採集報告 その4

【Cretaceous】


2005/04/09
群馬県北部
 
今年は残雪が多いらしい。先週の採集も見事に残雪に阻まれてしまった。雪が消えるまで採集は無理なのか?1週間考え続けて出した答えは…。あえて残雪を利用することだった。

 
Fig.1 快晴!道路も空いていて快適ドライブ(^^)

まずは車で行き着けるところまで登る。途中入れそうな沢を見つけたので、道路脇に車を停めて入ってみた。時折猛スピードで通り過ぎるスキー客。前に車を停めた銘水汲みの老夫婦の、奇異なものを見るような視線が痛い。

 Fig.2 道路沿いより沢に入る。


この標高では残雪は1mというところか。しっかりと固まったザラメ雪が心地良い。足場を確かめながら沢に入った。雪解け水は冷たく、防備を固めているにも関わらず、すぐにつま先が痛くなってくる。しかし、ふと周りを見まわせば、冬の間全く人間を寄せつけなかった自然は、徐々にその心を緩め、人間が自分の懐に立ち入ることを許しはじめたようだ。右手に斧を持つ自分が急に恥ずかしく感じられてくる。「今日は斧を使うのは止めよう…」。
 
再び車で標高を上げると、道路はほどなく冬期通行止めになった。眼下のスキー場は大変な賑わいだ。子供達の歓声がここまで聞こえてくるような錯角に陥る。スキー場の喧噪をよそに、身支度を整えて森に入る。積雪はこの時期にしては非常に多くゆうに2mを超えているようだ。きっちりと締まっており、ツボ足でも足を取られることはない。

 
Fig.3 空の青、雪の白、そして

息がすぐに荒くなるが、こんな澄んだ空気ならいくら吸ってもいい。呼吸の乱れも雪の原生林では喜びの一つだ。

 

 

Fig.4 今回の相棒。こいつがなければどこにも行けない。

こいつと一緒ならどこにでも行ける。

 

 

 

どのくらい歩いたのだろう?多少開けた緩斜面に出た。歩みを止め、ふと目をあげてみると、1本の古いブナの立ち枯れが目に入った。歓喜!近付いてみると、上部は既に完全に乾ききっており、少し触れただけでも崩れ落ちそうだが、下部はまだしっかりと大地を掴んでいる。裂け目の部分には至る所に大小の食痕が走っており、中には見たこともない太い食痕もある。ヒメオオクワガタ?かつてこの立ち枯れの主であったに違いない。樹皮には鳥たちが餌を求めて必死になって突いた穴が無数に残されている。この1本の立ち枯れが、一体どれだけの命を支え、育んできたのだろう?やはりここは神々の住む森なのだ。。。

 
Fig.5 今日はこの立ち枯れに会うために出かけてきたのかも知れない。

しばらく立ち枯れの木々を見て回ったが、採集者の入った痕跡は全く見られなかった。厳しい自然が採集者を寄せつけないのか、あるいはこの神々しさを目の当たりにして採集者が自らの刃(やいば)を収めたのか。いずれにせよ、私も雪の上の足跡以外、自分の痕跡を残さずに去ることにしよう。

 
Fig.6 遠く谷川岳を望む

残雪散策のだいご味は下山の際の滑走だ。雲一つない快晴の空のもと、自分だけのシュプールを描くことは、ここまで自力で登ってきたもののみに許される至極のひととき。一瞬、我を忘れて風と戯れよう!
 
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と、清々しい気分で山を下ってきたが、結局今日も虫取りにならなかった(^^;)。
やれやれ。。。

 


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