採集記#83

【とぉ】


 その瞬間は不意に訪れた。こんなにも早く、遇えるとは全く想像すらしていなかった。
これからの人生での運をすべて使い果たしたような気がした。

そう、今、私の手の中には・・・


#83 8月28日(土)夕
天気 曇
気温 27℃(31.5/21.2℃)
場所 ポイントAC※
目的 採集 #73

 今日は9日ぶりに真夏日となった。午後から時間をもらってポイントCを目指す。暑くなったおかげで、樹液も少し復活しているようだ。「道」の奥の林でカブト♀を発見。カブトを見るのは実に2週間ぶりであった。



葉の陰に隠れてよく見えない

 この林では他にコクワペアを確認できた。

 続いてAへ。▽▽側の木立の入口の樹でまたカブトの♀を見つけた。



頭をつっこんで樹液を吸っている。

 木立の中ではコクワ2ペアを確認。
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 ここまでは「普段通り」の展開であった。しかし、今日は違った。その瞬間がすぐそこまで近づいていることなど、全く知る由もない。
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 広い地帯へ出る。今日はまだ時間があるのでじっくり探索することにした。耳を澄まさずとも、秋の主役、スズムシが競い合って鳴いているのがわかる。しばらく元気のなかったセミも今日は絶好調だ。

 まずは入って左側へ進む。すると、左手に数本の木立があった。1本ずつチェックしていく。だが、樹が若く、まだ樹液は出ていない。

 その木立の最後の樹。そう言えば今日はヒラタを見ていないな、と思いながら覗いてみる。


すると、根元に近い部分の枝分かれしている部分で何か黒い物が動いた。ヒラタだ。しかもかなりデカい。頭部は向こう側に隠れていて見えなかったが、間違いなく過去最大クラスだ。60oはあるだろう。

一歩下がって深呼吸して気を落ち着かせる。そして、気づかれないようにそっと接近する。

 幸いこの樹には洞はなく、右手を受け皿にして左手でつつくとそいつは難なく掌に転がり落ちてきた。

 だが、♂だと思っていたそいつには大顎がなかった。

 「♀か、デカいなぁ」そう思い、明るい所へ出てもう一度よく見てみると・・・

 「!!」その瞬間、全身の血が逆流したような衝撃が走った。息を呑むとはまさにこういうことだ。


 「・・・まさか・・・オオ?」まだ信じられない。
 「いや、そんなはずはない、何かの間違いだ!」

 間違いだとしたら何の♀か。真っ白になりつつある頭の中で分析を開始する。

 ヒラタ・・・スジはない。×
 ノコ・・・・こんなに光ってない。×
 コクワ・・・こんなにデカくない。×
 ミヤマ・・・こんな平地にはいない。×
 ヒメオオ・・・同上。×
 アカアシ・・・同上。×
 スジ・・・だとしたら奇跡だ。×

 結論・・・これはオオクワの♀である。

 頭の中だけではなく、視覚までもがおかしくなった。目の前の景色に色がない。セミやスズムシの声も聞こえない。ふと、こんなことが頭の中をよぎる。

 自分は今なぜ、ここにいるのか。今まで何をしていたのか・・・・・

 思考能力までもが無くなりかけている。これはヤバイ。すぐに帰らなければ。

いつの間にか、雨が降り始めていた。
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 どうやって家に帰ってきたかは覚えていない。部屋に入ったところからの記憶はある。計測すると、42oあった。オオクワの中ではアベレージサイズだろう。



おとなしいので測りやすい。

 しかし、なぜあんなところにいたのか。理由はいろいろあるだろうが、間違いなくこれは富山産オオクワである。いつかは採ってみたい、と思っていたのがこんなにも早く達成できるとは思わなかった。

 これで次の目標ができた。「富山産オオクワ♂の採集」である。今シーズン内になるか何年先になるかわからないが、これこそ究極の目標であろう。

本日の結果
採集 オオクワ♀1(42o)
確認 コクワ♂3♀3カブト♀2
 


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