【S井】
メールの着信で目が覚めました。
先日雪のある山での採集中に足を滑らせてコケた時、腰を捻ってしまったらしく腰痛と足の痺れがイマイチ抜けきらず、今週の採集は諦めモードであったため、いつもより随分寝坊してしまっていました。
「この時間にメールを送ってくるのは多分ヤツだな・・・」
近所に住む友人からのメールだと勝手に決め付けてしばらく寝ていたのですが、彼がいつも送ってくる時間は過ぎてしまっているようです。
何だか急に気になり始めて確認してみると、なんとあ〜さんからでした。
件名:○○(←県名)
本文:向かっています
「うわ〜、な・な・なんて簡潔な・・・」(^_^;)
これだけの文面からは真意は全くわかりませんでしたが、採集の欲求を抑えるのに必死な状態の今の自分にとってはまさに「悪魔の囁き」的なメールです。返信してみると普通種と小型種の両方狙って出撃している様子。
「もしかして同行すれば未だ見たことのないホソツヤルリの実物が見れるかもしれない。もし何も採れなくても今自分の左足がどの程度採集に耐えられるかが判ればそれはそれでいいかも・・・。」
今日の採集行を決定しメールを返信しました。
件名:行きたい・・・
本文:というか、行きます。
バカです・・・でも土日の二日間の間家にこもっていることに耐えられる自信は到底ありません。考えていても時間が経つだけなので、とりあえず家を出ることにしました。
車に乗り込んでみると採集に出る予定ではなかったためガソリンはほとんど空で、非常食程度の食糧と飲み水を買い込みガスを満タンにしてようやく高速に入りました。
ポイントは聞いていましたが、一度も行った事の無い場所だったため、ナビをセットしてみると・・・あれっ?
なんかナビがありえない場所を指しています。
「キャンセラーを入れたままだったかな?」と思ってスイッチを確認してみますが、ちゃんとオフになっています。
「しばらく走れば直るかな」と思いずんずん進みますが、いつまで経っても家の近くの辺りを指すばかり。仕方なくパーキングで停まり、地図でルートを検討しました。
「ナビ付きの車に乗っているのになんで地図を広げなくちゃいけないかなぁ」
(ToT)
ルートが決まり県境を越えてインターを降り、あとは国道をひた走ってポイントに一直線・・・のハズだったんですけど・・・。
「なんでみんなガラ空きの国道を制限速度で走ってるんだぁ〜〜〜!」
ありえません・・・「国道ってのは一応制限速度はあるものの、混んでいない時は自分のペースで走っていい道である」と認識している自分(なんて身勝手な)には市街地ではない国道をこの速度で走ることは考えられません。
時間がどんどん過ぎていきます。
「○○ってこんなに遠かったっけ?」
気持ちはアセる一方ですが、車は進まない状態がしばらく続き、○○が近くなった頃やっと流れがよくなってきました。
ポイント近くまで来た頃あ〜さんから電話が入り、自分が行き過ぎていることが判明し、軌道修正後やっと霧の中に停車しているあ〜号を発見しました。
「下界は結構天気良かったのにな。」
「それにしても長かったぁ〜。なんか福島より遠くないかい?○○」
あ〜さんは既に採集のため登山道を登っているようです。
装備一式を背負い今度は登山モードです。
思うように動かない左足をかばいながら少しずつ上っていきます。
いつもは一人の採集なのでルートを確認しながら登るのですが、今日は登山道を登るだけでいっぱいいっぱいでその余裕は全然無いのですが「今日は一人の採集ではないのでどうにでもなる」と決め付けていました。
