7/1報告

【凹作】


【2004年07月01日】
社用メールを開いた私に衝撃が走った。
「あかン!」
「赤紙が来る!」
「赤っ恥だ!」
総務部長から送られてきたメールを睨みつける。

−−−−−−−−−−
各位

○O○○MUSICより下記調査協力依頼が来ました。

                             記

凸凸ビル裏の塀の○O○○側植え込み内にガスライター用ガスボンベが、3月7日x5本 ・ 5月9日x2本 ・
6月23日x3本の計10本が投棄されていました。
○O○○の担当課長の話では、「○O○○の植え込みは外からは入れないようになっているので高いところから
塀越しに投げ込まれたと思う」ということでした。
危険物でもあり、気味が悪いので近所のビルを回って調査協力のお願いをしているとのことでした。
〜途中省略〜
以上、凸凸の社員で上記のような不法投棄をする人はいないと信じますが、念のためお知らせ致します。
我々は、○O○○側から見たら、何とも”絶好”な場所で喫煙をしているわけですから、くれぐれも誤解をされ
ないよう踊り場での行動にはご注意を願います。
−−−−−−−−−−

日頃から、喫煙所に立ち○O○○MUSIC側を睨みつけては「チッ」だの「ダメだな」だのと呟いている私である。
専門のプロファイラーならずとも、まず最初に疑ってかかるのは、この不審な睨みつけオヤジであろう。

呼び出しを喰らったら、何て弁解をすればいいのだ。
『カナブンを撃ち落せなかったから思わず「チッ」って呟いていただけなんです』なぞと言うのか?
赤っ恥だ。

小心者の私のことである。
双方の総務部長から詰め寄られたら、虫の事など言い出せず、唯々口篭もってしまうのだろう。
そして、その場の重圧から逃れたい一心で、「ボンベを投げてみたかったんです」なぞと口走ってしまうのかもしれない。
動機について突っ込まれでもしたら最後である。
兎に角、その場を何とか取り繕おうとして、有りもしない”衝撃の事実”を赤裸々に語り出してしまうに違いないのだ。


気を落ち着ける為に、犯行現場、否、いつもの睨みつけ現場を訪れた私である。
爽やかな青空の下、弱々しい藪睨みの視線が、いつも見ている樹の方に向けられる。
いつもと違うのは、その焦点が、樹の端を通り越した先にある○O○○にあてられていることだ。

ふぅ〜。

もう駄目だ。
こんなことになるのなら、虫に興味なんか持つんじゃなかった。
諦めの境地の中、昨夜の苦い思い出が心に蘇ってくる。



緑の中を走り抜けてく真っ赤な凹車。
一人旅なので気ままにハンドルを切る。

街の灯りが映り込む、
凹車の中の見慣れた風景。
急な坂道 駆けのぼったら、
今もノコが見れるでしょうか?
ここは幼馴染界隈。

カナブンがいるケシキスイがいる、
答えは外道だけ。
キマワリがいる蛾がいる、
ぼ〜ず街道が呼ぶだけ。
なんにも居無い なんにも居無い
あるのは風だけ


ノコギリどころではなかった。
コクワすら居やしない。
あわよくばミヤマなぞと考えていた私が甘かったのだ。
この半月の間順調に採れていたノコギリやコクワは、もう終わってしまったのだろうか?


これっきり これっきり
もう今年はこれっきりですか?


もう採れないのだろうか?
そう思うほどに、ノコギリを恋しく思い始めてしまうのだ。
オオやヒラタを別格として、地元で大物といえばノコギリのことだ。
地元の誰もが当たり前のように疑うことなくそう思っていたことだろう。

しかし、天邪鬼な私は、ミヤマに憧れを擁いていたものだ。
カラッとした明るい桜吹雪のような、純粋に派手なイメージ。
秋田や北海道などの遠方でならば多く採れるが、地元には余り居ないという印象。

イガグリ坊主の頃から、 ”森を進んだ末の汗の結晶の一頭” みたいなのは苦手な子供であった。
もっとも、歳を重ねた現在では、自分の若さを求める部分が、その手合いもストライクゾーンに入れようとはしているのだが、
基本的には、ミヤマを近くの林で採る事を一番願っていたのだ。

ミヤマは憧れだった。
でも、好きというのとは違っていたのかもしれないとも思う。
むしろ、本質的には、芯の強い艶っぽさを湛えたノコギリの方を私は好んでいるのだから。
近くにいるが故に、反対に、地元大物の本当の魅力を意識しなかっただけなのかもしれない。

遠く南下した横須賀の先の方でもノコギリは終わってしまったのだろうか?...
幼年期の初めの一時を過ごした 記憶も朧なソノ地の先に思いを馳せてみたのだ。

そう、私は、人生の多くを、母方の地元でもある現住居界隈で過ごしてはいるものの、厳密には
『I CAME FROM 横須賀』なのである。
横須賀から汐入にかけてのドブ板通りと称されていた一帯。
三浦半島の中ではコンクリートの多いエリア。
舳作少年は三輪車の上からノコギリやコクワを見ていたのだろうか?
和とメリケンの混沌(カオス)地帯を抜け汐風の中を走ってゆく白い線の入った赤い電車。
快速特急で延々と南下していけば、ノコギリの住む郷に辿り着けるのだろうか?


幼き日の思い出や、楽しい推測はここまでとして...


さあ、凹車に乗って幼馴染界隈を横断。
そう、夜空にきらめく満月の月光の世界だ。
元・エースの樹 経由で 最奥の樹 を廻り、
カナブンと戯れ、
今は獅子座のあなたと一緒に...


ではなかった...
今は灯下の按配と一緒で、ココも月が明るすぎて駄目なだけなのかもしれないが...


坂の上から見た街に戻ろう。
足につけた虫除け 地面をけって口惜しがる。
今夜は31のカナブンの嵐。
覗けば そこには樹液があふれているのに。
カナブンが飛び回るだけ クワガタはもういない。


それにしても、ダメ過ぎる。
もう、虫採りなんてコリゴリだ。
虫になんか興味を持つんじゃぁなかった!
諦めの境地の中、ビヱンビヱンと泣きながら おうちに帰る私だったのだ。



昨夜も、そして今も、虫なんかコリゴリだと呟いていた私なのだ。
しかし、
しかし、きっと明日もまた行ってしまうのであろう。
意気揚揚と、近所の林に向かってしまうのであろう(笑)
不死鳥伝説にもならないような気変わりの早さで、夜の林に喜んですっ飛び戻ってしまうのだろう(大笑)

=結果=
ぼ〜ず / カナブンを31匹も見てしまった


戻る