1/25報告

【凹作】


【2004年01月25日】
「十二時半戻りー」
こう叫んで家を飛び出したのが丁度二時間前。

日曜日の十二時三十分。
荒い息遣いの凹は、努めて呼吸を整えつつ妻に電話を入れたのであった。

「今さ、山から降りて車に乗ったとこ。 あぁ、あの公園を上がったとこだからサ。すぐ帰るわ」

午後からは子供達も出展している水彩画展覧会へ赴くことになっている。
それなのに約束の時間を守れなかったのだから、妻から咎めの言葉を受けても仕方が無い。

「あらま、そしたら出る準備しとくけど焦んないで帰ってきてよ」

ほっ。 妻からの言葉は、存外にヤンワリとした色あいであった。

責められる心配から開放された途端、その空いた心のスペースに反省の念が湧き上がってくる。

「うむむぅ、やっぱ歯止めの利かないダラダラ採行は良くないナ」
「だけど、今日はどうにもチグハグな採集だったからなぁ。 粘りたくもなるって」
「大体からして、朝イチのアレからしてボタンの掛違いが始まっちゃったんだよな」
  (↑ってかアータ、一年中 掛違ゑっぱなしですから...残念! ご近所ショボクワ野郎...斬りぃ!!!)

長いモノローグを心に詠み、朝の一場面を回想する凹なのであった...



朝イチのアレ。
そう、本当に些細な出来事であった。
缶入りの珈琲飲料を欲していたのだ。

無論、咽喉の渇きを癒す為ではない。
起き抜けのリズムを潤す為にである。
まぁ、そんな事はどうでも良いのだ。

兎に角、自販機の『あったか〜い』と赤文字で題された一列から ひと銘柄を選定しボタンを押したのだ。
的確にボタンを押したのだ。
否、押したつもりだったのだ。

ガランゴロン。
予定調和も麗しく擬態音通りに耳に届いたソレは、自動販売機からの嘲笑だったのか?

ささやかな贅沢を淡く期待する俺を醒ます現実。
血も涙も無い機械が送りつけてきた冷たい現実。


これ、、、
冷た〜い缶コーヒーですやン(トホホ)

  体震わしてクチビル紫に染めながら腹立ち紛れのイッキで飲るか? > 自分

無理!
だって、自分、、、
お腹弱いですから。
(切腹ぅ!)
こんな寒い日に人工甘味料入りの冷たいモノなんか飲っちゃった日にゃ...
これから森に入るってのに、んな悲壮なメには遭いたくないのです。


さりとてコノ男、追加投資をして有意義な朝のひと時を改めて買い直すという発想が出てこない。
アト、たった120円が出てこない。
コ男のチンケな意地が、朝イチのボタン掛違いを、短調のままに放置させる。

違いの判る男なら...
些細なトラブルなぞサラリと受け流し、改めてサクッと温かいネスカフェ辺りを求め直すのであろう。
素晴らしい日曜の朝の為に... 妥当な投資である。
そして、長調へと転調された ひと時からは、クワ採りへと続く流暢な好リズムが流れ始めるのである。


はたして、のっけから躓いた姿勢のままに、山へと入った凹なのであります。

まずはキッツイ階段をギクシャクと登る。
息が上がる。
立ち止まって一旦息を整えれば済むことなのに...
早くポイントに着きたい一心で、梯子紛いのコンクリート段々と格闘し続けるのです。

「ぷっは〜」
やっと稜線に到着。
「ふぁ〜」
一気に体力を使い過ぎて足元がフラフラだ。
こんなペースでは、ロクな採集にならないのでございます。

と、自業自得も省みず、フッと視線をずらして見れば、そこにはイキナリの太朽丸太!
行間空けずに飛びつく凹。
目指す地点の途中なれど、ここにてチョイとの寄り道であります。

むむむ、コ幼虫ゲットは確定と思われたサクサク感なのに、なかなか最初の一頭が出てこない。
ここで一旦省みて、作戦を練り直すのが『違いの判る男』ってもんでありやす。

が、コノ男に そういう判断は望むべくもない。
気が付けば、軌道修正も全く行わないままに、太朽丸太の半分以上を削ってしまっていたのでありました。

「はぁぁ〜」
全く無駄に30分以上をロス(トホホ)
さらには、良く見てみれば、もっとヨサゲな太朽丸太が他にも3本程コロがっているではありませんか。

では試しにと、そのうちの一つをヤッてみる。
と、とっっっっっても短い秒数の内に、コ幼虫のお出ましです。

して、またもや削り進むも、次の一頭は出てこない。
さすがの『違いの判らない男』でも、こんな按配では堪らない。
ようやく重い腰を上げ、本来の目指す地点へと歩み始めたのでありました。


稜線に出てから小一時間、遂に目的地に到着。
本来であれば、最初に寄り道した地点から10分もかからない場所である。
手持ち時間2時間しか無い男がヤルことでは決して無い。
だって、、、
寄り道喰ったお陰で、残り時間はアト20分だけになっちゃったんですもん(涙)