(これが後にトンデモ無い事件を引き起こすことになろうとは・・・^^;)
霧と小雨の中を暫く登り続けていると、人影らしきものが見えました。
「あれは・・・あ〜さん?」
しばらくあ〜さんとは会っていなかったとはいえ、どうみてもあ〜さんには見えません。「他にも採集者がいるんだぁ」と思い通り過ぎようとした時、
「S井さんですか?」
と声をかけられた気がしました。
いくらなんでも○○の山の中で知人に会うハズは無いのですが、続けて
「□○×△です」
と言っているようです。
この<□○×△>の部分が、なんとなく「オーサク」と聞こえたような気がしたのですが、あ〜さんのHPで楽しい採集記を公開されている「凹作」さんは確か横浜の人で、どちらかというと普通種の採集を主にされていると理解していた私はその人がまぎれもなくあの「凹作」さんであることにすぐには気付かず、「他にそれらしいHNの人っていたかなぁ」などと、とんちんかんなことを考えていました。
(凹作さんゴメンナサイ〜!大変失礼しました。)
初対面の挨拶をした後に、
「あの凹作さんですか?」
と確認する大ボケな私・・・。
仕方ないですよね。今日何度もあ〜さんと連絡を取りあったはずなのにあ〜さんそんなこと一言も言ってなかったし・・・。(^^;)
しかもいつも「あ〜さんのクワガタ採集記」で採集記を楽しく読ませていただいている当のご本人がなんと目の前で雨と霧の中で微笑んでいる姿はなんとも非現実的で、いわゆる「キツネにつままれたような」状態でした。
「やられたかも・・・」
これはクワガタ採集の神様が取り憑いているとしか思えない「あの人(某A氏)」
の粋な計らいでした。
いつも採集記を読んでいて、あれだけの文章を書ける文才があるくらいだから私より上の年齢の人なのかなと漠然と思っていたのですが、目の前に立っているその人は想像より全然若い爽やかな印象の人でした。
そうこうしている間にやはり霧の中からあ〜さん(某A氏実体)が現われていよいよ採集開始となりました。ここまでくるのに精一杯だった私はこの時やっと周りをよく見ることができるようになり、なかなかの雰囲気のある場所であることに今更ながら気が付きました。
「右手に下りながら進むと車の場所に出ますよ」
とあ〜さんからの指示で、ゆっくりと下りながらよさげな材に斧を入れていきますが、出てくるのは幼虫です。ホソツヤルリの入っていそうな材を探してみますが、マークはあるものの何も出てきません。夢中になって材を探しているうちにあ〜さんも凹作さんも見えなくなってしまいました。
「まぁそれほど距離は無いはずだから問題無いでしょ。」(←甘すぎ)
暫く歩いていると先の方の霧の中で何者かがうごめいている気配を感じて、
「凹作さんかあ〜さんだよね、きっと」
と思い近寄ろうとすると、その気配はすごい勢いで走り去って行きました。
いくらあ〜さんでもあの斜面をあの勢いで走ることは不可能だと思います。
「何?アレは一体??猿かなんかかな?」
「面白そうな写真を撮り損ねてしまったかもしれないなぁ。」
それらしい材を見つけては叩いてみますが、出てきたのはコルリっぽい幼虫だけでした。
ところどころに人の歩いた痕跡らしきものが見えましたので、これはきっとあ〜さんの進んだ跡だろうと思い、見失わないように下っていきますが、近くに車が通る音が聞こえるようになった頃、ついにその痕跡を見失ってしまいました。
「まあ近くに車が通っているくらいだから道はすぐそこだろう。」(←激甘)
暫く進むと足元が笹に覆われてしまい、どこが道かも判らない状態となり、更に進むと・・・ん?
