わりはないが。
SONY
型番 |
標準価格 |
特徴 |
ST-SA50ES | ¥40000 | AMステレオ/IFバンド2段切り替え/RFアッテネーター/TV1〜3CH/FM多重出力/スーパーエリアコール |
ST-SE570 | オープン価格 | 30局プリセット |
ソニーはなぜか2機種エントリーされている。
上位機種のST-SE50ESにはスーパーエリアコールといって使用する都道府県を選択するだけで自動的にプリセットする機能が付いている。更にFMDXに必須な最低限の機能は揃っているようだ。またFM多重放送出力端子もあるが、文字放送を直接表示させる機能はないようだ。またAMステレオは最近のチューナーでは常識のようだ。
一方、下位機種のST-SE570の方は特段これといった機能は搭載されておらず、かなり簡略化されているようだ。こちらの方が新機種だと思うとがっかりする。
PIONEER
型番 |
標準価格 |
特徴 |
F-D3 | ¥25000 | AMステレオ/IFバンド2段切り替え/RFアッテネーター/ステーションメモリー |
ついこの前までカタログに載っていた名機F-777がHPから無くなってしまった。製造終了したのであろうか?(2002年8月現在)
F-777は現行の機種で唯一、FMDXにおいての多彩な機能を有したチューナーであった。
3段階切り替えIFスーパーナローとファインチューニングで隣接する混信局を見事にカット出来る機能を持つチューナーははおそらくこのF-777だけであろう。またシグナル強度計、アンテナ入力2系統、キーで打ち込むダイレクト選局、3段切り替えRFアッテネーター、ノイズリダクション、最良条件の受信状態を自動的に見つけるオートオペレーション機能、モノラル受信時に疑似ステレオ化するスペクトラムシュミレーテッドステレオ機能、ミューティングがかからないままで選局が出来るマルチプレックスモード、勿論AMもステレオ、基本性能もよい。
チューナーメーカーとしてはあまりピンと来ないパイオニアにこんな機種があるのも不思議だが、発売開始したのが1992年。なんと10年間生産され続けていたのだ。
当時はこの手の機能を持ったチューナーが各社からたくさん出ていた頃で、その唯一の生き残りだったとも言えよう。
一方、現行機種唯一のF-D3は2年程前に出た機種だがF-777に比べ、かなり見劣りする。各種機能も省かれ、実効選択度も実用感度も落ちる。新しい機能は局名表示位か?
最近のチューナーは局名表示出来る機種が多いがFMDXには役に立たない。
ONKYO
型番 |
標準価格 |
特徴 |
T-424 | ¥29000 | AMステレオ/テンキーダイレクト選局/シグナルメーター |
2年程前1999年11月のカタログにはこの上級機種のT-425ATがエントリーされていてロータリーノブ選局だったが、このT-424はプッシュ式。但しテンキーによるダイレクト選局が可能。局名入力もOK。ただ、FMDXには不向きな機種。オンキョーに限らず、最近の単品コンポはシャンペンゴールドという色がベーシックになったらしい。かつては黒ばかりだったのに。
DENON
型番 |
標準価格 |
特徴 |
TU-1500 | ¥33000 | 局名入力/40局プリセット/IFバンド2段切り替え |
TU-1500は他社製と比べると細くスリムな感じ。ただ機能的には平凡。
最新型ほどシンプル設計というのはどのメーカーも同じ。
Marantz
型番 |
標準価格 |
特徴 |
ST-6000 | ¥30000 | AMステレオ/アンテナ2系統/IFバンド2段切り替え/ファインチューニング |
ST-6000は今時珍しくFMDXに必要な各種機能を搭載している。最近発売された製品らしく興味深い。但し、選局方法がプッシュ式でここが欠点。
1999年11月のカタログにはST-17という6万円もする高級チューナーがあったが姿を消したようだ。この機種にはジャイロタッチチューニングというのが搭載されていてロータリーノブを横にしたような選局方式だった。
Accuphase
型番 |
標準価格 |
特徴 |
T-109V | ¥170000 | IFバンド2段切り替え/マルチパス計、Sメーター |
高級オーディオ製品を製造販売しているアキュフェーズの現行チューナー。
T-109Vはどちらかというと音質重視なのでDX向きではない。17万円あれば通信型受信機が買えてしまう。
マルチパス計は20年程前まではロークラスのチューナーにも付いていたが、今はまったく見かけない。それもアナログのメーターなんて今やビンテージものかもしれない。
YAMAHA
型番 |
標準価格 |
特徴 |
TX-492 | ¥19800 |
TX-492の情報はHPからだけなので詳しいスペック、性能は解らないがこの価格ではあまり期待出来ない。選局もプッシュ式でデザインもシンプル。
1988年頃のヤマハのカタログにはTX2000というアンテナ2系統入力、ファインチューニングなど機能満載の10万円もする高級チューナーがあったが、今は見る影もない。
さて、こうして見る限り、DXのための多彩な機能や性能を持った機種はほとんどみかけない。ただ基本性能は向上しているだろうからバンド内スプリアスだらけとか、そんな酷いチューナーはおそらくないと思われる。
カタログ上でFMDXとして使えそうな機能、例えば選択度スーパーナローやファインチューニング、シグナル強度計、アンテナ入力2系統、テンキーダイレクト選局すべてが揃っていたのはパイオニアのF-777だけであった。しかしもう製造終了した可能性が大きい。
ケンウッドのKTF-3010も条件が揃っているのだが、如何せんチューニングノブが堅いのがいただけない。あと選局時、モノラルにしないとミューティングがかかってしまい、信号が弱い局は受信することが出来ない。現在所有しているケンウッドのKT1100Dはモノラルにしなくともミューティングがかからずステレオ/モノラルは自動的に信号強度の応じて切り替えてくれる。ケンウッドは基本性能に信頼がおけるメーカーだけに現状を考えると残念としか言い様がない。
また、私が1980年代後半、最初にFMDXに使っていたチューナーはビクターのTX-900というものだった。アンテナ入力2系統、電界強度計付きで、選局するとアンテナのローテータ−が指定された方向に自動的に回るという凄い機能が搭載されていた。
今、ビクターのホームページを見てもビクターの単品チューナーはどこにも存在していない。
単品としてシステムコンポとしてチューナーが生き残っていけるのか甚だ心配である。
2002年8月記