成果の上がらぬままに焦る。
三分歩いては脇に入って薮漕ぎ、そしてスカ。その繰り返し。
焦る。
早足で移動。
いたる所に杉、杉、杉。
目的とした地点界隈にて、稜線沿いの移動を繰り返す。

桜の小集落。
杉の小集落。
ガレ場。



ダメだ。

時計を見やる。
ガックシ。
アト数分でタイムアップなのであります。


コ幼虫のみの敗戦気分で悔しい足取り。
近所クワ採行だから仕方ないか。
最初の地点からはカナリ移動してしまったので、仕方なく復路へと向かいます。

ジョガー。
イヌノサンパー。
写真家さん。
自然を満喫する爽やかな方々とすれ違うのは、悔しさを秘めた早足男。

焦りと悔恨を胸中に溢れ返らせて、顔だけは爽やかモードで「こんにちはっ!」っと  『山の挨拶』 を交わす。
軽登山のいでたちの若い女性が多かったのが意外だったりもした。
胸の内のドタバタがオーラになって立ち昇っている自分の姿を想像し、恥ずかしくなったりもした。


最初にヤッた地点に近づいてきた。
と、道の左手の斜面下に、頭の折れた樹を発見。 
杉でも桜でもない。
ヤるか?
でも、薮に視界を阻まれて崖の程度がわからンのです。

時計を見つめ、コンマ数秒だけ動きを止める。
やっぱ見なかったことにする。
時計はタイムアップを告げていた。のに。

それでも飛び込む。
飛び込んでよ〜く判ったのであります。
足場となる木々が茂っていなかったらあっという間に崖下に滑落です。
スキーのゲレンデの感覚で推察するに、斜度50以上くらいの崖なのだ。

斜度がキツ過ぎて思うように進まない。
でも、まったく距離を稼げぬまま、既に時間オーバーとなっていることには気が付いていたのです。
それでも降り続ける。
違いの判らぬ男・凹、ゼンゼン引き返そうとしない。


まったく...
これでは流れにノッてるとかそういう次元以前のお話だ。
押す時は押す。退く時は退く。
それでもって初めて流れなんてのが出来てくるのです。
闇雲に押すばっかじゃ、流れる川も流れねぇってもんでありまする...


無理繰り男・凹、おっかなビックリ慎重に、でも、大急ぎで降りていく。

脇に逸れさえしなければ、幼稚園児でも安全に行き交えるような散策路。
その散策路の脇の崖。
こんなんで死んだら大人として有得ない事態だ。
というか、恥かし過ぎて死に切れんのであります。

恥ずかしい目にはどうにか遭わず、やっとこさ目標の樹に到着。
予想通り、樹の袂に枯れ枝が落ちていた。
目的は、この枯れ枝。

叩く。
ゲッ! かなり乾いている。
せっかく辿り着いたのにダメダメの木っぽいのです。

おっ食痕。
おっ繭室。
おっ、成虫。
お尻が見えた。
んん?★?かな。
んんん?長いぞ、ノコギリ?いやいやノコギリはおらんだろう。


大きくみえたのは極フツーのコクワ♂
でも、ドキドキ感を味わえたので、若干満足です。
満足しているから、藪漕ぎしながらの崖登りも苦に感じないのであります。

脹脛をプルプルと震わせながらも、どうにか安全な散策路に舞い戻る。
あらら、完全なる時間オーバー!

脱ぁ〜っ兎!
小走りに稜線の道を急ぐ凹。
すれちがうハイカーも、凹の必死の形相に押され「こんにちはっ!」のタイミングを逸している。

ダァ〜ッシュ!
帰りの階段。
飛ぶように駆け抜ける。
息が苦しい。下りで苦しくなったのは生まれて初めてだ。
足が張る。 まるでダウンヒルのスキーをしてるみたい。

完全なる超タイムオーバーを、死ぬ思いの滑降で どたばたリカバリー。
結局、十五分程遅れての帰還となりました。



絵画展覧会への出発が遅れた凹一行。
そのしわ寄せでランチはドライブスルーを利用です。

黄色い回転M印にて、ハンバーガー無料券の使用を試みて...
ゲッ! この券の期限って今日までぢゃン。
ありゃ、そのせいでありましょうか? ドライブスルーは大渋滞。
まぁこれで採集の要素の一つはクリアでありますが(笑)、残念ながら(???)本日は雨様とは程遠い快晴であります。

ですので、、、
代わりと言うには難有り過ぎなのですが、展覧会の絵(大人部門の生徒さん達の絵)を雨の如く叩き込んでおきましょう。
(オリジナルサイズで見ていただけないのが非っ常に残念! 素ン晴らしく綺麗な出来栄えの絵ばかりっす。)



無理繰りに良い流れを追い求めたってダメダメなのであります。
反対に、状況を把握して素直に襟を正しさえすれば、おのずと良いリズムなんてのは後から追っかけてきてくれるのです...
適切なリカバリーを考えず、ただただ闇雲に突き進んだダメダメ2時間クワ採行でありました。

=結果=
コクワ幼成虫


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