なんだか霧の中にぼんやりと巨大な煙突のようなものが見えます。
建物の敷地内に入ってみるとそこは「×××××」でした。
「え〜っ!こんなの上がって来たときには見かけなかったぞぉ・・・。」
土地勘の無い私にはここが何処なのか全くわかりませんでした。
とりあえず先ほど車の通る音が聞こえた場所に出れば自分の場所がわかるかもしれないと思い歩いてみますが、どうもそれらしい道が見当たりません。
あわててあ〜さんにメールを送ってみますが、心当たりが無いという返信。
「ヤバイ、これはもしかしてプチ遭難かも・・・。」(T_T)
さらに下っていると地元の人と思われる人がいたので、
「○○峠にはどっちに向かえば良いですか?」
と尋ねてみるとその地名には聞き覚えが無いといいます。
「ここを真っ直ぐ進むと国道に出られますか?」
と尋ねると、
「○○に出ますよ」
と教えてくれました。
「○○?○○ってあの○○??」
「そんなわけないよなぁ・・・車を置いた場所は○○からは随分離れていたしあの距離を歩いてこれるはずないし」
「でも同じ名前が他にあるわけないよなぁ・・・。」
あれこれ考えながら進んで見るとなんだか見覚えのある○○が見えてきました。
「・・・まぢ?」
それは紛れもなく○○でした。
「ええ〜っ!そんなバカな〜〜〜!!!」
この場所から車まではかなりの距離があるはずです。
いくらなんでもあの距離をこれだけの時間で踏破できるはずがありません。
「どこかに空間の歪みがあってワープしてしまったのか・・・?」
ほとんど浦島太郎状態で途方にくれていると、
あ〜さんから「その場所から車のところまでは歩いて戻れる距離では無いと思いますよ。救助に向かうのであまり動かないように」との指令がありました。
ただ立っているのも退屈なので少しでも距離を詰めようと車を止めたと思われる方角にトボトボと歩いていると暫くして見覚えのある車が見えました。
「助かった〜。」
申し訳ない気持ちと安堵の気持ちが入り混じってビミョーな気分でした。
車の中で戻る途中自分の来た方角を確認してみますが、どうしてあれだけの時間でこの距離を移動できたのがどうしても理解できません。
やっと車を置いた場所に戻り、あ〜さんに採集したホソツヤルリを見せていただきました。
「ん〜、絶対採ってみたい・・・。」
聞くと凹作さんもまだ戻られていないとのこと。
再度ちょっとだけ登山道に入り、採集に挑戦してみることにしました。
あまり離れてしまってまた迷ってしまうのは避けたかったので、近間で採集しているとあ〜さんより携帯に着信があり、
「二度目の救出に向かいます」
とのことでした。
「二度目・・・?」
どうも凹作さんも私と同じルートを辿ってしまったようです。
ということは・・・
「怖かっただろうなぁ・・・。」
その後再び連絡があって食事に向かうとのことでしたので、山を下り始めるとなんだか先ほど見たばかりの景色をまた下ってしまっているようです。
「あれっ?このまま下るとまた例の場所に降りちゃうじゃん・・・。」
「一体何処で迷い込んだんだろう?」
どうも思っている以上に登ってしまっていたようです。(またかいっ!)
確認のために今度は下らずに真横に進んでいくと、自分が降りていたのは登山道ではなく、登山道と平行してある沢だということがわかりました。登山道と沢は双方共に窪んでいてそれぞれを直接見ることができない状態になっていました。
沢から登山道を発見するためにはその間にある斜面を登らないとならず、さらに標高の低い場所は笹が茂っていて見通しが利かないことが判明しました。
「そおだったのかぁ・・・。」
今度は登山道を下って無事車に到達することができました。
これで次回は大丈夫・・・かな?
(いつ行けるかわからないし・・・。)
△△に到着した時には既にあ〜さんと凹作さんは食事を終えた後でした。
あまり食欲がなかったため、ここでは**を注文しましたが、クワガタ話しは「大盛り」上がりで楽しい一時を過ごすことができました。
冬場の日の暮れるのは早く、残念ながらその後ヒラタを狙う時間が残っていなかったのは残念ですが、予定していた採集ではないのでこれは仕方ないでしょう。
一日に二度も救出劇に巻き込まれてしまった某A氏には大変なご迷惑をおかけしてしまいましたが、いろいろなことが次々に起きて私的には思いがけず充実した大満足な一日でした。
△△の中に貼られていた地図を見て今日の出来事がやっと納得がいきました。
大体のイメージとしてはこんな感じの地形だったようです。
解散後まだ陽があったので、行くときに見かけた「××」という標識を辿ってみました。20数年前に社員旅行で寄った時になかなか雰囲気の良い場所だったと記憶していたのです。
この頃になりやっとナビが復活し、適切なルートを案内してくれるようになりました。
(今更復活しても遅いってば・・・肝心な時に使えないヤツ。)
実際行ってみるとなかなかの景観の場所で、写真を撮りたかったのですが日没となってしまい写真を撮れる状態ではなくなってしまいました。
「これはまたいつかリトライするしかないか。」
ということでテキトーにお土産を購入し帰宅しました。
帰り際にみどり湖のSAでラーメンを食べて帰ろうかと思っていたのですが、これも既に閉まっていて×でした・・・残念。